挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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序章 転生バンシー
0-1 オリジムシぬいぐるみ


 

 歌の中に居た。

 金色の木々と女性たちに囲まれて、何故だか私が中心のようだった。

 歌に釣られて声を上げると、優しい笑い声が返ってくる。

 導くようにゆっくりになった歌を、まだ言葉にならない声で追い掛ける。

 やがて曲が終わり、拍手が鳴り響いた。

 もっと上手く歌いたい。そう思って意味の無い声を発していると、いつも遊び相手をしてくれる女の子が顔を覗き込んでくる。

 

「シャロン、我の名を呼んでみせよ。アエファニル、アエファニルだ」

「あうー」

「ア、エ、ファ、ニ、ル」

「あーえーゆ」

 

 彼女は自身を指差しながら話しかけてくる。

 言葉はよく分からないけど、名前を呼べと要求されている雰囲気は感じる。

 だけど真似をしても上手く言えない。

 

「まだ難しいか? まあ良い、祝いの品を持ってきた。受け取るがよい」

「う?」

 

 饅頭型のぬいぐるみが私の目の前に差し出される。

 不規則に生えた突起は短く、先は丸い。

 なのに私は何故だか、その突起は鋭いトゲをデフォルメしたものなのだと認識した。

 初めて見るのに懐かしい。

 私が興味津々で人形を受け取ると、彼女は得意気に胸を張る。

 

「気に入ったか? 我が考案し、姉上らの手を借り作り上げたオリジムシ人形だ。皆からは何故か別の形状を勧められたが──」

 

 ──あ、これ知ってる! オリジムシだ!

 じゃあ彼女が今『人形』にくっつけて言った未知の単語は『オリジムシ』?

 

「おー、おーち? おいち……」

「ま、待て! オリジムシより先に我の名を呼んではくれぬか!?」

「むー、ち!」

「そうではない……! アエファニル! アエファニルと!」

「あえうー?」

 

 私がオリジムシの発音を掴もうとしていると、彼女が何故か慌てている。

 そういえば彼女の名はどこかで聞いたことがある気がする。

 

 アエファニル、アエファニル、アエファニル。

 あれ? 十秒以内に三回言っちゃダメなんだっけ?

 そうだ、彼の本名は大勢のバンシーに加護を受けて──思い出した!

 

 アエファニルってあれじゃん、女ばかりの種族バンシーの希少な男性でスツール滑走大会優勝者でめちゃくちゃいい声のエリートオペレーターでクールで強くてイカしてて優雅で神秘的で落ち着きのあるLogos大先生の本名……

 

「アエファニル。ア、エ、ファ、ニ、ル」

 

 私に名を呼ばせようと、必死に自分の名前を繰り返す美幼女の姿を改めて確認する。頭には枝分かれした角と黒い羽。青みがかった髪に、炎のような色の瞳。さり気なく泣き黒子。

 シナリオで登場した幼少期の姿よりも、更に幼いロゴス大先生がそこに居た。

 

「あーふぁに……?」

「良いぞシャロン、その調子──シャロン?」

 

 どこか曖昧だった意識が急激に鮮明になっていく。

 オリジムシ人形を持つ手はまるで赤ちゃん。これが私の手?

 大きく身動きが取れないと思ったら、お腹に腕を回されていた。

 誰かの膝の上。見上げると、知らないお姉さんが微笑んでる。

 知らないはず。なのにずっと前から一緒だったのを知っている。

 

 夢じゃない。金色の森は非現実的な美しさだけど、森の匂いは本物だ。

 何が起きてる? 私はどうなってる?

 

 

 そうだ、私は14章ガチャでウィシャデルを求めてロゴスを完凸し、天井を叩く覚悟を決めてコンビニへ向かって──

 

 

 

 

 気が付いたらいつものベビーベッドの上だった。どうやら転生を自覚した事によるショックで意識を飛ばしていたらしい。

 私の横にはさっきのオリジムシ人形も有る……という事は、ミニロゴス先生と会ったのは夢じゃないようだ。

 

 そうか、転生したのか、そっか……

 まあ、別にいいか……いいって事にしとこう……

 

 いつも世話をしてくれるお姉様方もみんな頭に角と羽が有ったから、彼女達もバンシーなのだろう。

 ならばここはバンシーの河谷で、私はモブバンシーだろうか。

 ロゴス先生の年齢からすると本編開始はまだまだ先か。

 

 どうせ転生するならもっと平和な世界が良かったけど、バンシーの河谷ならアークナイツ転生の初期地点としてはおそらく大当たり。ちゃんと人権があるからね!

 ここなら原作でも襲撃を受けたりはしてなかったはずだし、引きこもっていれば危ない目には遭わないだろう。多分。

 ……私が転生した後に河谷がピンチになるシナリオが実装されてたらどうしよう……でも確かめようが無いから一旦置いておこう。

 

 それよりも今は鉱石病が怖い。身体に結晶が生えてくるなんて例え致死性じゃなかったとしても嫌すぎるのに、実際は死に至る不治の病な上に差別まで付いてくる……

 サルカズは種族的に感染しやすい設定だった。バンシーもサルカズ十王庭に数えられてるけど、実はバンシーだけ感染しにくい別種族って事になりませんか? ダメ?

 母子感染もするはずだし、私も既に感染者だと思っておいた方がいいか……

 まぁ悪い事ばかりじゃないよね。種族全体が感染しやすい分、種族内では感染者差別が起こりにくいっていうメリットも有るだろうし。メリットってなんだっけ。

 できればいずれロドスで検査を受けたいけど、原作に介入するようで抵抗あるなぁ……

 

 

 寝転がったまま頭の中を整理していると、ベッドのすぐ横で何かが動いた。

 美幼女改め美少年アエファニルが立ち上がり、泣きそうな顔で覗き込んでくる。そこに座り込んでたのか。

 目が合って、彼の目が驚きに見開かれる。

 

「シャロン、大事ないか!? 母上、姉上、シャロンが目覚めたぞ!」

 

 アエファニルは大声を上げて大人を呼んでいるようだ。

 とりあえず起き上がっておこう。よいしょ。

 

「シャロン、動くでない。身体に障る……」

 

 アエファニルがまた泣きそうになっている。

 急に倒れてびっくりしたよね、ごめんね。

 私はオリジムシ人形を掴み、柵越しの彼にずりずりと近付く。

 

「あーふぁにゅー!」

「……!」

 

 名前を呼ぶと、彼は涙を湛えたまま幸せそうに笑った。

 原作では仏頂面と言われてたけど、小さな頃にはこんな顔もするんだね。

 

 

 その後はラケラマリン様がおいでになって体を調べられたり謎の呪文を掛けられたりして、アエファニルと少し遊び、バンシーのお姉様に食事の世話をされ、デザートのフルーツをアエファニルに食べさせてもらい、別のお姉様に入浴の世話をされたと思ったらまた別のお姉様にパスされて歯磨きされつつアエファニルの歌を聴き、アエファニルと少し遊び、またまた別のお姉様にベッドへ戻されて、アエファニルとバイバイした。

 

 ……私の母親って誰だろう?

 ラケラマリン様ではない気がする。そんな雰囲気だった。

 他のお姉様達もみんな優しいけど、よその子を預かってます感がある。今ベッドの横で子守唄を歌ってくれているお姉様もそう。

 まあいいか、その内分かるだろう。

 

 

 とりあえず、最初の目標として……何よりもまず、おむつを卒業したい!

 テラでの生き残りとか原作の展開とかを考えるのはそれからにしよう。

 多少育ってから転生を自覚して良かった。今でも居た堪れないのに、生まれた直後だったら精神が持たなかった。

 

 あっ、でもなんか以前アエファニルにおむつを替えて貰ったような記憶がうっすら……?

 ダメだ考えないようにしよう。心が死ぬ。

 私は逃げるように子守唄に耳を傾けた。




おもしれー大先生をもっと摂取したくて自給自足始めました、よろしくお願いします
キリのいい所まで書き上げてから投稿しようと思ってたのに音律大先生が良すぎて勢いのままに放出 あの衣装でスツール滑走して欲しい
序章は現状把握編で多分全4話くらいです
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