夢は天下無敵の大将軍   作:金匙

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間違えて執筆途中だった話を投稿してしまったので削除させていただきました。
こちらは修正して再投稿した話になります、お騒がせしてしまって申し訳ありません。




06:会合

 

 

 7年目:春

 

 海賊王が処刑されて一年が過ぎた。

 オロチから当てつけのように新聞が送られてきた時は目を疑ったが、ここ最近ワノ国に流れ着く海賊たちや大破した船の数を考えれば大海賊時代の幕開けというのは紛れもない事実なのだろう。

 新聞越しでは実感が湧かなかったが、カイドウたち以外の海賊が各郷で被害を起こしているのを目の当たりにすれば信じざるを得ない───あのロジャーが本当に処刑されたのだと言うことを。

 

 父は初めて新聞を目にした時、泣いてるような笑っているような複雑な表情で城を飛び出して行ったが、きっとあの時にはもうロジャーの死を確信していたのだと思う。ロジャーはすげぇヤツだ、とあの日からしばらく泣き笑っていたほどで、落ち着いた父から詳しく話を聞いたのはそれからしばらく経った昨日のことだった。

 

 曰く、ロジャーは父と出会った時には既に病に体を蝕まれており、クロッカスをして一年持てばいい方と言われるくらいの末期だったらしい。俺の前では一切そんな姿を見せていなかったが、あの時点でもう部屋に籠って出てこられなくなるくらいには状態が悪かったとか。

 そんな体でよくあんな大冒険が出来たなと思ったが、きっとそれを踏まえた上での白ひげとの一年の約束だったのだろう。あの一年がロジャーにとって何よりの大勝負で、そしてロジャーは見事世界一周を成し遂げてその勝負に勝ち『海賊王(ゴールド・ロジャー)』と呼ばれるようになった。

 

 その後は彼を追いかける海軍に捕まり、故郷のローグタウンで処刑されたというのが新聞に記された海賊王の最期だ。

 勿論ロジャーがただで処刑される筈もなく、海賊王を処刑することで海賊時代の終わりを告げようとした海軍や政府からしてみれば、僅か数秒で公開処刑が大海賊時代幕開けの式典になるとは思いもしなかったことだろう。

 

 父は海軍が捕えたのではなくロジャーの方から自首したに違いないと言っていたが、クロッカスが余命一年と匙を投げた病を患っていたことを考えれば、正直なところ半々だろうなというのが素直な気持ちだ。

 それだけに、末期の病に蝕まれながらも最後まで走り抜けたロジャーを俺は改めて尊敬したし、しんみりした終わりとは正反対のロジャーらしいド派手な最期には流石だと笑ってしまった。

 

 成長した姿を見せられなくなってしまったのは残念だが、怒涛の一年だったのだから向こうではゆっくり休んでほしい。

 

 父上と一緒に冒険してくれてありがとう、ゴール・D・ロジャー。

 

 

 7年目:夏

 

 しのぶ、という父の知り合いらしい忍者と出会った。

 いつも通り九里に近づく海賊たちを追い払っていたのだが、今日は数が多く面倒だなと思った矢先に「助太刀します!」と言って加勢してくれたことが出会いの切っ掛け。

 お庭番衆の所属と聞いた時はオロチの手の者かと疑ってしまったが、本人が自分が仕えるのは光月家だけだと強く否定しており、父や錦えもんと面識もある様子だったので一先ず信じて共に海賊の迎撃に当たることになった。

 忍者らしく多様な忍術? や身のこなしで敵を倒して行く姿は流石お庭番衆といった実力で、海賊たちも初めて見る忍術には目を丸くして慌てていた。雷ぞうもそうだが、この世界の忍者は少し変わってるから気持ちは分かる。

 

 その後、今のお庭番衆が父に愛想をつかして大半がオロチの下についたことを聞かされたが、バカ殿と呼ばれる評判を考えれば仕方ないし保身に走ったという彼らを責めることはできない。

 しのぶは光月家を裏切ったのに何故!? と納得いかない様子だったが、国を放ったらかして海賊やってたのに、いざ帰って来たら将軍の跡継ぎとしての務めを果たさず戯ける父を信頼しろというのも難しい話だろう。

 父上が理由を説明しない以上は国民たちには目に映ることが全てだし、オロチの悪政に苦しみながらも懸命に毎日を生きてる人たちに、光月を信じるというオロチの機嫌を損なうことをして死んでくれなんて口が裂けても言えるはずがない。

 

 逆に何故しのぶはそこまで父を信頼出来るのかと聞いてみると、どうやらしのぶは父が都で裸踊りをする理由を知っている様子で、おでん様が話さないなら自分が話すわけには行かないと顛末を語ることはなかったが、その言葉だけで父とオロチの間に何らかの約定があったことは明白だった。

 しのぶはおでん様の気も知らないで、と父上をバカ殿と揶揄する人たちを今にも殺してしまいそうなほど強く睨みつけていたが……例えば俺が父の真実を知ったとして、それを誰にも語ることなく胸に秘め続けることが出来ただろうか───とてもではないが俺には真似出来ないことだ。

 それだけにしのぶの父上に対する忠義心は痛いほど伝わったし、きっとこの子は真実を知っていようといなかろうと父のことを信じてくれていたと分かって嬉しかった。

 

 父を信じてくれてありがとう、無理だけはするなよ? と伝えると大泣きしていたが、あれだけストレスを抱え込んでいたなら当然だと思う。

 

 その後、モモの助様は命に変えても守ります、と言われたので俺のことはいいから日和を頼むよと返したら「モモの助様もまだ子供なのですから危ないことはしないで下さい!」と怒られてしまった。解せぬ。

 

 

 7年目:秋

 

 父と稽古をしていたらそろそろ古代文字の方も教えておこうという話になったので、これからは鍛錬と平行して考古学の勉強まですることになってしまった。

 勉強、と聞いて子供らしく苦い顔していたのかそんな俺のことを母上は微笑ましいものを見るように笑って、父上はおれも父から教わった時はそんな顔してたんだろうなと大爆笑だった。別に勉強嫌いじゃないし! 前世のせいで苦手意識ついてるだけだし!!

 

 実際はそんなこと言ってられないくらい難しくて頭パンクしそうになったが、ネコからはモモの助様の頭から煙上がってるぜよ、と好評だった。

 

 

 7年目:冬

 

 リューマの墓荒らしが起き、その遺体と秋水が盗まれるという大事件が発生した。

 

 リューマと言えばワノ国では知らない人間はいない伝説の侍で、彼が振るっていた秋水は大業物と呼ばれる一振りで黒刀に成ったほどの名刀だ。

 リューマはワノ国の英雄として、秋水は国宝としてこの国では昔から崇められているため、そのどちらもを盗み出したとなれば大騒ぎになることは間違いなく、鈴後で事が発覚して一刻と経たずここ九里に矢文が届いたくらいだ。

 

 墓荒らしの犯人が誰かは分かってないが、カイドウたちではないことは確かということくらいで他に情報はないのが現状だった。

 カイドウたちではないと断定されてるのはアイツらが今更墓荒らしをする理由がないのと、当日は鬼ヶ島で戦勝会の宴を開いていたからそもそもワノ国にいなかったという立派なアリバイありきのもの。

 最近は海賊たちの襲撃が多かったから既に外海に持ち出されてしまったのでは? という雰囲気が国内に漂っており、特に鈴後での悲壮感と言ったら筆舌に尽くし難いものだった。

 

 俺はこの国で過ごしてまだまだ年月が浅いし、大業物とか黒刀とかの概念もイマイチ理解してないけど、要は俺にとって父の天羽々斬と閻魔が遺体と一緒に盗まれたようなものと考えたら、この国の人たちがどれだけの怒りと喪失感を味わっているのか理解出来た。

 

 まだこの国にいる可能性を考えて俺も出来る限りのことをして犯人を探しているが……残念なことに手掛かりになるようなものは一つも見つけられていない。

 錦えもんたちも頑張って捜索してくれてるし、一刻も早く見つかることを願っている。

 

 

 7年目:冬part2

 

 鬼っ子と出会った。

 角の生えた種族ってこの国じゃ珍しいなと思いつつ、土地勘が分からなそうだったので話を聞いてみればどうやら家出して来たとのこと。

 色々訳ありの様子だったので詳しい話は聞かず、暇なら一緒に遊ぶか? と誘ってみれば日和のような眩しい笑顔で頷かれ───ならば是非もない、と連れて行ったのは人目に付かない頭山。

 

 今の時期は頂上で桜が咲いていて綺麗だし、眼下の景色も各郷が見渡せて四季折々で見ていて飽きないからさぞかし気に入ってくれるだろうと案内すれば、予想を裏切らず目を輝かせすごいすごいと喜んでいた。

 身なりも整ってるし何処か名のある家のお嬢様かなと考えつつ、他にはないの? と聞いてくるので人目に付かない範囲で九里の各所を案内していけば……気づいた時にはすっかり日が暮れてしまっていた。

 

 その時になって初めてお互い自己紹介の一つもしてなかったことに気づいたが、家に帰る覚悟を決めた鬼っ子を無理に引き留める訳にも行かなかったので、次の機会にということで見送りになった。初めての同年代の遊び相手だったし、次に会う時が楽しみである。

 

 喧嘩して家出したのか分からないけど、もしそうなら家族と仲直り出来るといいね。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 生まれた時から窮屈だった。

 

 組織の長たる父の娘という立場のせいで鬼ヶ島以外へ足を運ぶことを許されず、かといって島の中には鬼姫と自分を持て囃し顔色を窺ってくるつまらない相手しかおらず、唯一の肉親の父は酒と戦にかまけ顔の一つも出しやしない。

 話し相手も遊び相手もいないそんな生活は、未だ子供の彼女にとってはこれ以上ないほどのストレスでしかなく、ゲッコー海賊団との戦を制して宴に騒ぐ父たちの目を盗み家出を決行させるには十分な理由だった。

 

 ワノ国に行ってきます、そんな置手紙を残して貨物船に乗り込んだのが───『彼』と出会った切っ掛け。

 

『迷子か?』

 

 始まりはそんな一言。

 初めて見る鬼ヶ島以外の景色に目を奪われていた自分に、首を傾げながら近づいて来た彼が放った第一声がそれ。

 

 迷子という言葉にムッとし振り返る彼女の瞳に映ったのは、赤みがかった赫灼の双眸と肩にまで届く黒髪を後頭部で纏め上げた子供の姿。

 腰の鞘に納められた二刀があまりにも様になっていたので、思わずお侍さんみたい、と言葉を溢しそうになって慌てて飲み込む。見る限り同年代っぽい目の前の相手を、あの父が好意を抱く侍たちと同じと認めるのは何となく癪だったからだ。

 

『ま、迷子じゃないし……』

 

 しかし代わりに出てきた言葉は、自分でも苦しいと自覚してしまうほどの先の疑問に対する否定の言葉。

 物珍しそうに辺りを見回す子供がいたら誰だって迷子を疑うし、現にここが何処か分からない彼女は事実迷子だということに間違いはなかった。

 

『うぅ……』

 

 沈黙が苦しい。

 迷子じゃないなら何なの? と彼から視線で問いかけられているような気がして、その問いに答える術を持たない彼女の肩身がどんどん狭くなっていく。

 素直に迷子と答えるという選択肢は彼女の中にはない。

 それは一度言った手前撤回する訳にはいかないという子供らしいちっぽけなプライド───ではなく、その後に続く言葉を恐れているからだ。

 

 鬼ヶ島で生まれ育った彼女は、今自分がいるこの場所が……ワノ国が、父の手でどんな目にあっているか知っている。

 自分が鬼ヶ島から来たと答えれば、その後何をされるのか子供の彼女でもある程度の想像はつくし、父の子供だとバレてしまえば二度と鬼ヶ島に帰ることは出来ないだろう。

 

 故に疑問を抱く彼に彼女が返せる答えは一つしかなかった。

 

『い、家出して来たんだ!』

 

 それは先ほどのような苦し紛れの嘘じゃない、紛れもない彼女の本心。

 窮屈な生活に嫌気がさして、鬼ヶ島以外の世界を知りたい、見てみたい、と飛び出した彼女の強い決意に満ちたその言葉は、やはり一歩でも踏み込まれれば正体が露見してしまう危険性を孕んでいたが、真っ直ぐ彼を見据える彼女の目に迷いはなかった。

 

 彼はそんな彼女の姿を見て小さく頷くと、訳は聞くまいと仕方なさそうに笑みを溢して手を差し出す。

 

『暇なら一緒に遊ばないか?』

 

 それが、二人の始まり。

 

 彼に手を引かれて、鬼ヶ島にいては見ることが叶わなかった絶景の数々を見て回った。

 

 満開の桜の花を咲かせる大樹。

 見上げても果てが見えない天まで届くほどの竹林。

 神聖な雰囲気を漂わせる妖刀と呼ばれる業物を祀った社。

 戻って来た頭山の山頂から一望した夕暮れに染まるもみじ林───そこで初めて、彼女は日が暮れるのに気づかないほど自分が夢中になっていたことを実感して、

 

『そう言えば、名前聞いてなかった』

『確かに!』

 

 そして、まだお互いの名前も知らなかったことに笑い合った。

 

『自己紹介は次の機会だな』

『……そうだね』

 

 彼と共に九里を回って、彼女には鬼ヶ島に帰らなければならない理由が出来た。

 何故父はワノ国の人たちを傷つけるのか、何故この美しい景色を汚そうとしているのか……今までは何か理由があると漠然と考えているだけだったが、今はその理由を問い質さなければ気がすまなかった。

 

 そんな彼女の覚悟を感じたのか、やはり彼は何も聞かずにいてくれる───次も会おうと背中を押してくれる。

 

『またな』

『うん、またね!』

 

 そうして彼女は───ヤマトと名付けられたカイドウの子供は、光月モモの助と再会を誓って別れた。

 目指すは九里に停泊していた父の部下の海賊船、それを使って鬼ヶ島へ帰り父の真意を訊ねに行く。もしも何の理由もなくこの国を傷つけようとしているのなら、その時は───と確かな覚悟を胸に抱いて。

 

 

 

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