挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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3-3 未来の狭間

 お風呂道具を置きに部屋に戻って、まだちょっと時間が有るからアエファニルと一緒に荷解きの続き。

 分解した状態で持ってきた足踏み式の機織り機も組み立てておく。これ持たせようと思ったお姉様凄いし、運んでくれたアエファニルも凄いよ。

 

「シャロンよ……」

「む?」

「……いや……やめておこう」

 

 アエファニルが片付けをしながら何か言いかけてやめた。珍しい。

 気になるけど絶対口を割らないだろうし、そのままおかえり会兼歓迎会へ出発。

 部屋を借りて皆でご飯を食べるようだ。原作に居たエリートオペレーターの皆が拍手で迎えてくれる。

 ……今もう既にエリオペなのかな? まだかもしれないから一応気を付けよう。

 

「我の最愛の妹だ」

「チュロスと申す。よろしく頼む」

 

 今度こそ淑女の礼! Outcastが真っ先に握手しに来てくれる。

 リアルOutcast格好良い。原作でもカッコよかったけど、貫禄って言うの? 堂々としてて包容力を感じる。

 

「私はOutcastだ。会えて嬉しいよ、美しいバンシーのお嬢さん」

「顔が見えてないのに美しいも何も無いだろ」

 

 Scoutがすかさずツッコミを入れる。しかしOutcastはやれやれ分かってないねの空気。

 

「顔の作りだけが美しさじゃないさ。音楽の如く流麗な発音に、指先まで洗練された所作。これだけでも、よく磨かれた教養あるレディだって事が分かるだろう? 私の目には、ただ立ってるだけでも輝いて見えるよ」

 

 う、嬉しい! 確かにラケラマリン様も立ってるだけで輝いている。もしかして私もあんな感じになれてるのだろうか。

 ラケラマリン様に憧れて色々お稽古を頑張った甲斐が有った!

 

「Outcast……わらわもそなたに会えて嬉しく思う……!」

「困った事が有れば私の所に来な。力になろう」

 

 ScoutとMiseryが「またOutcastさんが若い女を誑かしてるぞ」「Outcastにかかれば皆素敵なお嬢さんだからな」とコソコソ話している。顔を隠した私にも皆と同じように優しくしてくれるなんて素敵だ。

 そのままOutcastに手を引かれ、流れるように誘導されて次はMantraの前へ。

 

「彼女はMantraだ。訳有って発声する事は殆ど無いが、許してやってくれ」

「うむ。わらわも顔を見せる事が叶わぬゆえ、訳有り仲間だ」

 

 まあ私のはただのお兄ちゃんの過保護だけど。

 Mantraと握手。握り方が凄く優しくて、なんだかほっとする。

 

「………………」

「おお、感謝する」

「妹よ、Mantraの声が聴こえるのか?」

 

 真摯な空気を感じてお礼を言ったら、お兄ちゃんや皆がちょっと驚いてる。

 そっか、エリジウムがまだ居ないから、声が聴こえてたらMantraの隊に配属になる可能性が有るのか。

 役に立てたら良かったんだけど、残念ながら聴こえない。

 

「声は聴こえぬが、歓迎されておる雰囲気は分かる。それにしても美しい髪と尾であるな」

 

 キラキラの尻尾が素敵。いいな、バンシーには尻尾無いからな。

 Pithも来てくれている。こういうパーティーみたいなのに出席するイメージ無かったから意外だ。挨拶して握手。

 

「非戦闘員としての入職になると聞いているが、能力測定を受けて損は無い。明日にでも訓練場に来い」

「うむ! わらわも自らの実力を知りたい」

 

 術師としての興味だった。なるほど。

 Pithは確かバベルの頃に、単独で天災を二十分だか三十分だか押し留めたんだよね。

 お兄ちゃんも強いけど、Pithもスーパー術師だ。

 

「Pithよ、我が妹は──」

「兄上、わらわはやるぞ!」

「……うむ……まあ……良いだろう……」

 

 なんかアエファニルはやらせたくないみたいだけど、能力測定は普通に受けてみたいから絶対行くよ。

 最後にAceと挨拶。Ace、手が大きくてごっつくてあったかい。

 そしてなんと私の誕生年のワインを贈ってくれた。木箱入り。

 

「これは高価な物ではないのか……?」

「偶然手に入った物だから気にするな。成人まで寝かせておくといい」

「ならば、わらわが成人した暁には共にこれを飲もう」

「ああ、約束だ」

 

 ……私が成人するのはチェルノボーグの前だから、この約束は果たせる。

 その後は……私は、どうするべきなんだろう?

 

 ワインの箱を見ながら少しぼーっとしていると、アエファニルが箱を私の手から取って、邪魔にならない場所に置く。

 ……いけない、今は楽しまないと歓迎してくれてる皆に失礼だ。

 二人掛けのソファを勧められてアエファニルと一緒に座って、飲み物が配られていく。

 

「旧友の帰還と、新たな友の来訪に乾杯!」

 

 Aceの音頭で乾杯。私は未成年なのでフルーツジュースだ。トロピカルな香り。

 誰も何も言わないけど、私の味覚障害を考慮してくれたのか、食べ物は香りや食感重視のラインナップな気がする。クラッカーパキパキで気持ち良くて好き。

 しかしご飯やお菓子以上にお酒が沢山あるみたいだ。私が成人してたら深夜にバーでの開催だったのかもしれない。

 

「妹よ、誤って酒を飲まぬよう気を付けよ」

「うむ。兄上は飲み過ぎぬよう気を付けよ」

「チュロス、ロゴスは酔うと『妹が初めて発した言は我の名だ』〜って自慢し始めるんだぜ」

「ロゴスの本名は赤ん坊が初めて言うには長いが」

「ああ、覚えておるぞ。わらわの一歳の誕生日の事だ。兄上が祝いの品としてオリジムシ人形をくれたのだが」

「おい、もっと他に有っただろ」

「獣の人形は既に複数有ったのだ」

「わらわがオリジムシと言いそうになり、兄上は慌てて自らの名を繰り返してわらわに言わせようとしたのだ」

「まことに覚えておるのだな……」

「記憶力がいいんだね」

 

 皆でお喋りしながら食べたり飲んだり。

 Aceが空になったオリジムシ印のビール瓶をアエファニルの前に置いた。

 

「ロゴスはオリジムシが好きだよな。そら」

 

 アエファニルはその瓶を私によく見えるように持つ。

 ボブが作ってるやつではなさそう……いや、そもそも今はまだビール屋さんになる前かな。

 

「我が妹が好いておるゆえ」

「む? オリジムシを好いておるのは兄上であろう?」

「……む?」

 

 待って、なんで不思議そうなんだ。

 ぬいぐるみやミニカーをオリジムシ型にしたり、オリジムシハンカチで大喜びしてたのは一体。

 

「オリジムシ人形もオリジムシ車も兄上の発案であろう」

「うぬはいまだその人形と寝ておろう?」

「兄上より賜った人形ゆえ」

「ならば我の手巾にオリジムシを刺繍したのは……」

「兄上の好みと思うておったゆえ……」

 

 お互いに相手がオリジムシ推しだと誤解してたってこと?

 好きと言えば好きだけど、アエファニルに関わるモチーフとしての好きというか。

 自分用に刺繍するとか、市販のオリジムシグッズが欲しいとかは無い。

 

「つまりチュロスは、オリジムシじゃなくて兄さんが好きという事か」

「然り!」

 

 まだ首のリボンを着けたままのMiseryがいい感じに纏めてくれた。

 アエファニルの羽が一瞬ビビンッ! ってなった。響いたらしい。

 

「妹よ、今宵は」

「添い寝はせぬぞ。狭くなる」

 

 抱き着いてこようとしたアエファニルは押し返すまでもなく撃沈して、持っていた瓶に縋り付くようにしてテーブルに突っ伏した。Scoutが面白がって写真に撮っている。

 私はOutcastと一緒にミルフィーユを頂く。パリパリの束に沈んでいく感じが楽しい。Mantraが部屋の隅の冷凍庫からフルーツのシャーベットも出してきてくれた。ひんやりシャリシャリで爽やかな香り、味が分からなくても気持ちいい。

 

 お腹が満たされたら遊びの時間。Scoutにダーツのやり方を教えてもらった。真ん中に当たった!

 お兄ちゃんが信じられないものを見る目をしてる。なんでだ。

 OutcastとMiseryに手品を見せてもらったり、お礼に歌ったり、そしたら歌が微弱なアーツになってたらしくPithに興味を持たれたり。

 賑やかに過ごしていると、誰かが扉をノックした。Aceが対応している。

 

 入ってきたその人は──その子は、想像以上に小さかった。

 

「こんばんは! あの、ロゴスさんの妹さんがいらしたと聞いて、ご挨拶したくて──」

 

 アーミヤだ。

 小さい。とても小さい。私でも片腕で潰してしまえそうなほどに。

 ──ああ、私はこの子からテレジアを奪ったのか。

 

「……えっと、お邪魔でしたか? ごめんなさい、もう出ていきますから……」

 

 私の動揺を感じ取ってしまったのだろう。アーミヤの長い耳がへにゃりと力を失っていく。

 踵を返そうとする彼女に、考えるよりも先に駆け寄った。

 

「待ってくれ! そなたに会いたかった……!」

 

 アーミヤは片手に紙袋を下げていた。その逆の何も持っていない方の手を取り、屈んで視線の高さを合わせる。

 彼女は少し驚いたように青い目を見開いて、だけど私の手を拒む事は無かった。

 小さな手だ。細い手首に広がる結晶が痛々しい。結晶ごとそっと撫でてみると、思っていたような冷たさは無い。彼女の体温に染まっている。

 

 この子を守りたい。

 原作主人公だから? テレジアの継承者だから? それとも単に、自分より小さな子供だから?

 分からないけど、私が何もしなくてもアーミヤは守られるけど……

 それでも私は……私の心が、この子を守りたいと思ってる。

 

「そなたの境遇は既に存じておる。されどわらわは、そなたを魔王とは思わぬ。魔王ではなく、そなたの志こそをわらわは支持しよう」

「志……ですか?」

「テレジア殿下もそなたも、例え王冠など無くとも理想を抱き、継承したであろう?」

「……はい! テレジアさんは、もしも魔王じゃなくても、きっと今と同じテレジアさんでした……!」

 

 私が何もしなくても、アーミヤはロドスと共に前進し続ける。

 私が何もしなければ。──転生者が、横槍を入れなければ。

 

 そうだ、転生したのが私だけとは限らない。

 もしも原作を知る誰かが半端に掻き回したら、この子の道は閉ざされてしまうかもしれない。

 それが善意によるものだったとしてもだ。

 

 転生者の手で原作を破壊されそうになった時、それを察知できるのは同じ転生者だけ。

 私が守る。少なくとも、私が知ってる14章までは、それができるはず。

 

「わらわは殿下に見えた事が無い。ゆえに殿下の後継者たるそなたに寄り添い切れぬ部分も有るやもしれぬが……兄上と共に、そなたを支えたく思う」

「あ……ありがとうございます……!」

 

 アーミヤの手を引いて、さっきまで座っていた二人掛けのソファに戻る。

 アーミヤに気を遣わせないようにか、アエファニルは既に別の所に座っていた。流石だお兄ちゃん。

 皆もニコニコでアーミヤを迎え入れて、私がする事を見守ってくれている。

 

「名乗るのが遅れてしまったな。わらわはチュロスだ」

「私はアーミヤです!」

「アーミヤ、そなたの話を聞かせてくれぬか。ロドスの事でも、それ以外でも……勿論、殿下の事でも良いぞ。そなたが話したいと思う事を、わらわは聞きたいのだ」

「はい! キャロットケーキを作ってもらったんです。お話しながら一緒に食べましょう!」

 

 アーミヤが紙袋から箱を出して、中身を私の前に置いてくれる。オレンジ色のスポンジの上にクリームチーズが乗ったカップケーキ。

 味を感じられない事を、初めて悲しいと思った。

 

「感謝する、アーミヤ。……されどすまぬ。わらわは味覚障害を患っており、正しく味を感じる事ができぬ」

「あっ……そうなんですね……」

「ゆえに、今こそ食そう」

 

 なんだか謝りだしそうなアーミヤの言葉を遮って、フォークを手に取り、一口食べる。

 綺麗な見た目から期待したような味はやっぱり感じられない。なんとなく甘くて、ほんのりシナモンの香りがするだけだ。

 前世で食べた事が無いから、想像する事すらできない。悔しい。

 どうして味覚なんてどうでもいいと思っていられたんだろう。私が自分を手放す事を、悲しんでくれる人達が沢山居るのに。

 ……河谷のご飯、もっとちゃんと味わっておけば良かった。

 

「わらわは必ずやこの舌を治す。その時にもう一度、わらわと共にこのケーキを食してくれぬか? さあらば過去となりし今この時に、後から味を付ける事もできよう」

「……はい!」

 

 未来を変えるつもりが無いのなら、私がロドスに居る意味は無いかもしれない。

 例え変えようとしてもテラの問題は根深くて、簡単にハッピーエンドには至れない。

 でも、この子が感じる幸せを増やしてあげる事なら、きっと私にもできるはずだ。

 

 

 

 

 私もアーミヤも未成年なので、歓迎会はほどほどの時間でお開きになった。皆にお礼を言ってバイバイ。

 帰り道では案の定酔っ払ったアエファニルがくっついてくる。

 ワイン保管のための呪文を手伝って欲しいから一緒に来てくれるのは助かるけど、廊下ですれ違う人達が「なんだあれ」「関わらないでおこう」の顔をしている。

 まあ……まあいいか。今剥がしても別の時にまたくっついてくるだろうし、早い内からうちのお兄ちゃんはこうだとロドスの皆さんに知っておいてもらった方が、逆に安全かもしれない。

 何がどう逆でどう安全なのかはよく分からないけど、なんかそんな気がする。

 

 部屋に着いたら作り置きの無地のリボンを何本か出して、ワインを適切に保管できるようにアエファニルに呪文を刻んでもらう。これを瓶に巻いて、置き場所を作って完成。

 作業を終えたアエファニルはまたくっついてきた。なんだか嬉しそうだ。

 

「シャロンよ、我は迷っておったのだ。我らは無意識にアーミヤの中に殿下を見てしまう。あの子自身の味方になってやれと、予めうぬに願うべきかと……迷っておったのだ。されどうぬは、自らの言であの子の信を得た……」

 

 ああ、それで歓迎会の前に何か言いかけてやめたのか。

 原作でブレイズが、「頼まれてじゃなくて、自分から来てくれたのなら嬉しかった」みたいな事を言ってたシーンを思い出す。そんな感じになるのを恐れたんだろう。

 「テレジアを意識するな」というのは「テレジアを意識しないように意識しろ」という事でもあるから、その歪さで却ってアーミヤに違和感を与えてしまう可能性も高い。

 そもそもアーミヤと接するのにテレジアの話を完全に避けるのも現実的じゃないし、実際やったとしてアーミヤが悲しむだけだ。

 そういう視点で見ると、私の発言はテレジアにもアーミヤにも寄り過ぎてない良い塩梅だったのかもしれない。

 

「アエファニル。わらわは実の所、殿下よりも先にアーミヤを知ったのだ。わらわの中の二人は繋がってはおるが、重なる事は無いぞ」

 

 私がテレジアを好きなのは、アーミヤの味方だからというのが前提にある。私はそもそも、アーミヤが好きなんだ。

 

「そうか。いずれアーミヤにも新しき友が現れるだろうが、今は孤独を覚える事もあろう……うぬが側にいてやれ」

「うむ!」

 

 アエファニルは満足気に微笑んで……待って、なんでベッドに向かってる?

 

「一人寝は寂しかろう?」

「寝床の広さを考慮せよ! わらわを潰す気か!」

「な……ならば我は床で構わぬ。今宵は共に──」

「野営続きで疲弊しておろう! 適切に休息を取るのだ!」

 

 不満気なお兄ちゃんをなんとか追い出して、寝間着に着替えて顔を洗って歯磨きして、オリジムシ人形と一緒にベッドに入る。

 今日は色んな事が有った。一日であんなに原作の登場人物に会うとは。

 

 

 ──原作の通りなら、ScoutもOutcastもAceも死んでしまう。

 

 

 ……アリーナが死ぬのはいつだっけ。あの子も好きなキャラだった。

 私の好みの白っぽい長髪のキャラ、死にがちだったな。

 テレジアも、アリーナもフロストノヴァも、クライデもそうだ。

 テレジアは本編の時点で故人だったし、過去編にしか出てこないアリーナもボス敵のフロストノヴァも覚悟はしてたけど、クライデはかなりショックだったな。

 このまま原作通りに進めるなら、私は彼女達も……そしてそれ以外の沢山の人も見殺しにする事になる。

 

 AceもScoutも、彼らの部下達も、Outcastも、皆勇敢に戦って死ぬ。

 未来。まだ先の、未来の話だ。

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