挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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一章はほのぼの幼少期編、6話構成の予定です


一章 男児アエファニル
1-1 男児を台車に会わせるな。


 「転生したアークナイツプレイヤー」ではなく「前世の記憶を持つテラ現地人」として生きると決めて、多少気が楽になった。

 どっちにしろ原作知識が頭から消えるわけじゃないけど、何事も気の持ちようだ。

 私はバンシーのシャロン。ちょっと生まれる前の記憶があるだけの、ただのモブバンシーである。

 

 バンシーとしてアエファニルの事を考えるのなら……やっぱり、ロドスへ向かわせるべきなのだろう。

 テラの色々ヤバいアレとかソレとかにロドスは立ち向かっていくわけで、仮にロゴス大先生という強カードを抜かれた場合、ロドスはどこまでやれるのか。

 ロゴス先生の功績、ぱっと思いつくだけでもロスモンティスの暴走を抑えたり、アーミヤと一緒にドゥカレをポイしたり、ネツァレムを足止めしたり……

 うん、ロゴス先生がロドスに居ないとテラが滅ぶなこれ。

 アエファニル本人の鉱石病治療的にもロドスしか無いだろうし、スツール滑走大会もさせてあげたいし。

 よし、原作から外れそうな時だけ介入する感じでいこう。

 

 ともかく今の私のやるべき事は、一般年少バンシーとしてアエファニルと遊びつつ、二人で健やかに成長する事である。

 

 

 

 

 私は二歳になった。

 誕生祝いにアエファニルからハガネガニの殻の欠片を貰った。よく磨かれてピカピカだ。

 余談だがオリジムシ人形は一歳の誕生日プレゼントだったらしい。あれから一年経ったのか。

 

「これは我の宝だ。シャロンへ譲ろう」

「よいのか? だいじな品であろう?」

「我は既に十分楽しんだ。良き物は分け与えるべきである」

 

 なんていい子なんだ……正直いるかいらないかで言えばいらないんだけど、アエファニルの優しさが形になったものだと思って大切にしよう。

 

 そしてこの頃、ミニ台車にぬいぐるみを乗せるだけでは満足できなくなったアエファニルは、車輪の付いたオリジムシの模型──要はミニカー的なものを開発していた。

 

「シャロン、気に入ったか?」

「うむ! びんしょうであるな!」

「車輪と軸を改良し、より安定した走行が可能となったのだ」

 

 最初は部屋の床で走らせまくっていたのだが、どこまで走るのか気になったアエファニルが廊下に進出。端から端まで走らせようとして、危うくお姉様が踏みかける事故が発生。

 これを重く見たかそれとも好機と捉えたか、彼はついに屋外にコースを作り始め、坂を設けて手を離すだけで走るようにした。

 直線をしばらく走ったらUターンしてスタート地点の方向へ戻って来るだけの簡単なコース。

 しかしコースに使った木材の処理が甘く摩擦が強い上、ミニカー本体が壁に引っかかりやすい形状をしているため、カーブで失速してしまい上手く終点まで走って来れなかった。

 

「アエファニル、よこにも車輪をつけてはどうだ?」

「ふむ、さあらば壁に触れても前進できそうだ」

 

 前世で見かけた車型のおもちゃにはそういうパーツが有ったように思う。だから私は何気なく提案してしまった。

 後から思えば黙っているべきだった。

 アエファニルなら自力で同じ答えに辿り着いたかもしれないが、とにかく、それが多少上手く行って、彼は滑走の魅力に取り憑かれてしまった。

 

「シャロン、これなら行けるぞ! うぬの助言の賜物だ。改良すれば更に敏捷になるに違いない」

「う、うむ。それはよかった」

「我はこれをテラで最速のオリジムシにするぞ」

 

 そののめり込み様に一抹の不安を感じたが、楽しそうなアエファニルに水を差すのも憚られて私は見守る事を選択した。

 車体に車輪が足され、コースも摩擦を減らすため磨かれ、スムーズに走れるようになると今度はコースが複雑化していき、ジャンプ台まで追加され、気付けばスタート地点の高さと坂の角度は最初よりかなり大きくなっている。

 

 コースは私が住んでいる家の向かいの空き地に作られている。

 つまりタイミングによっては、お姉様が家に食料などの荷物を運び込むのに居合わせる。

 しかもこの頃には、お姉様方も私とアエファニルがここで遊ぶ事に慣れていて、見守りが随分緩くなっていた。完全に二人きりになる事もある。

 

 ある日お姉様が荷物を乗せた台車を家の前に停めた。運び込まれていく荷物。

 アエファニルの視線の先には、空っぽになった台車。

 この後すぐに片付けるのであろう台車。

 アエファニルの行動は早かった。

 

「シャロン、声を出すでないぞ!」

「ぎゃー!?」

 

 彼は私をひょいと抱き上げて駆け出し、台車に座らせる。

 そして台車の後ろに回って持ち手を掴んで──

 

「アエファニル!!! やめよ!!!」

 

 お姉様に気付かれたが、アエファニルは止まらない。

 私を乗せた台車を走って押して加速して、自分も飛び乗る。

 地面が丁度良くなだらかな坂に変わって、押さなくても台車は滑走し続ける。

 

「どうだシャロン! 爽快であろう!」

「いやー! おそろしい!」

 

 そこまで高速というわけじゃないけど、地面に近いのと振動が怖い!

 お尻から響く振動がダイレクトに体内を揺さぶってくる!

 しかしお姉様が呪文をかけたらしく、徐々に失速して停止。

 すぐに追い付いてきたお姉様は私の無事を確認すると、アエファニルから遠ざけるように抱き上げる。

 

「アエファニル! シャロンが怪我をしたらどうする!」

「我は障害物の存在しない方向を選んだ。シャロンに危険は無い」

「恐怖しておっただろう! 逃れようと動けば転落しておった!」

「む……」

 

 あの大人しかったアエファニルが、今は盗んだ台車で滑走した上にお姉様に口答えしている。同一人物とは思えない。

 思えば私が誘導してドタバタさせたり、私が寝込んだせいで木登りからのジャンプをかましたり、私が原因で滑走に目覚めさせてしまったり……

 私のせいで、彼の中の悪い男児を解き放ってしまったようだ……

 アエファニルラブのお姉様だって本当は叱ったりしたくないはず……

 

「すまぬ……わらわが……とめておれば……」

 

 滑走の余韻で震える声のまま言えば、お姉様の勢いが削がれる。

 アエファニルも反省したのか、羽をぺたんと伏せた。

 

「……シャロン、姉上、すまぬ。次はより安全な空間を確保し、シャロンが落ちぬよう手押し車にも工夫を──」

「アエファニルッ!!!」

 

 落ち着きかけていたお姉様が再沸騰する。

 この男児を止めねばならない。私は固く決意した。

 

 

 

 

 私は三歳になった。

 アエファニルからの誕生祝いは、塗装済みのミニオリジムシカーセットだった。兄弟みたいで可愛い。

 

「オリジムシが三匹も!」

「それぞれ性能も異なるのだ。黄は素早く、赤は不規則に動き、紫は坂を登ることができる」

 

 アエファニルのミニカー製作技術はまた進化したようだ。

 しかし誕生祝いにはオリジムシとハガネガニが交互に来ているな。来年はハガネガニかな?

 

 そしてこの時期、進展が有った。

 アエファニルは積み木もおままごとも人形遊びもかくれんぼもお絵描きも輪投げも付き合ってくれるものの、あくまで私に合わせてくれているだけで、心から楽しんでいる様子ではなかった。羽獣ブーンにも飽きたようだ。

 だが私はついに、男児を惹き付ける安全な遊びを発見した。

 

 アエファニルに木の枝を六角柱にしてもらい、各面に番号を振って棒状のサイコロにする。

 そして紙に六つの効果を書いておき、サイコロでどれが発動するか決める。

 バトル鉛筆もどきである。

 

 オリジムシ人形やハガネガニ模型を配置し、その前に小石を並べる。プレイヤーにも小石を分配。

 この小石を体力として、攻撃が当たった判定が発生したら減らしていく。

 最初は技自体をサイコロで決めていたが、出したい技が出ないともどかしいので、技は自由に選択して命中したかどうかをサイコロで判定するようになった。

 攻撃力が高い技は当たりにくく、低い技は当たりやすく。技によってはクリティカルや敵のカウンターも候補に入れる。

 

 アエファニルはこれに熱中し、自分で追加のルールを考えてきたり、ストーリー仕立てにし始めたりした。

 気付けばバトル鉛筆というよりTRPGだ。

 

「きゃー、たすけてくれー!」

「今行くぞシャロン!」

 

 私を囲むようにぬいぐるみ五体を敵として配置、ただし体力と攻撃力は低めに設定。アエファニルが考案した、囚われのシャロンと戦士アエファニルシナリオである。

 なお敵役は私が動かすので謎の自作自演臭が発生する。

 

「我の古代巫術を喰らうがよい!」

「きゃー! つよい! なんとゆうもうな戦士か!」

 

 ノリノリのアエファニルによって次々と倒されていくぬいぐるみ達。

 私もはしゃいで手を叩いたり、負けたぬいぐるみをひっくり返したり、アエファニルの残り体力に合わせて次の敵の技一覧シートをやや弱いものにこっそりすり替えたりと大忙しだ。

 しかし私の小細工も虚しく、最後に残った駄獣に大技でトドメを刺そうとした戦士アエファニルは、逆にカウンターを食らって倒れてしまった。

 

「我はシャロンを救えなんだ……」

「まだ終わらぬ! わらわは行動しておらぬぞ!」

 

 アエファニルが他の敵を倒してくれたお陰で動けるようになった事にして駄獣に攻撃、駄獣は私に背を向けているので不意打ちを食らわせた事にして私の攻撃力は倍。

 駄獣を倒し、倒れたアエファニルへの手当てが成功するかをサイコロで決める。コロコロコロ。

 

「……すまぬ。わらわはアエファニルをすくえなんだ」

「シャロン……我の分も……生きよ……」

「アエファニル……!」

 

 ばたりと床に倒れ込むアエファニル。私は彼に縋り付いて泣き真似をする。

 この遊びは安全な上に頭を鍛えるのにも繋がりそうだと、お姉様方から高評価を頂いている。あと小芝居が好評。

 

 よし、軌道修正はできたかな。

 ……なんて思っていたのだが、ある日お姉様に連れられ天然のプール的な場所で水遊びをしていたら、アエファニルがダッシュからのジャンプからのバッシャーンを決めて叱られていた。やはり男児。

 バシャバシャ水を掛け合い、水切りで盛り上がり、気付けば水遊びではなく石探しになっていた。

 

 

 

 

 私は四歳になった。

 今年の誕生祝いは手作りの剣と盾(木製・塗装済み)である。いつも通り切っ先や角が丸く削られている安全仕様。

 これはあれだな、バトル鉛筆TRPGを盛り上げるオプションアイテム。

 

「このやいばで悪をうつ! ざしゅー!」

「ぐはっ! まだだ……ゆけ、オリジムシ達よ!」

「盾でふせぐ! がきーん!」

 

 剣を振ったりサイコロを振ったり忙しい。アエファニルもミニオリジムシカーを並べたりサイコロを振ったり忙しい。でもなんかそれ込みで楽しい。

 最近のアエファニルは敵役をやるのがお気に入りらしい。取り巻きを召喚するタイプのボスを演じ、ノリノリで斬られてくれる。

 逆に斬る側になるのは非常に抵抗があるようで、一度戦士アエファニルに剣を持たせて私が敵役をやったのだが、最初はやる気だったはずの彼は私に一撃入れると狼狽え始め、あの手この手で和平交渉を試み、戦いを避けられないと知ると剣で自害していた。

 自害の概念どこで覚えたんだろう。

 

 そして後日、アエファニルは彼の家(つまり宮殿)の空中庭園へ私を招待した。河谷を一望できる絶景ポイントだ。

 

「あなにえや……! なんとうつくしい!」

 

 雄大な谷の中で金色の木々と清流がきらきら光っている。

 いつも見ている下からの景色も美しいけど、上から見るとどこまでも続く輝きに圧倒された。なんだか風まで煌めいて見えるような気がする。

 私の反応にアエファニルも満足気だ。

 

「シャロン。我は修練を重ね、浮遊する事が可能となった」

 

 アエファニルの体が宙に浮かぶ。スキル3の時のやつ!

 実際に見ると感動する……んだけど、嫌な予感がしてきたぞ?

 彼は浮かんだまま私へ両腕を伸ばして近付いてくる。

 

「我に掴まれ。あの景色の中へ共に飛び込──」

「やめよアエファニル!!!」

 

 どこに隠れていたのか、アエファニルが言い終わるよりも早くお姉様方が飛び出してきて、呪文でアエファニルを拘束した。

 流石に危険だったらしく、「アエファニルがそうしたいなら」で何かと見逃される彼も今回ばかりは謹慎させられ、一週間私の前に姿を見せなかった。

 

 謹慎明けの彼は「もう会えぬかと思うた」と私を抱き締め、再会を噛み締めていた。子供にとっての一週間って永遠だよね。

 そして余程寂しかったのか、帰り際に私を連れて帰ろうとするようになった。今の所はラケラマリン様やお姉様たちに却下されている。

 ちょっと懐かれすぎてしまった気がしなくもない。

 シャロンが行かないならカズデル行かないとか言い出したらどうしよう……




この裏でモジュールの夜の冒険もやってます
妹分にいい所を見せたくて修練のモチベが更に上がってるかも
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