挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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2-7 初陣にして引退試合

 お兄ちゃんモードのアエファニルに「子を望むのは良いが世間知らずのうぬでは悪意ある男に騙されかねぬそもうぬは未成年であり出産は時期尚早何にせよまずは清い交際からされどその相手は我が認めた相手でなくばならぬ我は王庭の主として兄としてうぬの幸福を願うゆえに――」とお説教を聞かされたり、お姉様方に感謝のハグを決めまくったり、緊急で新しい呪術やサバイバルの授業を受ける内に時間はあっと言う間に過ぎていく。

 

 旅立ちの前日、ラケラマリン様に呼ばれて完成したドレスを見に行った。

 三着のドレスを切り貼りしたのに、そうとは分からない新しいドレスになっている。凄い!

 私に合わせて丈を詰めるだけじゃなくて、ちゃんと綺麗なシルエットになるように上手く調節されている。元のドレスには無かった飾りのリボンやレースも追加されて、元のドレスよりもキュートな印象に仕上がっていた。

 ……今までの服も偶然私好みだったわけじゃなくて、こうやって私の好みに寄せてくれていたんだろうか? ありがとう、お姉様達。

 

 そして何故か、追加で三着ドレスがある。

 

「着替えも必要であろう」

「う、うむ。感謝する。なれどこの短期間で四着も……姉上らは休まず縫い続けたのか……?」

 

 さっきから気になってたけど、やりきった感満載のお姉様方が床に転がっている。

 寝てる? それとも倒れてる?

 

「心配には及ばぬ。時間をずらして休んでおる」

 

 シフト制のようだ。良かった、ブラック労働だったら着づらくなるところだった……

 そしてラケラマリン様の衣装という事は、高度な呪文に耐え得る上質な布だという事だ。

 アエファニルとラケラマリン様とベテランのお姉様方がこれでもかと呪文を刻んでくれる。

 

「シャロンを傷付けようとすれば骨が折れる呪文を刻んでおいたぞ」

「無理に脱がそうとすれば火傷を負う呪文である」

「許可無く触れれば眠ってしまう呪文だ」

「ならば妾は通気性を良くする呪文を」

「無病息災の呪文」

「恋愛成就の呪文!」

 

 骨筆を片手に群がるバンシー。なんだか寄せ書き感が出てきた。

 たっぷり呪文を刻まれて、皆の気が済んだ所で試着する。とても着心地がいい。

 あと、裏地で塞いだと見せかけて、ぱっと見分からないように胸元に排熱口が開いている。ありがたい……

 

 その晩は盛大な送別会になった。花冠を被せられ、皆で歌って踊って、私がアエファニルの隣に連れて行かれると謎の拍手が巻き起こる。

 微妙に結婚式ムードを出されているが、アエファニルは私にそういう気持ちは無いと思う。

 有ったらあの胸元ガン見はしてないんじゃなかろうか。胸に興味が無いどころか、多分胸をガン見してるという自覚すら無かったぞあれは。

 

 パーティーが終わったら世話役のお姉様達とお風呂でゆっくりして、一人用のベッドに四人で無理矢理横になる。

 

「姉上……わらわを助け、ここまで育ててくれた事、深く感謝する……」

「シャロン……妾達が行ったのは手助けのみ。そなたは自らの力で立派な淑女へ成長したのだ。そなたの母も浮かばれるに違いない」

「シャロンと過ごす時は幸福であった。妾達こそ感謝しておるぞ」

「シャロン、河谷が恋しくなれば歌うが良い。そなたの歌は大地を越えて、妾達の歌と重なるであろう」

 

 ただでさえぎゅうぎゅう詰めなのに、お姉様達がくっついてきて凄く狭い。でも幸せ。

 ダウナーお姉様が久しぶりに子守唄を歌ってくれる。残りの二人のお姉様も加わって、私も歌いたくなったから一緒に歌う。

 子守唄なのに、これじゃ誰も眠れない。なんだかおかしくなって、皆で笑った。

 おやすみなさい。

 

 

 

 

 翌朝、ついに出立の時が来た。

 私をここまで育ててくれた三人のお姉様達と抱きしめ合って、別れの挨拶をする。

 

「良いかシャロン。強引な男が魅力的に思える事もあるやもしれぬが、それはただの錯覚だ。そなたに敬意を払わぬ男は相手にするでない」

 

 これはクールお姉様。面倒な男に捕まったような事を前にちょっと言ってたね……

 

「シャロン……男に母性を刺激されたとしても、無闇に世話を焼くでないぞ。与えられる事が当然となった男は、いざという時にシャロンを守ってはくれぬだろう」

 

 これはセクシーお姉様。人の世話を焼くのが大好きなタイプだし、加減を間違えたんだろうな……

 

「よく聞くのだシャロン、紳士的な男は二種類おる。真の紳士か、紳士を演じる下衆のどちらかだ。騙されぬよう注意せよ」

 

 これはダウナーお姉様。トランスポーター時代に詐欺師に遭遇したりしたのかも……

 他のお姉様方もやけに気迫のあるアドバイスをしてくれる。

 

「浮気する男は生涯反省などせぬ! 如何に尽くそうと決して一途にはならぬ!」

「矢鱈に褒め称えてくる男は女を侮っておる! そなたは優しく美しい! 当然の事を言われて靡くでないぞ!」

「事前の対話こそが肝要だ! 一方的に押し付けておいてこちらが断れば被害者ぶるような男は論外である!」

「従わねば別れるなどと脅す男はそのまま捨て置け! そやつはそなたを支配したいだけであり愛など無い!」

「その場凌ぎの御機嫌取りは真心とは別物ゆえ、惑わされぬようにな!」

「判断に迷いし時は、その者がアエファニルより良い男か考えるのだ! 兄に負けておるようではそなたに相応しくない!」

「しょ、承知した。皆忠告感謝する」

 

 年長バンシーから年少バンシーへの別れの挨拶独特だな。

 皆結構恋愛で失敗してるようだ……

 

「アエファニル、シャロン。二人とも達者でな。いつでも帰って来るがよい」

 

 最後にラケラマリン様が額にキスしてくれた。希望+8。

 バンシー総出で見送られ、大荷物を背負ったアエファニルに手を引かれて、河谷の外へ繋がる石橋の上を歩く。

 霧で見えなくなっても歌声が私とアエファニルの背を押していた。

 やがてそれも聞こえなくなり、私達の足音だけが霧の中に響く。

 

「……アエファニル、すまぬ。わらわの荷が多くて……」

 

 彼の背負う大荷物には、四着のドレス以外にも色々入っている。

 これでもお姉様があれもこれもと入れようとするのをなんとか止めて減らした方なのだ。

 私も少しは荷物を背負ってるけど、アエファニルと比べたら手ぶらみたいなものだろう。

 

「構わぬ。呪術で軽量化しておるゆえ、負担にはならぬ」

「ならば良いが……」

「戦場ではより重い荷を運搬する事も有る。この程度は軽いぞ」

 

 霧で先の見えない橋をしばらく歩く。

 長い橋が終わると狭い小路を進み、ついに河谷の外に出た。

 と言っても植生とか気候が急に変わるわけじゃないから、あまり実感は無い。

 

「シャロン、この場所を覚えておくのだ。もしも一人で帰る事が有れば、うぬは自力でこの入口を見付けねばならぬ」

「うむ!」

 

 周囲の地形をよく観察しておく。

 河谷への道は地面に呪文が有るから、近くまで来れば見付けられるだろう。

 しばらく森の中を進むと、オリジムシの群れが居た。

 

「シャロン、あれがまことのオリジムシである」

「あれが……!」

 

 ついにリアルオリジムシと出会った。原作のまんまだ!

 河谷にも出るっぽいのに見たこと無かったな。お姉様達が、私をオリジムシをスケッチしに行く子供に育てたくなくて、遭遇しないようにしてたのかもしれない。

 アエファニルやラケラマリン様は二次元との違いを感じるけど、オリジムシは完全に一致。謎の感動がある。

 

「一匹退治してみせよ。残りは我が受け持つ」

「承知した! ゆくぞ!」

 

 骨筆を構えて空中に呪文を書いて……

 当たらない! でも撃ててるから良し!

 一番小さいやつ以外をアエファニルが一掃した。

 アエファニルのその文字の方が勝手に流れてくるやつどうなってるの!?

 オリジムシが近寄ってきたから走って逃げつつ攻撃。当たらない。

 逃げ回っていたら拳大の石に躓いて転んだ。オリジムシがすぐそこまで!

 こうなったらゼロ距離射撃! かすった!

 あとこの石で殴る! 殴る殴る殴る! 殴れー!

 なんか謎の汁が出てきて気持ち悪い! 早く倒れて!

 やがてオリジムシは動かなくなった。勝利!

 

「勝ったー! アエファニル、わらわも戦えるぞ!」

 

 これが勝利の高揚感というものか。思わず右手に骨筆、左手に石を持ったままバンザイ!

 しかし褒めて貰えると思って振り返った先では、アエファニルが傷付いた乙女のように両手と羽で顔を覆っていた。

 

「……うぬは金輪際戦闘行為をするでない。我の背後に隠れておれ……」

 

 時間は掛かったけど、一人で倒したのに!

 上手くオリジムシのトゲを避けて一方的に殴れたんだから中々じゃないか?

 でもアエファニルがそこまで言うなら大人しくしておこう。

 

 ドレスには汚損防止の呪文が刻まれているとはいえ、流石に直で地面に付いたらちょっと汚れた。落とそう。

 骨筆をしっかり持って一字ずつ丁寧に……ともたもたしていたら、アエファニルが一言で綺麗にしてくれた。

 そのちょっと唱えるだけのやつ便利すぎる。

 

「転倒防止の呪文を書き加えておくとしよう」

 

 アエファニルが私のドレスの裾を持ち上げてブーツに呪文を刻みだした。

 戦闘しないなら流石に転ばないって!

 

「アエファニルは過保護である」

「正直に申せば、歩かせず抱えて行きたいと思うておる」

「わらわはもう赤子ではないぞ」

「されど我とうぬの年の差が埋まる事も無いのだ。我は永遠に兄であり、シャロンは永遠に妹である」

 

 年を取れば取るほど、年齢差により発生するギャップは小さくなっていかないか?

 まぁアエファニルの兄としての自意識の問題だろうし、突っ込まないでおこう。

 歩き続けて、座れそうな岩が有ったのでお姉様方に持たされたお弁当で昼休憩。

 

「随分歩いたが、足は痛くないか?」

「問題無い。体力作りのため日々走り込みをしておったのでな」

「疲労や苦痛が有れば直ちに言うのだぞ」

「承知した」

 

 休憩を終えてしばらく進むと、銀色の生き物が見えた。あれ知ってる!

 

「シャロン、あれがまことのハガネガニである」

「なんと恐ろしい姿だ……」

 

 リアルハガネガニ怖い。攻撃的な姿をしている……

 あと思ってたよりずっとでかい……

 距離も離れているのでスルーして進む。日が傾いてきた。

 

「今日はここで野営とする」

「薪を拾ったり、火を起こしたりするのだな!」

「その必要は無い」

 

 アエファニルはその辺で野草を採取し、手持ちの干し肉干し野菜と一緒にぽいぽいと空の鍋に入れ、水を注ぎ、一言唱えた。

 

「『煮えよ』」

 

 途端に水が沸いて湯気が立つ。なんてお手軽なんだ。

 ごはんを済ませて片付けたら、寝床の用意。河谷から持ち出した毛皮のマントを地面に広げる。

 しかしマントは一枚しかない、という事は……

 

「交代で夜番をするのだな!」

「安心せよ、既に周辺に呪術を施した。我らの姿を捉えられる者はおらぬ」

 

 アエファニルが居ると野営のイメージが崩れるな。

 とはいえ何も無いならその方がいい。遠慮なく荷物からオリジムシ人形を出す。

 アエファニルが二度見してきた。

 

「いまだにそれと寝ておったのか」

「わらわはこの子がおらねば眠れぬのだ」

 

 落とさないように紐付きの袋に入れてお腹に括り付け、マントの上に寝転ぶ。

 私一人なら十分だけど、流石に二人で添い寝するにはちょっと狭い大きさ。

 アエファニルは近くの木に背を預けて座っている。ちゃんと休んで欲しいけど、場所を交換するの嫌がるだろうな。

 

「……忘れておった。うぬがロドスで名乗るコードネームを決めねばな」

「シャロンでよかろう」

「ならぬ」

「何故……」

「ならぬ。ロドスに到着するまでに考えよ。それと二人きりの時は構わぬが、河谷の外では我の事はロゴス、もしくは兄と呼べ。我の名は多くのバンシーの加護を受けておるゆえ、偶然知った無関係の者が迂闊に唱えれば障りがある」

 

 十秒以内に三回呼んだり書いたりしちゃいけないっていうあれか。

 河谷で色々学んだけど、名前に加護を与えるとかいう謎の技術は教わっていない。

 お姉さんは想いは届くみたいに言ってたけど、実際どういうものなんだろう。

 

「……わらわもアエファニルに加護を与えられるだろうか?」

 

 私も、その多くのバンシーの一人になりたい。だからダメ元で聞いてみる。

 バンシーに生まれたからとかじゃなくて、ただ私がそうしたかった。

 アエファニルは立ち上がり、私のすぐ横に座り直すと頭を撫でてくる。

 

「既に受け取っておるよ」

 

 本当だろうか?

 よく分からないけど、アエファニルの声色がなんだか幸せそうだから良しとしよう。

 

 私が寝ないとアエファニルも休めないだろうから、もう寝よう。

 目を閉じて、眠りに落ちるまでの時間でコードネームを考えてみる。

 リボンいっぱいだから「リボン」。ダメだ被る予感しかしない。

 「ロゴス」と関係有りそうな単語だと「ミュトス」?

 うーん、モブバンシーの名前にするには仰々しい。

 ドゥリン式で「バンシー」なら絶対被らないと思うんだけど紛らわし過ぎる。

 適当に食べ物とか……?

 おいしいもの…………

 おやつ………………

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