挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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二章の前にちょっとした番外編の二本セット。飛ばしても大丈夫です


幕間
河谷の子育て/未知の都市


河谷の子育て

 

 河谷では集団で子育てをするのはよくある事だ。

 理由はいくつか有る。まず、育児の知識を伝えるため。子が少ない河谷では、実際に子に触れる機会もまた貴重。

 次に、負担を減らすため。単純に大勢でやれば一人当たりの仕事が減る。

 そして、ある種の娯楽として。毎日変化し続けていく幼子は、長閑な河谷にとって非常に良い刺激である。

 シャロンの場合は更なる理由として、アエファニルの存在が有った。彼は初めて出会った自分より小さなバンシーに興味津々で、そんな彼を間近で見るために希望者が殺到したのだ。多すぎたため、中心となる数人を固定し、残りを不定期に入れ替える事になった。

 

 アエファニル目当てとはいえ、勿論シャロンの世話も手抜きはしない。寧ろアエファニルが可愛がっている相手だからこそ手は抜けない。そして例えアエファニルがシャロンを嫌ったとしても、シャロンに罪は無いので手は抜かない。

 勿論アエファニルは優しい子なので、無力な幼子を嫌ったりはしない。大人達の覚悟の話である。

 人員の入れ替えが定期ではないのも、シャロンが気に入った相手を突然引き離したり、シャロンの機嫌が悪い時に不慣れな新人を入れたりしないため。健やかに育てるために集まったのに、大人の都合でシャロンを振り回しては意味が無い。

 そういうわけで、シャロンは盤石な布陣で育てられる事となった。

 

 

 幼子にも個性というものが有る。例えばファッションに対する興味。

 アエファニルは服の見事さに感心したり、用意してもらった事に感謝はするものの、着飾った自分自身にはあまり関心が無いようだった。

 対してシャロンは、髪を結ってやる時には目を輝かせて鏡の中の自分を見つめ、服のレース飾りや刺繍にじっと見入り、一人で遊ばせている時はよく姿見の前で体を揺らして嬉しそうにしている。

 これがアエファニルとはまた別の愛らしさに溢れており、髪結いと服選びの役目は毎朝熾烈な奪い合いとなった。最終的には誰がやろうと、全員が「そなた天才であるな」「今日のシャロンも愛い」と賞賛するのだが。

 

 シャロンの服の多くはアエファニルのお下がりだ。

 アエファニルがあまり服に興味が無いのを良いことに、次第にバンシー達はシャロンが好みそうな服をアエファニルに用意するようになった。アエファニルは何を着せても可愛いのだから、どうせなら二度楽しめる方がお得だ。

 そのうち、自分の古い服がシャロンへ回されている事にアエファニルも気が付いた。

 

「母上。この服をシャロンへ譲る際には、襟の形を変えてくれぬか。こちらの服は裾に段を付けるのが良さそうだ。これとこれは、いっそ上下を切って入れ替えるか」

 

 アエファニルもシャロンを着飾らせたいのかと思いきや、少し違った。

 何もかも自分のお下がりでは、シャロンは新しいものを得る喜びを知る事ができない。しかし既に使える服が有るのに、新しく仕立てるのは大人達の負担となる。よって別の服に見えるように工夫する事を提案したのだ。

 彼の優しさにバンシー達は涙し、張り切って服をアレンジした。

 アレンジされた服を、シャロンはかつて見た服と似た系統の別の服と認識した。そしてシャロンが特に好みそうな一部の服はそのまま渡す。これにより、「新しい服」と「憧れのあの服」、二つの喜びを両立させた。これもまたアエファニルの提案である。

 妾達の可愛いアエファニルが年少者を思いやっていて素晴らしくて超可愛い。

 

 シャロンの不思議な所は、どう見てもお洒落好きな割に物を欲しがらない所だ。与えれば喜ぶが、無いものを強請りはせず、有る物で楽しむ。

 その謙虚な姿勢と、「マダムや姉上らのようになりたい」とお稽古に励む姿に、バンシー達は心を打たれた。

 妾達と可愛いアエファニルの可愛いシャロンが頑張り屋さんで超可愛い。

 

 超可愛いアエファニルと超可愛いシャロンが揃えばどうなるのか?

 それはもう、非常に、とてつもなく、超超超可愛いのである。

 

 河谷では集団で子育てをするのはよくある事だ。

 その理由は一つだけとも言える。

 子供は皆可愛くて、愛おしい。

 他の全ての理由も、結局はそこへ帰結するのである。

 

 

 


 

未知の都市

 

 夢にまで見たカズデルは、アエファニルの知らないもので満ちていた。

 

 暴力。自らの意見を押し通そうと、そこかしこで喧嘩が起きている。

 罵声。言葉の意味までは分からずとも、籠められた悪意は読み取れる。その悪意すら、初めて触れるものだった。

 貧困。襤褸を纏った者達が、僅かな食糧を得るために必死で働いている。

 奴隷。人が売り買いされる。たった一言で表せてしまうその事実を、アエファニルは生涯飲み込めないだろう。

 

 粗末な建物が揺れて耳障りな音を立てる。煙突が黒煙を噴き上げて、空の色を淀ませる。

 アエファニルは知らなかった。この大地に、何も口にせずに一日を終える者が居ることを。眠る家を持たない人間が居ることを。

 

 シャロンと同じ位の背丈の少女が、大人のポケットから何かを盗んで駆けていく。すれ違いざま、アエファニルは彼女の土気色の顔を見た。

 目は不穏にぎらつき、頬は痩けている。かさついた唇は、乾燥で荒れているのだと理解するまで時間が掛かった。

 

 アエファニルは愛しい妹の姿を思い浮かべた。河谷の清流に似た、穏やかに煌めく眼差し。柔らかな曲線を描く頬。瑞々しい唇。

 この大地の全ての子供は、シャロンのような姿だと思っていた。

 

 そうであるべきだと思った。

 そうしなくてはならないと思った。

 

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