庭園の一角を借りる許可が下りたので、休日にアーミヤと一緒に花を植えに行く。今日はドレスじゃなくて作業着用にしてる自作のワンピースと小さなリュック。アーミヤも動きやすい服を着てきたようだ。
初めて入った庭園は……「道と土」って感じ。庭園と名は付いているものの、ほぼ畑だなこれ。植わってるのは殆どが食糧になるものと薬になるもののようだ。バベル時代を考えると納得しか無い。
療養庭園が出来るのはラナさんが来てからかな? ラナさんってなんかさん付けしたくなっちゃう。不思議。
管理者さんに案内してもらって割り当てられたエリアに行くと、アーミヤ&チュロスと看板が立てられていた。ちょっと嬉しい。
予め耕しておいてくれたそうで土は既にふかふかだったので、種を植えて水をあげて、花ごとに小さな看板を立てていく。
「あっ、お水が無くなっちゃいました。汲んできますね!」
「うむ、頼んだぞ」
アエファニルに手伝ってもらって作った軽量化のリボンを巻いたとはいえ、庭園の備品のジョウロは大きくて運びにくいだろうに、アーミヤは率先して水を汲んできてくれる。いい子だ……
そして水場は激近で、歩く時間よりも水を入れる時間の方が長い。土といい、わざわざ配慮してくれたんだろう。アーミヤ愛されてるね。
「ロドスがいい香りのお花でいっぱいになったら、鉱石病の人達や怪我をした人達も、元気になるでしょうか?」
「香りには薬ほど大きな効果は無い……が、病は気からとも言う。心が癒されれば、症状が軽くなる事もあろう」
「そうなんですね! お花が咲いたら、皆さんのお見舞いに少し持っていってもいいですか?」
「勿論だ。そなたの花壇でもあるゆえな」
体調によっては香りや成分が害となる事もあるけど、それは追々教えていけばいいだろう。香りの薄い花も植えておいたし、そっちをお見舞い用にしてもいい。
アーミヤは知らない花の種に興味津々で、楽しそうに水をあげている。その姿はどう見ても普通の──いや、寧ろか弱い部類の女の子だ。
この子に魔王を継がせたテレジアは、どんな気持ちだっただろう。
無事に種を植え終わる。
普段の世話は庭園のスタッフがやってくれるそうだ。育て方を書いた紙を渡しておいた。時々様子を見に来よう。
呪文で汚れを落とし、しっかり手を洗って、近くの休憩室へ。置かれているお茶やコーヒーは自由に飲んでいいようなので、アーミヤにリクエストを聞いて紅茶を淹れる。
「アーミヤのお陰で想定より多く植える事ができた、感謝するぞ。小腹が空いたな、チュロスを共に食そう」
「ありがとうございます!」
ロドスに来て最初に食べた、あの二本入りチュロスを一本ずつ食べる。
結構お腹に溜まる感覚があるから、おやつとしてなら一本で丁度いい感じだ。二本食べたらちょっとしたご飯になる。
「おいしいです! チュロスさんのコードネームはこのお菓子が由来なんですか?」
「然り、わらわがロドスで最初に口にしたものゆえ。あの時は兄上と共に一本ずつ食した。この菓子の味を正しく知る事が、わらわの今の目標のひとつである」
「ロゴスさんとの思い出にも、味を付けるんですね!」
「うむ。ロドスへ参る道中、兄上が吐き出すほど非常に苦い野草を食したのだが、それの味も知りたい」
「お、おいしくないのもですか?」
「気にならぬか? あの常に澄ました顔の兄上が拒むのだ。如何ほどのものか……」
「た、確かに……? きっと物凄く……物凄い味なんでしょうね……」
お喋りの合間にチュロスをかじる。前よりは味がするけど、本当に前よりはというだけだ。「甘い気がするけど気のせいかもしれない」が「気のせいにしては甘い気がするけどやっぱり気のせいかもしれない」に変わったくらい。
舌のHPが1%から2%になった感じ。それでも進んでる。いつか100%になるまで頑張ろう。
食べ終わったら使った茶器を洗い、呪文で乾かして戻しておく。
「バンシーの呪文は便利ですね!」
「うむ。兄上ならば、洗浄も呪文で済ませられるのだがな」
乾燥させる呪文は毎日のお風呂のお陰で上達した。髪を伸ばしててもすぐ乾いて快適。
髪は直で乾かすけど、身体は普通にタオルで拭いて、タオルの方を乾燥させている。気分の問題。
洗浄は……一応できるものの、目に見えない汚れや細菌が残ってる気がしちゃって不安になるから、食器なんかはきちんと手で洗うようにしている。これも気分の問題──と言い切れないんだよな、私の呪術スキルだと。
「あんなに手際良くお皿洗いできるチュロスさんも凄いです!」
「ふふふ、皿洗いならば河谷でも指折りの実力という自負があるぞ」
「それはすご──あの、もしかして河谷で手洗いする人の数って……」
「片手で足りる程度では無いか?」
「そ、それは間違いなく指折りですね……!?」
冗談を言いつつ片付け完了。
アーミヤはこの後アーツの自主練をしたいという事で、訓練場まで送っていく。
Pithが居たからアーミヤを預けようとしたら、Pithは何故か私の両肩をがしっと掴んできた。何事!?
「チュロス、やはりお前には才能が有る。戦士としては落第もいい所だが、後方での支援ならば可能なはずだ」
「ど、どういう事だ?」
「お前が歌によって無意識に発している感応伝達系統のアーツだが、前に聴いた時よりも増幅しているとMantraから報告が有った。近い内に確かめに行くつもりだったが、お前から来たのなら丁度いい。今やるぞ」
そういえばこの間Mantra買い物に来てたな……
ぐいぐいと肩を押されて私も訓練場の中へ。どうせ暇だったからいいか。
でもPith先生、歩くペースが速いです! 有ってよかった転倒防止の呪文! アーミヤも小走りでぴょこぴょこついてくる。
「アーミヤ、チュロスにアーツで髪を乾かして貰った事が有ると言っていたな? どの系統のアーツだと思った?」
「えっと、転化変換系統でしょうか……? でも、ドライヤーみたいに熱風を起こしてるわけじゃなくて、水分が直接消えていく感じです」
「水の変換に適性が有るか。ある程度人体の知識も有るそうだな? 回復治癒系統も行けそうだな」
「う、うむ」
そんなわけで、時々Pithの特別授業を受ける事になった。
ありがたいけど、勢いがちょっと怖いよPith先生!
・
夏が過ぎて、秋が来る。
ロドスで初めて迎えるアエファニルの誕生日へ向けて、購買部でマグカップを買って、自分でラッピングしてみた。高価なものではないけど、私が自分で稼いだお金で初めて贈るものだ。多分アエファニルなら記念品扱いして喜んでくれるだろう。
九月五日当日の朝食の後に渡すとアエファニルは早速包みを開き、数秒マグカップを眺め、ラッピングに使ったリボンを大事そうに持ち上げる。
「非常に気に入った。特にこの帯が良い」
そっち!?
私が織ったやつだけど、作り置きのただの真っ黒なリボンだよ。でもお兄ちゃんはマグカップの持ち手にリボンを巻いてご満悦な様子。
マグカップのことリボンについてきたおまけだと思ってない? 逆逆!
「ただの帯である。それよりも見るのだ、この美しき絵を。あまりに良き絵ゆえ、わらわの分も購入してしまった」
「これと同じ茶碗を?」
「同じ茶碗を」
アエファニルはマグカップを抱き締める。絵よりも私とお揃いなのが刺さったっぽいな……
黒一色のペン画で森と川が描かれてて、河谷っぽくて良いと思ったんだけど……
と思ったら、アエファニルはマグカップを置いて指先で絵を撫でる。
「河谷に似ておるな」
「うむ」
「良き絵だ」
「うむ!」
良かった、通じてた。
絵を撫でていたお兄ちゃんは、次は私の頭を撫でてくる。
「……妹よ。気持ちは嬉しいが、我は既にうぬから多くを与えられておる。金銭は自らの為に貯蓄しておくがよい」
ん? これ、お買い物に慣れてない妹の金銭感覚を心配してる?
私はお兄ちゃんの方が心配だよ! 購買部でレジ係してて分かってきたけど、最初に私が買ってもらったお風呂用品、やっぱり高いし買う人殆ど居ないよ。私が知る限りでは、Mantraがシャンプーとトリートメントを買っていったくらいだ。
後からPithに聞いたけど、Mantraは買うか迷っていた所に私の歌で背を押されてアーツの増幅に気付いたらしい。気付いたけど抗わずに買っていったのか。というか私の歌が無かったら一本も売れてない可能性が有ったのか、あのシャンプーとトリートメント。
丁度いいからここでお兄ちゃんに探りを入れておくか。
「クロージャにも貯金とやらをしておくと良いと言われたのだ。されど必要以上に溜め込むものでも無かろう? どの程度貯めるのが良いのだろうか? 兄上は如何ほど貯蓄しておる?」
「我は斯様になっておる」
アエファニルは端末で残高を見せてくれた。おお、結構ある!
いや、まだ分からない。買い物に興味が無いだけで、意識的に貯金してるわけじゃないかもしれない。その場合、いざ使い出したらセーブできず即すっからかんになる恐れも有る。
ならばこうだ!
「わらわも兄上と同じだけ貯蓄できるよう励もう!」
兄のプライドを刺激する作戦!
自分の真似をして妹がコツコツ貯金してる横で、しょうもない使い方はしたくないだろう。
「欲するものが有れば購入するのだぞ。手が届かぬ場合や、判断に悩む場合は我に相談せよ」
アエファニルが普通の人みたいな事を言いながら撫でてくる。
そしてアエファニル相手なら問題無いが、他人には無闇にお金の事は喋らないようにと言い聞かされた。貸し借りもダメだと。
お兄ちゃんの金銭感覚は、一旦大丈夫という事にして良さそうだ。
後は原作よりしっかりしてるお兄ちゃんに、Mechanistがコインを持たせてくれるかどうか。これは……最悪私が渡せばいいか。
……ヴィクトリア編、ちゃんと原作通りに進むだろうか?
ちゃんと。ちゃんとって、なんだろう?
花火をぶち上げながら怒りの壊死ボンバーをキメたり、ウルピとボスのサウナ耐久バトルを眺めたりしている内に思っていたより間が空いてしまいました……
あと原作キャラの登場が増えた事で諸々の確認のためにシナリオを見返しに行くと普通に読み耽ってしまいます
原作が一番執筆の敵……!