夢は天下無敵の大将軍   作:金匙

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29:邂逅

 

 

 15年目:冬

 

 衝撃の事実が発覚した。

 

 凪の帯を越えて偉大なる航路に戻り、無事に白ひげの縄張りの一つでもあるスフィンクス島へ辿り着いたのだが……そこであのホワイティベイと久しぶりの再会を果たしたという事実だけでも手一杯だったのに、追い打ちをかけるかのように白ひげが既にイゾウたちを連れてワノ国に向かったという報せを受けてしまい、まさか入れ違いになってしまうとは思いもせず感動と驚愕で開いた口が塞がらなかった。

 

 何でも縄張りの復興がある程度落ち着いて来たため、その後の作業は傘下の海賊たちに任せて、白ひげは義弟の故郷の安否を確かめるべくイゾウを中心に父上と関わりのあった者たちを引き連れてワノ国に向かって行ったとのこと。

 しかし、流石の白ひげでも母上の能力で父上たちが未来に飛び立ったなど想像出来るワケもないし、白ひげと関わりのあるワノ国の人員はイヌネコ共々俺が今この船に乗せてしまっているしで、光月家と関係のない旗を掲げている以上、今の厳戒態勢のワノ国では上陸する前に武士団と侠客一家の手で迎撃の狼煙が上がるのは火を見るより明らかだ。

 

 定期的に文を交わしているしのぶの下にはまだ白ひげに関する情報は入っていないみたいので、おそらくモビーディック号がワノ国近海に達するにはまだ僅かな猶予があるはず。

 事態は一刻を争うため、俺は急ぎ事の顛末を記した手紙をしたためてお爺々様へと送るようしのぶに頼んだものの……正直手紙が届く前に何とか事情を知る河松やアシュラたちが、接近する巨躯の主を敵と見なす前にイゾウの姿を確認するなりして味方だと気づいてくれるのが一番である。

 

 白ひげのことだから無闇な殺生はしないという安心感はあるが……それでも、味方同士で血が流れるような事態だけは何としても避けなければならない。

 ホワイティベイの話では既に電伝虫の念波も届かぬ海域にいるとのことなので、事情を知らない警邏の人たちが早まった真似をしないようにと、今はただただワノ国の空へ向かって祈るばかりだ。

 

 

 15年目:冬part2

 

 名残惜しくもホワイティベイに別れを告げ、白ひげの下へ向かうべくワノ国への帰路に就くことになったのだが……あれほど口酸っぱく霧の海域(・・・・)に気を付けろとホワイティベイから別れ際に注意を受けていたというのに、その甲斐もなく俺たちの船は濃霧漂う不気味な世界に迷い込んでしまった。

 

 補給を済ませたばかりであるため現時点では船の運航に支障はきたしていないものの、偉大なる航路ならではの現象なのか、記録(ログ)が三つとも定まらず羅針盤の針が狂ったように円を描き続ける現状は、乗組員たちの不安を煽るには充分すぎる要因だった。

 

 ワノ国の誰かのビブルカードを持ち合わせていればまた話は違ってくるのだが、残念ながら誰も持ち合わせがないとのことなので……今はただ、この磁気嵐が収まって記録(ログ)が正常に戻るのを待つしかなさそうだ。

 ホワイティベイの話によれば、魔の三角地帯(フロリアントライアングル)のように常に霧が立ち込めているというワケではないとのことなので、それだけが唯一の救いだろう。

 

 食糧の心配についても、最悪は俺が海に潜って自給自足すれば済む話ではあるので、ひとまずは慌てず騒がず、普段通りの職務に励むように皆に伝えれば、不安に顔を曇らせていた人たちも大分落ち着きを取り戻した様子を見せてくれたので問題ないと思う。

 またヤマトとベポは相変わらず未知の現象に目を輝かせているし、ローもまた別段気にした様子もなく鬼哭と共に鍛錬に精を出しているので、戦闘員チームのこの肝の据わりようには俺も一安心といったところだ。

 

 しかし……ただ一点、どうしても気がかりなことがある。

 それはこの霧の向こう側で、今までに感じたことのない巨大な力の波動が渦巻いているということ。

 それが覇気なのか、悪魔の実の能力なのか。あるいはそれらを超越した未知の何かであるのか……。あまりにも距離が離れすぎていてその正体までは判別出来ないが、触らぬ神に祟りなしとも言うし、今日も今日とて『透き通る世界』に入って周囲の哨戒に務めて行くつもりである。

 

 

 

 15年目:冬part3

 

 霧の深淵へと進むにつれ、世界政府の軍艦と思わしき船の残骸が海面に点々と見受けられるようになった。

 なぜこんな海域に政府の船が? と皆で首を傾げたものの、元海兵のロシナンテをしても皆目見当もつかないとのことだったので、もしかしたら自分たちと同じようにこの海域に迷い込み運悪く海王類にでも襲われたのではないかと結論付けたが……結局のところは、その真相は闇の中である。

 

 しかし磁気嵐は依然として吹き荒れ続けたままであり、政府の軍艦さえも容易く海の藻屑と化すほどの脅威がこの霧の中に潜んでいると分かった以上、悠々と記録(ログ)の回復を待っていられる状況でもないと言うことで……しのぶからの進言で、象主(ズニーシャ)のビブルカードを使い一度ゾウを経由してからワノ国に戻ろうという話になった。

 

 もしかしたらベポのお兄さんが仲間たちと一緒にゾウに帰ってきているかもしれないし、確かミンク族の族長がワノ国への永久指針を持っていたはずなので、お爺々様へのミンク族の紹介も兼ねてゾウに着いたら象主に頼んでそのままワノ国に向かってもいいかもしれないと考えれば、俺としてもそっちの方が効率的かと思ったので異論はなかった。

 

 当然ではあるが、俺以外にもそんなしのぶの発案に異を唱える者など誰一人としておらず……相変わらず痒い所に手が届くなぁと、この旅が始まってから数え切れないほどの手抜かりのないしのぶの対応には舌を巻くばかりだ。

 今はその補佐役としてロシナンテも付いてくれているし、こと諜報面に関しては既にこの二人だけで福ロクジュ率いるお庭番衆に匹敵するのではと思えてしまうほどの頼もしさである。

 

 あとは何事もなくこの海域を抜けることが出来れば、そのまま白ひげの待つワノ国へと急行することが出来るのだが───それを否定するかのように、謎の気配は日に日にその圧を増していくばかり。

 果たしてこの霧の先に待つのは鬼か蛇か……。何にせよ、最後まで『透き通る世界』を切らさず、この気配の主から一刻たりとも意識を逸らさないことを心掛けようと思う。

 

 

 

 15年目:冬part4

 

 巨大な気配の正体───それは、雷を纏い空を駆ける象主(ズニーシャ)の如き漆黒の巨竜(・・・・・)であった。

 しかもその禍々しい姿はあくまでも能力の行使による変貌に過ぎなくて、その正体は俺でも知っている戦士の国エルバフの王子にして、古代巨人族の血を引くロキと名乗る青年であった。

 

 ロキとの出会いは、はっきり言って最悪だった……。霧の中に迷い込んだ世界政府の軍艦を一方的に蹂躙し海の藻屑に変えようとするロキの猛攻、俺たちの船はその破壊の渦に巻き込まれた結果、否応なしに政府の船を庇うような形でロキとの戦いの幕が上がってしまったのだから。

 

 ……正直に記すが、この数日間『透き通る世界』を維持し続けた疲労に加え、ロキとの戦闘で久々に覇気を全開にして打ち合ったため、今は筆を執る指先さえもが鉛のように重い。

 互いに一国の王の血を引く者同士、交わした言葉と得物の意味についてはまた後日、意識がはっきりとした折に書き留めることにする。

 

 今はただ、この嵐のような出会いの余韻に浸りながら、招待に(あずか)ったこの巨人族の船の一室で心地良い疲労感に身を委ねようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偉大なる航路の後半の海───『新世界』。磁気嵐が狂い咲くその霧の海域は、世界政府にとっての逃れられぬ絶対の墓場と化していた。

 

 海上を埋め尽くす白濁の帷の中、一隻の政府護送船が追い詰められ逃げ場のない鼠のように喘いでいる。その頭上、霧を裂いて降臨したのは、歴史の彼方に消えた伝説の最強種───『竜』という名の、生きる災厄そのもの。

 

「───逃がさねェって言ったろ、世界政府の狗どもが」

 

 天を衝くような低い声が海鳴りとなって響き渡る。

 霧の奥底から這い出して来たのは、全長数百メートルにも及ぶ漆黒の巨竜。雷をその身に纏わせ、二つの角が絶望の旋律を打ち鳴らすその黒竜の正体は、古代巨人族の血を引き『幻獣種』の能力を解放したエルバフの王子・ロキ。

 

 その黄金色の双眸には濁った憎悪が揺らめいており、彼にとってこの海域を通る政府の船に対する略奪と襲撃は、己の手で父を幕引かせた世界政府への復讐であるのと同時に、己が人生を弄んだこの世界への宣戦布告でもあった。

 

 

雷界(トールヘイム)

 

 

 雷竜の咆哮が、海域そのものを震撼させる。

 護送船を紙細工のごとく粉砕せんと、雷光を宿した破壊の奔流が放たれた───その時。

 

 キィィィィン、と。鼓膜を穿つ純度の高い金属音が一帯に響き渡り、絶対的な死の雷撃が一刀の下に斬り伏せられる。

 

 飛び出して来た一つの影の手によって、雷という膨大なエネルギーの塊がその概念ごと断ち切られる埒外の光景。まさか突破されるとは思いもしなかったと、微塵も想定していなかった事態を前にロキの瞳に驚愕が走る。

 

「何だ、この気配は……?」

 

 研ぎ澄まされた見聞色が、太陽のごとき強烈な覇気の残滓を捉えた。その覇気は膨大かつ濃密にして故郷エルバフに伝わる太陽の神に酷似した、ロキにとって看過できぬほどの熱き輝き。

 

「───とことん、俺は()という種には縁があるらしいな」

 

 巨竜(ロキ)の眼下───護送船の舳先に、一人の青年が立っていた。

 見慣れぬ異国の羽織りを翻し、二振りの刀を抜き放ったその姿は、ロキの質量から見れば塵芥にも等しかったが……その青年から放たれる覇王色の奔流は、荒れ狂う磁気嵐さえも沈黙させるほどの重厚な圧を孕んでいた。

 

「てめェは……」

 

 古代巨人族たる己と矮小な人間族の邂逅─── その立ち姿を目にした瞬間、ロキの脳裏に今は亡き父から語られた憧憬が蘇る。

 

 それは、かつて伝説の戦士と謳われた(ハラルド)が放った天を割るほどの一撃を、たった一振りの剣で真っ向から受け止め相殺したと言う、今や歴史の闇に消え去った禁忌の海賊───世界を統べようとした傑物にして、ロキが唯一憧れた伝説の海賊(ロックス・D・ジーベック)の姿。

 

 目の前の青年から立ち昇る覇気、そして一切の迷いなきその眼光は、その伝説の断片をあまりに鮮烈に現代へと引きずり降ろしていて───

 

「───鉄雷(ラグニル)

「クリリ~!」

 

 歓喜に喉を鳴らすロキに応えるように、頭上でその邂逅を見守っていた巨大なリスが、雄叫びと共に漆黒のウォーハンマーへとその姿を変じる。

 同時に巨竜(ロキ)は獣型から人型へと回帰。宙に投げ出された相棒をその手に掴むと、極寒の冷気を纏いながらロキは覇王色を爆発させて青年へ突貫した。

 

「まさか巨人族だったとはな……」

 

 対する青年もまた、姿を変えたロキに僅かに瞠目した表情を見せつつも、そのハンマーを迎え撃つように臨戦の構えを取って───ロキが瞬きする間もなくその二刀に覇気と紅炎を纏わせたかと思えば、重力を無視したように己が眼前まで飛翔すると、自身に勝るとも劣らぬ覇王色を噴き上げ真っ向からその得物を振り抜いて見せた。

 

 

原初世界(ニブルヘイム)!!」

 

「桃源十拳!!」

 

 

 衝突。

 それは、一帯の濃霧を消し飛ばし、天に巨大な亀裂を走らせる王と王(覇王色)の激突。

 ギャリギャリと、空間が悲鳴を上げるほどの金属音が木霊するも、しかしぶつかり合うハンマーと刀の間には不自然な空白が生じており、両者は触れ合わぬままに互いの存在を削り合っていた。

 

「ドガハハハハ!!」

 

 憧憬の再演に、思わずとロキが破顔する。

 青年の出立ちと、矮小な人間族であるにも関わらずこの心胆を震わせるほどの圧倒的なまでの武力。それはかつての父が語っていた、世界政府非加盟の孤高の国の伝承が真実のものであると言う他でもない証明であり……。エルバフの戦士と比肩する勇名を誇る鎖された国の守護者を前に、ロキは眼前の青年が政府の関係者ではないことを確信した。

 

「───名乗れよ、サムライ(・・・・)!!」

 

 衝突の余波で海もが割れる中、ロキの投げたその言葉に、青年は静かに、しかし鋼のごとき意志を込めて言葉を返した。

 

「……光月モモの助」

 

「無愛想な奴め! おれの名はロキ、世界を終わらせる太陽の神だ!!」

 

 ワノ国の次期将軍と、エルバフの王子。

 運命という名の嵐に導かれた二つの特異点は、かつての伝説の再演を果たすように邂逅を果たしたのだった。

 

 

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