技術偵察兵が背負う、大きな箱型の装置。これが探知機のようだ。
Scoutはもうチェックを済ませたそうで、付近に私達以外の反応は無かったらしい。
とりあえずScoutを一応治療しておく。
「見張り台にしては見通しが悪いし、下が拠点というわけでも無さそうだ。サボってたのかもな」
確かにこの屋上は周囲の建物より低いから、見通しが悪いっていうか、無いっていうか。
任務でここに待機するのはちょっと意図が分からないから、秘密基地的な感じだったのかも。仮面も外してるし。
休憩を兼ねて、使えそうなものを探して拝借する事になった。
Scoutは技術偵察兵から探知機を外したり、他の装備を確認したりし始めた。
私とミミは微妙に散らかってる床をチェック。雑誌とお菓子っぽい。
「……これ、エロ本ですね……」
「チュロスには見せるな。ロゴスがうるさい」
「はい」
ミミがエロ本に別の雑誌を乗せて隠す。サボり説が補強されたな……
そういえば、レユニオンの多くは規律を守っていない的な話が原作のどこかに有ったような。
レユニオン構成員の殆どは、感染者として迫害されていただけの一般人。勝利の興奮で気が緩む人も居るんだろう。
あれ? なんか見覚えの有るカラフルな箱が……ピョートルフルーツキャンディー? 統合戦略の秘宝のやつだっけ。まさかこんな所で出会うとは。
ミミもキャンディーなら食べられるかな? 箱から出して、Scoutを手伝い始めた彼女に渡しておく。Scoutのポケットにも勝手に入れる。
キャンディーの残りや未開封のスナック菓子をリュックに仕舞いながら、レユニオン構成員の死体を横目に見る。
Scoutは私達の安全のために彼らを殺した。本来死なずに済んだはずの人達。
私が来た事で、死ぬはずだった人が生きて、生きるはずの人が死んだ。
倒したのはScout。でも、私が殺したようなものだ。
それで今、私がリュックに詰めたのは彼らの物資で……
……これ、いわゆる略奪っていうやつなのかな。
彼らも店とかから奪って来たんだろうけど、だからと言って私のした事が消えるわけじゃない。
やっぱり貰うのはやめる? でも、彼らの最大の財産を奪っておきながら、お菓子如きで遠慮するのも逆に失礼なような。この後装備も使うんだろうし。
よく分からなくなってきた。
やめよう。今は生きてロドスに帰る事だけ考えよう。
死体から目を逸らしてリュックの蓋を閉じた。
「……ミミ、この服は術師だったよな?」
「はい。間違いありません」
「アーツユニットが見当たらない。まさか、体内の源石を媒介にアーツを使ってるのか?」
「そんな事をしたら、あっという間に鉱石病が進行してしまいます……!」
アーツユニット無しで術師をやるなんて自殺行為だ。
思わず振り向くと、Scoutが不思議そうに傍らの探知機を撫でている。
「こんな探知機、非感染者でも簡単には入手できないはずだが、サボるような奴に持たせてる辺り、他にも何台も有るんだろうな。それだけのツテが有りながら、アーツユニットは持たせていない……」
「レユニオンは利用されているのでしょうか? 政敵を潰して感染者も使い潰す、とか……? いえ、でも……」
「ああ、移動都市を天災に遭わせる意図が分からない。損失が大き過ぎるし、潰す以上の感染者が生まれてしまう。……そういえばミミには話しそびれてたな。チュロスは未来が視えるらしい」
「えっ!?」
「チュロス、今回の件について何か知ってるか? 話せないなら無理には聞かないが」
二人が作業の手を止めてこちらを見る。
言うべきか、言うべきでないのか。そんな迷いが浮かびかけて、形になる前に霧散していく。
Scoutは聞きたがって、私は言いたくなくて、でも吐き出してしまいたかった。
……どの道後で分かる事だ。今伝えてしまっても問題無いはず。
私も二人の近くへ行き、床に座って視線の高さを合わせる。
「……レユニオンの背後に居るものは、戦を起こしたいのだ。チェルノボーグを陥落させたのは、その準備に過ぎぬ」
声色を偽る事には慣れてしまった。恐ろしいのに、声はちっとも震えなかった。
タルラはチェルノボーグを暴走させて龍門へ突撃する。
龍門が防衛のためにチェルノボーグを攻撃すれば、ウルサス領土への攻撃とみなされ開戦の口実とされる。しかし攻撃しなければ衝突により龍門は壊滅する。龍門に選択肢は無い。
そんな悍ましい計画のために、この都市は犠牲になった。私は知っていて見過ごした。
「ウルサスと炎国の開戦を防ぐためにも、ロドスの未来のためにも、ドクターの存在は必要不可欠だ。……ゆえにわらわは救出作戦の流れを変える事を恐れ、そなたらが死に瀕すると知りながら──」
言い終わる前に、ミミが優しく抱き締めてくれる。
懐かしい感じがした。テレジアの死の後、私が未来を視ていたと知ったラケラマリン様も、こうしてくれた。
「チュロスちゃん、ありがとう。歌を聴かせてくれたあの時、きっと本当は『行かないで』って言いたかったんだよね。行かせてくれて、ありがとう」
「助けてくれて」、じゃなくて、「行かせてくれて」。
彼らは事前に死の未来を知ったとしても、自らチェルノボーグへ向かう──アエファニルがそう言っていた事を思い出した。
「隊員達の死が自分のせいだなんて思うなよ。俺が命じて彼らは同意した、それだけだ。元より危険は承知の上だしな」
「……わらわが早期に打ち明けておれば、皆で対策を練る事ができた」
「物事ってのは複雑に絡み合ってるもんだ。今回の作戦に注力し過ぎれば、一見無関係の別の所で躓くかもしれない。あんたもそれを分かってるから、一人でここまで来たんだろう?」
Scoutは軽く流して、私から視線を外して死体を探る作業に戻る。
慣れた手付きだ。だけど決して雑では無い。そこには死者への敬意が有る。
このレユニオン構成員達は、倒して嬉しい敵キャラや、叩けば開く宝箱ではないのだ。
「困難な作戦を乗り越えるだけなら、もっとエリートオペレーターを動員すればいい。それこそロゴスなら、一人でチェルノボーグの警備を突破できるだろうし、レユニオンの幹部連中も全員倒せるかもな。だが、ロドスが考慮すべき事は戦闘だけに留まらない」
Scoutは術師のポケットから出てきたタバコの箱をそっと元に戻し、ライターだけを回収する。
「ロゴスは隠密に長けてるが、それでも戦場で全てを隠すのは難しい。あいつの戦い方は想像を越える。目撃したのが一般人なら恐怖からロドスへ不信感を抱くかもしれないし、お偉方ならロドスごと危険視されかねない。あいつは極力市街戦に出すべきじゃないんだ。戦争したがりの黒幕に目を付けられる可能性も考えると、未来を知っていたとしても、あまり編成は変えられなかっただろうな」
ヴィクトリア編でロゴス先生が当初バンシーとして参戦していたのは、そういう理由も有ったのだろうか。
……お兄ちゃんが今回参戦しようとしてたの、止めて正解だったのかも。でも、その正解の先が、今だ。Scout隊で救えたのはたった二人。Ace隊の状況はまだ分からない。
正解って言いたくない。失敗とも言いたくない。
「あんたの動きも含めて、今の流れが最善だった。俺はそう思うぜ」
「……うむ。感謝する、Scout、ミミ」
最善。優しい響きだ。正解よりも失敗よりも、ほんの少しだけ飲み込みやすい。
……まただ。私が助けに来たはずなのに、私の方が気を遣われている。私こそしっかりしなきゃ。
ぎゅっとしてくれるミミの腕から抜け出して、私も剣士の懐を調べる。ミミもScoutの手伝いに戻った。
剣士の内ポケットからは、くしゃくしゃの家族写真が出てきた。
シワを伸ばそうとしたら破れてしまって、私は誤魔化すようにそれを畳んで、元の場所へ戻した。
調べ終わった三つの死体を丁寧に寝かせる。
レユニオンだと分かる上着は脱がしたから、知らない人には一般市民が倒れてるように見えるかもしれない。
……一般市民として生活したかったはずの人達。たったそれだけの事が許されなかった人達。感染者というだけで、迫害されてきた人達。
ロドスは、私達は、感染者を救おうとしている。でも、彼らの事は救えなかった。
「チュロス、この服の汚れを落とせるか?」
「これを着用してレユニオンに成りすますのだな。承知した」
血に汚れた上着を綺麗にして、それぞれ装備。
Scoutは剣士。ミミは技術偵察兵に扮して探知機を背負う。探知機には軽量化リボンを巻いておいた。
私は比較的ゆったりしている術師の上着を羽織る。そもそも私にはサイズが大きい事もあり、マリヤごとすっぽり入った。裾はそのままだと引きずるから、Scoutが剣で切ってくれた。
仮面も装着。これで不意に敵と遭遇しても誤魔化せるかもしれない。
立ち去る前に、三つの遺体に手を合わせる。前世の黙祷の作法。
半分無意識の行動だった。勝手に動き始めた体を認識して、私はそれに抗わなかった。
……こんなのは、ただの私の自己満足だ。無意味な行動だ。
だけどこの行為が無意味なら、私の罪悪感もまた、無意味なのだろうか?
無意味な罪悪感を抱く心は、その心を持つ私は、無意味な存在なのだろうか?
分からなくなってきた。
やめよう。早くAceの所へ行こう。
・
呪文を掛け直して、探知機を使いながらAceの居る場所を目指す。
レユニオンの見回りは少々杜撰なようだ。エリアの境目に設定されていそうな大通りが有るのだが、そのラインに沿って動いている様子のサルカズ傭兵に対し、レユニオンはそもそも大通りに近寄ろうとしない。
練度や意識の低さと、魔族への忌避感も有るだろうというのがScoutの見解だ。
その警備の隙間のお陰で、敵には遭遇せずに通過できた。……サボっているらしき反応はいくつか有ったが。
やがて探知機に、これまでとは明らかに違う反応が映り始める。
統率の取れた動き。最小の人数を効果的に配置した警備網。
パトリオットの遊撃隊の管轄エリアに入ったようだ。
広さに対して人員が足りていないのはどこも同じだが、遊撃隊は更に少ない。
原作では生き残った市民を探して保護していたはずだから、そちらに手を割いているのだろう。
警備網も敵を見付けるというよりは、市民がより危険な他のエリアに出ないように立ち塞がっているように見えた。
Ace隊とタルラが戦った場所は、一目見てそれだと分かった。
私はその光景を言い表す言葉を持たなかった。
「地獄」とか「絶望」とか、そんな陳腐な言葉に当て嵌められるものじゃなかった。
だからこそ、その言葉が陳腐な理由を知った気がした。
人々は言葉にならない出来事に遭った時、それでも黙っていられずに、それらの言葉で代用してきたのだ。
ならばこの場所は、やはり地獄と呼ぶべきなのかもしれない。
全ては融けるか、灰か炭と化していた。冬を塗り潰す熱気がまだ残っている。
ここは元から広場だったのだろうか? それとも、ここに有ったものを燃やし尽くして広場が生まれたのだろうか?
あらゆるものが焦げた臭いが混ざり合って、その濃密な不快感に頭がぐらぐらする。
広場まるごと遮音するわけにはいかない。やればできるけど、他の人に範囲に入られたら意味が無い。離れても意思疎通できるように簡単なハンドサインを決めて、散開してAce隊を探す。
お守りの反応に近付こうとした時、瓦礫に混ざっている重装オペレーターに気が付いた。焼け焦げた風景に同化してしまっていて、偶然近くを通らなければ分からなかった。
融けた鎧に閉じ込められた彼は、既に事切れている。
お守りの場所に辿り着く。地面に倒れたオペレーター。
私の作ったお守りは、彼女に幸運を齎さなかった。
Scoutが見付けた隊員の所へ行く。
マスクが破損して、気道と肺が焼けていた。
躊躇いがちに手を挙げるミミの所へ行く。
彼女の指差す先には、源石粉塵にまみれた装備だけが落ちている。
そうやって、一人ずつ生死を確認した。
生存者は四人。
Aceは盾の上にうつ伏せに倒れ込んでいた。……最後まで前進し続けたんだ。
仕込んだ自動包帯に意味は無かった。想定通りにきちんと巻き付いているけれど、焼け焦げた傷口からは血なんて出ない。
そして失ったのは片腕だけじゃない。片脚も膝から下が無い。柔軟だった蛇の尾は焦げて縮んで、黒い棒切れと化している。
ケルグは両肘の先が無かった。千切れた前腕が、融解した彼の武器らしきものと一緒に落ちていた。自慢の髪は全部焼け落ちて、まるで黒いマネキンみたいだ。
セブンティーンは尖った瓦礫の上に倒れ込んだようで、肩の骨が砕けている。少し位置が違えば頭か心臓が潰れていた。
小柄なビーンは一番火傷がひどい。大きな耳も細い尻尾も焼け落ちて、見た目からは彼がザラックだなんて分からない。人の形をした黒コゲの塊。
四人とも、まだ生きてる。呼吸はしてる。心臓も動いてる。
でも、それだけだ。
必死に応急処置をしていると、違和感に気付く。耐火布自体は思ったより破損してない。
なのにAceの分だけ、内に仕込んだ呪文リボンと、その周辺だけが綺麗に焼け落ちている。
捨て置かれた。タルラは小細工に気付いた上で、死のうが生き残ろうがどうでもいいと、この場を去った。
原作でもそうだった。彼女は何が何でも殺すという姿勢ではなかった。それを想定しての作戦だった。
だから、作戦通りだ。上手く行ったのだ。
なのにどうして、こんなに悔しいんだろう。
「……チュロス、Aceは介錯してやるべきだ」
Scoutがさっきレユニオンから奪った剣を抜く。
私は殆ど反射的にAceに覆い被さった。嫌だ。絶対に嫌だ!
Aceを殺すのも、Scoutにそんな事をさせるのも嫌だ!
「ならぬ!」
「だが、俺達にこの巨体は運べない。置き去りにすれば苦痛を引き延ばすだけだ」
「わらわが背負う!」
「おい、何言って──」
ウエストポーチから軽量化のリボンを束で出す。皆に巻こうと思って沢山持ってきたから、沢山余ってる。
Aceの残った手足と胴体にいくつも巻き付けて、頭もハチマキみたいにして、それでも重いけど、なんとかハーネスを装着させる。
私がAceを背負って、もう一人抱えれば──
「その子供はどうするんだ」
小さな重みが背中で揺れる。そうだ、マリヤ。置いてはいけない。
私とScoutとミミの三人で、意識の無い五人を運ばないといけない。
重傷者を背負ってもう一人抱っこもすれば、動きが制限され過ぎて重量以上の負荷がかかってしまう。
負傷者のScoutとミミは、それぞれ一人運ぶのが限界だろう。私が二人運んで、これで四人で、あと一人、あと一人、あと一人──
空回りする思考。しかしそれは、広場の外から重い足音が近付いてきた事で断ち切られた。
──いや、これは足音じゃない。鎧の擦れる音だ。
視線が音の方へ、広場の入口へ吸い寄せられる。
まだ姿は見えない。今のうちに、呪術でAce達を隠すべきだったのかもしれない。でも、動く必要は無いという直感が有った。
それとも、ただの私の願望だろうか?
「チュロス、一度ここを離れ──チュロス?」
「……問題無い。おそらく彼は、我らを傷付けぬ」
音の主が姿を見せる。
その姿は想像以上に巨大で、その手に持つ盾と矛もまた、異様な大きさだった。
古木のようなねじれた角、獣の頭蓋骨に似た兜。
知らなければ、人ではなく怪物だと思っただろう。
戦神の愛弟子、ウルサスの英雄、レユニオンの背骨。──パトリオット。
彼は広場を見渡すと、ゆっくりとこちらまで歩いてくる。
敵意は感じない。なのにただ近付いてくるだけで圧倒される。
視線は合わない。高すぎる視点は、私の頭を軽々と飛び越えている。彼は私のことが見えていない。
「バンシーの、姫よ。そこに居る、のか?」
今はAceの周囲に生存者を集めてあるから、私達が来る前に一度この現場を見ていたのなら、変化から近くに誰か居るのは察しが付く。
原作のパトリオットはScoutの死に様を知っていた。つまり、あの場で起きた事を見ていた。第三者である彼の視点なら、私の目的は最初からロドスを助ける事で、ここにも生存者の回収に来たのだと気付いてもおかしくない。
彼は私がここに居ると確信を持っている。疑問形なのは、「姿を見せる気は有るか」と聞いているのだろう。
「伏兵はおるか?」
「いや、彼一人だ」
「探知機にも不審な反応は無いよ」
遮音して内緒話。Scoutとミミが手早く索敵してくれる。
「対話してくる」
このままパトリオットが去るのを待つ手も有る。だけど声を掛けてきたからには、何か有るのだ。もしかしたらそれは、現状を打開する鍵となるかもしれない。
術師の服を脱いでScoutに押し付け、自分だけ隠形を解いて姿を見せる。
緊張はする。でも怖くはない。パトリオットの目の前は、今のチェルノボーグで最も安全な場所だ。敵対さえしなければ。
兜越しの紅い目が私を捉える。
彼の視線に、今までで一番丁寧な淑女の礼を返す。おそらく彼は礼儀作法などさして気にしないが、それでも自然と敬意を表したくなった。
「お初にお目に掛かる、最後の純血のウェンディゴよ。申し訳無いが、わらわは兄上の許可が無くば名乗ることができぬ。どうか不敬を許して欲しい」
「構わない。私の方こそ、君の行動を、邪魔して、すまない。……君は、戦士では、ないな。だが、仲間を救うべく、傭兵達の前に、その身を晒し、やり遂げた」
サルカズ傭兵は騙せても、パトリオットには通用しなかったようだ。気のせいでなければ、彼の声には感心したような響きが有る。
……というか、今更だけど声も届いていたって事だよね。私、最後のあれにパトリオットを巻き込んだのか……?
「そして、誰も、傷付けなかった。酸素を操る、あのアーツなら、殺す事も容易、だったはずだ」
「殺しは好かぬ。それに隠れた市民がおれば、巻き込んでしまうのでな」
「その時は、君が市民を、殺す前に、私が君を、殺さなければ、ならなかった。君の慈悲は、君自身を守った」
危なかった。ヤケクソで昏倒レベルの酸素濃度にしなくて良かった。
ヴェール越しにこっそり彼の手元を見る。私では単に持ち上げる事すら難しそうな、長大な矛。……やっぱり投げ付けるんだろうか。絶対に投擲用ではないと思うのだが。
これを飛ばすだけでも人外の所業なのに、命中させるんだから恐ろしい。ウェンディゴが十王庭に数えられるのも分かるというもの。
最も、彼自身は王庭として振る舞う事は無いだろう。
「あの狙撃手も、共に居るのか?」
「左様」
「ならばこれを、返しておこう」
そう言ってパトリオットが差し出したのは、黒い筒状のもの。
これは……もしかして、Scoutの狙撃スコープ?
「あの部隊の、サルカズでは、使いこなせ、なかった、ようだ」
狙撃は長距離になればなるほど難しくなる。スコープで見えていても、弾道の計算ができなければ意味が無い。できたとして、その通りに撃つ技量が無ければ当たらない。
試しに使って、邪魔だと捨てられたのだろうか。レンズは高価だと聞いた気がするから、回収できて良かったかも。
パトリオットの大きな手の上ではオモチャのようだったそれは、持ってみると意外と重い。
「彼に代わり感謝する。……ロドスとレユニオンは敵対した。わらわを捕えぬのか?」
「この場での、戦いは、既に終わった。……あの廃墟にも、ロドスの戦士が、居る。連れて行くと、いい」
Guardの存在も既にバレているらしい。原作ではGuardが目覚めて動き出した事で気付いたのかと思ってたけど、意識が無い所を見付けた上で、そのままにしてくれたのか。
現時点でのパトリオットは、本当にロドスに敵意は無いんだな。
「それはできぬ。あの者にはまだ、チェルノボーグで成すべき事が有るゆえ」
「そうか。構わない。君達の行動は、君達が、決めるものだ」
パトリオットは私に背を向けて、来た道を戻っていく。来た時と同じように、ゆっくりと。
「南へ向かえ。この先に、君の呪術を、看破できる者は、居ない」
彼は広場の入口に戻ると、番人のようにそこに立った。
随分離れたというのに、その背はちっとも小さくなった気がしない。
……彼に心酔した原作のGuardの気持ちが、少し分かったような気がした。
隠行の呪文をかけ直す。
パトリオットと話した事で、頭は冷えた。
ここで駄々を捏ねていても状況は悪くなる一方だ。決断しなければならない。
もしも原作の流れを諦めてGuardを連れて行くなら、人数の問題は解決する。
だけど彼には新生レユニオンの舵取りをして貰わなければならない。
一人の命を諦める。あるいは──