今後の展開の直接的なネタバレ有りませんが、ヴィクトリア編よりも後の時系列になるので多少漏れ出てはいます。
サッカーコートを見下ろせるステージの上で、皆で曲に合わせてピョンピョン跳ねて踊ってポンポンをフリフリ。
今日は協心競技という、オリンピックみたいなものがロドス主催で行われている。色んな競技が各会場で同時進行するのだ。
何故かどの競技も中々に暴力的なので、私はアエファニルから出場禁止を言い渡され、チアガールとしての参加となった。チアガールをやる事についても一悶着有ったがそこは割愛する。
またひとつサッカーの試合が終わり、負傷した選手が担架で運ばれていく。実は医療部の訓練のために負傷者を供給するのが主目的なのではと疑うほど、試合毎の恒例の光景だ。
戦闘系の競技で怪我をするのなら、まあ分かる。テラならそういう事も有るだろう。
だが相手選手を攻撃していいサッカーは、前世の常識が邪魔をして上手く飲み込めない。
それはサッカーなのか? 何か別の競技じゃないか?
そしてエンジニア部が作ったというサッカーボール、クセが強すぎないか?
ボールっていうか、バクダンムシが混ざってるんだけど良いのか……? 良いんだろうな、皆全力で蹴りに行ってるし……
武器ありアーツあり爆発あり、目の前で行われるボウリョクサッカー……じゃなくてポジションサッカーに、かなり薄れたはずの前世の感性が心底慄いているのを感じる。
だが今の私はチアガール、怯えている場合ではない。
盛り上げるためにポンポンをフリフリして――
ん? なんかステージの脇が騒がしくなった?
「ちょちょちょま、ダメだって! 止まって!」
「おい! チュロスさんに近付くな!」
ステージ周辺の警備をしてくれているキララやラヴァ達の慌てた声。
次の瞬間ヒョイッとステージに上がってきたのは……ウィシャデル!?
「何々侵入者? やっちゃっていい?」
「待たれよウタゲ!」
一緒にチアガールをやっていたウタゲがポンポンを捨てて刀に手を掛ける。
嫌な予感がして他の仲間達を見渡せば、アンブリエルやラ・プルマもステージの端に置いてあったはずの武器を既に構えてるし、クリフハートも腰に固定してたはずの鉤縄をいつでも投げられるようにしてるし、ポンポンを両手に持ったままのオーロラは一見驚いて強張っているだけにも見えるが、おそらくいつでもパンチを繰り出せるようにしっかり拳を握っている。
目立つステージの上なものだから、広範囲に動揺が走る。
近くに待機していたクーリエやマッターホルンが駆け付けようとする。
観客席の方ではテキーラが焦ったように立ち上がり、インサイダーが守護銃を手にして飛び出した。
あっ、なんか今視界の端にSharpが居たような……他にもオペレーター達が動き出している。
やばい、素早く場を収めないと大事になる! 私に全てが懸かっている!
ウィシャデルが口を開くが、なんかニヤニヤしてるし絶対火に油を注ぐ台詞だ。だが声量なら負けない!!
「シャロン、あんた──」
「皆武器を下げてくれ! 彼女はわらわの友だ!」
一歳から続けたボイトレは、今日この時のためだったのかもしれない。
ウィシャデルの言葉どころか、会場全ての音を塗り潰す勢いで私の声が響いた。
微妙にエコーもかかった。友だ、友だ、友だ──
辺りが静まり返る。ウィシャデルも固まっている。声大き過ぎたかな、ごめん。
「……あ、ニュースで見たことある気がする。バベルの人だっけ?」
ラ・プルマが大きな鎌を下ろした事による視覚効果か、外野の緊張が解けていくのが空気で分かった。
他の皆もまだ警戒はしつつも一旦様子見に入る。
「然り、バベルのウィシャデルだ。わらわの友だ」
「二回も言わなくていいわよ。それよりあんた、その格好はどうしたのよ? 何なのそのハタキ?」
ウィシャデルは無事興醒めしたらしく、いつもの爆破する時の雰囲気が消えて、ダルそうにし始めた。
よ、良かった……下手したら私やクリフハートの保護者が駆け付けて、決戦スキル乱発による大破壊と大混乱と外交問題が発生する所だった……危なかった……
ウィシャデルはポンポンを見るのは初めてなのか、奇妙なものを見る目をしている。
確かに冷静に考えるとなんだろうねこれ。誰が最初にやり始めたんだろう。
「これはポンポン、ハタキにあらず。これを振って選手を応援するのだ。この装いは女性応援団の定番衣装である」
「よくあのシスコンバンシーが許したわね……」
チアガールと言えばミニスカート。勿論アエファニルには反対された。応援はいいが露出はダメだと。
長袖にして、首も隠して、スカートを膝が隠れる程度にして下にハーフパンツも穿き、タイツも着用して、過剰に足を上げる振り付けはNG、女性警備員によって守られた専用ステージの上という条件でなんとか許可が下りた。ステージを下りて出歩く時は、着替えるかロングコートを羽織る約束。
私だけ違うのも嫌だし、かといって皆の分を私に合わせるのも嫌だから、他のメンバーのユニフォームもそれぞれデザインを変えてある。個性を強調した事で逆にバランスが良くなっていい感じになった。ありがとうお兄ちゃん。
「まあいいわ、どうせなら要塞の方に来なさいよ。あんな虫ケラより、あたしの爆発の方が盛り上がるわよ」
「それはならぬ! この後ウィーディの試合なのだ!」
驚くべき事に、ウィーディがこの暴力サッカーに出場するのだ。それもエースストライカーとして!
色んな意味で見逃せない。あんまり体強くないはずなのに、大丈夫だろうか。
しかしウィシャデルに目を付けられたからには力尽くで連行されかねない。あと一試合分時間を稼がないと……
「チュロスでも食すか? アイスも有るぞ。チーズケーキにティラミスも……」
「何露骨に時間稼ぎしようとしてんのよ。そんな事しなくたって、あたしの試合の時間はまだ先よ。チュロスを頂戴、チョコが掛かったやつ。冷たい飲み物もね」
断られるかと思ったら食べるのか。キララが「どうかこれでご勘弁を」な顔ですぐに用意してくれた。
ラヴァは私のステージを乱したウィシャデルにギリギリしているが、下手に抵抗すると余計に面倒な事になるからね。相手した方が早い。
勝手にステージの縁に座るウィシャデルをそのままにして、ポンポンを振って次の試合の選手を迎える。本当にウィーディ居る!!
あとウィーディと同じチームのあの真っ赤な髪の選手……いやいやきっと気のせい。
試合が始まるとボールそっちのけで勃発する戦闘。ボールを奪われないようにするには、相手選手の無力化が大事なのだ。
おかしい、本来はパスを回したりフェイントをかけたりして守るものでは……真正面からドカドカやってる……
応援用ステージ、実質特等席みたいなものだからよく見える。行使される〝暴力〟の数々が……
そしてバトルフィールドと化したコートの中、ウィーディが静かにボールに迫る。
あっ、相手選手が向かってくる! 危ない!!
私はボールを持つ者がボコボコにされるのをこの目で何度も見てきた。誰か止めてくれ、ウィーディへ迫っていくあの駄獣を──いやなんで駄獣が選手として参加してるんだよ!!
何度も見たけど何度でも気になるよ! お邪魔要素として放牧してるとかじゃなくて、完全にルールを理解して選手として参加してるのが益々気になるよ! 駄獣って賢い!!
盾を持った選手が体を張って駄獣を抑える。剣を持った選手がウィーディの正面方向へ先行し、謎の巨人を召喚して炎を撒き散らしながら相手選手をぶっ飛ばす。
やけに赤い選手が居ると思ったらやっぱりスルトじゃないか! テラのサッカーってラグナロクしていいんだ!?
派手な攻撃に観客も沸いている。なんかもうサッカーという名目で戦闘が見たいだけだったりする?
この土地だと格闘技の類が法で禁止されてて「これは球技です! 通してください!」みたいな? 脱法格闘技。
炎が全てを薙ぎ払い、ウィーディの前から障害が消える。
蓄水砲によって凄まじい勢いで射出され、一直線にゴールへ入るボール。
ウィーディの攻撃が原作通りの性能なら、あのボールは確定ダメージを受けていると思うんだが、全然無事だ。
現実に確定ダメージは無いのか、それともボールが耐えたのか。
何にせよ、コートを切り裂くような美しいロングシュートに観客は大盛り上がりだ。
隅の辺りで選手同士がもちゃもちゃしてコロッとシュートが入るパターンが多かったからね。こんなに綺麗に入ることは中々無い。一瞬アークナイツのゲーム画面を幻視するくらい原作通りの直線だった。
その後何点か奪われつつも、ウィーディが安定してシュートを決めて大差で勝利。怪我は無さそうで良かった。
ウィーディを守りきったチームメイトもお疲れ様だ。医療部でゆっくり休んでほしい。アイスの差し入れを手配しておこう。
「まあまあの味だったわね。さ、行くわよシャロン」
ウィシャデルは空になったカップと丸めたチュロスの包みをその場に置くと立ち上がる。やはり逃げられないらしい。
「では皆すまぬ、後は頼んだ」
言い終わった途端にお姫様抱っこされ、ウタゲに「いってら〜」と送り出された。皆手を振ってくれる。
あ、ラヴァが私のコートを持ってる……がもう間に合わない。ウィシャデルがわざわざ戻るはずも無し、不可抗力だから許してくれお兄ちゃん。
ウィシャデルはひょいひょいと高所に登ったり、関係者用の裏道に入ったりして人波を避けていく。
動き方の割に意外と揺れない。もっと雑に運ばれるかと思ってた……というかまずお姫様抱っこなのが意外だ。
「何故この抱え方なのだ?」
「バンシーどものウザい小言で時間を浪費したくないのよ。あんた姫バンシーだし、コレならあいつらも文句無いでしょ」
それで減る小言は僅かだと思うが、まあ10よりは9の方がマシではあるか。
連れ込まれた広めの控え室には、サルカズ傭兵の一団が居た。ウィシャデルの部下達だ。
彼らは私を見た途端ドタバタと慌て始める。
「チュ、チュチュチュ、チュロたん……!?」
「窓開けろ窓! 換気だ! そこに転がってる武器も片付けろ!」
「ま、眩しいってこういう事かぁ……!」
「お前ら彼女に近付き過ぎるなよ! お兄様に呪われるぞ!」
「もっといい服着てくりゃ良かった!」
「落ち着きなさいよ。ねえ誰か、シャロンに何か買ってきて」
「アッ俺がさっき買っといたチュロスと桃ジュースで良かったら……!」
「風上に! 風上に!」
「ウィシャデルお前絶対バンシーの主に許可取ってねぇだろ!」
「当然よ。なんであたしがあいつにお伺いを立てなきゃならないわけ?」
「俺達の命運もここまでかもしれんな……」
アエファニルが恐れられている……でもこの人達はアエファニル的には評価高いと思う。過激派シスコンだと思われがちなお兄ちゃんだが、適切な(?)距離を保つ人には優しいのだ。
ソファに座らされ、恭しく差し出されたチュロスと桃ジュースをありがたく頂く。このジュース最近ハマってるやつだ、嬉しい。
「チュロた、チュロさんは兄貴様の応援に行かなくていいのか、いいんですか?」
「普段の口調で構わぬぞ。明日の決勝は観に行く予定である」
おやつを譲ってくれた傭兵さんが指差す先には壁掛けモニター。今はスツール滑走の予選の様子が映っている。この協心競技において、明確に選手同士の攻撃が禁止された数少ない種目のひとつだ。
まあ選手が攻撃しない分コースが暴力的なんだが。あ、先頭の選手がトラップでぶっ飛んでいった。
ん? 出番を待つアエファニルの姿が映り込んだが、目が合ったような……いやいや気のせい、お兄ちゃんが見てたのは私じゃなくてカメラだ。
多分ラヴァあたりから連絡は行ってるだろうけど、棄権してこっちに駆け付けてくるような事は無さそうで良かった。存分に滑走を楽しんでほしい。
しばらく談笑して、時間が来たら控え室から移動。
これから行われるのは、大量の敵から拠点を防衛する競技、要塞ディフェンスである。
私はウィシャデルによって巨大スクリーンの上の足場……じゃないなこれ、多分梁的なやつだな。そこに置き去りにされた。
落下防止の柵とかネットとか無いし、一応月面歩行の呪文をかけておこう。
ただ突っ立ってるのもあれだし、ここでチアダンスするか。ポンポンフリフリ。
「チュロだ!」
「チュロちゃーん!」
「こっち向いてー!」
おっと、私を知っている人が居るようだ。ファンサしておかねば! ポンポンをブンブン。
段々私に気付く人が増えてくると、荷物を下げたクロージャのドローンが飛んできた。
受け取って開封、中身は水とチュロスとマイクとインカム。そういえば連絡手段はコートとか他の荷物と一緒に置いてきたな……インカム装着。
『チュロスちゃん聞こえるー? そこで歌っちゃいなよ!』
なるほど、良いかもしれない。このままだと私はウィシャデルに誘拐されて高所に置き去りにされた被害者になってしまう。観客の間で不要な憶測や騒ぎが起きるかもしれない。
ならば炎上する前にエンターテイメントに昇華してしまい、ついでに試合開始までの間も持たせる。悪くない。
了解の合図を送ると、ドローンが増えて私にライトを当てる。決めポーズ!
別のスクリーンに私が映った。多分足下のやつにも。
会場中に流れていた協心競技のテーマ曲がフェードアウトして、骨笛の音を使ったイントロが流れ出す。
マイクは受け取ったが、まずは私のバンシー声量を見せて進ぜよう。
・
そして会場がほっかほかに暖まったところで始まった試合は、要塞ディフェンスっていうか、要塞バイオレンスっていうか。
数の暴力と質の暴力が入り乱れて押し寄せ、それらを更なる暴力ウィシャデルがぶっ飛ばしていった。派手な爆発に観客も大盛り上がり。
ウィシャデルの手が回らない箇所を守る傭兵さん達も異様に士気が高く、ハイレベルな連携が行われていて見応えが有る。
高所のお陰で全体を俯瞰で見られるせいか、ちょっとアークナイツの画面っぽくて懐かしい気分になった。
自分の試合を終えたアエファニルも駆け付けてきたので、そのままスクリーンの上で一緒にチュロスを食べながら観戦。
あと私はお兄ちゃんの上着を羽織らされた。過保護め。ぶかぶか。
「先程から試合も見ずに此方へカメラを向ける者がおるな」
「兄上の上着を着たわらわが愛いゆえ」
「うぬは何時如何なる時であろうと愛い」
お兄ちゃんが頭を撫でてくる。すると客席の一部から押し殺し切れなかった様子の歓声が上がった。
どうも私達兄妹のセット推しみたいなのがあるらしいのだ。多分それの人達。
お兄ちゃんは知っているのだろうか、SNSの「#ロゴチュロ尊い」タグを……なんか恥ずかしいから聞かないでおこう。
試合はウィシャデルの圧倒的暴力により、大勝利で幕を閉じた。
最後の方はもう要塞を守ってるのか破壊してるのか分からなくなる勢いだった。流石爆弾魔の王庭。
試合の後はアエファニルとウィシャデルで一悶着有ったが、いつもの事なので割愛する。
呪文と拳と爆発と蹴りが飛び交う、ボウリョク&バイオレンス空間だったとだけ言っておこう。
チュロスがぽろっと「競技には出られぬゆえ応援団でもやるか」と言ったので、全力でチアガールへ誘導した。可愛いユニフォームを着れてウキウキ。
大先生の事はチュロスのファッションを制限する面倒くさい奴だと思ってる。
チュロスが作るユニフォームと提供されるお菓子目当てでチアに参加。
大先生の事はシスコンの皮を被ったやべー奴だと思ってる。
チアに巻き込まれそうになったが警備を申し出て事なきを得た。
大先生の事はヤンデレ予備軍だと思ってる。
キュートで慈悲深くてオシャレで優雅で神秘的で落ち着きのあるチュロスさん超絶リスペクト。
チュロスさんがチアガールを!? 良からぬ輩から守護らねば!
大先生の事も原作通り超絶リスペクト。妹想いな所も◎。ロゴチュロ尊い。
チュロスの方からチアに誘ったら二つ返事で乗ってきたしその流れでオーロラも誘った。フッ軽。
大先生の事は妹とのコミュニケーションを欠かさない良いお兄ちゃんだと思ってる。
楽しそうだし護衛を兼ねて参加。ウィシャデル襲来時はポンポンを捨てる間も惜しんで拳を握った。
大先生の事は過保護なシスコンお兄ちゃんだと思ってる。
チュロスの方から誘ったら、その場に居たドクターが「楽しそうだね」って言うから、「じゃあやってみようかな」って乗ってきた。でもテキーラには伝えてなかったので見られてなんとなく気まずい。
大先生の事は実質チュロスの夫だと思っている。
自分の試合まで暇でブラブラしてたらシャロン発見。そんなお遊戯よりあたしに付き合いなさいよ!って突撃しようとしたら強烈なカウンターを食らった。
大先生の事はシャロンにベタベタしててキモいし邪魔だと思ってる。
ウィシャデルが意外とまともな事は把握してたので、どっちかというと外野がウィシャデルを不必要に刺激してパァンされないかヒヤヒヤしてた。
大先生の事は時々眩しくなる。でもたまにドン引きもする。
何にも知らないでなんとなく観戦に来たら義妹がポンポン振ってて宇宙猫ならぬ宇宙犬。目が合ったがお互いすぐ逸らした。去るのも気まずい気がして座ったけどやっぱり気まずかった。しかも噂の爆弾魔が来た、ちょっと待ってくれ。
大先生の事は怖い。同じ義兄の立場だからこそ分かる執着の強さが怖い。それシスコンで済ませていいやつ?
自分の知り合い達とシルバーアッシュ家のお嬢様がピンチっぽいので飛び出してきた。大丈夫だったので席を立ったついでに売店でチョコソース付きチュロスを買って食べたが甘さが足りなくて物足りない。
大先生の事はチュロスには丁度いい保護者なんじゃないかと思っている。
爆弾魔が飛び込んで行ったのを見て大先生に連絡を入れておいた。大丈夫だったのを見てまた連絡を入れた。ほうれんそう大事。
大先生の事は溢れる過保護を自制できてて偉いと思っている。
一人限界な人が居たが、彼は推しとの交流が発生した事で限界突破し、チュロたんに恥じぬように弱者に優しい紳士を目指していく事になる。チュロたんが空にしたチュロスの袋はお守りとして持ち歩くし、チュロたんが口を付けた空き缶は自らの煩悩と共に粉砕した。
大先生の事は敵に回したくない。