夢は天下無敵の大将軍 作:金匙
14年目:夏
ワノ国を出航して早数日。
久しぶりの外海はロジャーの船に乗っていた頃の懐かしい気持ちを思い出してどことなく寂寥感を抱かされる毎日だったが……その一方で、鬼ヶ島に囚われていたために初めて目にする外海の景色にヤマトの興奮は天上知らずと言わんばかりに日に日に高まっており、甲板の上では毎日のようにヤマトの歓喜と驚嘆の声が天を衝くように響き渡っている。
正直海に出たいと長年語っていたヤマトの心情を知る俺としてはその気持ちは痛いほどに理解出来るのだが、それはそれとして未知の生物や景色、
まぁ出航する前にお爺々様からは休暇だと思ってたまには子供らしく羽を伸ばして来いと言われたものの、将軍家の責務に追われない毎日と言うのは本当に久方ぶりのことなので子供らしくと言われてもどうしたらいいのか分からなかったこともあり、そういう面で考えればまるでお手本のような反応を見せてくれるヤマトの姿は、忘れていた童心を思い出させてくれるようで素直にありがたいと思えたことも確かだった。
ただ、モモの助様も白ひげとロジャーの船にいた頃はヤマトみたいに元気じゃったのう……、としみじみと語るネコには物申したい。
確かに白ひげの船であっちこっち駆け回っていた自覚はあるが、その大半は仕事をサボってイゾウに追いかけ回されるネコにモモの助様と遊ぶのがワシの仕事ぜよ~、と付き合わされてた所為だからな?
イヌからのゆガラ……、という呆れた視線が全てを物語っていたのでとやかく言うつもりはないが、純粋なヤマトは普通に信じてしまうのであまり嘘や冗談を吹き込まないようにして貰いたいものだ。
しかし成長したネコの腹の上でする久しぶりの日向ぼっこは大変気持ちよかったし癒されたので、しばらくは枕になってくれることを条件に今回の件は不問にしてあげようと思う。
いつの間にか隣で寝ていたヤマトの涎で着物が凄いことになってしまったが……そこは必要経費として割り切るしかないだろう。
14年目:夏part2
安全第一で航海しているからか、出航前に立てていた予定よりもゾウへの到着が遅れている。
ビブルカードがなければ辿り着けないということから分かるように、ゾウは島ではなく実際に遥か昔から生きている象そのもので常にこの海を徘徊しているため、余りに船の速度が遅いとゾウの進む先によっては一向に距離が縮まらないのでこれからは徐々に船の速度を上げていこうという話になった。
正直船の速度云々よりも海賊たちの襲撃が日常茶飯事過ぎてそれが原因で航海が滞っていると言うのが主な理由ではあるのだが、そこはやはり大海賊時代と呼ばれる現代では仕方のないことだと割り切るしかない。
ただ昔はここまで海賊の数が多くなかっただけに、日に日に増えて行く海賊船の襲撃を実際に目の当たりにするとやはりロジャーがこの世界に与えた影響力は絶大だったんだなと改めて実感してしまう。
九里にいた時もその余波を受けた海賊たちが頻繁に騒ぎを起こすことはあったが、やはり海賊の本場の海上はその比ではなく……新世界と呼ばれる偉大なる航路の後半の海というだけあって海賊たちのレベルも高いため、戦闘員ではない乗組員の人たちではその相手は厳しいこともあり必然的にその相手は俺たちで請け負うことが常だった。
まぁ日々の鍛錬の成果を確かめるいい機会と言うことで、イヌネコとヤマトが張り切って船の一部を破損させることもしばしばあったが……そこはワノ国の職人たちの粋を集めた特注のガレオン船、味方だろうと敵だろうと少し傷ついた程度では早々船の運航に支障はきたさないのが素晴らしいところだ。何なら船底に敷き詰めた海楼石のお陰で海獣被害とは無縁だし、白ひげやロジャーの船でしょっちゅう受けてたことも加味するとやっぱりワノ国の技術は凄いんだなと自国の技術を誇らしく感じてしまう。
それはそれとしてやっぱり過保護だよなと充実し過ぎている船の施設を目の当たりにする度に実感させられるが、そこはしのぶからのお小言にもあったように父上がいない今は俺がワノ国の次期将軍と言う立場を考えれば残当というものだろう。
ちなみに本当ならここに武士団や侠客衆が配置される予定だったらしいのだが、そこまで行くと逆にモモの助の足を引っ張るだけだ、とヤスさんやヒョウ五郎親分の助言もあったことで取りやめになった一幕もある。
ただでさえ赤鞘の二人とそれに並ぶヤマト、加えて今やお庭番衆のトップを務めるしのぶという表も裏も万全な配置である以上、ヤスさんとヒョウ五郎親分の言う通りこれ以上の人員配置は戦力過剰であり、もしもの時を考えたら俺としてもこれくらいの数の方がカバーしやすいので長い付き合いの二人は俺のことを良く分かってくれていると嬉しくなった。
ただ余りにも万全の布陣過ぎて俺の出番が全くないことは果たして良いことなのか悪いことなのか……少し前までは気づかれないように覇王色で援護していたりすることもあったのだが、出力を間違えて何度か自軍ごと巻き込んでしまってからは余計なことをしないで下さい、と方々から怒られたので今は自粛している。
その甲斐もあって船は順調に航路を進んでるし、この分ならもうすぐゾウに着くことだろう。
もしかしなくても航海が遅れてた原因って俺が余計なことしてたからか? と嫌な考えが一瞬脳裏を過ぎったが……過ぎたことを気にしていてもしょうがないので、明日も引き続きみんなの応援に励もうと思う。
14年目:夏part3
生存確認も兼ねて定期的にワノ国に文を送るしのぶを目にしていると、突如として脳裏に聞いたこともないほど大きな『声』が木霊してビックリした。
子供の頃以来の久し振りの感覚で思わずネコの腹の上で飛び跳ねてしまい心配をかけてしまったが、覇気を鍛えたことで昔の様に頭痛で動けなくなるほどではなかったため、『声』の主との会話に集中するために今日は一日中マストを登った場所にある部屋に閉じこもっていた。
結論から話すと、『声』の主は出航してからこれまで探し続けていたゾウ───
身に覚えのないことだったので詳しく話を聞いてみれば、どうやら
しかし日誌には父上もゾウには来ていたと記してあったので、ロジャーのように万物の声を聴くことが出来た父上とは話をしなかったのか? と
また八百年前に罪を犯したから自分は歩くことだけしか許されていないとも
それからは
◇◇◇
実に五年にも及んだ『百獣のカイドウ』との戦いを痛み分けに近い状態で終えて、その激闘の跡を示すかのように荒れに荒れた縄張りの島々の復興に着手せざるを得なくなった白ひげ海賊団は、未だ終わりの見えない作業と定期的に自分たちの船長の首を獲ろうとしてくるルーキーたちの相手に辟易しながらも今日も今日とて縄張りの巡回に勤しんでいた。
「オヤジ、こっちの島はある程度整備終わったみたいだ」
「そうか……すまねェなァ、おめェも早く
「……まァ、気にならないと言えば嘘にはなるな」
港に停泊させたモビー・ディック号の甲板でその巨体に刻まれた
「張本人が無事だと宣っているとは言え、あのカイドウを相手にしておでん様や錦えもんたちがただで済むとは思えない、何よりも───」
「───モモの助のことか?」
「……ああ」
カイドウ曰く、他でもない光月親子の手によって自分たちはワノ国を追われたのだと終戦間際に告げられたイゾウは、一先ずはワノ国での戦いが侍たちの勝利に終わったことに心からの安堵を溢しつつも、実際にカイドウの強大さを縄張りの崩壊と共に目の当たりにしている以上は主君を心配するのは道理であったが……しかし、それよりもカイドウを撃退したことが光月
「モモの助様がおでん様の子供に相応しい才覚を持っていることは重々承知しているが……当時の年齢を考えればカイドウと戦ったのは八歳の時だ、とてもではないがあのカイドウの相手が務まるとは思えない」
「……」
その言葉を肯定するかのように沈黙を返す白ひげは、かつてこの船で二歳と言う齢で覇気を発現させた才気煥発な幼子を想起する。
父親譲りの身体能力に母親譲りの聡明さ、生まれて僅か数年しか経っていない
しかしそれは、あくまでも今よりも遥か先の未来の話。
悪魔の実を覚醒させ最早自分と並ぶほどの力を手にしたカイドウの相手が、僅か八歳の子供に務まる筈がないと考えるのは白ひげやイゾウでなくとも至極当然のこと。
故にこそ、二人はモモの助が何か普通では考えられない代償を支払っておでんと共にカイドウを退けたのではと考えているのだが……その答えが真実カイドウの言葉通りのものであり、まさかモモの助が透き通る世界という理の外に足を踏み入れたが故のものだとは夢にも思わない。
「だから……正直に言えば、今すぐにでも皆のところに駆け付けてやりたいって言うのが本音だよ」
光月の家臣でありながら、国の一大事に一片の力にすらなれなかった己を呪うように誰よりも最前線に立ってカイドウと戦い続けていたイゾウを知る白ひげは、その言葉が彼の心から来るものであると理解させられるのと同時に、それでも今は白ひげ海賊団をまとめ上げる隊長の一人でもあるから、とその気持ちを押し殺そうとする姿に相変わらず不器用な奴だと破顔する。
「───グラララ、それなら今すぐ行こうじゃねェか」
「え?」
息子の願い一つ叶えられないでその親は名乗れねェだろ、とその腰を上げた白ひげは、呆けるイゾウを他所に島に散っていた隊長たちに招集をかけると傘下の海賊たちも巻き込んで隊を複数に分けることを宣言する。
自分が縄張りだと宣言した以上その面倒を見るのは仁義を重んじる白ひげ海賊団としては当然のことだが、しかしこの一年で全ての縄張りを周ってその旗を掲げ直し後は復興を見届けるのを待つだけである以上、白ひげが
「だけどオヤジ、そしたらカイドウのことはどうするんだ!?」
これまで隊を分けずに動いていたのはいつ現れるかも分からないカイドウの襲撃を警戒してのことだろう!? と他でもないイゾウから反論が上がるが、しかし白ひげはこの一年で風の噂すら聞かなくなったカイドウを思い、昔馴染みということもあって今が何かしらの大きな作戦の準備期間であると言うことをこれまでの動きから考えて既に察知していた。
「あいつが今まで派手に行動を起こしてたのは、十中八九自分を隠れ蓑にさせて裏の動きをおれたちや海軍に悟らせないためだろう……どこでそんな頭の回ることを覚えたのかは知らねェが、下手にこっちから突かなきゃしばらくカイドウたちが動くことはねェよ」
最初の方は確かに本気で自分たちを潰すつもりだったことは明白だが、二年ほど経ってからのカイドウの動きがあからさまに手を抜いているようで白ひげ自身その時点で違和感を感じてはいたのだ。
それがまさか、自分一人に注意を向けさせるだけの囮染みた真意があったとは昔の姿からは考えられない行動故に当時は予想だにしなかったものの……縄張りを周っていく内に発覚した、海軍がどうしたと言わんばかりに活発になりだした闇組織の動きを加味すれば、百獣海賊団と言う巨大な存在がバックについたからだろうと考えるのは自明の理とも言える。
ならばこそ、動きが読めず不気味ではあるが……不安の種を解消するという点では今以上の好機がないことも確かで───
「───ちょうど、おれも義弟とその息子の顔を拝みに行きたかったところだしな」
「オヤジ……ッ」
グララララ、と豪快に笑いながら、まるで不器用な息子の本心を言われずとも分かってると汲み取ってくれる父親の如きその姿に、限界まで目を見開いたイゾウは胸の内から湧き上がって来る感情の所為で言葉を返すことが出来なかった。
「船を出せェ! 行き先はイゾウの故郷、ワノ国だァ!!」
「「「おぉおおおおおお!!」」」
「ッ……」
かたじけない……! と、それでも消え入るような声で零れた言葉を確かに耳にして、白ひげは満足そうに口角を吊り上げると傍らで響く嗚咽を隠すように息子たちと笑い続けるのだった。