挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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3-14 相互虫除け

 目を覚ます。今日も傍らにオリジムシ人形。なんだかいい夢を見た気がする。

 そして突然閃いた!

 アーミヤとロスモンティスに服を作ってたけど、他の子にも何かしてあげたい。かと言って流石に全員に服を手作りする時間は無い。仮に作る事ができたとして、完成した順に一人ずつ渡すのも揉めかねないし。

 だから服じゃなくて小物……その子だけのオリジナル筆箱を作るのはどうかな?

 ロドスに居るなら勉強はする事になるから必要だろうし、服と違ってサイズも気にしなくていい。

 素人の私が一から作る筆箱よりも、ちゃんとプロが開発した物の方が機能的なはずだから、市販品をベースにしよう。買ってそのまま配るとどれが誰のか見分けが付かなくなっちゃうから、私が手を加える意義も有る。

 筆箱の大きさなら些細な装飾でも映えるだろうし、これなら一気に全員は無理でも、ある程度作り溜めてグループ単位で渡せるはず。

 

 ウエストポーチ用の材料も欲しいし、まとめて仕入れられないか先輩に相談してみよう。そういえばなんとなく後回しにしちゃってたけど、今作ってる服に使うボタンも買っておかなきゃ。

 うきうきと構想を広げながら朝の準備を済ませて部屋を出ると、アエファニルが迎えに来てくれていた。

 

「我が妹よ。今年のうぬの誕生日にはミシンを贈ろうかと考えておるが、どうだ?」

 

 ミシン! 無くても困ってないけど、名前を聞いたら急に欲しくなってきた。

 針の扱いには自信が有るとはいえ、やっぱりミシンの方が人力より速いだろう。

 

「うむ! ミシンが良い!」

「良かろう。エンジニア部に至高のミシンを依頼しよう」

「皆忙しかろう。市販のもので構わぬぞ」

「そうはいかぬ。十年分ゆえな」

 

 あっ、これは絶対に譲らない気配。大人しく受け取ろう。ありがとうお兄ちゃん。

 時間を割いてくれるエンジニア部にも、何かお礼を考えておかないとね。

 

 

 

 

 あれからリーベリさんが再登場する事も無く、しばらく平和な日が続いた。

 平和ではあるものの何も無いというわけではなく、Pithからの指令で医療部に勉強しに行って同じく勉強に来てたスズランと仲良くなったり、試しに食堂アプリで配達を頼んでみたら運んでくれた子供に感激されたり、後方支援部に呼ばれて新開発のちびっこ向けミニチュロスを試食したり、色々と新しい事が起きている。

 ロドスに来たばかりの頃は余裕が出来たら人事部に手伝いに行こうかと思ってたけど、なんだかんだまだ叶っていない。

 

 あとはいつの間にか新たな噂が出回り、何がどうなったのかロドスの皆の中の私は「バンシー王庭の姫」から「ロゴスの婚約者」にランクアップしているらしい。凄い勢いで広まっていると、Mantraが心配のメッセージを送ってくれた。

 おかしい、前に「姫じゃないし妃にもならないよ」っていう話で上書きしたはずなのに!

 候補! 婚約者じゃなくて妃候補です! しかも多分結婚はしない!

 何が原因だろう。よく手を繋いで移動してる事? 食堂で食べるものがお揃いな事? それともお仕置きの後に抱っこで運ばれた事?

 あれ、結構心当たりあるな……

 

 アエファニルとは普通に仲が良いのと、部分的に事実なせいで上手く訂正できずに日々が過ぎていく。アエファニルも強く否定はしないし。

 Mantraには「困ってるなら噂は消しておく」と言われたけど、どうしてもっていうわけじゃないから気持ちだけ貰っておく。害は無いし、ただの噂の事で忙しいエリオペの手を借りるのもね。

 

 そしてある日私が購買部で店番をしていると、とある女性が緊張した面持ちで買い物をしに来た。

 どうしたんだろう。戦闘オペレーターの人っぽいし、これから過酷な任務に赴くとか?

 

「購入感謝である〜♪ 武運を祈っておるぞ〜♪ ラララ〜♪」

「う、うん……ありがとう……」

 

 元気を出して欲しくて会計の時にちょっと歌ってみたのだが、女性は絶望に顔を染めて出口へ向かい、友人らしき人に縋り付きながら去っていく。

 

「ダメ……私じゃ勝てない……!」

 

 彼女は友人にそんな事を言っていた。これ流れ的に私に勝てないって事だよね?

 何の勝敗だろう。歌唱力ならアエファニル以外には多分あんまり負けないぞ!

 

 ……あっ! お姉さん、もしかしてアエファニルに惚れてる人!?

 婚約者の噂を聞いてライバルの顔を見に来たとか!?

 違うんです、諦めないで! 私は服がゴージャスなだけの普通の女だから!

 

 同じような事が更に二度発生。Mantraの追加情報によると「親が決めた婚約でチュロスの方はその気は無く、ロゴスの片想い」という事になってるらしい。

 微妙に掠ってはいるんだよな……前半は前に食堂で話した「妃候補として育てられたけど実際結婚はしない(要約)」で、片思い要素は普段のシスコンから変換されたか……

 ともかく、アエファニル狙いの人からすれば振り向かせる余地が有るように見えるわけか。

 いや余地も何も普通にお兄ちゃんフリーなんだけど……私に対抗しなくていいんだけど……

 

 このままではお兄ちゃんの婚期が遠のいてしまう! やっぱりMantraの力を借りるべきか? いや、その前にアエファニル本人に相談するか。

 お外でする話じゃないので休憩室を借りて、二人でごはん。これはこれでまた誤解が加速しそうだが仕方ない。

 

「わらわのせいで、兄上に懸想する女性が恋敗れた錯覚を起こしておる!」

「安心せよ。我は応じるつもりは無いゆえ、錯覚にあらず」

「そ、それはそうかもしれぬが!」

 

 本人に振られるならともかく、関係無い私のせいで悲しませたくはない。

 しかしアエファニルは全く気にしてないようで、明らかに今食べてる羽獣肉バーガーへの関心の方が強い。うん、それおいしいからね。

 

「Mantraならば噂を消せると……」

「シャロンはかの噂が不快か?」

 

 聞かれて考えてみる。快か不快かで言うと……別にどっちでもないな。そこ気にした事無かった。

 

「不快というわけではないが」

「さあらば消す必要は無い。消した所で、我とシャロンが共におる限り類似の噂が立つであろうよ」

「ううむ……」

 

 確かに仲が良いからこそ噂も否定されずに広まるのか。

 アエファニルと離れるのやだし、消した後に変な噂と入れ替わっても困る。現状維持が丸いのかもしれない。

 

「それよりも、その女性らから何かされてはおらぬか?」

「何も無いぞ。わらわは彼女達が不憫でならぬ……」

「シャロンは慈悲深いな。うぬに免じて此度は見逃そう」

 

 自分に想いを寄せてくれる子に対してこの塩っぷり、脈ナシにも程がある。

 お兄ちゃんの心を掴む事ができる女性はこの先現れるだろうか。

 

「我のもとにも現れたぞ、シャロンに懸想する男が」

「そのような者がおるのか!?」

「うむ。我を恋敵だと思い、偵察に訪れたのだろう」

 

 よく接する男性は皆アエファニルの事は知ってるから探りに行く必要無いだろうし、後は購買部のお客さんとかの知り合い未満の人しか居ない。

 リーベリさんが復活したわけでもないだろうし、一体誰だろう。

 

「なれど決闘を挑んでくる者はおらぬ。全く、軟弱よな」

「け、決闘?」

「そういった輩には、『我に挑む気概も無い男にチュロスは託せぬ』と告げておるのだ」

 

 ハードル馬鹿高過ぎる。

 そこを越えられるのはもうドゥカレとかネツァレムになるよ。王庭の主レベル。

 あっ、ちょっと想像するだけでもドゥカレは嫌すぎて寒気が……!

 どっちか選べって言われたら絶対にネツァレムおじいちゃんがいい……

 顔だけは良いんだけどなぁドゥカレ……

 

「何を想像しておるのか知らぬが、うぬに直接求愛するでもなく我の前に立つならば、相応の対応というものがあろう」

「ふむ」

 

 なるほど、先にアエファニルの所に行く時点で失格なのか。そして決闘を挑んだとしても叩き潰すつもりだなこれは。

 逆にアエファニルにアタックするわけでもなく、噂に踊らされて私をライバル視する女性もナシと。そう考えると納得。

 そういう事なら、お兄ちゃんのために虫除けの役割を果たそうじゃないか。

 結論が出たので私も自分の分のバーガーをガブリ。シャキシャキ野菜とふかふかお肉の相性が抜群。

 皮付きポテトちょっと貰うね。代わりにポテトサラダちょっとあげる。

 

「改めて言うが、不埒な輩……『少々億劫』な輩がおれば、直ちに我に相談せよ。我が不在であれば購買部の者らや他のエリートオペレーターでも構わぬ」

「Scoutでも?」

「然り。あやつならば上手く収めるであろうよ」

 

 やっぱりScoutの事信頼してるんだね。普段のあれはプロレスってやつか。

 しかしなんで急にこんな噂が駆け巡ってるんだろう。

 誰かが意図的に流してる? でも、何のために……?

 

「シャロン、折角部屋を借りたのだ、映画でも観ようではないか。この恋愛映画はうぬと同年代の少女に人気が有るそうだぞ」

 

 バーガーを食べ終えたアエファニルが手を拭き、映像ディスクの棚の中から一本出してくる。

 うーん、恋愛ものっていまいち乗れないんだよね。別の要素がメインで、恋愛要素もちょっと絡むくらいのやつの方が好き。

 

「わらわはアクション映画が観たい」

「さあらばこの辺りか?」

 

 アエファニルが何本かまとめて出してくる。私もバーガーを一旦置いて物色。

 『海上のスパイ』、古いやつのリマスター版っぽい。レジェンド的な名作の気配。

 他にも実写版アメコミみたいな雰囲気のやつとか、格闘技ものとか色々有る。

 ……ん? 『天涯侠女』……このパンダっぽいウルサスの女優、エフイーターでは!?

 

「これが良い!」

「うむ、それを観るとしよう」

 

 一緒にチュロスを食べながら『天涯侠女』を観る。

 話も痛快で面白いし、派手なスタントも有って見応え抜群、そしてエフイーターのキレキレのカンフーが滅茶苦茶格好良い!

 三部作連続で観ちゃった。大満足!

 いつか話す機会が有ったらサインを頼んでみようかな?

 

 

 

 

 しばらく意識して周囲を観察してみたり、ちょっとお行儀が悪いけど隠行しつつ噂話に耳を傾けてみたりしたのだが、アエファニルは結構女性人気が高いようだ。

 そういえばお兄ちゃんって、当たり判定が広い顔してるかも。個々人の好みに関係なく、誰からも美形と認識されそうなタイプというか。

 

 そうか、うちのお兄ちゃん格好いいのか……見慣れてるから気付かなかった。

 確かにロゴス先生のイラストも格好良かった気がする。アエファニルに上書きされてもう上手く思い出せないけど。

 そして改めて考えるとアエファニルは綺麗な声をしている。

 Mechanistには不評の口調も、声が良いお陰で好意的に受け止められている可能性があるな。

 バベル時代はそれどころじゃ無かっただろうけど、今は平和な(?)製薬会社だし、有能イケメン美声上司にキャーってなる人も居るよね。

 

 つまりあれか、ラヴァみたいなのが沢山居る中にガチ恋勢も発生してるのか?

 そう考えると大変だ。お兄ちゃんを煩わせないために私がふるい落とさなくては……

 ところで私が虫除けになるのはいいんだけど、忙しいお兄ちゃんを虫除けにするのは嫌なんだが。

 これからは外勤も増えるらしいし、ロドスに居る間はゆっくり休んで欲しいよ。

 

「兄上の口振りではどうも複数人おるようだ……わらわのもとへ来るならば振るだけなのだが、兄上のもとへ行かせぬためには何をすべきか……Scout、如何に思う?」

 

 甲板散歩中に遭遇したScoutに相談してみた。

 いやまあ次が有ると決まったわけじゃないけど、予防するに越したことはない。

 Scoutは言うか言うまいか悩むように唸って、サッと周囲を確認する。

 ぽつぽつ人は居るものの、かなり距離が有る。聞かれる事は無さそう。

 

「確かにあんたに近付こうとする奴、変なのが多いんだよな」

 

 待って、なんか思ってたのと違う方向に展開した。

 「多い」の規模がどれくらいなのか分からなくて怖い。だが聞いて数を確定させるのも怖い。

 一人二人で多いとは言わないだろうから、最低三人居る……?

 

「あんたは顔を隠してるから、各々が勝手に理想の顔を当て嵌めてるのかもな。あんた自身というよりは自分の中の理想像に恋をしてて、そういうズレた奴はズレた行動をするとか……俺の勝手な想像だが。理想を崩す何かが有れば変わるんじゃないか?」

 

 あ、これ当たってるかもしれないな。バンシー的歌唱力に引っ張られて美少女だと思われてる可能性有りそう。服も可愛いし。

 

「つまり、素顔を見せれば沈静化する可能性が……?」

「無くはないが、俺が言いたかったのは正式にロゴスと付き合ってる事にするとかの方向であってだな。人の女に興味が無い奴は多いし……」

 

 それはダメだ! 結局お兄ちゃんを虫除けにしている! しかも……

 

「それでは兄上の婚期が遅れてしまう!」

「あ、ああ、うん、そうか」

 

 出すか、顔。

 私ってなんかこう、プレーンな感じの顔面してるんだよね。パーツの形や配置は悪くないと思うんだけど、どうも特徴が薄くて華やかさに欠けるというか……デフォルトアバター感というか……

 どうせヴェールで隠れるからって化粧も控えめだし……

 

 この味気無い顔を見せたら、私に理想を抱いてる人は幻滅してくれるかもしれない。

 アエファニルには内緒で、私の顔についてScoutに意見を聞いてみよう。

 もう一度周囲に人が居ない事を確認して、マスクに手を掛ける。

 

「待て待て待て」

「わらわの顔について意見を聞きたいのだが……」

「ここだと監視カメラに映る! 証拠を残すと後が怖い。こっちだ」

 

 誘導されて移動。あれ、ここって……

 

「ここならカメラの死角だ」

 

 私が前にチュロスを落とした場所だ!

 そうか、本当に誰にも見られてなかったのか。スッキリした。

 他の人には見えないように角度に注意しつつ、マスクを外してヴェールをぺろん。

 

「どうだ?」

 

 Scoutを見上げてみるが、反応が無い。

 え、絶句してる? それどういう絶句?

 

「Scout?」

「……あー、やっぱり隠した方がいいぜ」

「何故!?」

「なんというか……妙に隙を感じると言うか……押されたら断れなさそうに見える。ゴリ押しする輩が出そうだ」

「それは……余計に兄上の手を煩わせる事になるか」

 

 戦闘音痴に加えて顔まで弱いのか……

 確かに強さとか凛々しさとは無縁の顔ではあるけど、他の大人しい顔立ちの人と何が違うんだろう……

 ともかくきっちり隠しておこう。ヴェールとマスクを再装着。

 

「俺に素顔を見せた事はロゴスに言うなよ。俺はまだ死にたくない」

「うむ。わらわも仕置きは受けたくない」

 

 今日から私とScoutは共犯者である。一蓮托生!

 ところで顔を隠すとモテる理論だと、Scoutもモテてるのでは?

 ……Scoutって何かと私の世話を焼いてくれてるし、私の所に来た女の人、アエファニルじゃなくてScout目当てだったかもしれないな。

 

 話にキリが付いたので、一緒にチュロスを食べて一息つく。

 

「ロゴスと言えば、あいつ最近カンフーを習ってるらしいな。急にどうしたんだか」

「なんと!? それは先日観た映画『天涯侠女』の影響であろう! 主演の女優がカンフーでこう、大勢の敵をズバババと蹴散らすのだ! 兄上も真似をするほど気に入ったのだな!」

「なるほどなぁ」

 

 お兄ちゃんが私に内緒でカンフーを始めていたとは。そのうち見せてくれるかな? ちょっと楽しみ!

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