夢は天下無敵の大将軍 作:金匙
14年目:秋
イヌネコたちミンク族の故郷───モコモ公国は千年も栄えた歴史ある国に相応しい時間の流れを感じさせる由緒正しい建造物で溢れており、中でもイヌネコに案内して貰ったクジラの木の頂上から見渡したその全容は圧巻の一言で……ワノ国の頭山からの景色に勝るとも劣らないその光景は、九里で暮らしていた頃に度々父上からゾウはワノ国にも負けない美しい国だった、と聞かされていたためその言葉が間違っていなかったことを実感させられた。
ミンク族独自のガルチューと言う挨拶文化にはヤマトやしのぶ共々面食らってしまったものの、親しみ易いその雰囲気は同盟国とは言え初めての他国への上陸に緊張していた二人の心を温かく解きほぐしてくれたようで、今じゃすっかりゾウに馴染んで現地の人たちと和気藹々と会話に花を咲かせており、前世では女三人寄れば何とかと言っていたがこの世界でもあまり変わらないんだなァとしみじみ。
なお、俺は光月家の跡取りの方にそんな恐れ多いことはと遠慮されてしまったので、残念ながら1ガルチューもさせて貰えませんでした。
光月とミンク族は兄弟分だと聞いていただけにワノ国での扱いとあまり差違がなくて少しだけ気落ちしてしまったが、一先ずはワノ国で起きた一連の騒動の話の後にカイドウとの決戦に向けた協力関係を結べたので良しとしよう。
明日の宴が楽しみだ。
14年目:秋part2
話には聞いていたが、実際に生まれながらの戦闘種族と謳われるミンク族の力を目の当たりにすると、その戦闘能力は凄まじいの一言だと納得せざるを得なかった。
イヌネコがいるのに何を今更と思うかもしれないが、あの二人は幼い頃から父上の下で稽古に励んでいて俺が生まれた時には既に一端の家臣だったこともあって、ミンク族と言うよりもワノ国の侍と言う印象が強すぎて実感が沸かなかったのだ。
だから宴の最中に開催されたミンク族最強決定戦なるイヌ曰く俺に良いところを見せたいが故に開かれたと言う頓珍漢な大会で、僕もモモに良いところ見せたい! と謎のやる気を発揮して特別枠として参加したヤマトが最終的に優勝を掻っ攫っていったものの、参加者全員がヤマト相手に善戦する猛者たちばかりだったこともあり頼もしい気持ちでいっぱいになった。
特にヤマトと同い年の犬のミンクだと言うワンダと呼ばれる少女は、大の大人たちに負けないほどエレクトロを使いこなしており剣の技量もよく鍛えられている印象を受けたのでその将来が今から楽しみである。
ちなみに俺もダメ元で参加を表明してみたところ、当初は万が一があったらと運営サイドは断固と首を縦に振ってくれなかったのだが……ヤマトが優勝すると予見していたイヌがそれでは優勝者と特別試合を開いてみてはどうかと提案してくれたことで、優勝するほどの実力者であれば俺相手でも万が一は起こさないだろうと運営サイドも納得の意を示して参加することが出来た。
まぁ、その結果特別枠で参加したヤマトと特別試合をすると言うこの大会に相応しいこれまた奇妙な結末になったワケなのだが、ヤマトが相手であれば俺も別段遠慮する必要がなかったため普段通りの実戦形式の模擬戦で相手をさせて貰い、ヤマト自身連戦続きで疲労が溜まっていたこともあり無事勝利を収められたので光月家の威信は何だかんだで示せたと思う。
ただその大会以降、元から強い忠誠心を示されていたものの何故かそこに畏敬や尊崇の念までもが込められるようになってしまい……一度街を出歩けば問答無用で片膝を付かれて出迎えられるようになってしまったこともあり、念願のガルチューは遠のくばかりであった。
14年目:秋part3
三日三晩と続いた宴も終わりを迎えミンク族との協力関係も無事に結べたので、それでは次は白ひげとイゾウの所へ向かおうと地震親父の鉄拳制裁に怯え二の足を踏むイヌネコを引き摺りながら船へ歩いていたところ、街の片隅で三角座りをする白熊のミンクのベポと言う子供に出会った。
酷く落ち込んでいる様子だったので話を聞いてみると、どうやら数ヶ月ほど前に実の兄が仲間たちと共に外海へ旅立ってしまったようで、子供のお前にはまだ早いと置いて行かれてしまったベポ少年は、しかしそんな理由で納得出来るかと兄を追ってゾウを飛び出すため、この下にある大きな船に乗せて貰うべく遠くから響き渡る祭囃子に心惹かれつつもその誘惑に負けずここで船の持ち主を待ち続けていたとのこと。
一先ず大変空腹の様子だったので、白熊のミンクならかき氷とか好きかなと思い手持ちの物を差し出して見れば案の定目を輝かせてがっついていたのでやはり好物だったのだろう。
他にもわたあめやりんご飴など、甘いものが好きな様子だったので宴の余り物で申し訳なかったが満足するまで腹に入れて貰って、落ち着いたのを確認してから下の船の持ち主が自分たちだと話を続けさせて貰った。
ベポ少年曰く、兄とその仲間たちは少しでもこの国と光月家の役に立ちたいからと言う理由で歴史の本文を探すべく航海に出たとのことだが、俺でも片手で数えるくらいしかその所在を知らない以上は一度も外海に出たことのない彼らでは探し出すのは当てのない旅になることは明白。
この付近の島を寄り道して行くくらいなら構わないが、俺たちにも白ひげとイゾウの下へ向かうという明確な航海の目的があるので、もしもこの船に乗ってお兄さんたちを探すならその目的のついでのような形になってしまうかもしれない旨をベポ少年に正直に伝えたところ、それでも構わないから乗せてくれ! と気合い十分に頷かれたので、それならとめでたく新しい旅の仲間が加わることになりました。
しのぶからは大丈夫なんですか? という視線を向けられたが、放って置いたらイヌネコのように勝手にゾウを飛び出そうと言うのだから、光月とミンク族が兄弟分である以上は未来ある若人の悩みを見過ごすワケにもいかないだろう。
それに子供ではあるがベポだってゾウで生まれ育ったモコモ公国の戦士、先達のイヌとネコに鍛えて貰えばすぐにでも前線で活躍してくれることは保証されているようなものだ。
ただイヌネコのように勝手にゾウを飛び出しては方々に心配を掛けてしまうので、取り敢えず友人たちやお偉いさんたちにその辺りをしっかり伝えてくるようにとベポに言い含め、その準備が終わるまでの間は
14年目:冬
ベポの準備も出来たので白ひげの下までいざ出航! と船に乗り込もうとしたところ、しのぶから具体的にはどういうルートで向かうのかと尋ねられたのだが……正直白ひげ海賊団の面々のビブルカードを誰一人として持っていないので、どうやって向かうのかと問われれば白ひげの縄張りを一つずつ回ってその足跡を辿って行くしかないとしか答えられない。
幸いなことに白ひげの縄張りは父上の日誌のお陰で大半の居場所を把握出来ているので、海王類に襲われる心配のないこの船ならば魚人島や空島以外であれば凪の帯を超えた先の縄張りでも向かうことが可能なため、現地人から話を聞ければ白ひげに出会えないと言うことは早々ないんじゃないかと考えてる。
なので一先ずは一年を目処に白ひげの捜索に努めて、そこから更に難航するようであれば船や乗組員の人たちの状態によっては一度ワノ国に戻ることも視野に入れて行くつもりだ。
こう言うのはなるべく自分の足で赴いて面と向かって言葉を交わしたいのでなるたけ粘るつもりではあるが……最悪縄張りの島の人たちに言伝を頼み白ひげにワノ国で待っていると言う旨を伝えて貰うことも考えてはいるので、取り敢えずはこれからも船員の安全を第一に航海に務めて行こうと思う。
あとはもしも時間が余ったならレイリーにも会って話をとも考えていたのだが、二兎を追う者は何とやらとも言うので、お爺々様からゆっくりして来いとは言われたものの俺自身そこまで長い期間国を空けるとオロチのトラウマが過ぎってしまうこともあって、長くても十六の元服の儀までにはワノ国に戻るつもりだ。
その辺りはしのぶが暗号を使った文のやり取りを定期的に行って対策してくれているので万が一もないとは思うのだが……こればかりは俺の気持ちの問題なので許してほしい。
と言うわけで、まずは一つ目の縄張りであるフードヴァルテン島へ舵を切り、道すがら他に島があれば軽く上陸してベポのお兄さんも探して行こうという話でまとまった。
◇◇◇
───『天夜叉』ドンキホーテ・ドフラミンゴ
北の海を中心に活動して近年その名を世界に知らしめて行く彼には、天夜叉と言う異名の他にもう一つ……表の世界で平穏に暮らす者たちでは決して知り得ない、今や裏社会では絶大な影響力を誇るジョーカーと呼ばれるもう一つの通り名があった。
闇のブローカーとも謳い称されるジョーカーの正体を知る者は彼が家族と呼ぶ海賊団の幹部たち、そして彼の目的の根幹に関わってくるごく僅かな取引相手を除いて存在せず、それ故に裏社会で猛威を振るい世界各地に戦争の火種を撒き散らすジョーカーを正義の軍隊である海軍は血眼になって探している。
しかしジョーカーがドフラミンゴであると言う確たる証拠を掴めない海軍の捜索は日々空回りしており、その度にドフラミンゴは世界政府直下の組織をまるで掌の上で転がすかのようなその感覚に嘲笑と愉悦を隠せず高笑いを溢すのが日常茶飯事だった。
「…………」
そんなドフラミンゴだからこそ、今この瞬間真一文字に口を結んで冷や汗すら浮かべながら静かに佇んでいるその姿がどれだけ異常な光景であるか……少なくとも彼の収める海賊団の全員が驚愕を隠せないことは明白。
唯我独尊にして大胆不敵、例え相手が世界貴族であっても一切物怖じしない奇才が何故と思うだろうが───しかしそれも、そのサングラスに隠された眼差しの先に君臨する
「ウォロロロ───久しぶりだな、ジョーカー」
四皇が一、百獣のカイドウ。
その人物こそが今ドフラミンゴの目の前に座す怪物の名前であり、ただそこにいるだけでドフラミンゴの心胆を寒からしめるほどの威圧感を放つその姿は正しく世界最強の男と呼ばれる白ひげと肩を並べる最強生物の名に相応しく、この男の一挙手一投足が次の瞬間には自分の命の灯火を容易く掻き消してしまうことを自覚しているからこそ、ドフラミンゴは手抜かりなく順調に進んでいると断言出来る自身の計画を思いながらも、僅かでも言葉を間違えれば己の首が胴と泣き別れる光景を幻視しているが故にその脳裏でカイドウに返す言葉を必死に吟味していた。
「(相変わらず凄ェ覇気だな……もう五年近く経つってのにまるで慣れやしねェ……)」
何が始まりだったのかと言えば、闇のブローカーとしての稼業でとある研究者と海賊との間の仲介をしてしまったことが全ての始まりだろう。
それは世界に名高き天才Dr.ベガパンクが、悪魔の実の伝達条件を研究している過程で判明した悪魔の実は人工的に作れると言う理論を、研究資金目当てにベガパンクの部下がかつての同僚に実験資料をジョーカーを介して横流ししたことで生まれた縁。
部下の名前はシーザー・クラウン、そして海賊の名前はサイエン───つまり百獣海賊団の大看板の一人、疫災のクイーンであった。
元々クイーン自身がカイドウからの指示で人造悪魔の実の研究をしていたこともあってジョーカーからのその仲介はまさに渡りに船とも言えるものであり、取引相手がクイーンだと分かるやふざけるなと騒ぎ出したシーザーを他所に何処か吹っ切れた様子のクイーンは、とんとん拍子で専用の研究施設を鬼ヶ島に建設していくとついにはシーザーを懐柔して百獣海賊団に引き抜くまでに至った。
そのためシーザーを経由してベガパンクの研究は今もクイーンに筒抜けであり、滞りなく人造悪魔の実の量産が進んだことで百獣海賊団の戦力は最早一国を滅ぼして余りあるほどに水面下で膨れ上がり続けていた。
「フッフッフ、スマイルの量産が順調そうで何よりだ」
「ああ……てめェには感謝してるぜ、お陰でおれの考える最強の軍団にまた一歩近づいた」
全員が動物系の悪魔の実の能力者軍団───それこそがカイドウの思い描く軍隊の全容だと知らされた時はドフラミンゴをして開いた口が塞がらなかったものの、それが夢物語ではなく現実味を帯びた明確な光景として形になって来た以上、自分のようにちまちまと戦争の火種を煽るように闇取引で武器を流し続けることの何とバカバカしいことかとドフラミンゴは考えずにはいられなかった。
天竜人が牛耳るこの世界を完膚なきまでに破壊する。
地獄のような過去から植え付けられた怒りと屈辱を原動力に生きて来たドフラミンゴにとって、その目的が叶うのであれば自身が玉座に就くことに対するこだわりは今や欠片もなく、むしろその椅子はカイドウという絶対強者にこそ相応しいと彼の闇のブローカーとしての取引は全てがスマイルへと集約されており、海軍が追いかけている闇取引はドフラミンゴにとって取るに値しない
「
自分はただ、崩壊した世界の中心で咽び泣く権力者たちを家族と一緒に見下ろすことが出来ればそれでいい。
そんな思いが通じたのか、くつくつと肩を揺らしたカイドウは手土産にとドフラミンゴが持参した悪魔の実を眺め破顔する。
「おれは有能な部下は嫌いじゃねェ……ハナフダ共々これからもよろしく頼むぜ、ジョーカー」
お前たちには期待してる、そう言わんばかりに口角を吊り上げたカイドウに、ドフラミンゴはその余りにも大きすぎる期待という名のプレッシャーに一瞬押し潰されそうになったが……それでもカイドウを王にすると言う言葉はドフラミンゴにとって紛れもない本心であるため、そのためにも一刻も早く意中の悪魔の実を手に入れ次の計画に移らなければと今後の展望を脳裏に巡らせていく。
「(オペオペの実───あれさえ手に入れば何もかもが思いのままだ)」
未来の己の右腕たる少年の病も、偉大なる航路に入ってからの国起こしも、いずれ来たる天竜人との世界を賭けた決戦も、全ては永遠の命を与える不老手術さえ果たしてしまえば恐るるに足りぬ些事でしかない。
ただし、その代償として己はたった一人の血の繋がった本当の家族を失うことになってしまうことになるが……こればかりはもう仕方のないことだとドフラミンゴ自身既に割り切っていた。
何故なら
「(最近は政府の動きがきな臭い……まずはそこから探ってみるか)」
故にこそ、ドフラミンゴは近い未来でその傲慢が要因となって己が身を業火で焼かれることとなる。
かつて鬼ヶ島で開かれた金色神楽、そこで百獣海賊団の協力者として宴に同席していたドフラミンゴがたまたま耳にした、ワノ国の現人神と謳われる烈火の侍がたった一人であのカイドウを降したと言う、当時はバカバカし過ぎて一笑に吹してしまったその作り話が───しかし現実のものであると証明するかのように、両断され崩れ落ちていく『鳥カゴ』と共に。