オートミシンで筆箱に刺繍を入れる。フリルも縫い付けて、リボンとビーズは手作業で。
筆箱自体の強度アップと、刺繍の裏側の保護のために丈夫な裏地も縫い付けておく。自動でズババババ。よし、ぴったり。表と違う色にした事によってオシャレ感もアップ!
開け閉めしたり、ペンを沢山入れてパンパンにしてみたりしてテスト。大丈夫そうだ。最後のひとつ、完成!
誕生日からのこの一週間、私は早速オートミシンを使い、子供達に聞いた希望を元に筆箱を作り続けていた。
ベースになる筆箱は普通のポーチタイプと、軽く変形してペン立てになるタイプを用意。男児はやっぱりギミックっぽいのが好きなのか、ペン立て型を選ぶ子が多かった。
オートミシンのお陰で、複雑な刺繍も簡単に入れる事ができる。希望を聞くときにラフを描いておいて、パソコンで清書して名前も入れて、刺繍用データに変換。あとは待つだけだ。これがとても楽で、当初想定していたよりも豪華なものが早く作れる。お陰でもう全員分作れた。
しかし同じ型同士、似たような装飾同士は連続で加工した方が楽だから、作りやすい順で作ってクラスとか性別とかバラバラのまま並べている。このまま渡しに行っても絶対グダグダになるから、一回整理した方がいい。
というわけで、そんな無秩序な筆箱の山をサングラス三人衆がリスト通りに箱に仕分けしてくれている。今朝食堂で遭遇した時に筆箱の話をしたら、先日あげたマスクのお返しという事で手伝いに来てくれたのだ。
余談だがブレイズは任務でオーバーヒートして医療部で絶対安静らしい。後でお見舞いに行こう。
「同じペンケースでも少しの工夫でここまで変わるとはなァ。どれもいい出来だな!」
「これは子供達も喜ぶでしょうね」
ケルグとセブンティーンが筆箱を褒めてくれる。
ビーンもいつもの親指をビッと立てるアレをしてくれた。サムズアップと言うやつらしい。
ちなみに作業室の扉は全開である。三人衆の安全のために。
密室で男の人と一緒になると、外勤中のアエファニルが帰ってきた時に面倒な事になりそうだから……
そしてそんな全開の扉の前をMechanistが通りがかって、そのまま入ってきた。
「早速活用しているようだな。使用感はどうだ?」
「素晴らしいぞ! これは至高のミシンである! 見よ、既製品に裏地を後付けしたのだが、初めから斯様な作りであるかの如く仕上がっておるのだ! 今の所不具合も出ておらぬ!」
「そうか、だが使い込むうちに気になる部分が出て来る事も有るだろう。その時は遠慮無く教えてくれ。私もこのミシンにはまだ可能性を感じている」
「うむ! 時に、返礼はまことにわらわの手作りチュロスで良いのか?」
ミシンのお礼をしたくて数日前にMechanistに相談したら、そういう事になった。
ロドスではおいしいチュロスがいつでも買えるのに、作った経験の無い私の手作りでいいんだろうか。
「ああ、勿論だ。我々は『チュロスの作ったチュロス』を食べてみたいんだ」
確かにムース作のムースとか、プリン作のプリンとか、食べられる機会が有るなら食べてみたいかも?
サングラス三人衆もチュロス作チュロスに興味が有るらしく、作業の手を止めて「気になる」って顔をしている。
今日の手伝いのお礼としてあげてもいいんだけど、エンジニア部へのお礼と一緒くたにしちゃうのは何か違う気がする。三人もそう思ってるから何も言わないんだろうし。
かと言って別々に用意するなら、厨房を借りる手続きとかも二回する事になるから、できれば一回で纏めたい。となると……
「わらわ一人では手が足りぬ。そなたらも協力してくれぬか? 味見も頼みたい」
「乗った!」
「手伝います」
ビーンも嬉しそうに頷いている。これで三人衆には揚げたてを食べてもらう事ができる!
仕事に戻るMechanistを見送って、筆箱の仕分けを終える。教室に連絡を入れて、今から持って行く事に。三人衆もこのまま運ぶのを手伝ってくれるそうだ。
教室へ向かって廊下を移動していると、奥の角から現れた誰かが動きを止めた。……あれは枕のリーベリさん!?
思わず立ち止まると、彼は小さく手を振りながらゆっくり角の向こうへ戻っていった……
「んん? 今の誰だ?」
「チュロスに付き纏っていた例のリーベリですね」
「あぁ、思い出した。枕欲しがったっていうヤツか」
「最近では寧ろロゴスさんに心酔している様子だと、後方支援部の知り合いから聞きました」
「兄上はあの者に何をしたのだ……」
セブンティーンはさり気なく情報収集してくれてる? リーベリさんに不審な動きが有ったら教えてくれるつもりだったのかも。優しい……
ちびっこの教室に到着。筆箱を配ると、皆キャーキャーはしゃいで喜んでくれる。
歌で落ち着かせるのは……しなくていいか。やり過ぎるとこの子たちが自力で感情をコントロールできなくなりそうだし。
「みて! キラキラがついてる! かわいい!」
「わたしも! 青いキラキラ!」
「そっちもかわいいー!」
「お姫さま、ありがとう!」
「だいじにつかうね!」
おお、やはりビーズの輝きは女児を魅了するようだ。びっくりするほど好評。
男児はデザインにも喜びつつ、裏地の隠しポケットに興奮したり、やたらファスナーを開け閉めしたり、機能面に興味が有る子が多い様子。
しかし「貰って嬉しい」で止まっては意味が無い。筆箱はあくまで容器、筆を使って貰わねば。
「文字を練習するとよい。覚えた文字でわらわに手紙を書いてくれると嬉しいぞ」
手紙のお手本を黒板に書くとどよめきが上がる。ふっ、私はフォントの如き正確さで文字を書けるのだ。バンシーとして努力した成果である。
鉛筆とノート、自作のお手本プリントも配ると、皆早速書き写し始める。よしよし、良い流れ。
後は先生に任せて、他のクラスに移動。スズランに鈴蘭柄の筆箱を渡して光の笑顔で大人達の目が焼けたり、年長の子供達には何故か畏怖されたりしつつ無事に配り終える。
日本では読み書きできるのが普通だったけど、ここはそうじゃない。ロドスに保護されるまで文字に触れてこなかった子も居る。
読み書きができるだけで生きやすさが大きく変わる。この筆箱で文字を習うモチベーションが上がればいいな。
・
私の手作りお菓子を食べ損ねたらお兄ちゃんがショックを受けそうだから、外勤から帰るのを待ってから厨房を借りて、皆で一緒に作る事にした。
ドレスじゃなくて、動きやすい市販の服を着用。髪も纏める。すると当然のようにアエファニルによって首に布を巻かれた。うなじはNGだったか。
購買部に寄って予め注文しておいた材料をアエファニルに運んでもらい、厨房で三人衆と合流。
「ロゴスさんって料理とかするんスか?」
「野営に困らぬ程度には。されど製菓は未経験である」
「オレも初挑戦ッス。チュロスのチュロス、楽しみッス!」
「わらわもチュロスを作るのは初の試みであるぞ。上手く出来れば良いが」
「初の試み……さあらば本日をチュロス記念日とする」
「それ良いッスね! 毎年チュロス食べる日にするッス!」
「うむ、いずれテラ共通の祝日となるまで広めたいものだ」
「まずは来年のロドスのカレンダーに印刷してもらうッス!」
ケルグがもうアエファニルと仲良くなってる。エリオペ相手にも物怖じしないノリの良さ。
お兄ちゃんも落ち着きが有るだけで基本はノリの人だし、相性いいのかも。
自作エプロンを配って、しっかり手洗いして作業開始。
三人衆には下準備や、生地を絞り袋に詰める作業をやってもらう。三人とも息ピッタリでサクサク進む。
私は材料を混ぜたり、詰めてもらった生地をクッキングシートに絞り出したり。
揚げる作業は、危ないからとお兄ちゃんに奪われた。
完成したら皆で味見! フレーバーはプレーン、シナモン、チョコの三種類。
それぞれ好きなのを選んで、一斉にガブリ。外はサクッ、中はモチッ! いい感じ!
「うめェ! やっぱ今日がチュロス記念日だな!」
「美味なり。流石は我が妹」
「かなり手を借りたが、わらわが作ったと言えるかどうか」
「問題無いでしょう。エンジニア部の皆さんも、チュロス一人で作るわけではない事は理解しているはずです」
確かにダメだったら目の前で手伝いを打診した時点でMechanistに何か言われるか。
ビーンもモグモグしながら「大丈夫」と言いたげにサムズアップしてくれる。
今日はやっぱり記念日かもしれない。皆とチュロスを作って食べた記念の日、チュロス記念日だ。
皆でチュロスの山を持ってエンジニア部へ。まずは書類に埋もれて忙しそうなクロージャの机に、お茶と共に置いておく。
ミシンの自動化プログラムはクロージャが組んでくれたそうだ。とっても便利で大感謝。
「チュロスちゃんの手作りチュロス……売れるよこれは!」
「売らぬぞ」
「そんなぁ〜」
感謝はしているがそれとこれは別である。でも書類仕事は後で手伝おう。
次は別室へ。Mechanistがミシンの製作に携わった人達を集めてくれている。ベテランっぽいおじさんから若い女性まで色んな人が居るようだ。
皆にミシンのお礼を言って、チュロスを振る舞う。三人衆がお茶を淹れて配ってくれた。
「美味い……」
「おいしい……」
「まだあったかい……」
「これがチュロスちゃんのチュロス……」
「これが……手作りお菓子……」
「女子からの手作りの差し入れって実在したんだ……」
「俺女の子が作ったお菓子初めて食べた……」
「俺も……」
「ワシも……」
「チュロスちゃん最高……好き……」
「まだまだ沢山有るッスよ! 茶葉もチュロスが選んだやつッス!」
な、なんか皆最後の晩餐か何かのようにじっとチュロスを噛み締めている……ケルグがおかわりを勧めて励ましている。
あっ、いつの間にかお兄ちゃんの羽が不穏な角度に!
「ロゴス、落ち着いて聞いてくれ。知っての通り我々エンジニアは作業で引き籠る事が多く、人との交流が希薄になりやすい。そんな我々にとって、年下の少女からの手作り菓子の差し入れというのは、最早架空の存在にも等しい。フィクションの中のヒーローや、神話の中の聖獣のようにな。よって彼らはファンタジーが現実となった事に感動しているだけで、他意は無い」
「理解した。我が妹は女神という事か」
「ああ、それでいい。彼らは女神の降臨に心を震わせているだけだ」
Mechanist、手慣れている……そしてうちのお兄ちゃんはチョロい……
サラッと女神にされたけど、何も言うまい。今下手に搔き回すとエンジニアの皆さんが危ない。
Mechanistは更に話を逸らしにかかる。
「チュロスと言えば、購買部のアプリは良く出来ているな」
「然り、流石は我が妹」
「実際に製作したのは殆どクロージャであるぞ」
「それでも根幹はうぬのアイディアだ。クロージャだけでは、広告を押し付けるばかりのつまらぬ物になっていたであろうよ」
アエファニルがこう言うって事は何か前科があるなクロージャ。
私はちょっとずつプログラミングを覚えて、購買部利用者向けのアプリの試作品を作ってクロージャに見せたのだが、これを気に入って貰えて即製作が開始し、先日正式にロドスアプリストアからリリースされたのだ。
このアプリを使うと、購買部での購入金額に応じたガチャ石が付与されて、ガチャを引くことができる。
そしてガチャの回数が一定の値に達すれば、実際に購買部で使えるクーポンが貰える。
排出されるのは購買部の商品の写真と情報をカード風にレイアウトしたもの。
種族性別年齢購入履歴などから自動で判断して、その人が興味が有りそうな商品のカードが排出されやすくなっている。
商品を知ってもらうのが目的だから、被りは発生しにくい調整にした。
購入した商品のカードは即入手、レビューを書く事もできる。
そして所持していないカードも閲覧できて、そのままカタログとして使えるのだ。
「デッキという名目で商品のリストが作れるのも良い。既にSNSで各々の最強デッキを見せ合う流れが出来ている。君には商才が有るかもしれないな」
「チュロスちゃん天才!」
「チュロスちゃん最高!」
「然り、我が妹はロドスでも屈指の才媛なり」
「皆一旦落ち着いてくれぬか」
エンジニアの皆さんがちょっとおかしいテンションになっている。
あとアエファニルは流石に言い過ぎだと思う。両手両足の指全部だとしても入れる気がしないよ。
「購買部アプリと言やァ、チュロスの歌が聴けるのもいいよな!」
「歌付きのカードを見掛けると、つい詳細ページに飛んでしまいますね」
ケルグとセブンティーンもアプリを活用してくれているようだ。ビーンもやはりサムズアップしてくれている。
クロージャが付け足したおまけ機能によって、なんと私が今まで歌った全ての宣伝ソングを聴けるのだ。プレイリストを作ることもできる。
初期の歌は防犯カメラから抽出したので音質がイマイチだが、途中から先輩がこっそりマイクを用意していたため、殆どは高音質だ。
「いよっ、購買部の歌姫!」
「黒百合の君!」
「プリンセスバンシー!」
「漆黒の淑女!」
エンジニアの皆さんがいよいよ謎の盛り上がりを見せ始めた。
それ今ノリで自然発生したやつ? それとも普段から皆に言われてるやつ?
エリジウムも言ってたし、『購買部の歌姫』は共通認識なのかもしれない……
歌姫ってなんかこう、もっとちゃんとした歌を歌う人が言われるやつでは? あの宣伝ソングでいいのか?
Outcastにかかれば歌う女は無条件で歌姫だろうけど、他の皆はどういう気持ちなんだ。
……まあ、今日はお礼に来たんだし、皆が楽しいならいいか。お兄ちゃんも何故か満足気だしね。
でもできれば外では言わないで欲しい。苦難陳述者とかに比べたらマシだけども!
・
購買部アプリと言えば、アエファニルに頼みたい事が有るのを思い出したので、翌日散歩を兼ねて甲板へ。
近頃日差しが強いので、購買部で買った日傘を持って行った。フリフリで可愛いやつ。
「兄上に頼みが有るのだが」
「ほう。妹の願い、この兄が叶えよう」
お兄ちゃん、ちょっとウキウキしてる。腕を組んで得意げだ。
そういえば今までおねだりとか殆どした事無いから、そのせいかな。でも大したお願いじゃないよ。
「わらわは十八に満たぬゆえ、購買部アプリの成人版をインストールできず実際の動作を確認できぬのだ。兄上の端末で見せてくれぬか?」
アエファニルが腕を組んで得意げなままフリーズした。
成人向けの商品は元々売り場が完全に分かれてて、アプリの方も同じシステムの別のものになっているのだが、私はそっちには一切関わらせて貰えない。
しかし通常版とは違う部分が有るらしく、原案者としてはどう変化したのか気になっているのだ。
アエファニルはたっぷり十秒ほど静止してから動き出した。でも雰囲気がまだフリーズでドライ。
「確かに規則には時に抜け道が有る……さはいえ、妹を躾けるのも兄の役目よな。ならぬぞ、チュロス」
「兄上〜」
「そも、我はそちらはインストールしておらぬ」
「あ〜に〜う〜え〜」
「せめて……せめて十八になるまでは、知らぬままでいてくれ……」
アエファニルは私を抱き締めて悲壮な空気を醸し出している。
お兄ちゃんは私の事を何も知らないピュアな妹だと思っているようだが、前世のネットの広告やらで多少耐性はあるし、今世に限ってもお姉様から色々教わっている。
画像やタイトルがちょっと表示されるくらいなら平気だと思う。多分。
……でも、お兄ちゃんの夢をわざわざ壊すのもな。ここは黙っていよう。
「おいおい、何こんな所でイチャついてるんだ」
アエファニルをそのままにしているとScoutが通り掛かった。
確かにこのままでは通行人に驚かれてしまう!
剥がそうとしたけど余計にくっついてきた。しつこいぞお兄ちゃん。
日傘も奪われて相合傘状態である。
「Scout、頼みが有るのだが」
「チュロス!」
アエファニルが比較的鋭い声を上げる。珍しい。
でも妹に甘いお兄ちゃんは、私を強引に黙らせたりはしないのだ。
「購買部アプリの通常版と成人版の差異を教えてくれぬか?」
「ああ、あんた未成年だもんな。開発者なのに自分で確認できないのか。購買部の連中もあんたには見せないだろうし……それで兄貴に頼んでそうなった、と」
流石だScout、全てを理解してくれた。
Scoutが端末を取り出し、ついにアエファニルが私の目を塞ぐ。
「トップのおすすめ欄が広くなってるくらいで、基本的な仕様は通常版と変わらないと思うぜ。ただ背景のピンク色が目に痛い、担当者に伝えておいてくれ」
「感謝する!」
凄いナチュラルに教えてくれた。やっぱり男の人は普通にそういうの見るんだな。
視界がフリーになった。Scoutは端末を仕舞い、手をひらひら振って去っていく。お礼に後でクーポンを付与しておこう。
「Scoutの端末を見せろと言い出すのかと……」
「兄上はともかく、Scoutの購入履歴は知りたくないのでな」
「我の履歴には興味が有ると……? 我は成人向け商品を購入した事など無い。潔白である」
「それはそれで心配なのだが……」
とりあえずそろそろ離してくれないか、お兄ちゃん。
待って、しがみつかないで……あっ通行人の目が!
一瞬驚いてたけどすぐに「なんだバンシー兄妹か」みたいな眼差しになった!?
ロドスの職員がお兄ちゃんのシスコンに慣れてきている……!
・
購買部アプリはそこそこ利用されているようで、狙い通りにアプリで見たカードの商品を買いに来るお客さんが増えている。やったね!
カードの隅にはどの棚にその商品が置かれているか書かれているから、慣れない商品でも迷わず取りに行ける。
仮にお客さん自身が分からなくてもカードを見せて貰えばすぐ案内できる。便利。
全ての商品をカードとして登録する作業が大変だったけど、その甲斐は有った。
購買部では他にもデジタル化・無人化に向けた動きが進んでいる。
今はまだ有人レジだが、そのうちこの仕事も無くなるかもしれない。ちょっと寂しい。
商店街の準備もついに始まった。と言っても使われてない区画を商店街用に改装し終わった所で、お店が入るのはこれから。実際買い物ができるのはまだまだ先になりそうだ。
前世で見た公式動画ではスイーツ店が有るって言ってたような。どんなのか楽しみ。
「チュロスちゃんもお店やってみる? 今なら購買部の次に一番目立つ場所を確保できるよ!」
クロージャがそんな事を言ってきたけど、素人がいきなり一等地で商売するなんて、トラブルしか起こらなそうだよ。無理無理。
「仮に出店するとしても隅の方でよい。そも、何を扱うのか……」
「手作りお菓子とか?」
「食中毒のリスクが怖い」
「手作り服屋さんとか」
「売るほど量産できぬ」
「いっそお店じゃなくて、アイドルになっちゃうとか!」
アイドル!? 飛躍しすぎじゃない!?
いや、別のやつの言い間違いの可能性ある!
「着ぐるみを製作して被り、商店街自体への客寄せを……」
「それはマスコット! アイドルはステージで歌って踊るほう!」
やっぱりソラちゃんのやつ!? 無理無理!
黒尽くめで顔を隠したアイドルって可愛くないし!
あと単純にステージで歌って踊るの無理!
「断固拒否する!!!」
「絶対儲かるよ〜、やろうよ〜」
「わらわをアイドルにするならば、まず兄上を説得せよ!」
「ふっ、言ったね? あたしの交渉術を見せてあげる!」
クロージャは意気揚々とアエファニルに打診に行った。
多分普通に断られるだろうけど、一応先手を打ってメッセージを送信しておくか。
『わらわはアイドルにはならぬ』
『我に任せよ』
返信早っ! しかしこれだけで通じるのはちょっと面白い。
その後クロージャは掻けない時に限って背中が非常に痒くなる呪いを掛けられて帰ってきた。
妹に頼られたいお兄ちゃんは、私が嫌がる事には絶対に頷かないのだ。