ロドス二日目。働く部署を決めるためにアエファニルに艦内を連れ回された。
人事部でパソコンに触ってキーボード入力や検索をすぐに覚えたと絶賛され、エンジニア部で道具や材料の扱いが丁寧で安全意識も高いと絶賛され、医療部では人体や医療の基礎知識があるし衛生観念が完璧だと絶賛され、昼食ついでに厨房の手伝いをして手際が良いし栄養のバランス感覚もあると絶賛され、後方支援部ではあれもこれもできると絶賛された。
前世パワー。今凄く前世パワー感じてる。
私は人生二周目の引き継ぎボーナスで初期値が少しプラスされてるだけで、上限は平凡だと思うから、あんまり有能に思われないように動いた方がいいかもしれない。期待が怖い。
なおPithに誘われて受けた能力測定は、教官チーム全会一致での戦闘技術・欠落判定であった。嘘でしょ!?
いくらなんでも欠落してるって事は無いでしょ!? オリジムシ倒したよ!?
測定開始時点では「あのロゴスの妹」として多大な期待を寄せられている空気を感じていたが、私の一挙手一投足で天秤がどんどん不安に傾いていくのが分かった。
まあ初手で攻撃外したからね。動かない的相手に。
でも何発か撃って感覚を掴んでちゃんと当てたよ!
破壊音が思ってたより派手でびっくりしたけど!
的に集中しすぎて移動しながら障害物にぶつかったりしたけど!
動く的になったら全く攻撃が当たらなかったけど……!
「我の母上は200年前の戦でテレジア殿下と肩を並べて戦い、六英雄の一人に数えられておる。その英雄が直接指導した上でこれだ。戦闘の才は皆無と見てよい」
「皆無ではないぞ! オリジムシは倒した!」
「邪魔が入らぬよう我が見張った上で、たった一匹、石で執拗に殴りつけてどうにかな」
教官チームの皆さんが目頭を押さえている。
Pithからは「チュロスを一人前の戦士に育てるのと同じ労力で、十人の精鋭を育てる事ができるだろう」という絶望的なコメントを頂いた。
ねぇ誰だって最初はこんな感じじゃないの? 私そんなにやばい?
アーツ適性自体は優秀だから戦闘以外に活用せよとの事。
何故か飴を貰って帰された。扱いが幼児なんだが。ほんのり甘い。
最後は購買部で店番体験。
レジの扱いを教えてくれたクロージャが、カウンターの端に積まれたサイケデリックな箱を指す。
「このクッキーをじゃんじゃん売ってね! 試しに一箱開けていいよ!」
期限が迫ったクッキーのようだ。七割引き。
私は味覚がアレなので、アエファニルにも食べてもらって感想を聞こう。
うん、食感は中々……うぐっ!?
「……………………」
「……………………」
「あはは、それすっごく粉っぽいんだよね〜」
口内の水分が絶滅した。
アエファニルが無言で冷蔵庫からミルクを二本持ってきてお金を出す。
私も無言でレジに通して、一本貰う。
しかしパサパサがジャリジャリになっただけだった。粉が異常に強いぞこのクッキー。
どうにか流し込む。砂漠を食べたかと思った……
「……この珍妙な箱で身構えたが、味は菓子としての水準は満たしておる」
パッケージはいまいち美味しくなさそうだけど、味自体は悪くないらしい。
「じゃ、あたしはエンジニア部の仕事があるから後はよろしく!」
「しょ、承知した」
クロージャは言いながら駆け出していった。
一応他のスタッフも居るけど、新しく搬入された荷物を確認してて忙しそう。
職場体験に来ただけの私をレジに一人にするほど人手不足なのか……
「我も近くにおる。不埒な客が現れたら叫ぶが良い」
「その機会は無いように祈ろう」
アエファニルはお客さん第一号として雑誌を買ってくれた。購買部の外のベンチで読みながら待つようだ。
今はお客さんも居ないし、カウンター裏に有った紙とペンで勝手にPOPを作ってみる。
『飲み物必須、食べる砂漠! クッキーというより粉爆弾!』
こうしておけば怖いもの見たさで買う人も居るかもしれない。
とりあえず店番らしくカウンターに立っておく。
しかし顔を隠した黒尽くめの女が不気味なのか、購買部の前を通りがかる人達が躊躇している気配を感じる。
これではクッキーどころか他の売り上げも落ちてしまう。
ふむ、ここはバンシースキルを活用してみるか。
「ラララ〜♪ 今なら見切り品のパサパサクッキーが七割引きであるぞ〜♪」
人は音の出るものに好奇心を刺激される。
そしてパッケージがいまいちなのはどうしようも無いので、別の方面から興味を引く!
「ミルクに浸そうと潰えぬパサパサ〜♪ 口内が砂漠と化す♪ パサパサクッキーであるぞ〜♪ ロドスに居ながらサルゴンへ砂漠旅行〜♪ 食す砂漠♪ パサパサクッキーはいかが〜♪」
ちょろちょろお客さんが入りだし、早速クッキーが売れた。買ってくれた。
黒尽くめの不気味な女は、黒尽くめで謎の歌を歌う変な女にランクアップした。
単なる変人より、情報量の多い変人の方がそういうキャラクターとして認識されるものである。
そしてクッキー以外を買いづらい空気にしてもいけない。
適当にピックアップした他の商品とその値段も歌い上げる。
歌い続けていると声を掛けづらいだろうから適度に切れ目も入れる。
お客さんが一人の時に特定の商品を挙げると「買え」の圧が出てしまうので鼻歌に切り替えてみる。
あとは「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」を明るく気持ち良く。
いい感じに売れている。
ふう、お客さんの波も切れたし歌はちょっと休憩。
あっ、Outcastだ!
「よくぞ参られた〜♪」
「購買部に歌姫が居ると聞いて来てみたんだが、チュロスだったか」
「店番体験中である」
「例の砂漠の歌、私にも歌ってくれるかい?」
「承知した。ミルクに浸そうと潰えぬパサパサ〜♪ 口内が砂漠と化す♪ パサパサクッキーであるぞ〜♪ ロドスに居ながらサルゴンへ砂漠旅行〜♪ 食す砂漠♪ パサパサクッキーはいかが〜♪」
歌い終わるとOutcastは拍手してくれた。嬉しい。
この謎の歌を褒められて喜んでいいのかは謎だが、嬉しいものは嬉しい。
「いいね! 砂漠旅行、試してみようじゃないか」
「ちなみにオチとしてはレム・ビリトン製である」
「ははっ、サルゴンじゃないのかい!」
ミルク二本と一緒にお買い上げ。
Outcastの明るい声に触発されたのか、新しく来たお客さん達も買ってくれる。
もしかして意識してアシストしてくれた? や、優しい〜!
そしてなんと砂漠クッキーは完売した。ついでに飲み物もかなり売れた。
クロージャが帰ってきて店番体験終了。
「あんなに売れ残ってたのに、この数時間で全部売れちゃうなんて! このまま購買部においでよ!」
「考えておこう。中々やり甲斐のある仕事であった」
ご機嫌なクロージャから今日手伝った分のお駄賃と、最初に開けた砂漠クッキーの残りを貰い、そろそろご飯の時間なのでアエファニルと一緒に食堂へ向かう。
「気に入った仕事は有ったか?」
「うむ。されど兄上、わらわは一つ問題に気付いた。河谷の言葉は外の者には少々伝わりにくいようだ」
「確かに我もよく話が難解だと言われるな」
喋るとちょっとびっくりされたり、聞き返される事がまま有った。
私としても皆の喋り方と違うなという感覚はある。通じないってほどでもないけど。
「医療部に興味が有ったのだが、今のわらわでは言葉の取り違えによる事故を起こしかねぬ。よって手応えの大きかった購買部で働きたいと思う」
「良いと思うぞ。うぬの歌声に惹かれた者も多いようだ」
一歳からお歌を頑張った甲斐があるというもの。
……私がこうやってロドスで活動する事で、バタフライエフェクト的に原作に無い何かがどこかで起きるかもしれないけど、それを言うなら河谷に居る時からそうだし、そんな可能性をいちいち気にしてたら何もできない。
今は……目の前の人達の役に立つ事を考えよう。
食堂でご飯。日替わりのセットメニューをアエファニルと同じ順序で食べる。
「このトマトは酸いのではないか?」
「ほぼ酸味であるな」
「この豆は塩気がある気がする」
「塩茹でのようだ」
答え合わせをしてもらいながら食べ進める。お兄ちゃんありがとう。
しかし朝からそうだったが、食堂でご飯を食べていると近くを通る人たちが私を二度見していく。
流石にここで歌うわけにもいかないので、今の私はただの黒尽くめの不気味な女である。
「……兄上、やはり食事中くらいはヴェールを」
「ならぬ」
うーん、アエファニルが理由も言わずダメとだけ主張するパターンは珍しい。絶対に譲らないという意思を感じる。
まぁ私としてもアエファニルの意に反する事はあまりしたくないから、ロドスの皆さんに慣れてもらうとしよう。
ご飯を済ませて再び人事部へ。今から行っていいんだ!? 勝手に明日かと思ってた。
購買部を希望する事を伝えると即認められた。
特に追加の面接やテストも無く、人事部のお姉さんに今日の感想を聞かれてちょっと雑談しただけ。
あとは書類に必要事項を記入して、正式なIDカードとかに必要な証明写真を撮ったらもう正式にロドスの一員らしい。スピード感が凄い。
座って、ペンを握って……
「妹よ、うぬが今座しておるこれがスツール……動く椅子である」
「おお」
「回転も可能だ」
「おおー!」
アエファニルがゆっくり肩を押してくる。ペンを片手に持ったまま滑走させられ回転させられる私。懐かしい感覚!
人事部の皆さんの視線が集まっている。うちの男児がすみません。そして止めない私もまた同罪である。
写真はロゴスパワーによって、ヴェールを着けたままで撮る事が許された。それアリなんだ……
あと一個気になるんだけど、人事部何時までやってるの?
無事に入職手続きを終えて、個人用端末を持たされた。使い方は前世のスマホとあまり変わらなそうだ。
操作の練習でアエファニルと通話したり、メッセージアプリでスタンプを送り合ったりした。隣に座った状態で。
ツーショット写真も撮った。……私の顔がほぼ不明だから、実質お兄ちゃん一人の写真だなこれ。
「ここを押し、撮影したものを選択して我に送信せよ」
「うむ」
画像を選んで送信。ちゃんとできた。
次はアエファニルに案内されてアーミヤの所へ行く。談話室的な部屋でケルシーに勉強を見てもらっていたようだ。元気に挨拶してくれるアーミヤはとても可愛い。
「アーミヤ、今日はここまでにしよう。学びには脳を休ませる時間も必要だ」
「はい、ケルシー先生」
……ケルシーの台詞的に根を詰めすぎてた? 私達が来たからこれ幸いと切り上げた感じがする。
……アーミヤ的には、何かしてる方が落ち着くのかも。テレジアもドクターも居なくなって寂しいだろうし、周りはごたごたしてるし。
私がアーミヤの隣に座ると、ケルシーはそっと離れてアエファニルの方へ行った。
「アーミヤは勉強しておったのだな。何を学んでおるのだ?」
「今日はPithさんとケルシー先生にアーツ学を、ロゴスさんにアーツの実践を教えてもらいました。でも、難しくてまだあんまり進んでないんです……」
ひたすらアーツを学んでいる! 魔王の力の制御の為だろうか。たまたまそういう日だったのかもしれないけど。
というかアエファニルはいつの間にアーミヤの指導に行ってたんだ? 医療部で一回離れたからその時かな……?
「焦らずとも良い、何事も行き詰まった場合の方がよく身に付くものだ。わらわも明日よりアーツ学を習う予定ゆえ、アーミヤは先輩であるな」
「先輩? 私がですか?」
「然り。わらわはバンシーの呪術は修めたが、現代のアーツ学に触れるのは初めてなのだ。良ければどこで躓いておるのか教えてくれぬか? さあらば、わらわも授業でそこへ差し掛かる時に身構えておけるのでな」
「はい!」
アーミヤが閉じたばかりの教科書を開いて、難しい箇所を教えてくれる。初日にアエファニルに買ってもらったメモ帳にメモしておこう。
そしてアーミヤは自分が勉強するモードから私に教えるモードになった事で、気持ちの切り替えもできたようだ。さっきよりも表情が明るい。
お風呂がまだのようなので、一緒に入る事になった。交互に頭と背中を洗いっこ。
……アーミヤは頭も背中も肩幅も小さい。
原作でもこの大地はアーミヤに背負わせすぎだと思ってたけど──いや、ネガティブな事は考えたらダメだ。アーミヤに伝わってしまう。
アーミヤがのぼせないように気を付けながらゆっくりお風呂に浸かって、上がったら服を着てから香油を出す。
「いい匂いがします」
「これは香油である」
「こうゆ……ですか?」
「花から香りの成分を集め、身体に塗布可能な油に溶かしたものだ。わらわは主に髪の手入れに使っておる。アーミヤも少し毛先が荒れておるな、そなたの髪にも付けてもよいか?」
「はい! ありがとうございます!」
アーミヤを座らせて、少しパサついてる髪に香油を付けていく。
多分、栄養が足りてなかったんだろう。ご飯、ちゃんと食べれてるだろうか。
……私を心配してくれたお姉様達の気持ちが分かってきた。かなり。すごく。
「ロゴスさんもチュロスさんも、いい匂いがするのは香油を使っていたからなんですね」
「うむ。香りによっては緊張を和らげたり、集中力を高めたりする効果もあるぞ」
「なんだかお薬みたいです」
「実際に薬となる花も有るな。……そうだ、河谷より花の種を持って参ったのだ。ロドスに植えられそうな場所は有るだろうか?」
「庭園が有ったはずです。お花を植えてもいいか、ケルシー先生に聞いてみます!」
「感謝するぞ、アーミヤ。許可が下りれば、共に植えてみるか?」
「はい!」
香油を付けて、呪文で自分とアーミヤの髪を乾かしてお風呂終了。
アエファニルと合流して、まずはアーミヤを部屋まで送ってバイバイ。
そしてアエファニルに手を引かれて私の部屋へ向かう。
「兄上、わらわは一人で帰れるぞ」
「我と歩くのは嫌か?」
ず、ずるい! 断れない言い方をしてくる! 別に嫌ではないんだけど敗北感がある!
「嫌ではないが……」
「ならば行くぞ」
また添い寝チャレンジしてくる気かと思ったけど、アエファニルは部屋に着いたら中には入らず私の頭を撫でて去っていった。昨日のしつこさはお酒のせい?
今日も色々有ったな。絶対に気のせいなんだけど、河谷とは時間の流れが違うような感覚がある。
最後に記念に素顔でオリジムシ人形とツーショット写真を撮って、アエファニルに送るか迷って結局送らずに就寝した。
能力測定
【物理強度】普通(ふつう)
【戦場機動】普通(移動能力自体は優秀なのに慎重過ぎて動きが遅い)
【生理的耐性】普通(ふつう)
【戦術立案】標準(原作プレイ経験が基礎的なテストにジャストフィット)
【戦闘技術】欠落(これで普通以上だったらロドス終わってる)
【アーツ適性】優秀(アーツによる戦闘が優秀とは言ってない)