挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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二章は8話構成でしたが、三章はまだまだ続きます


3-8 兄の居ぬ間に

 ★購買部利用者アンケート★

 ※このアンケートは完全匿名です。また、何を記入してもロゴスに開示される事はありません。

 

 ・チュロスの歌を切っ掛けに商品を購入した事は有りますか?(はい・いいえ)

  ・その商品は元々欲しかったものですか?(はい・いいえ)

  ・購入した事を後から後悔しましたか?(はい・いいえ)

  ・購入した商品について自由に記入して下さい(任意)

 

 ・チュロスの歌を聴いて購入をやめた事は有りますか?(はい・いいえ)

  ・その商品は元々欲しかったものですか?(はい・いいえ)

  ・購入をやめた事を後から後悔しましたか?(はい・いいえ)

  ・購入をやめた商品について自由に記入して下さい(任意)

 

 ・チュロスの歌は購買部に必要だと思いますか?(はい・いいえ)

  ・理由を自由に記入して下さい(任意)

 

 ・チュロスの歌について、意見・感想・要望など有れば自由に記入して下さい(任意)

 

 

「これは一体」

「お前の歌について簡易的に調査した」

 

 アエファニルの外勤中の休日。Pithに呼び出されて会議室に行くと、謎のアンケート用紙を見せられた。購買部利用者アンケートっていうか、完全に私についてのアンケートだこれ。

 あとうちのお兄ちゃんは何だと思われてるんだ。アエファニルに見せないためにわざわざ居ない時を狙ってたりする?

 そして何故かMantraも居る。前よりも更に髪がツヤツヤである。

 

「調査の結果、お前の歌は購入を促すだけでなく、不要なものを買わない判断をさせている事が分かった。歌の内容に関係無く、聴いていると冷静になれるそうだ」

「それはまことか? 押し売りになっておらぬか心配だったのだ」

「購買部に確認を取ったが、お前が売った商品が後から返品された事は無い」

 

 思考を操作するとか、欲望を解放させるとかではないという事だろうか。抑えたい人にはそっちの方向に作用する?

 Mantraが無言で机の上にアンケート用紙を一枚滑らせてくる。

 歌を聴いて購入、はい。元々欲しかった、はい。後悔したか、いいえ。自由欄……

 

『以前から気になっていた高級シャンプーとトリートメントを購入した。そこまで拘る必要は無いと思っていたが、髪の艶が増すだけで日常にも張り合いが出る。買って良かった』

 

 あ、Mantra自身のやつか。顔を上げると頷いてくれる。心なしか機嫌が良さそうだ。

 他にも記入済みのアンケートを見せてもらう。

 買って良かった系が多いけど、買わなくて良かった系もある。欲しいは欲しいでも衝動で不要なものを買って後悔しがちな人や、流行りに流されて別に欲しくも無いものをなんとなく買ってしまう人は、私が歌ってる時だと自制できるらしい。

 

「集計の結果、全員がお前の歌は必要だと回答した」

「全員? 不要だという者は一人もおらぬのか? わらわや兄上に気を遣っておるのだろうか」

「居るかもしれないが、文句を付けるほどでは無いという事だろう。聴きたくないのならお前が居ない時に行くという手も有る」

 

 理由の欄は「チュロスちゃんが居ない時に行くと寂しくなる」みたいなのが多い。

 これ大丈夫? 依存性とか無い? いや、有ったとしても害が無いならいいのか……?

 

 最後のご意見欄も好意的なものばかりだ。

 可愛い、歌は好きだけど喉を大事にして、普通の歌も歌って欲しい、アイドルデビューいける、録音して配信して欲しい、安眠用ボイス売ってくれませんか?、頑張ってね、ロゴスとのデュエットを聴いてみたい、非常に高いレベルに仕上がっており相当な訓練を積んできたとお見受けするおそらくオペラでも通用する肺活量をお持ちのはずだが購買部ではよく通るのに近くで聴いてもうるさくない絶妙な声量に抑えられており客への気遣いが感じられ好印象正確な音程によって紡がれる心地いいリズムの歌は頭をクリアにしあの雑然とした購買部にも不思議と秩序を感じられるようになり目の前の商品が自分に必要なものなのか必要だとして今すぐ買うべきなのかを見極める手助けとなってくれるその為無駄遣いが減ったがその分はチュロス嬢への敬意を表して彼女がその時おすすめしている飲食物を購入するように──

 このリターニア出身っぽい人のやつは後で読もう。

 

「最初は単に鼓舞するものかと思っていたが、これは理性を喚起するとでも言うべきだな。チュロス、お前の歌は混乱した状況を鎮める事ができる可能性が有る」

 

 理性って聞くとアークナイツを思い出す……ドクターの理性回復してあげられたら便利だけど。

 あとさっきの推定リターニア人は寧ろ理性を失ってないか?

 

「わらわの歌が役に立つならば嬉しいが、意識的に扱えるようになるだろうか……」

 

 Pithの特別授業で色々試したけど、訓練場で歌っても購買部の時のような効果は無かった。ただアーツ自体は放っていて、例えるならスピーカーの電源はオンだけど流す曲がミュート状態みたいな感じらしい。

 アーツを放ってる自覚も無い。感覚を掴むために色々試したものの、正直さっぱりである。

 

「詳細は更なる検証が必要だが、気持ち良く買い物をして貰いたいというお前の客への思いが反映されていると私は見ている。このまま購買部での仕事を続けるといい。こういう感覚的なものは、ある日突然理解できるようになる場合も有るからな」

 

 そういえば前世では毎日自転車の練習をしていたら、それまで全然ダメだったのが、ある日突然乗れるようになった。あんな感じだろうか。

 

「理性を喚起する事ができるなら、逆に相手を混乱させる事も可能だと考えられる。制御のために専用のアーツユニットの開発をエンジニア部に依頼しよう」

「うむ……ロドスの皆を混乱させてはならぬものな」

「ああ。敵にだけ作用させたい」

「む? 敵に?」

「お前はロゴスの心臓だ。お前を捕らえロゴスの動きを制限する……そう考える敵が現れないとも言い切れない。自衛手段は有るに越した事は無い」

 

 人質的な話か。Mantraも頷いている。確かにロゴス大先生の動きが制限されたら大打撃だよね。

 でもお兄ちゃんなら、いざという時は私よりロドスやアーミヤを優先してくれると思う。

 ……とはいえ足枷にはなりたくないから、もしもの時の為に自決する手段は用意しておくべきかもしれないな。

 

 

 話にキリもついて、そろそろお昼ご飯の時間。Mechanistからメッセージが届いた。

 仕事が入って食堂には行けないという謝罪だった。知らない人についていかないように、とも。

 アエファニルが頼み込んだせいか、本当に保護者してくれている……PithとMantraが一緒だから大丈夫だと返信しておく。

 三人で食堂へ。……ん? 厨房にAceが居る!? なんか可愛いエプロン着けてる。

 あれ、この光景見た事有るような……? なんでだ?

 

「おう、お疲れさん。何にする?」

「わらわはAceが今調理しておるものが良い!」

「日替わりランチだな。今日はボリバル風ブリトーだ」

「ぶりとお」

 

 ブリトー、前世でも食べた事無いと思う。でも聞いたことあるような。

 

「私とMantraも同じ物を。例の提案は通ったようだな」

「ああ。オペレーター達が何を出してくるか、今から楽しみだな」

 

 PithはAceが厨房に居る事情を知ってるようだ。スタッフ以外も調理に入るようになるのかな?

 Aceが具材を平たい生地に乗せて手際良く巻いて焼く。別の人がスープを用意してくれた。

 お盆を受け取って、すぐ近くのテーブルが空いてたからそこに座る。

 いただきます。ブリトーは手掴みで食べるもののようだ。ガブリ。

 味はやっぱり薄いけど、単なる甘いしょっぱいだけじゃなくて素材の違いが分かるようになってきたかな?

 チーズがびよーんってなって楽しい。

 

「クッソ腹減ったァ! シェフ! 今日のメニューは? ……ってAceアニキ!?」

 

 あ、前にも食堂で見たサングラス三人衆がご飯を食べに来たようだ。例の凄い髪型の人がAceに驚いてる。

 今の台詞、知ってる気がする……料理するAceといい、なんだろうこの謎の既視感……

 

 ──思い出した! 原作じゃなくて、公式漫画のロドスキッチンだ!

 確かあのサングラス三人衆が、ご飯も食べずに訓練するブレイズを心配してて……

 そっか、ブレイズもう居るのか。見掛けた事無かったけど、ずっと訓練場に籠もってるのかな。

 そしてあの三人衆はAce隊だったのか。 ……あの人達も死んじゃうのか。

 

「チュロス? どうした?」

 

 PithとMantraが手を止めてこっちを見ている。

 いけない、ぼーっとしてた。

 

「あの者、個性的な髪型であるな。非常に良いと思う」

「ケルグか。一見軽薄だが、あれで中々常識人だ。お前の友人に良いかもしれん」

「ふむ。機会が有れば声を掛けてみるか」

 

 三人衆はAceからでっかいアルミホイルの包みを受け取って食堂を出ていった。あれをブレイズに温めさせるんだな。

 

 食事を終えて、PithとMantraと別れて自室に戻る。

 刺繍でもしようかと思って机の前に座ってみるも、なんだかじっとしてられない。鞄を持って一人で甲板に散歩に行ってみる。意外と人は少ない。

 初めて来たから新鮮。キョロキョロしながら歩き回り、端っこの方まで行って、今寄港している都市を眺めてみる。

 ロドスが動くだけでも驚きなのに、移動都市は更に大きい。しかも上に高いビルも建ってるのが凄いな……動く時に揺れないんだろうか?

 お兄ちゃん、あの街のどこかに居るかな? しばらく探してみるけど見付からないや。

 

 移動都市は見てて楽しいけど、情報量が多くてちょっと疲れてきた。

 甲板に視線を戻すと、いつの間にか他の人達は皆艦内に戻ったようだ。

 お昼休みが終わったのかな? 一人になっちゃった。

 私は暇だからまだうろつく。一人なのを良いことに駆け回ったり、ど真ん中で体操してみたり、歌ったり。

 それも飽きてきたら、さっきと逆側の端っこに行く。広がる荒野。

 ご飯を食べたばっかりだけど、常備してあるチュロスを鞄から出して食べる。

 うーん、二本は食べきれないな。一本食べて、欄干に寄り掛かりながら袋を閉じる。

 

 あっ、手が滑った! 私のチュロスが落ちていく!

 慌てて骨筆を出して呪文をかける。落下速度は落ちたけど、もう届かない。

 月面歩行の呪文! 欄干を乗り越えてふんわり落下! からの追い付いてチュロスをキャッチ。

 しかし今上に戻るために次の呪文を使ったら、その拍子に月面歩行の呪文が切れそうで怖い。

 チュロスを両手で掴んだまま一回ふわーっと地面まで降りる。チュロスを鞄に仕舞って、予め靴に巻いてあったリボンで呪文を発動して、月面ジャンプ! からの外壁を歩いて上へ。

 壁歩きの呪文、部屋で密かに練習してたのだ。焦らず急がずゆっくり進む。帰還!

 ……上手く行ったけど、落ちてたら死んでたな。危ない危ない。

 お兄ちゃんに報告されたら面倒な事になりそうだし、誰にも見られてなくて良かった!

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