挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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三章は各キャラの顔見せを兼ねた日常(?)パートになります。話数未定。
そして悲しいお知らせなのですが、書き溜めが尽きてきたのでここからは不定期更新になりそうです……


三章 登場人物たち
3-1 コードネーム


 アエファニルに手を引かれてロドスに乗り込むと、入ってすぐの空間でScoutとMiseryが出迎えてくれた。

 既に前世の記憶も大分薄れているが、やっぱり見れば原作のままだと感じる。

 そしてそれ以上に今世でアエファニル以外の男性に会うのが初めてで変な感じだ。

 男の人ってこんな感じだっけ?

 

「よく帰ったなバンシー! お陰で今夜は祝いの名目で酒が飲めるぜ」

「うぬらは何も無くとも飲んでおろう」

 

 Scoutはアエファニルとハイタッチを交わし、Miseryは「おかえり」と「ようこそ」の二本のリボンを掲げていた……かと思えば何やらハッとして、そのリボンを一本自分の首に蝶々結びで巻く。

 あっ……私のドレスにもそこにリボンがある! まだ挨拶もしてないのに無言で通じ合った。

 

「それでそっちが……」

「我の妹である。愛いであろう?」

「そういう台詞は本体を見せてから言ってくれ」

 

 Scoutのツッコミに思わず頷く。マスクとヴェールしてるし一言も喋ってないからね。

 この状態でそうだね可愛いねって言える人は何も考えてないか、服しか見てないよ。

 

「妹よ、我の同僚のScoutとMiseryである」

「兄上が世話になっておる」

「ああ、世話してるぜ」

「そうであったか?」

 

 なんかアエファニルとScoutはちょっとピリついてるけど、仲良しだからこそのやつかな?

 ともかくラケラマリン様やお姉様に鍛えてもらった淑女の礼でご挨拶だ! 初・実戦!

 

「わらわの名は──」

「妹よ、コードネームを名乗るのだぞ」

「………………」

 

 やばい。決めてなかった。礼の途中で固まってしまう。

 何か、何か、何がいい? コードネーム……できれば長すぎないやつ……

 人事画面とかで文字が小さくならない程度の……

 どうしよう、なんか原作キャラの名前ばっかり浮かんできて新しい単語が出てこない!

 

「決まっておらぬのか」

「良き名が思い浮かばなんだ……。ScoutにMiseryよ、すまぬ。今は名乗る名が無い」

 

 淑女の礼をキャンセルして謝罪の礼。

 アエファニルにちゃんとロドスに着くまでに考えておけって言われてたのに情けない……

 

「気にするな、人事部での登録までにゆっくり考えればいいさ」

「どうしても決まらなければ人事部の方で候補を出してもらうといい」

「かたじけない……」

 

 名も名乗らない失礼な女に二人とも優しい……

 せめて握手をしておく。Scoutは原作で言及されていただけあって本当に手が冷たい。Miseryは普通。

 

「……妹よ、我とも握手を」

「構わぬが」

 

 アエファニルとも握手。どうしたんだお兄ちゃん。

 そのまま手を引かれて窓口へ連れて行かれ、滞在の手続き……なんだけど、 どうもロゴスパワーで色々とすっ飛ばしたっぽい。

 「あ、ロゴスさんの妹さんね」的な感じで、既に用意されていた仮のIDカードを受け取るだけで終わった。名前も聞かれない。

 カードの名前欄にはそのまんま「ロゴスの妹」と書かれている。いいのかそれで。いや、確かに一発で通じるだろうけども。

 部屋は一旦お客さん向けの所を借りる事になるかと思ってたけど、いきなり正式なオペレーターと同じ宿舎に入れてもらえるようだ。一応今は部外者なのにいいんだろうか。

 いやでも所属する事がほぼ確定だったらこの方が手間が無いのか。

 相部屋だと同室の人がうっかり私の持ち物に触れて呪いを食らう可能性があるという事で、一人部屋。

 

「一応聞きますけど、ロゴスさんと二人部屋が良かったりとかは……」

「それは無い」

「ですよねー」

 

 隣でアエファニルがちょっと悲しそうにしてる。

 二人部屋って普通に考えてシングルベッドが二つだよね。

 でも絶対アエファニルが添い寝を試みてくるじゃん。狭いのやだ。

 

 窓口の人にお礼を言って退散。

 近くにはちょっとした休憩スペースが有った。椅子にテーブルに自販機。

 飲み物だけじゃなくてお菓子の自販機もある。

 

「この装置こそ自動販売機である。貨幣を投入し、見本の下にあるボタンを押すと同じ物が下部の口から現れるのだ。欲するもののボタンを押してみよ」

「ならばこれを」

 

 どうせ味はしないからどれでもいいんだけど、なんとなくレモンティーを選んでみる。ボタンを押すと下からガコン。

 な、懐かしい! 前世ぶりの感覚に、神経が震えるような心地がする。

 お菓子も勧められたので、二本セットの真っ直ぐなチュロスを選んだ。皆もそれぞれ飲み物とお菓子を買って、座って休憩。

 前世でも食べた事の無いチュロス。実はちょっと憧れていたのを、ついさっき思い出した。

 

 テーブルについて、ポケットから出したケースにマスクを一旦仕舞う。いただきます。

 一口食べたらほんの少しだけ、いつもと違う感覚が舌の上に広がった。

 仄かに甘い気がするバサバサしたものが口の中に広がっていく。

 

「……甘い?」

「味覚が戻ったか?」

「分からぬ……気のせいやもしれぬ。兄上、これは如何なる味だ? 実は塩味だったりせぬか?」

 

 もう一本のチュロスをアエファニルに渡して食べてもらう。

 

「うむ、これは甘い菓子だ」

「甘い……」

「味覚障害か? これはどうだ」

 

 Scoutがスナックをひとつくれる。パッケージから想像はつくけど……

 

「辛い!」

 

 舌がビリビリする!

 辛味は味覚じゃなくて痛覚、知ってはいたけど実感したのは初めてかも。

 アエファニルが開封してくれたレモンティーで中和。レモンティーも渋甘酸っぱい気がする。

 

「ああ、やっぱり辛いのは分かるのか」

「うむ……さはいえ、ここまで辛いものは初めて食した」

「可哀想に、これで口直しをするといい」

 

 Miseryがマシュマロをくれる。ふわふわ。

 確かマシュマロは喉が荒れた時とかに食べると良かった気がする。

 辛いものでヒリヒリする時にも効くかもしれない。

 

「甘い……酸い?」

「イチゴ味だ。甘酸っぱい」

 

 中に苺ジャム的なものが入っているようだ。確かに甘酸っぱい香りがする。

 最後にアエファニルのポッキー的なやつを一本貰う。

 

「……苦い……?」

「然り、これは少々苦い。味覚が戻りつつあるようだな」

 

 掛かっているのはビターチョコのようだ。ポキポキ食感が楽しい。

 そしてScoutもMiseryも、私の味覚障害の事はそういうものとして軽く流してくれるのがありがたい。

 おやつを食べながら、ここまでの道中の事を話す。

 しかし私のオリジムシ戦の話になると「よく頑張ったな、でも二度とやるなよ」の空気になるのは何故だ。

 そして最終的にドレスに刻まれた呪文の話を経由して、私のファッションの話になった。

 

「女バンシーはヴェールをずっと着けてるものなのか?」

「河谷では常時着けておるわけではない。わらわは拘りは無いのだが……」

 

 Scoutの疑問に答えていると、アエファニルが骨筆をグルングルン回してScoutを威嚇(?)し始めた。何してるんだお兄ちゃん。

 

「ならぬ、ならぬぞ」

「兄上が斯様な様子であるゆえ……」

「なるほど。過保護な兄を持つと苦労するな」

 

 アエファニルの骨筆を仕舞わせつつ休憩を終える。

 移動する前にちょっと相談しておこうかな。

 

「兄上。わらわのコードネーム、レモンティーとチュロスのどちらが良いと思う?」

 

 コードネームって、要は他の人と区別が付けばいいんだよね?

 もう自分で思い付く気がしないから、このどっちかでいいや。これなら由来を聞かれる事が有っても「ロドスで最初に口にしたもの」で説明しやすいし。

 しかし流石に雑すぎたのか、アエファニルはちょっと戸惑っている。

 

「それで良いのか……? 長く用いる事となる名であるぞ」

「仰々しい名はいらぬ。気軽なほうが良い」

「ふむ……賽に委ねるとしよう。奇数ならばレモンティー、偶数であればチュロスである」

 

 アエファニルがさっき閉じたばかりの筆入れから何か……そ、それは棒状サイコロ!

 流石に昔使ってたやつではないけど、持ち歩いてるの!?

 テーブルの上にコロコロコロ。

 

「……4。この時よりうぬはチュロスであるな」

「いいんじゃないか。響きがロゴスに少し似ている」

「うむ、わらわはチュロスである!」

 

 Miseryの本気なのか冗談なのか分からない後押しも貰ったし、コードネームはチュロスにしよう。

 微妙にシャロンとも似てる気がするし、響きも可愛いし、あと短いし。結構いいかも。

 コードネームにするからには、味もちゃんと知りたい。味覚、頑張って治そう。

 

「よろしくな、チュロス」

「よろしく頼む、Scout先輩」

 

 早速呼んでくれたScoutともう一回握手。アエファニルが微妙に割り込みたそうな挙動をしている。本当にどうしたんだお兄ちゃん。

 ScoutとMiseryと別れて、荷物を置くために一旦部屋へ向かう。

 アエファニルのおかえり会と私の歓迎会をしてくれるとの事で、夜にまた会う約束をした。

 Miseryは最後まで首のリボンを着けたままだった。

 

 

 最低限の荷解きをしたら、次は医療部へ。

 一旦アエファニルと別れて、簡単な健康診断と鉱石病検査。

 私の今の身長は156cmらしい。ブーツ込みだと163cmくらいかな?

 味覚障害についても今後継続して診てもらう事になった。

 

 そして鉱石病検査の結果は──非感染だった。

 

「サルカズの身でありながら非感染とは、なんたる幸運か」

 

 合流したアエファニルが私を抱き締めて喜んでくれた。

 ずっと「感染してるんだろうなぁ」の気持ちでいたから、今更非感染だと言われても変な感じだ。

 

「うぬは鉱石病の痛みを知らぬのだな。これからもそうである事を願おう」

「……兄上は痛むのだな?」

「些事である。うぬが気に掛けるほどの事ではない」

 

 患部がどこか分からないけど、アエファニルのお腹をさすっておく。

 ……そしてロドスの医療部といえば、あの人である。

 

「妹よ、ケルシー医師がうぬに会いたいそうだ。このまま彼女の執務室へゆくぞ」

「う、うむ」

「恐れる事は無い。我が側におる」

 

 お兄ちゃん、その言い方だと逆に強敵感が出て怖いよ……

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