挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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四章は原作レユニオン編です。温室育ちのピースフルバンシーにテラを叩き付けます。
今更ですがこの物語の大目標は「主人公を曇らせる」「大先生を曇らせる」「それはそれとして二人を幸せにして超快晴ハピエンにする」の三点です。最終的にはほのぼのを取り戻しに行きます。


四章 境界の在処
4-1 痛み


『アークナイツ。』

 

 格好いいBGMを背景に、誰かのタイトルコールが流れる。

 少し待つとロードが終了して、頭に羽を生やしたイケメンが表示された。

 真梨奈は首を傾げつつ、そのイケメンを何度かつついてボイスを聴いてみる。やたら声が良いが、何を言っているのかはよく分からない。

 

「お姉ちゃん、好み変わったのかな……」

 

 従姉はもう少し小柄で中性的なタイプ、それも白っぽい見た目の方が好きだったはずだ。顔こそ綺麗めなものの、黒くて長身のこのイケメンは彼女の好みに合致しない。

 前に見せて貰ったキャラは何という名前だったか……記憶を探りながら、とりあえずメールアイコンをタップする。運営からのアイテムが届く場所らしい。期限が有るようなので一応受け取っておく。

 

 次は何やら赤い通知が出ている基地という所を確認する。配置された殆どのキャラが疲労していた。

 真っ赤な表示は見ていて心苦しい。少し迷ったが、従姉ならこのキャラ達を休ませてやった方が喜ぶだろう。宿舎に配置し直しておく。

 右上の部屋は手がかりとやらを他のユーザーとやり取りする場所のようだが、チャットやメッセージのような機能は見当たらない。どうやら交流は希薄なゲームのようで、真梨奈はホッとした。

 

 次は人事画面でキャラクターを眺めてみる。さっきのイケメンはロゴスというらしい。完凸しているようだし、やっぱり従姉の新しい推しなのかもしれない。

 「推しが出来たと思ったら死んだ」と四回くらい言われて、内心「そのゲームやめなよ」と思った事も有ったが、ついに生きてる推しに出会えたようで何よりだ。

 まあ、今度は従姉の方が死んでしまったのだが。

 

「推しと死に別れすぎでしょ……育成できてないし」

 

 完凸しているロゴスだが、レベルは1。

 自分のスマホで調べたら、従姉が亡くなる少し前に実装されたキャラだった。

 

 あの日は寝坊してしまって、慌てて朝食を詰め込んだ。それが真梨奈が食べた、従姉の最後の手料理になった。

 前はいつの間にか補充されていた麦茶は、母と真梨奈のうち、手の空いてる方が作るようになった。意外とすぐ無くなって、頻繁に作らなきゃいけない事に気が付いた。

 従姉から投げかけられる「いってらっしゃい」と「おかえり」が無くなって、父が車で送迎してくれるようになった。後部座席に座る真梨奈の隣は空っぽで、そこに鞄を置くのも置かないのも、真梨奈の心をざわつかせた。

 服や私物の多くは真梨奈のものになり、従姉のものではなくなった。今ロゴスが映っているスマホもそうだ。

 従姉が生きていた痕跡が消えていく。残そうとするほど遠ざかる。

 

 従姉を殺した通り魔はまだ捕まっていない。

 毎日悔しさと悲しみと不安でいっぱいで、気を紛らわせたかった。

 だから従姉が育成しきれなかった推しを完璧にして、彼女への手向けにしようと思った。

 

 ロゴスのレベルを上げる。アイテムが凄い勢いで消えた気がするが、構うものか。

 スキルの特化とやらは、多分やれば強くなるんだろう。一番上のスキルからやる事にした。

 アイテムが足りなかった。

 購買部はおそらく課金ショップだが、さっき基地で見たフレンドポイント的なものが使えるかもしれない。

 タップしてみると、画面の右側にぬるぬると動くキャラが現れる。

 

『よくぞ参られた〜♪ ドクター、本日は何を求むるか?』

 

 

 


 

 

 

 チェルノボーグへ到着。住民に歌を聴かれないように、先に高度を上げてから都市の上空へ行って、飛ぶのをやめてフワフワと落下。落ちながら隠行の呪文をかけ直して、遮音の呪文も使っておく。

 しばらく足を使っていなかったせいか、上手く着地できずにすっ転んだ。うう、アエファニルの転倒防止の呪文さえ有れば……遮音しておいて良かった……

 辺りを見渡すと、同じ作りをした建物がいくつも並んでいる。シンプルな形に大きな扉。どうやら倉庫街のようだ。

 近くに人気は無いが、遠くから足音がする。警備の人かもしれない。

 飛び続けて疲れたから休憩したいけど、隠形中とはいえ人に出くわすのは極力避けたい。水をぐぐぐっと飲んで、コートを脱いで空のリュックに突っ込む。日傘もリュックに固定。あとは風でボサボサになった髪と服を整えて出発。

 石棺は例の大きいタワーの地下……で合ってるのかな……あのタワーとアーミヤ達の現在位置を結んだ範囲には近付かないようにしておこう。今鉢合わせるわけにはいかない。

 

 ゴミの散る裏路地に入って進んでいくと、段々奇妙な感覚に陥る。

 知らない都市だ。だけどどこか馴染みが有る。不揃いの建物が並ぶこの場所は、前世の私が育った土地に少し似ている。

 つい気になって表通りを覗き見る。歩道と車道、街灯、標識に信号機。

 車が一台走っていって、懐かしい音がした。車が通り過ぎる時の音。

 夜が明けたら、もっと車が通るだろう。人が歩くだろう。職場や学校に行ったり、店に入ったりするのだろう。

 ここに今日、天災が降る。

 

 

 早く行かなきゃ。

 目を逸らすように裏路地の奥へ進んでいくと、寂れた通りに出た。ふと視線を向けた先にはシャッターの下りた店。

 スーパーか何かのようだが、外壁にはヒビが入ってるし、シャッターには膜でも張るかのように砂埃が満遍なく付着している。長い事開けていない雰囲気だ。

 今は使われてない建物なのかな?

 

 夜が明け始めたし、ここでしばらく休憩しようかな。

 裏口に回って、呪術で鍵を──あれ、開いてる? っていうか壊れてる?

 でも真っ暗だし人は居なさそう。お邪魔しまーす……ぎゃっ!?

 

「騒ぐな」

 

 中に入ると、なんかドンッてなって埃っぽい床にうつ伏せに押し付けられた。痛い! 隠行の呪術も解けてしまった。

 ドアが閉まって微かな明かりが断たれるが、すぐに別の光源が灯される。後ろで腕をぎりぎり縛られて、リュックの肩紐が切られて、ウエストポーチも外されて、ぐるんってなって、気が付いたら床に座った状態で、柱か何かに縛り付けられていた。

 

「貴族か……?」

「殺しておく? あ、その前に情報を吐かせないと。何にせよ、ここは放棄して……」

「……いや、慌ててここを出る必要は無いと思う」

「そうなの?」

 

 外に漏れないように絞られた明かりでも、互いを判別するくらいはできる。

 私の頭の上で言葉を交わすのは、黒髪と白髪、二人の少年。

 考えてみれば当然だ。レユニオンも無から湧いて出てくるわけじゃない。こうやって街中に潜伏してたんだ。

 でもまさか、ファウストとメフィストがこんな所に居るなんて思わないじゃん……!

 

「こいつ、反射的な筋肉の緊張すら殆ど無く、人形みたいに無抵抗で床に倒れた。アーツはともかく、身体的には完全に素人だ」

「そっか。何かの任務なら、ちゃんと訓練した人を送り込むはずだよね。囮なら逆に姿は隠さないだろうし……」

「多分、俺達が居るとは知らずに、偶然ここに入っただけだろう」

「ただの家出少女って事かな? まあ、本人に聞いてみようか」

 

 メフィストが手を伸ばしてきて、ヴェールとマスクを雑に剥がされる。

 ここだ! 今しかない! すぐに殺されないように、情報を引き出したくなる事を言わないと!

 

「イーノ、サーシャ! 会いたかったぞ──ぎゃっ!?」

 

 メフィストに羽を掴まれてグイッてされた。凄く痛くて背骨まで痺れる。

 お仕置きの時のお兄ちゃん、ちゃんと加減してくれてたんだ。

 

「……喋っていいなんて言ってないよ。僕達が聞いた事にだけ答えて。あと、嘘をついたらその時点で殺すから」

 

 メフィストの冷たい言葉に合わせて、ファウストがクロスボウを私の頭に突き付けてくる。

 しかし原作知識でファウストの優しい所を知っているせいか、それとも怒涛の展開に感情がついて来ないのか、いまいち恐怖は湧いてこない。心臓だけが勝手に暴れている。

 

「君は誰? どこから来たの?」

 

 素直に答えるだけじゃ流されてしまう。なんとかこっちのペースに持ち込んで、逃げるまでの道筋を作らないと……

 大丈夫、できる、やれる! がんばる! なんとかなる!

 

「わ、わらわは弔鐘の王庭の姫である。一族の許可無き者がわらわの名を唱えれば呪いを受けるゆえ、真名は明かせぬが、呼び名が必要ならばショコラと呼ぶが良い。カズデルの荒野を越え、バンシーの河谷より遥々参った」

 

 情報量で攻めつつ、ウルサスとは無関係だとアピール。偽名は黒百合(チョコレートリリー)から取った。

 メフィストとファウストは困惑したように顔を見合わせる。

 そ、そっちが聞いたんだからね! ちゃんと答えたから痛いことしないで!

 

「んー……まあいいや、順番に行こうか。チョーショーの王庭って何?」

「サルカズ十王庭がひとつ、バンシーの王庭だ」

「……お前はサルカズなのか?」

「左様。わらわのこの角を見るが良──ぎゃっ! やめ……あうう……」

「ふーん、飾りじゃなさそうだね。魔族って事は、君も感染者なんだ」

 

 メフィストの態度がいくらか軟化する。サルカズイコール感染者の偏見に今は感謝。

 でも角をぐりぐりしないで……痛い……

 

「バンシーの河谷というのはどこだ?」

「ここより遥か南、カズデルの秘境である」

「……確かにこの子、ウルサス語には慣れてない感じだよね?」

「ああ、顔立ちもウルサス人とは違うようだ。王庭とやらの真偽は分からないが、姫ならこの身形も納得が行く。一旦信じる事にしよう」

 

 良かった、このドレスはちゃんとお姫様に見えるらしい。頑張って作った甲斐が有った。

 できればこのドレスを破損させずにここを切り抜けられるといいんだけど……

 

「何故俺達の名前を知っている?」

「わらわはサイクロプスの血を引いておるゆえ、時折未来を見通す事が有る。その中でイーノとサーシャ、そなたらを視たのだ」

「サイクロプス……?」

「十王庭のひとつである」

「未来なんて見えるわけない。嘘つくなって言ったよね?」

「うぐっ……!」

 

 羽をグニュッてされる。痛い痛い! 折れちゃう!

 

「……メフィスト、俺達はサルカズの部隊とも行動する事になる。こいつがサルカズの姫なら、傷付けると後で面倒な事になるかもしれない」

「ファウストがそう言うならやめておくよ」

 

 メフィストの手が離れていく。ありがとうファウスト。

 うう、羽が曲がってる気がする……

 でも痛いだけだ。大丈夫大丈夫大丈夫。羽が取れても死なない! 平気!

 

「し、信じられぬのなら、パトリオットに訊ねるがよい。あやつはウェンディゴの王庭に属する者。わらわの笛には我が王庭の紋章が刻まれておるゆえ、パトリオットに見せれば、彼がわらわの身元を保証するであろう」

 

 骨笛は後で使いたかったんだけど、手放してでもここを乗り切らないと……

 メフィストはパトリオットの名にちょっと嫌な顔をしつつ、私の荷物を漁る。

 私の骨笛はアエファニルのものよりずっと小さいものの、それでも長さのある物体だから、ウエストポーチではサイズがギリギリ。

 ひ、引っ掛かってる! もっと優しく! ちゃんとケースに入れてくれば良かった……!

 

「笛ってこれ? ふーん……」

 

 あんまり興味無いのか、メフィストは紋章を確認すると骨笛を床に置き、ガサゴソと荷物の確認を続ける。

 よ、良かった、壊れてはないっぽい。

 

「ねえ、未来が視えるんだよね? じゃあ、僕達がこれから何をするのか知ってるよね?」

「戦いを仕掛けるのであろう。まずはチェルノボーグを落とし、次は龍門へ。その次までは視えてはおらぬが……」

「……本当に知ってるんだ。それなら、どうしてこんな時に僕らに会いに来たの?」

 

 あっ、さっき咄嗟に「会いたかった」って言っちゃったから、私は何か用が有って自分からここに来た事になるのか!?

 動揺を表に出さないように気を付ける。前に全部顔に出てるってお兄ちゃんに言われたから、部屋でちょっと特訓しておいたけど、上手くできてるかな……

 実際はファウストの言う通り偶然なんだけど、今更言えるわけないし……

 

「君自身はすっごく弱いみたいだし、姫だっていうのに手勢も連れてなくて、手持ちの物資も少しだけ。僕らに加勢しに来たわけじゃないよね。危険に巻き込まれるかもしれないこの時に、僕らに会って、何をしたかったの?」

「時期に関しては、わらわが家を抜け出す事が叶ったのが今日であっただけだ。そこに意図は無い」

「本当に家出少女だったんだ。それで、目的は?」

 

 どうしよう、理由として挙げられそうなものが一つしか思い浮かばない。

 地雷の可能性も高いけど、黙ってても怪しまれる。

 一か八か、言うしかない!

 

「わらわはイーノに……イーノの歌を聴きたく、ここまで来たのだ」

「は?」

 

 黙ってた方がマシだったかもしれない。君そんなに低い声出るんだね……

 あの……できれば痛いのはやめて……

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