挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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3-11 直線迷路と立方体と丸丸丸

 本人と皆の努力の甲斐あり、ロスモンティスはだいぶ落ち着いた。その証拠にアエファニルが外勤に出ている!

 そして私は何故か朝からケルシーに呼び出された。わ、私何かしたっけ? まさか今になって屋上チュロスダイブに対するお叱りが? それとも……

 向かい合ってテーブルに着く。なんかケルシーと会う時大体このスタイルだな。

 

「チュロス、君に頼みが有る。定期的に、アーミヤとロスモンティスと共に食事をして欲しい」

 

 あ、お叱りじゃなかった。良かった。

 

「構わぬが、何か理由が有るのか?」

「アーミヤは大事な相手を失って以来、かなり食が細い……しかし、君が場に居る時は普段より食べている。味覚障害を治そうと奮闘している者の隣で、味を感じる事のできる自分が食べ物を残すのは、相手の努力に水を差すようなものだと思っているんだろう」

 

 そ、そうなの!? チュロスとかティラミスとかチーズケーキとか、比較的ヘビーなものを与えまくっていた……細いから太らせようと思って……

 

「無理をさせておっただろうか……」

「無理にでも食べなければ倒れてしまう。ましてやあの子は成長期だ」

 

 ……いや、そうだよね。ヘビーと言ってもやっぱりおやつレベル。それでも食べてる方になるなんて、普段はどれだけ少食なのか。

 歓迎会の時のキャロットケーキも、アーミヤ自身の望みじゃなくて、アーミヤに食べさせようとした誰かが居たのかもしれないな。

 

 というわけで、三人での食事会が決定した。名目としてはロスモンティスを普段と違う環境に慣らすためという事になっている。早速今夜からだ。

 

 

 今日は勉強も仕事も休みで、夜まで予定は無い。

 暇なので、人通りの多い所で隠形の呪術の効果を確認する事にした。

 まずは夜勤明けの人とこれから活動する人で賑わっている朝の食堂へ。まだ呪術は使わずに、普通にサンドイッチセットをテイクアウト。

 一旦食堂を出て、人の居ない所で呪術を発動。足音でバレないように、河谷を出る直前に教わった遮音の呪文も使っておく。この状態で食堂に戻ってうろついてみよう。

 

 おお、さっきと違って誰の視線も感じない! ……いつも割と見られてるって事?

 やはり黒尽くめは目立ってしまうようだ。もっとカジュアルな服も用意しておくべきだろうか。ヴェールの代わりはサングラスとかで。

 今度Aceにおすすめサングラスでも聞いてみるか。

 

 ゴミ箱スペースの横の邪魔にならない空間に移動し、サンドイッチセットを立ったまま食べる。

 味覚も結構戻ってきた。味がしておいしい。

 しかしこの中に挟まってるハム、私の味覚が塩味を取りこぼしているのか、実際に塩分が控えめなのかは不明である。

 

 私の目の前でゴミを捨てていく人も居るが、全く視線を感じない。

 私も食べ終わったらゴミを捨てる。

 あえて人が目の前を通る時を狙ってやってみたけど反応は無い。

 これ、ゴミは周囲の人にどう認識されてるんだ?

 普通に気付かれてないのか、呪術の影響なのか判断がつかないな。

 

 次は購買部へ行ってみる。スタッフにもお客さんにも全然気付かれてない。

 皆の仕事の邪魔はしたくないから、入口付近を軽く一回りして退散。

 特に宛ても無いまま艦内を行ったり来たり。誰も私に気付かない。

 ふらふらしている内に、全然人気の無い通路の、立ち入り禁止の扉の前まで来ていた。

 厳つくて大きい扉だ。いかにも重要な施設に繋がってそう。

 監視カメラもある。今の私ってカメラには映るんだろうか? ピース!

 この扉の先には何が有るんだろう?

 

「そこまでだ」

「ぎょわぁ!?」

 

 突然背後から肩を掴まれる。びっくりして変な声出た!

 この間のお仕置きのせいで、声帯が変な動きを覚えた感が有るな……

 振り返った先には潜伏者な暗殺者。

 

「お前にこの扉を潜る権限は無いはずだが……何が目的だ?」

「ち、違う! 入ろうとしておるわけではない。この先には宝物庫でも有るのかと想像を膨らませておっただけだ」

「ならば何故姿を隠してここまで来た?」

 

 リアルアスカロン怖い。眼光の鋭さが尋常じゃない。

 確か「とりあえず殺す」みたいなタイプの人だったから、これでも優しく対応してくれてるんだろうけど、声の冷たさと身長差も有って威圧感が凄い。思わず縮こまってしまう。

 

「そ、その……姉上達はわらわの隠形の呪術を褒めてくれるのだが、彼女らはわらわに甘い。ゆえに実力を確かめんと当て所なく歩き回っておったところ、偶然ここへ辿り着いたのだ。そなたはこの場所の見張りだろうか? わらわの軽率な行動により煩わせてしまい、申し訳ない……」

 

 不審な行動をしていたのは事実なので素直に謝罪しておく。

 アスカロンが出てくるという事は本当に重要な扉なんだろう。

 扉の前に立ってただけだしペナルティは無いと思うけど、お兄ちゃんに報告はされるかもしれない。……またお仕置きされないよね……?

 

「……お前のその呪術はかなりのものだ。隠密特化のオペレーターに匹敵するだろう」

「それはまことか!?」

 

 アスカロンがお世話を言うとは思えない……という事は結構やれてるのか私。

 まあアスカロンには見付かってるわけだけど、ちょっと自信が付いたぞ!

 

「ああ。気が済んだなら帰れ。重要なエリアにはお前の兄の呪いが掛けられている事が有る、今後は用の無い場所には踏み込むな」

「うむ、忠告感謝する! では失礼する!」

 

 さっさと退散しよう! あれ? 私どっちから来たっけ?

 右も左も景色が一緒で分からない。こっち?

 

「待て、お前の帰り道は逆だ」

「おお、すまぬ。斯様な整然とした通路には慣れておらず……」

「……ついてこい」

「重ね重ねすまぬ……」

 

 ロドスのトップ戦力の一人に道案内をさせる戦闘力欠落バンシーの図。は、恥ずかしい。

 スタスタ歩くアスカロンに小走りでついていくと、さり気なくペースを落としてくれた。や、優しい!?

 いや、はぐれても意味無いから急ぐ意味も無いのか。私が鈍足なばかりに……

 

「……隠れる事自体は得意なようだが、歩き方は素人だな。姿は見えずとも、足跡が残れば追跡される。痕跡の隠し方も考えておけ」

 

 アドバイスしてくれてる!? や、やっぱり優しい!?

 そして前を向いたままなのに後ろの私の歩き方が分かるのが凄い。

 

「足跡が残らぬように、浮いてしまうのはどうだ?」

「できるのか?」

「うむ」

 

 さっきまで前だけ見てたアスカロンが振り返った。興味有るのか。

 骨筆を出して、刺繍リボンで補助しつつ発動! アスカロンを追い越しつつフワーッと月面歩行!

 

「全く地に足を付けぬというのは不可能だが、この間隔であれば連続した足跡とは認識されぬのではないか?」

「いや、気付く者は気付く。卓越した追跡者は痕跡そのものではなく、相手の心理を追う。孤立した足跡など、逆に存在を主張するようなものだ」

「さあらば足跡自体を消すべきか。ううむ、今のわらわには難しい」

「靴にそういった呪文は刻めないのか?」

「まず呪文を開発せねばならぬな。その上この靴は既に兄上が転倒防止の呪文を刻んでしまったゆえ、これ以上の呪術には耐えられぬのだ……」

「転倒防止か……あいつも過保護だな」

 

 最初は前後になってたのに、気付けば隣に並んで歩いている。

 しかしさっきから同じような景色ばかりだ。私本当にこんな所歩いた?

 それとも来た時とは違う道なのかな……と思ってたら、次の角を曲がった所でアスカロンが立ち止まった。

 

「ここまで来れば帰れるだろう」

「おお、見覚えのある景色! 感謝す……る?」

 

 お礼を言いながら隣を見上げたが、もうアスカロンは居なかった。

 声が移動してる感じは無かったから、言い終わってから私が見上げるまでの一瞬で消えたってこと?

 全然分からなかった。これが本物の隠密能力……!

 

 しかしまた暇になってしまったな。少し早いけどお昼ご飯を食べに行くか。

 前はアエファニルが居ない時はMechanistが臨時保護者として一緒にご飯を食べてくれてたけど、どうも仕事を優先して食事の時間をズラしたいタイプの人だと分かってきたので、今回は最初から断っている。

 これはこれで私も好きなタイミングで食べられるから、気軽で悪くない。

 

 食堂に到着。何食べようかな。羽獣肉バーガーがちょっと気になってるんだけど流石にヴェールが邪魔かな。

 代わりに羽獣肉の照り焼きが入ったセットにしよう。

 さて、空いてるからどこでも好きな所に座れるな。

 おや、Outcastが手招きしてる。Miseryも一緒だ。

 

「チュロス、いい所に来たね。おいで、今度は私達が砂漠旅行に招待するよ」

「ふむ?」

 

 注文した料理を持って二人のテーブルへ。

 差し出されたのは小麦粉で作られたっぽい四角いもの。

 

「Miseryのお土産さ。食べてご覧」

「頂こう」

 

 マスクを外して仕舞って、いただきます。

 甘くておいしい……けど口内の水分が奪われていく!

 体内の水分全てを吸い上げられそうな勢いだ。完全に砂漠!

 Miseryがたっぷり注いでくれた水をありがたく頂く。

 ぷはー、生き返るー!

 

「確かにこれは砂漠であるな。なれど味は中々」

「ケルシーが最近開発した食用立方体だ。外勤に出る際に支給されたが、チュロスが砂漠扱いしたという例のクッキーを思い出した」

「わらわが購買部で最初に売り捌いたあれか」

「あのクッキーはMiseryと食べたんだが、その時のお返しにって、余った分を持ってきてくれたんだ」

 

 確かにあの時のOutcastはミルクを二本買ってたね。

 あのクッキーもこの立方体も、飲み物が無い状況で口に入れるのは勇気が要るな……

 同じく立方体を支給されたであろう、外勤中のアエファニルに思いを馳せる。

 ……いや、お兄ちゃんなら『満ちよ』とかでお手軽に水を補給してる可能性有るな。

 二人旅の時は水場から補給してたけど、あの時は私のお勉強を兼ねている感が有ったし。

 

「携帯食というものは乾物や塩漬けなど、水が欲しい物になりがちであるな」

「ああ、お陰で外勤部隊じゃ水のアーツ使いはヒーローさ」

「逆に一人も居ない時の緊迫感といったら無い」

 

 そういえばロドスキッチンで、ロドス製のパウチ入りのカレーみたいなやつが有ったような。確か任務中のホルンが休憩の時に開けて、食欲を失ってた部下もいい香りで元気に……みたいな話。

 カレーが行けるなら他のスープや飲み物だっていけるはず。まだ技術が導入されてないのかな?

 水分は死活問題だ。前世知識で何か手伝えれば良かったんだけど、生憎何も思い付かない……

 

「いっそ人間の側が水を不要とする生態となる事ができれば良いのだが」

「なんてこった、チュロスが砂漠に感化されちまってるよ」

「帰って来いチュロス、妹が砂漠化したらロゴスが悲しむ」

「緑化しよう緑化。これを後で食べな」

「おお!」

 

 Outcastがテーブルを撫でるようにすると、一瞬でフルーツグミの袋が出現する。手品だ!

 

「俺も……これでどうだ?」

 

 Miseryが手をグーパーして飴を出現させる。でも今のはちょっと袖に仕込んでから出した感が有った。

 

「今袖に引っ掛かったな」

「以前よりはそれらしくなっておるぞ!」

「中々難しいな」

 

 MiseryはOutcastに対抗して手品を練習しているらしい。歓迎会の時もこんな感じだった。

 私も何かやってみようかな? 手品って出したり消えたりするし、呪術抜きでの隠行のヒントになったりは……流石にしないか?

 

 

 

 

 夜になって食事会。実はメニューに口を出させてもらった。

 小さなパンやミニおにぎり、ミートボールにサイコロステーキ、一口サイズの揚げ物色々、各種サラダなんかがそれぞれ大皿に山盛りになっている。スープはコンソメとトマトとコーンの三種類を鍋ごと配置。ビュッフェ形式だ。

 食欲が無い時に目の前にセットメニューが出てくると気負ってしまうし、残してしまえば罪悪感が有る。それなら食べられるものだけちょっとずつ食べて、足りなかったらおかわりする形ならアーミヤも少し気が楽になるかと思ったのだ。

 

「好きなのを食べていいの?」

「うむ。余った分は夜勤の者への差し入れとなるが、偏りを考慮する必要は無いそうだ。欲する物を欲するだけ食すが良い」

「これ……これ、沢山食べたい」

「一度芋ばかりを飽くまで食してみたかったのだ。む、肉も欲しい」

「えっと、私はこれを……」

 

 取り皿にミートボールを山盛りにするロスモンティス。意外と肉食だ。

 私はポテトサラダにサイコロステーキ。前世で焼肉のタレが付いたポテトサラダが好きだった事を思い出した。

 アーミヤは人参多めの煮物を食べるようだ。量が少なく見えるが、ここで口を挟んではいけない。自分のペースで食べさせてあげる事が肝要だ。

 スープも注いで一旦着席。ロスモンティスはフォークでミートボールをパクパク食べて幸せそうだ。静かに人参を食べるアーミヤも、どことなくリラックスしてるように見える。

 

「芋は飽いた。時代は葉野菜である」

「野菜も食べた方がいいよね……?」

「気にするでない。今宵は肉のみでも許されるぞ」

「お肉……おかわり……」

 

 皿を空にして、ロスモンティスと一緒に第二ラウンドへ繰り出す。グリーンサラダにミニ唐揚げとミニコロッケも付けちゃおう。

 ロスモンティスはさっきのミートボールをまた盛っている。余程気に入ったらしい。

 おや、アーミヤも取り皿を持って寄ってきた。

 

「ロスモンティスさん、ミートボールがお好きなんですね」

「うん。これ、凄くおいしいよ。アーミヤも食べてみて」

「は、はい!」

 

 おおっと、ロスモンティスがアーミヤの皿にもミートボールを流し込む!

 だ、大丈夫かな? アーミヤ他に食べたいのが有ったんじゃない?

 そしてロスモンティス、その動きはアーミヤの皿に二杯目入れようとしてない? 一応阻止しておこう。

 

「ロスモンティスよ、わらわにもその肉団子をくれぬか?」

「うん、いいよ」

 

 おたまでソースごとだばーっと流し込まれるミートボール。ソースの波がサラダと揚げ物を襲う!

 一旦テーブルへ帰還。皆でミートボールをもぐもぐ。

 

「これは確かに美味である」

「はい、おいしいです!」

「おいしいでしょ」

 

 肉もおいしいけどソースが想像以上に良い。ソースが付いたサラダや揚げ物もおいしい。これ、味覚が完全復活したらまた食べてみたいな。

 しかし取り皿がソースででろでろになったな……と思ってると、閃いた顔のアーミヤが席を立って、パンを持って戻ってきた。

 取り残されたソースをパンに付けて食べている。

 

「このソース、パンにも合います」

 

 こういうの、人がやってると妙においしそうに見えるんだよね。

 私とロスモンティスは同時に立ち上がった。

 

「私もする」

「わらわもやるぞ。芋にも合いそうだ」

「それもする!」

 

 皆でおいしい組み合わせを試して、お腹がいっぱいになった。

 食後は少し休んでから一緒にお風呂に入って、寝るまで時間が有るからとアーツ学の勉強会やゲームをして、ついでとばかりに雑魚寝。何故か私が真ん中。

 

「今日のご飯、楽しかった」

「そうですね。いつもより沢山食べてしまった気がします」

「見慣れぬ料理を試せるのも良かったな。また用意して貰うとしよう」

 

 ロスモンティスはご満悦だ。アーミヤも楽しんでくれたかな?

 気に入ったなら毎晩……と言いたい所だけど、焦って改善しようとすれば、逆に苦手意識を持たせかねない。

 もどかしいけど、まずは週一で様子を見るとするか。

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