挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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3-16 経糸と緯糸

 今日は6月22日、私の17歳の誕生日である。お昼から甲板でバーベキューパーティーだ。

 アエファニルやエリオペの皆が出資してくれて、バーベキュー用の……あれなんて呼ぶの? あの台が沢山設置され、それを囲む人々は皆「たらふく食うぞ」という闘志に満ち溢れている。

 友達や同僚達だけでなく、購買部常連のお客さんや子供達も来てくれている。参加自由なのでバーベキューに釣られた完全初対面の人も居る。何かと大変なロドス職員達のガス抜きも兼ねている模様。

 皆にお茶やジュースが行き渡り、アエファニルが紙コップを掲げた。

 

「我が妹が誕生せし、この素晴らしき日に乾杯!」

「誕生日おめでとう!」

「長生きしろよ!」

「お肉ありがとう!」

「お幸せに!」

「皆感謝するぞー! 存分に食すがよい!」

 

 あちこちからお祝いの言葉──違う気がするのも混ざってるけど──が飛んできて、一斉に網に串が乗せられてジュージュー鳴り始める。

 しかしすぐに食べられるわけではない。沢山の人がただ待つばかりの時間……つまり!

 

「欲するものが有るならば〜♪ 購買部へ来るがよい〜♪ 異鉄アケトンエステル糖源♪ 新作コーデにインテリア〜♪」

 

 宣伝チャンスだと思ったのだがほぼ全方位から「今日くらい可愛い歌歌って!」と不評である。

 うーん、可愛い歌か……

 

「ババババーベキュー♪ バーベキュー♪ お肉こんがり香る胡椒♪ ババババーベキュー♪ バーベキュー♪ 野菜と共に召し上がれ♪」

 

 コーラスの如く響くジュージュー音のせいで他に思い浮かばなかった。スイーツパーティーでなかった事が敗因か? リズムは可愛くしたから許して。

 さっきよりは聴衆も盛り上がってくれたが、その対象が歌と肉のどっちなのかは少々曖昧である。

 いい匂いがしてきて私もお肉が気になってきた。自分の席へ向かおう。

 網焼きが珍しいのか、アーミヤとロスモンティスが串の世話をするAceの手元をじっと見ている。

 

「もう食べれる?」

「あと少しだな」

「ロスモンティスさん、お肉は火をしっかり通さないと危険です。ゆっくり待ちましょう」

「そうなんだ。分かった」

 

 私の作った服を着てきてくれたアーミヤとロスモンティスの耳元には、色違いのリボン型髪飾り。Scoutが服に合わせて作ってくれたそうだ。二人ともよく似合っている。

 私も今日は羽に大きめのリボンを着けてきた。ノリでアエファニルにも着けるか聞いたら何の迷いも無く着けるって言ったから、お兄ちゃんもお揃いである。

 お兄ちゃんのリボンを見た人達は皆「そっとしとこう」という顔をする。うん、触れたら絶対にシスコントークに持ち込まれるからね。懸命な判断だ。

 

 私も串をじっと見ている二人に加わり、焼き上がるのを待つ。わくわく。

 シャッター音がしたと思ったら、Scoutがカメラを構えていた。三人でピース!

 アエファニルを引っ張ってAceの居る側に回り込んでこっちでもピース!

 見回っていたOutcastとPithが戻ってきたから一緒にピース!

 Mantraも横に来てピースしてくれたからもう一回ピース!

 アエファニルがScoutに手を差し出す。お兄ちゃんにカメラが渡り、私はScoutと一緒にピース!

 Scoutとツーショットかと思ったらいつの間にかMiseryも後ろでピースしてた! なんかテンション上がったからダブルピース!

 

 そうこうしてる内に第一陣が焼き上がったのでテーブルへ移動。お兄ちゃんが串を外して皿に盛り付けてくれる。いただきます!

 Miseryが切ってくれたという食材は小振りで食べやすい。

 あつあつトマトがじゅわっ! 香ばしいトウモロコシ! 玉ねぎの甘みとピーマンの苦みのコンボ!

 そしてお肉! しっかりと肉の歯応えがありつつも噛むと容易に千切れる! 溢れる肉汁! おいしい!

 

「美味……」

「このお肉、とても柔らかいですね!」

「おいしい」

 

 うまみが濃厚ないい肉だ……アーミヤとロスモンティスも気に入ったようだ。

 食べながら甲板全体の様子を観察。ブレイズがアーツを使って焼いてるようだ。熱気が凄いらしく、事実か冗談かケルグが「オレの顔も焼ける!」と仰け反って、セブンティーンとビーンが笑っている。

 あっちはMechanistやクロージャ、ウィーディ……エンジニアで集まっているようだ。どう焼くのが効率がいいのか議論してる雰囲気。そしてなんと綺麗なソーンズまで居た。爆発してない所初めて見た。

 ソーンズを引っ張ってきたであろうエリジウムは、全然違う所で盛り上がっている……かと思ったらぐんぐん移動していって、行く先々で盛り上がっている。次は屈んでちびっこ達の相手をし始めた。

 その近くではスズランの世話を焼きたい大人達がもちゃもちゃしている。なんだか河谷でアエファニルが見守られまくっていた頃の事を思い出した。

 

 そして誕生日といえばケーキである。いい感じにお腹が膨れた頃にアーミヤが席を外して、ワゴンにキャロットケーキを乗せて戻ってきた。

 前に食べたカップケーキを想像してたけど、二段のホールケーキが来た! 立派なケーキと、ワゴンを押すアーミヤの可愛さに自然と皆笑顔になり拍手が巻き起こる。

 ケーキのてっぺんには人参色の蝋燭が一本。17本も刺したら穴ぼこになっちゃうからね。

 

「チュロスさん、お誕生日おめでとうございます!」

「うむ! 感謝である!」

 

 蝋燭の火をフーッ。全方位から拍手喝采! 何か勝利した気になって拳を天に突き上げる。何故か歓声が上がる。よくよく考えると意味が分からないけど、楽しいからなんでもいいのだ。

 ケーキと一緒に写真を撮ってからOutcastに切り分けてもらう。

 

「Outcast! わらわは沢山食したい!」

「気が合うね、私もさ。遠慮せずに食べ尽くすのがケーキに対する礼儀というものだ」

 

 上段の半分をどーんと皿に乗せてもらう。

 この二段ケーキ以外にも、希望者には片手で食べられるやつが配られている。あっちはパウンド型で作ったようだ。

 

 お水を飲んで舌と喉をリセットして、フォークを構えていざ実食。

 人参の味は意外としない。自然な甘さの中にクルミとレーズンがアクセントになっていて、シナモンとクリームチーズが全てをしっかり包み込む。初めてなのにどこか懐かしい、優しい味だ。

 アーミヤが隣でそわそわしている。感情は伝わってるだろうけど、こういうのは言葉にしないとね。

 

「斯様な味であったのだな。実に美味である。あの日このケーキをわらわに勧めてくれた事、改めて嬉しく思うぞ」

「私もチュロスさんとまたケーキを食べる事ができて嬉しいです! 完治、おめでとうございます!」

 

 歓迎会の時のケーキを思い返す。モノクロの写真に色が付くような、そんな心地がした。

 ……私の方からも、完治おめでとうって言える日が来たらいいな。

 

 

 食事が落ち着いたらやはり遊びの時間である。

 Miseryがナイフのジャグリングを見せてくれた。と思ったらナイフが一本ずつ減っていく。隠してる様子は無いのに減っていく! そしてゼロになってしまった。

 次は思わぬ所からナイフが出たり消えたりして、最後にナイフが「誕生日おめでとう」のリボンに変化した。

 面白かった! 拍手!

 

「凄いぞMisery! 随分と手品が上達したのだな!」

「ああ。深く考え過ぎずに、戦場と同じようにすればいいと気付いたんだ」

 

 それも凄いな。手品という概念に馴染んでなかっただけで、技術自体は身に付いてたという事か。

 

「そう遠くないうちに私の方が教わる側になりそうだ」

 

 Outcastがそう言いながら何も無い所から花を出してきて、私の髪に差してくれる。うれしい。

 

「おいおい、手品大会なら俺も混ぜてくれよ。チュロス、どの菓子が欲しい?」

「全て!」

「食いしん坊だな。いいぜ、ここから取り出すから見てな」

 

 Scoutまで参戦してきて、お菓子の絵が描かれたカードを見せてくる。チョコに飴にクッキー。

 Scoutが絵を掴むような仕草をすると、カードの中の絵が消えて実物のお菓子が出現!

 私にお菓子を手渡したScoutは、アーミヤとロスモンティスにも同じ手品を披露して、他の子供達にもお菓子を配りに行った。その背を見ながらアエファニルとAceが何か話している。

 

「Aceは手品はできぬのか?」

「酒を消す手品ならいつでも披露するぞ」

「奇遇であるな、その手品ならば我も得意だ」

 

 やっぱり大人はお酒が好きらしい。来年は私も飲酒が解禁される。一緒に飲む日が楽しみである。

 うろうろして皆と喋って写真を撮ったり、子供達が練習した歌を披露してくれたり、揚げたてチュロスが配られたり、歌ったり踊ったりして、三時頃に終了。河谷の誕生会とはまた違う賑やかさだった。

 皆にお礼を言ってバイバイして、お兄ちゃんに手を引かれて退場。

 

「妹よ、此度の宴は後方支援部の協力により開催が叶った。道具の手配や設営、調理の指導などは、彼らによるものだ。礼状を認めるとよい」

 

 そういえばあちこち回ってやり方教えてる人が何人か居た! 通りすがりの親切な人じゃなくて、最初からそういう役割だったのか。

 直接お礼を言うんじゃなくて礼状なのは、その方が後方支援部の実績になるとかかな? もしかしたら、何かの訓練という名目で手伝ってくれたのかもしれないな。

 バンシーとして鍛えた筆記力の使い所だ。フォントの如き美しさで書いてみせよう。

 

「それと、約束のミシンだが……」

 

 ミシン! 作りたいものがいっぱい有る。あとは縫うだけの状態のものも既にいくつか用意したのだ。早速今夜から──

 

「巨大ゆえ、持ち運びはできぬ。すまぬが使用する際は作業室まで足を運んでくれ」

 

 なんて?

 

 

 

 アエファニルに手を引かれてエンジニア部へ。私専用の作業室を用意してくれたらしい。聞き間違いではなかったようだ。

 自室は機織り機がまあまあ邪魔だから、新しい作業スペースはありがたい。

 あれ? 作業室の中に知らない人が……いや違う!

 

「シャロンよ、久しいな。息災であったか?」

「姉上!」

 

 ダウナーお姉様だ! でもダウナー要素が消えてる!?

 何かと斜めだった姿勢が真っ直ぐになってるし、いつも適当だった髪もしっかり結い上げて眉毛もキリッとしている。

 とりあえず衝動のままに抱き着いておいた。ヴェールとマスクはすぐそこの作業台にポイ。

 お姉様に甘えてる間にアエファニルがお茶を淹れてくれたから、座ってお喋り。誕生日を祝ってもらったり、河谷を出てからの事を色々報告したり。

 

 そして落ち着いてくると部屋の中のものが気になってきた。作業台の上の謎の袋とか、ロボットアームが複数付いた横長の台とか、壁際にある布を掛けられた何かとか。

 私の視線に気付いたお姉様が立ち上がり、壁際の何かから布を取り去る。

 

「妾達から祝いの品だ。勿論呪文も刻んでおるぞ」

 

 出て来たのは八着のドレス。多い!? そして全部可愛い!

 更に寝間着や下着に髪用のリボン、コサージュ付きのヴェール、ブーツなども有るようだ。

 早速一式着てみる。紐でサイズを少し調節して……ぴったり! お姉様が髪を綺麗に結ってくれて、Outcastに貰った花も差し直す。

 作業室の壁には大きな姿見まで有る。至れり尽くせり。鏡に映る自分を眺めながら喜びを噛み締める。

 

「全てを手に入れてしまった……」

「うぬがテラで最も美しいぞ」

「然り然り、シャロンはカズデル一の美女ゆえな」

 

 お姉様まで何か言ってる。お兄ちゃんよりはスケールダウンしてるけど。

 全部は自室に置けなそうだから、何着かはここに置いて、たまに入れ替えるか。作業室貰って丁度良かった。

 機織り機も移動させるか? いやでも、寝る前に機織りしてると瞑想的な効果を感じるんだよね。一旦保留で。

 他にも何か有るらしく、お姉様が作業台に乗っていた袋を開く。

 

「それと……はぎれを集めて作ったのだ。この口当ては病の予防になるのだろう?」

 

 中にはいっぱいの呪文マスク。

 Mechanistに褒められてから、他の人の分も用意できたらと思ってたけど、糸を紡いで、布を織って、呪文を刺繍して、マスクを縫って……一人じゃとても量産はできないから、諦めていた。

 

「姉上、感謝を……」

「暇と布を持て余した妾達が、手慰みに作っただけのこと。ともがらへ配るも良し、ロドスに譲るも良し。好きに使うがよい」

 

 流石人間ミシンなお姉様達のマスク、とてもクオリティが高い。

 呪文を書き起こした紙も貰った。私が考案した当時と比べるとかなり改良されていて、最高級の布じゃなくても耐えられるようになってコスト減、なのに自動洗浄機能もしっかり付いている。お姉様達すごくすごい!

 アーミヤにロスモンティスに、エリオペの皆に、ウィーディにブレイズにサングラス三人衆、あとエリジウム……と一応ソーンズにもあげるか。でないとエリジウムは譲っちゃいそうだし。サイズが合いそうなやつを選り分けておく。

 

「アエファニルも新たな口当てに……」

「我はこれが良い」

 

 アエファニルが顔を隠してイヤイヤと首を振る。

 今着けてるやつ、時々修繕してるとはいえ、かなりクタクタだろうに……

 せめて布が有ればな……今の生活だと糸を紡ぐ暇があんまり無いから、新しいマスクの素材が……

 

「ラケラマリンの布と糸が有るぞ」

「流石姉上である!」

 

 お姉様が手のひらより少し大きいくらいの箱を出してくる。中身は畳まれた布と糸巻きがひとつずつ。多くはないけれど、マスクを作るだけなら十分だ。

 ラケラマリン様、多分こうなる事を分かってて用意してくれたんだろう。これで新しいのを作れる!

 ついでにアエファニル本人に呪文を更に改良して貰うか。

 

「シャロンも新たなものと替えるがよい。今うぬが着用しておる口当て、我の物と比べ呪文が欠けておろう」

 

 作業台に投げ出されたマスクをアエファニルが指差す。

 確かに結構古いし、自動洗浄機能は無いからね。私も一枚……おや、お姉様がマスク袋をゴソゴソしだした。

 

「シャロンにはこれらが良いぞ」

「おお、これは美しい。わらわ好みだ」

「そうであろうそうであろう」

 

 取り出されたのは三枚のマスク。他の物はシンプルだったけど、これはレース模様のような刺繍が入っている。数からして、私の世話役のお姉様がそれぞれ作ったものなんだろう。

 一枚でいいなんて言うと他の二人ががっかりするだろうから、ここはありがたく貰っておこう。

 

「シャロンよ、そろそろミシンを確認するか?」

「うむ!」

 

 アエファニルの誘導でロボットアームが沢山付いた横長の台の前へ。自動で手術でもしそうなこの台が丸ごとミシンらしい。

 細かいロボットアームにより、普通のミシンでは縫えない形の布も扱えるようだ。

 なんと自動化が可能で、指示用のデータと材料をセットしておくだけで、その通りに切ったり縫ったりしてくれるらしい。布版3Dプリンターってこと!?

 

 サンプルデータを少し書き換え、棚に用意されていた材料を使って、ポーチを作ってみる。

 側面から台の中に飲み込まれる布。裁断する音がして、切り分けられたものが天板のスリットからぬるっと再登場。ウィーンと保持用のアームが布を動かし、針付きアームによってズババババと縫われていく。ファスナーも装着。

 本当に全自動で出来上がった。強度も十分有りそうだし、ファスナーもスムーズに開くし、私が書き加えたリボンの絵もしっかり刺繍されている。

 凄すぎて感動を通り越して呆然としてしまった。SFの世界か?

 あと材料用の棚に既に色々入ってるけどお兄ちゃんいくら使ったんだ?

 

「これは相当な時間と費用が……」

「それだけの価値は有った。このミシンの開発の過程で得たデータは、いずれ他の開発の礎となろう」

「そうであろうか……」

「一見全く無関係の経験や知識が繋がり、新たな発想が生まれる事も有る。何が役立つか分からぬゆえに、多くを試すべきなのだ。エンジニア部の面々も、良い機会だと喜んでおったぞ」

 

 確かに、楽しく愉快にどんどん機能を盛っていったであろう事は想像に難くない。ありがとうエンジニア部の皆。

 記念すべきオートミシン第一作のこのポーチは、ニコニコしているお姉様にあげようかな。

 ん? アエファニルが部屋の隅から何か箱を……

 

「それとこちらは通常のミシンだ。これならば自室でも使えるぞ」

 

 お兄ちゃん、残高見せてもらっていい?

 

 

 

 

 晩御飯は休憩室を借りて三人で食べる事になった。アエファニルが既に部屋を押さえてあるそうだ。移動する前に食堂アプリで料理の配達を頼んでおく。

 料理が出来上がるまで少し時間がかかるだろうし、今のうちに残りのマスクを医療部へ持って行こうかな? ケルシーなら有効活用してくれるだろう。

 

「わらわはこれを医療部へ託してこよう」

「我が運ぼう」

「この程度ならば持てる。兄上は姉上を休憩室へ案内するのだ」

 

 もう配達頼んだんだから誰か部屋に居ないとダメだ。一人で医療部へ向かう。

 エンジニア部から直接行くの初めてだから、いつもと道がちょっと違う。迷子にならないように気を付けよう。

 歩いていると少し前方の扉が開いて、ケルシーが出てきた。一人みたいだしチャンス!

 

「ケルシー先生──」

 

 近寄ってから気付く。

 彼女の出てきた部屋は、感染生物処理室だ。感染者の遺体を処理する場所。

 私の視線を追って扉を振り返るケルシーの表情は暗い。

 ……誰か、亡くなったんだ。

 

「……患者を一人、看取ってきた」

「……そうであったか」

 

 浮かれていた気持ちがすーっと冷めていく。

 マスクを沢山貰って嬉しかった。それはマスクが役に立つからで、役に立つのは鉱石病が危険だからで。

 だけど患者に届いていないこのマスクは、今はまだただの布切れだ。

 私が嬉しいだけじゃ意味が無いのに、その事に気付けずにいた。

 鉱石病と戦う手伝いをしたいと思ってるつもりで、本当は他人事だったんじゃないか?

 

「君が気に病む事ではない。誰もが誰かの命日に産声を上げ、誰もが誰かの誕生日に息を引き取る。君には自らの誕生日を謳歌する権利が有る。死者達も生前そうであったようにな。誕生日おめでとう、チュロス」

「……感謝する、ケルシー先生」

「その荷物、医療部に届け物か?」

 

 急な話題の転換は、私のためなのだろう。疲れているケルシーが、元気な私に気を遣う必要なんて無いのに。

 予め連絡して、都合のいい時間を聞いてから来るべきだったかな。でも、少しでも早い方が、必要な誰かにすぐに届くかもしれない。

 ……考えたって仕方ない、もう来てしまったのだから。ならば今ここで渡すのが一番マシだ。

 

「然り、これは姉妹らが製作した口当てである。源石粉塵などの異物の吸引を防ぐ呪文と、自動洗浄の呪文が刻まれておるのだ。医療部へ寄付したい」

「それは役立ちそうだ。ありがとう、ここで受け取ろう。バンシー達にも、私の代わりに感謝を伝えておいて欲しい」

「……うむ」

 

 用は済んだけど、私は処理室の扉から目を離せずにいた。

 いつかドクターがロスモンティスと出会って、フロストノヴァとお別れする場所。

 存在は知っていたはずなのに、この部屋が有る意味を、今までちゃんと考えた事が無かった。

 物語の舞台になるような、特別な、隔絶された場所だとどこかで思っていた。

 だけど実際には、いつでも普通に使われている場所なんだ。

 

「……亡くなった患者はサルカズだった。君が良ければ、彼の為に挽歌を歌ってやってくれないか」

 

 頷くと、ケルシーが扉を開いて中へ入る。私も後に続きながら、華やかな格好で来てしまった事を思い出して、せめて髪から花を抜いておく。

 故人の家族か友人か、数人が一台のポッドの前で俯いていた。泣いている人も居るようだ。彼らに歌う許可を貰い、ポッドの正面に立つ。

 

 私はサルカズの魂を感じた事は無い。私の歌では死んだサルカズには寄り添えない。

 だけど魂なんて証明されていない前世の世界にも、挽歌や鎮魂歌という概念は有った。

 それらはある種、遺された者への応援歌でもあるのだろう。死者にさよならして、前へ進むための歌。

 生きている人が聴いているのなら、私の歌でも無意味なんて事は無い、はず。

 

 歌ってみても、やっぱりサルカズの魂は感じ取れない。

 ポッドを囲む人達が膝から崩れ落ちて、嗚咽を漏らす。

 ケルシーが足早に、それでいて静かに部屋を出て行く。

 私の手の中の花は、既に萎れ始めていた。

 

 

 今日は1095年6月22日。

 ドクター救出作戦の日まで──Ace達が死ぬ日まで、残り一年と、半年。

 

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