挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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庭の湯コラボ大先生、手ぬぐいの持ち方が無造作すぎて良い 持つっていうか掴んでる


3-15 ゆっくり急ごう

「君がチュロスさんだね? はじめまして、僕はエリジウム。Mantra隊長のおつかいで来たんだ。君の事は隊長から聞いてるよ、購買部の歌姫さん」

 

 今日も今日とて購買部で店番をしていたら、百年に一人のイケメン(自称)が現れた。身長高っ!

 そして自称するだけあって顔がいい。ウィンクが様になっている。

 

「然り、確かにわらわがチュロスである。よろしく頼む。わらわもそなたの噂は聞いておるぞ、百年に一人の美男子であると」

 

 正確には「履歴書に自分でそう書こうとした」という噂だが。

 購買部にはクロージャ経由で各部署のおもしろ話が入ってくるのだ。

 

「ええっ、本当!? 実際に会ってみてどう? 僕ってイケてるでしょ?」

「うむ、中々に男前であるな。わらわの兄上には敵わぬが」

「ああ、ロゴスさんと兄妹なんだっけ?」

「然り。兄上はこの大地で最もイケておるぞ」

「参ったなぁ、僕は百年に一人のイケメンだけど、流石に五百年に一人のイケメンには敵わないよ!」

 

 おお、私のブラコン発言にナチュラルに乗ってきた。これがコミュ力!

 エリジウムはちょっとだけお喋りして、サクッとおつかいを済ませて帰っていった。

 話しかけてくるから私に関係するおつかいかと思ったら全然関係ない買い出しだった。

 おつかいついでに隊長の友人に挨拶ってことか。友達の友達は友達なタイプだな。

 

 ……ところで最初に言ってた「購買部の歌姫」って何?

 エリジウムがノリで言っただけならいいんだけど、私の知らない所で皆にそう呼ばれてたらどうしよう。

 怖くて詳細を聞けなかった……

 

 

 その日から何かとエリジウムとエンカウントするようになった。

 お兄ちゃんが外勤中なので一人で食堂を利用してたら、隣に座ってきてくれた。

 私がぼっちだったから……? 優しい……

 かと思ったらウィーディと一緒の時も向かいに座ってきたし、ブレイズやサングラス三人衆と一緒の時も寄ってきてケルグと仲良くなってるし、子供達の教室で歌を教えた帰りとか、訓練場でPithの授業を受けた後とかにも何故か現れて送ってくれて、もう人数とか場所とか関係無く居る時は居る。

 

 購買部にもちょこちょこ訪れては、邪魔にならない程度に世間話をしていく。私が暇な時は長話していくし、忙しい時はサッと去る。

 そしてエリジウムと仲良くしている事を聞き付けて、外勤帰りのアエファニルがそのまま店番中の私の所に突撃してきた。お客さん居ない時で良かった。

 

「我が妹よ。近頃Mantraの所の通信員と懇意にしておるようだな」

「エリジウムの事か? 話上手の気配り上手であるな。良き友人である」

「ほう……………………………………………………………………………」

 

 間が怖いよお兄ちゃん。

 思うままに生きよとか言ってたのに、私の交友関係に干渉する気満々じゃないか。いいけど。

 

「兄上が心配するような事は何も無いぞ。エリジウムは誰に対しても距離が近いのだ」

「ふむ……」

 

 寧ろ私に対しては若干控えめまである。Mantraから何か聞いてるのかも。

 あ、お客さんだ。

 

「よくぞ参られた〜♪ 兄上、そこを退くのだ」

「うむ……」

 

 カウンターの前からアエファニルをどかすと、雑誌ラックの横に微妙に空いたデッドスペースに吸い込まれていった。そこに入る人初めて見た。

 今日のお兄ちゃんは歯切れが悪いな。考え事でもしているのか虚空を見つめている。

 しかしいかに私がアエファニル贔屓と言えど、今は仕事中。

 棒立ちバンシーは放っておいて、お客さんの会計を済ませる。ありがとうございました〜。

 

 おっと、アエファニルがカウンター前に戻ってきたけど、もう一人新しいお客さんが……

 と思ったら、件のエリジウムである。

 

「チュロスにロゴスさん、こんにちは! 兄妹で揃ってる所は初めて見たけど、二人一緒だととっても絵になるね!」

 

 アエファニルの機嫌が急上昇した。顔には出てないけど羽の角度で分かる。

 うちのお兄ちゃんチョロいな……

 

「うぬは我が妹と親しいのか?」

「そうだね、仲良くして貰ってるよ。ねぇチュロス、ロゴスさんにあの事を言ってもいい? この大地で最も〜っていうやつ」

「う、うむ」

「彼女、初めて会った時に『兄上はこの大地で最もイケてる』って言ってたんだ。僕はロドスに来るまでずっと一人だったから、そういう兄妹愛に触れるのが新鮮で、話を聞かせてもらうようになったんだよね」

「ほう。チュロスよ、まことか?」

 

 アエファニルの目が輝いている。

 本人に言うのはなんか恥ずかしいけど、冗談抜きにアエファニルはテラでトップクラスの男だと思うんだよね。

 育ちが良くて能力高くて、ちょっと男児だけど優しくて温厚、それでいて例え元味方だろうと敵には容赦せず信念を貫く心の強さもあり、顔と声もいい。

 うちのお兄ちゃん、欠点無くない?

 

「うむ! 間違いなくテラで兄上が最もイケておるぞ!」

「……妹よ……!」

 

 アエファニルがカウンター越しに手を握ってくる。羽の具合でテンション爆上げなのが分かる。

 本心かシスコンへの忖度かは分からないけど、私のブラコンに理解があるという方向で矛先を逸らすとは、やるなエリジウム。

 

「うぬこそテラで最も美しいぞ……!」

「あ、兄上……!?」

 

 テンション爆上げしすぎたアエファニルが何か言い出した。それは流石に身内の贔屓目だよお兄ちゃん。

 私を上に置くにしてもラケラマリン様を一番にして私は二番にしてくれ。

 

「二人は本当に仲がいいんだね!」

 

 エリジウムはシスコンブラコンを展開する私達をニコニコと見守り、少しお喋りしてから何かの機材のパーツとチュロスを買って去っていった。

 アエファニルと二人でその背を見送る。

 

「あやつ、随分と口が回るようだな。Mantraが辟易しておったわけだ」

 

 なんだか悪口みたいだが、声色は優しい。

 エリジウムは無事にアエファニルの警戒対象から外れたようだ。良かった良かった。

 

 

 そしてエリジウムと言えば……ステルス看破である。

 また別の日、甲板で散歩をしてる時に見掛けたので、隠形しつつ近付いてみる。

 上手くできてれば見付からないと思うんだけど……

 

「……ん? 誰か居る?」

 

 ええっ、反応した!? 完全にこっちの方向を見ている。何をどう察知されたんだろう。

 遮音が甘かった? ちょっと歌ってみよう。

 

「ラ〜ラララ〜♪」

 

 歌には反応しない。音が漏れてたわけじゃない?

 ゆっくり移動してみる……視線がついてくる!

 アーツを使ってるわけでも無さそうなのになんで!?

 

「そこに居る恥ずかしがり屋さんは誰かな?」

 

 変に粘って敵と間違われても困るので、観念して姿を見せる。参りました!

 

「何故分かったのだ?」

「ああ、チュロスだったんだ。うーん、綺麗に何も無いから逆に何か有るな、って」

「皆全く気付かなんだが、エリジウムは鋭いのだな」

 

 近付いて鞄からチュロスを出して開封する。今日はチョコ味。

 

「一本どうだ?」

「あはは、タバコみたいに言うね。貰うよ」

 

 エリジウムと一緒にもぐもぐ。ソーンズがラボでよく爆発を起こす話とか、爆発したソーンズが購買部によく服を買いに来る話とかで盛り上がった。

 ソーンズは購買部常連だが、ボロボロの姿しか見た事がない。いつか原作立ち絵の状態を見る事はできるだろうか。

 

 

 しばらくお喋りして自室へ帰還。前から気になってたし、一回呪術の検証した方がいいな。

 端末を机に置いて隠形中の自分を撮ってみた。映ってる!

 という事は、これは私が透明になってるわけじゃなくて、相手の認識を誤魔化す呪術なのかな?

 この辺の詳細は教わらなかったけど、そもそもお姉様達も知らないのかも。河谷にカメラ無かったしな。

 

 次は遮音しつつ歌って、遮音の範囲外に置いた端末で録音してみる。これは録音されてなかった。

 こっちは実際に空気の振動を防いでるのか。エリジウムは音の流れの違和感に気付いたって感じかな。

 内緒話には良さそうだけど、隠形を極めるなら遮音の呪文には頼らず、音を立てない動き方を身に付けるべきか?

 うーん、隠行も中々奥が深そうだ。ちょっとずつ頑張ろう。

 

 

 

 

 ビュッフェ食事会はメンバーが増えて、今ではブレイズやウィーディも参加している。

 ウィーディは潔癖症だからこういうの嫌かと思ってたけど、特に気にしてなさそうに見える。でも最初に欲しい物を全部揃えて追加は無しにしてるから、共用のトングやお玉に触る回数は極力減らしてるっぽい。

 何も言わずにさらっとやってる辺り、自衛と同時にこっちに気を使わせないようにしてくれてるんだろう。

 

 ブレイズはあれこれ食べまくり、アーミヤとロスモンティスを可愛がりながら「これでお酒が有れば最高」なんて言ってるが、お酒はダメだ。

 具体的なシーンは忘れたものの、ブレイズが酔っぱらって掃除に数時間かかるくらい吐き散らしたっていう話が原作に有ったような……

 折角食事量が増えつつあるアーミヤの食欲が失せたら困るし、ウィーディ的にも当然アウト。そしてロスモンティスはびっくりした拍子に暴走しないとも限らない。人体実験する施設に居たなら、嘔吐とかは悪い記憶と結び付いててもおかしくない。

 代わりに別のものを飲んでもらおう。

 

「ブレイズ、ビールが有ったぞ。わらわが注ごう」

「それジンジャーエールじゃん! 貰うけど!」

 

 黄金色の液体がしゅわー。未成年的にはかなりビールっぽさを感じるのだが、やっぱり違うのだろうか。あのたっぷりした泡が無いとダメか?

 おや、ブレイズの皿に焼売! 懐かしい、後で私も食べよう。

 私は梅おにぎりを頂く。アーミヤはグリーンサラダ、ロスモンティスはポテトサラダと例のミートボール。

 ウィーディは小さい器にスプーンを入れていて、ロスモンティスが興味を示している。

 

「ウィーディ、それ何ていう食べ物? おいしい?」

「これは茶碗蒸し、ふわふわの卵に具が入ってるよ。私は好きだけど、極東の料理だから独特の味で好みが分かれるかも」

 

 茶碗蒸し!? 見逃していた、私も食べたい! 起立!

 

「ロスモンティスよ、わらわも茶碗蒸しを食すゆえ、一口味見をせぬか?」

「する!」

 

 よく見れば台の端の方に蓋付きの器! あれか!

 慌てず優雅に、されど素早く茶碗蒸し一つと新しいスプーンを三本ゲット!

 席に戻って蓋を開け、スプーンで軽く掻き回して具をチェック。子供でも食べやすいようにか、銀杏とかのクセの強いものは入ってなさそう。いや、そもそも手に入らないのかもしれないけど。

 ほどよく一匙掬って……

 

「ロスモンティス、口をあーんせよ」

「あーん」

 

 おお、何の抵抗も無く口を開けてくれる。そっと茶碗蒸しをイン。

 気に入ったらしく目が輝いている。

 

「おいしい。取ってくる」

 

 ロスモンティスは慌てず急がず、しかし素早く歩き出す。

 そしてこの流れを見て黙ってるはずが無いフェリーンが一人。

 

「アーミヤちゃんも何か味見しない?」

「えっ!? わ、私は……」

「これを使うとよいぞ」

 

 ふっ、狙い通りブレイズに火が付いたな。私とアーミヤは隣じゃないから直接食べさせられないのだ。新しいスプーンと共に茶碗蒸しをブレイズに渡す。

 茶碗蒸しなら器も小さいし、水分多めでつるっと食べられるし、食欲が無くても食べやすいかもしれない。口に合えばいいな。

 じっと見られてると食べにくいだろうから、私はジンジャーエールを飲んで意識を外した感を出しておこう。まあアーミヤにはバレてるだろうけど、ガン見よりはいいよね。

 

「アーミヤちゃん、あーん」

「あ、あーん…………おいしいです。わ、私も取ってきますね!」

 

 アーミヤは走らずしかし素早く逃げていく。

 ダメな時はダメって言える子だから、多分恥ずかしかっただけだろう。

 

「もう、チュロスもブレイズも行儀が悪いよ。外でしちゃダメだからね」

「はーい」

「うむ」

 

 そう言うウィーディも止めずに見ていたわけで。アーミヤにおいしいものを見付けて欲しい気持ちは一緒である。

 私もブレイズから戻ってきた茶碗蒸しを味わう。舌が出汁の複雑な風味をしっかりと捉えているのを感じる。

 戻ってきたロスモンティスとアーミヤも茶碗蒸しを完食したようだ。よしよし、卵だからたんぱく質が摂取できたはず!

 

 食後はお茶をしたりして休憩の時間。今日はこの時間に渡そうと思って、持ってきたものが有る。

 

「今日はアーミヤとロスモンティスに贈り物がある。わらわが仕立てた服だ」

 

 二人にそれぞれ紙袋を渡す。中身は色違いの袖無しワンピース。インナーを変えれば季節を問わず着回せるし、サイズを調節できるようにしてあるから、成長してもしばらく着れるはず。合いそうな市販品の半袖ブラウスもセットにしておいた。

 

「どんな服? 見せて見せて!」

「は、はい!」

 

 アーミヤはブレイズに急かされてワンピースを広げ、目を丸くした。

 

「この柄、テレジアさんの……?」

 

 黒い生地に白と桃色の花の刺繍。テレジアに贈ったリボンとお揃いの柄だ。

 

「うむ。アーミヤにも似合うであろう」

「ありがとうございます。凄く……凄く嬉しいです」

 

 アーミヤは大事そうにワンピースを抱き締める。そしてそんなアーミヤをブレイズが「服もアーミヤちゃんも可愛い」と抱き締める。

 そういえば、あのリボンはどこへ行ったんだろう。戦いの中でダメになったかな? まあ、気にしても仕方ないか。

 

 ロスモンティスもウィーディと一緒に紙袋を開けている。

 ロスモンティスは最初にあげた水色のワンピースを気に入っていたようだから、水色の生地。刺繍は真っ白と薄い水色を組み合わせて、擬似的に透け感を出してみた。

 

「素敵じゃない! ロスモンティスにぴったり!」

「とってもきれい……チュロス、ありがとう」

「着倒してくれると嬉しいぞ」

「ダメ。大事に着るの」

「ふふ、そうか。それも良い」

 

 アーミヤもロスモンティスも気に入ってくれたようで良かった。

 そして何やらブレイズとウィーディが本人達を超える勢いで盛り上がっている。

 

「二人とも、試しに着てみせてよ!」

「カメラの用意をしなきゃ!」

 

 早速アーミヤとロスモンティスに試着してもらい、そのままちょっとした撮影会みたいになった。

 二人とも思った通り似合ってる! お兄ちゃんにも写真送っとこ。

 そしてこのタイミングで服を贈ったのはワケが有るのだ。

 

「六月二十二日……わらわの誕生日に、宴を開く事になっておる。都合が合えばそれを着て参加して欲しい」

「はい! 必ず行きます!」

「うん。私も行く」

 

 色違いだし折角なら同時に渡したいけど、アーミヤとロスモンティスの誕生日は思いっきり離れている。だから逆に、関係無い私の誕生日を口実にした。

 何か理由が有った方が二人も受け取りやすいだろうしね。

 それから、直近の検査でついに味覚が完治したとお墨付きを貰ったのだ!

 

「味覚も治ったのだ。アーミヤよ、あの時のキャロットケーキと同じものを食してみたい。手配してくれぬか?」

「分かりました、お願いしておきますね!」

 

 ようやく約束を果たせそうだ。チュロスの味も分かったし、気分は完全体である。

 アーミヤも前よりは健康的な体型になってきた。香油パワーで髪もツヤツヤ。この調子でもう少し太らせたい所。

 

 ブレイズとウィーディも誕生会に誘って、皆でお風呂に入って雑魚寝。食事会っていうか、もうお泊まり会だね。

 ミシンを貰ったら、お揃いのパジャマでも作ろうかな?




Mantra「チュロスが困っていたら助けてやれ」
Mantra「纏わりつけとは言ってない」
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