ロドスのメンバーは順調に集まっているようで、徐々に活気が増している。原作の登場人物を見掛ける事も増えてきた。
いつの間にかMechanistも入職していて、既にアエファニルと意気投合しているようだ。二人でエンジニア部に篭って色々開発している様子。
最近は二人と食堂でお昼ご飯を食べながら色々聞かせてもらっている。
「チュロスの作ったマスクは面白いな。許可したもののみを通過させる……ホワイトリストなのか。吸気と排気で動作を切り替えて、呼吸への影響も最小限に……その上自動洗浄機能まで付いているとは」
今日のMechanistは片手に紙を持ったままサンドイッチを食べている。普段も仕事しながらご飯食べてそう。
彼が読んでいるのは、アエファニルが私のあげたマスクの呪文を解析して書き出したものらしい。
どうでもいいけど紙もサンドイッチも白いから、一瞬大小のサンドイッチを持ってるように見える。
「これは画期的だ。もしも量産が可能になれば、ロドスの標準装備に採用されるだろう」
「生憎通常の布ではこれらの呪術に耐えられぬのだ」
「実に残念だ。一度エンジニア部に遊びに来ないか? 君にもプログラミングの素質が有りそうだ」
「それは良い。妹よ、プログラミングは呪術に通ずるものが有る。うぬにも熟せるであろう」
「では次の休日にでも伺うとしよう」
そういえばプログラムって言語って言うよね。言葉で呪術を扱うバンシーとの相性は良いのかも。
もうあんまり覚えてないけど前世の学校でちょっと習った気がするし、多分できるだろう。
というわけで、やって参りましたエンジニア部。
あちこちから色んな音がする。前に職場体験で来た時よりも更に賑やかだ。
色んな機材や作りかけのメカが置いてあるMechanistの作業室に通されて、分厚い本を広げながらプログラミングを教わる。
こちらが定義した規則に従わせるものと考えると、なるほど呪術とちょっと似ている。
ボタンを押すとランダムでお菓子の名前を表示するプログラムが組めた。
「何を食すか迷いし時に選択を代行してくれるボタンである」
「この短時間できちんと動作するものを仕上げるとは、飲み込みがいいな。キーボード入力も初心者にしては速い」
パソコンは前世で使ったことがあるから、キーボードの扱いは分かっている。
かといって得意というわけでもなかったし、結構打ち間違えるけど、それでも完全初心者よりは速いのか。
「次は候補を絞り込む機能を付けてみないか? クリームを使ったもの、果物を使ったもの、その両方に該当するものといった具合に、ボタンを押す側が条件を指定できるようにするんだ」
Mechanistの言葉に、なんだか薄っすら原作の記憶が呼び覚まされた。
ランダム……条件を指定して絞り込み……?
先鋒前衛重装……ロボット……爆発力……高速再配置……!
「タグを付けるという事であるな!」
「ああ、その通りだ」
そして所々ヒントを貰いつつ、お菓子公開求人が完成した。
揚げタグ指定でチュロスが出た、やったね!
ずっと黙って見守ってくれていたアエファニルは満足気に頷いている。
「流石は我が妹。多才であるな」
なんか今「戦闘以外は」って心の声が聞こえた気がするけどきっと気のせい。
「兄上は大袈裟である。これはまだ初歩的なものであろう」
「初日でこれだけできれば上々だ。君は文字だけの画面に抵抗を感じるどころか、楽しんで読み書きしている。見込みがあるぞ」
「然り。妹よ、他にも構想が浮かんだのではないか? 羽から好奇心が溢れておるぞ」
「ほう、それも作って見せてくれ」
次はMechanistのアドバイスは控えめに、自力で調べながら別のものを作ってみる事になった。
本を読んでメモしながら、作りたいものを頭の中で組み立てていく。
イメージが固まったらアエファニルの写真を何枚も撮って取り込む。
頼まなくても色々ポーズを取ってくれた。流石だお兄ちゃん。
手でハートを作るのとかどこで覚えたんだ。
写真にレア度を設定して排出率と枠の色を変え、十連と単発を用意。
天井も欲しい。天井までの回数と、ついでに回した総回数も表示するか。
微妙な記述ミスや見落としにより発生する予期せぬ動作とエラーを修正して、なんとか形になった。
十連ボタンをポチッ。
[★]見返りロゴス
[★★]ハートロゴス
[★]笛吹きロゴス
[★]笛吹きロゴス
[★]やれやれロゴス
[★★]ウィンクロゴス
[★]物書きロゴス
[★★★]エリートオペレーター・Logos
[★]見返りロゴス
[★]ピースロゴス
おお、排出率3%の★3が出た!
公開求人と来たら、やっぱり次は人材……なんだっけ? 人材育成? 人材発掘? だよね。
「ロゴスピックアップガチャの完成である」
「素晴らしい!」
Mechanistが拍手してくれた。
アエファニルは少し後ろで「うちの妹天才」の顔をしつつちょっとソワソワしている。
自分まみれの画面が恥ずかしかったのだろうか。ごめんお兄ちゃん。
しかし「ロゴス」がゲシュタルト崩壊しそうな画面だ。
「思った通りだ。君には素質が有る」
「ゲームを模倣しただけであるぞ。単純に乱数のみで選出しておる分、先程Mechanistと製作した物の方が複雑で高度と言える」
テラにもガチャゲーは有るようで、実は前に試しに一つインストールしてみたのだが、次の転生先になったら嫌だなとか余計な事を考えてしまうのでアンインストールした。
でもガチャの感覚は好きだから、自分で作れるようになってちょっと嬉しい。
「理解していない動作を再現する事はできない。この場で学んだ事が既に身に付いている証拠だ。それに私が教えた事以外も積極的に取り入れているだろう? 特にこの、表示を工夫して一枚のカードのように見せかけている部分。画像を直接加工するという手も有るが、君はプログラムでの解決を選択した。これには感動したぞ。君は調べ物も的確で、地道にエラーに向き合う事を厭わない忍耐力も持っている。何より、投げ出さずに完成させた。文句無しの満点だ」
絶賛されてしまった。照れる。
キリがついたのでティータイム。フルーツジュースとクッキーを頂いた。
味は薄いけど疲れた脳に糖分が染み渡る感覚がある。
「その本は君にあげよう」
「これだけ厚いのだ。高価なものなのではないか?」
「私は既に頭の中に入っている。持っていても場所を取るだけだから、貰ってくれると助かる。それとエンジニア部で捨てる寸前だった古いノートパソコンを回収して少し改良したんだが、これも行き場の無いものだから良かったら君が使ってくれ」
「う、うむ。感謝する」
これ、多分あれだ。前世で聞いたことがある「新規を沼に沈める」ってやつだ……!
まあ興味は有ったからありがたい。部屋に帰ったら早速やってみよう。
アエファニルはご機嫌な様子でお茶を楽しんでいる。
私とMechanistが仲良くしてるのが嬉しいんだろうか。Scoutとの差よ。
「プログラミングを学べば呪術の幅も広がるであろう」
「わらわも戦えるように……!?」
「それは……諦めよ……」
「折角得意な分野が有るのだから、そちらを伸ばした方がいい」
アエファニルに目を逸らされてしまった。
Mechanistも私の戦闘音痴っぷりは聞いてるのか頷いている。
これはもう凄腕プログラマーになって最強ロボでも作るしか……無理!
「我は花を摘みに行く。うぬらは寛いでおれ」
あ、アエファニルがトイレに行った。昔は「お花を摘みに行くロゴス先生面白いかも」とか思ってた気がするけど、河谷の生活でもう完全にお花摘みイコールトイレに馴染んじゃったから、今更何とも思わないんだよね。惜しいようなそうでもないような。いや惜しくはないな……?
そうだ、ちょっと気になってる事が有るんだった。Mechanistなら知ってるかも。
「Mechanistは機械に詳しいようだが、このサーベイランスマシンの仕組みについて知らぬか? 感染に対する警報機だというのは分かるのだが、直接血液に触れておるわけでもなかろうに、如何にして判断しておるのだろうか?」
「ああ、それは──」
説明してもらったけど、私の源石に対する理解度が低くてよく分からない部分も有った……しっかりメモしておいて、また今度調べてみよう。
で、もう一個サーベイランスマシンに思ってる事。どっちかと言うとこっちが本題。
「ロドスでは皆これを装着しておろう? 例えばこれを扉にかざせば、自室の鍵が開くようにならぬだろうか。楽で良いと思うのだが」
「便利そうだが、かざすとなると着けている部位によっては大変かもしれないな。それと故障した時に部屋に入れなくなってしまうぞ」
「ならば扉とサーベイランスマシンで直接やり取りするのではなく、ロドス本艦のシステムにサーベイランスマシンの位置を検索させ、扉を操作させるのはどうであろう。扉に接近した際に開錠するのみならず、位置情報の喪失あるいは長時間停止しておる場合は異常事態と判断し、管理者に警告を送る事もできよう」
「それもロドス側のサーバーが落ちれば使えなくなるが……そういった発想の転換は非常に大事だ。ちなみにその方式では常に多数のサーベイランスマシンを監視する事で電力消費が嵩み、コストが問題になってくるだろう。さて、どうする?」
「……よもや、普通に鍵を用いるのが最良なのか……?」
「シンプルなシステムは維持も容易で、削減したコストは他に回せる。鍵ならば従来の方法を続けるべきだろうな」
サーベイランスマシン結構邪魔くさいから、どうせなら鍵とかキャッシュレス決済とか足して便利ツールにできないかと思ったんだけど……でも付け足した機能のせいでバグって感染チェッカーとしての信頼性が落ちたりしたらまずいか。逆に感染チェッカー側の不具合で鍵開かないとかも困るし。
ていうかそういうのはまず個人用端末でやるべきか。
「だが、そうやって思考を巡らせる事には価値がある。正しい事だけを思い付ける者は居ないのだから、例え失敗しても恥じる事は無い」
「うむ!」
「他にもロドスが良くなりそうなアイディアが有れば教えてくれ」
「さあらば気掛かりな事が有る。わらわがロドスに参った頃よりも食堂のメニューが増えており、今後も増やしてゆくそうなのだが……」
「ああ、各国のオペレーター達が故郷の味を楽しめるようにという話だったな」
「ゆえに厨房の負担も増し、以前より食材の管理も難化しておると──」
専用アプリからの事前予約で厨房スタッフの負担軽減、注文ログの傾向からその人が好きそうなメニューをおすすめとして提案し余った食材を消費できる料理へ誘導、ついでに栄養バランス管理、余り物で作った料理を数量限定と銘打って通知を飛ばす、そして当然従来通りの利用もできるように、あとアプリから配達依頼できるようにして配達員は治療費の代わりにお手伝いをしてるという子供達にやってもらえば面倒がって食事を抜く人も減るかもだし子供達は色んな場所に行けて視野を広げる事に繋がるのでは……という具合に色々提案して、トイレから戻って来たアエファニルが軽く引くぐらい議論に熱中した。
Mechanistはエンジニアとしての熱意だけど、私は前世日本人なので食べ物の無駄は極力減らしたいのだ。モッタイナイ!
・
数日後、アエファニルが外勤に出ることになったので、Mechanistと一緒に見送りに行った。
「我が妹を頼むぞ……」
「ああ、任せてくれ」
「心配する側とされる側が逆ではないか?」
お兄ちゃんは深刻そうにMechanistに私の事を頼んでいる。
最強無敵ロゴス大先生に心配の必要が無いのはそうなんだけど、私もちゃんと本艦でお留守番してるから大丈夫だよ。
見えなくなるまで見送って、Mechanistと一緒に艦内に戻る。
「……ロゴスは随分心配していたが、君は何か問題を抱えているのか?」
「おそらく家出を警戒されておる。まだ河谷で暮らしておった頃、兄上のおらぬ間に一人旅を計画した前科があるゆえ」
「なるほど。彼のあの様子、君一人ではすぐに追い付かれるぞ。もしも本気で家出をするのなら、艦外に出るのではなくOutcastの部屋に転がり込むといい。君が取れる手段の中ではこれが一番時間を稼げるだろう」
家出を咎めるんじゃなくて、安全な方に誘導してくれている。優しい。
しかしお兄ちゃんを止められる判定をされてるOutcast凄いな。一応覚えておこう。