挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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三章の時点では情報が無くて書けなかったけどRaidianやWhitesmithとも交流が有ったという事にしていくのでよろしくお願いします
大先生が河谷に留まってたっていうのも吸収しておきたい…


4-8 つながりの向こう側

「最初に気付いたのはロスモンティスだよ。昨日アーミヤから『チュロスが作戦の事で何か思い詰めてそうだ』って聞いてたから、今日は朝からチュロスと一緒に過ごそうと思ってメッセージを送ったんだけど、全然既読が付かなくていつものアレかーって作業室に見に行ったんだって。そしたら彼女のアーツの力なのかな? 中には居ないって分かったのに、目の前で作業内容の表示が『ビーズ六千個選別中』から『ビーズ六千個縫い付け中』に変化して。不審に思ってエリートオペレーターの権限でロックを解除してみれば、中には置き去りのサーベイランスマシン! それでここからが彼女のファインプレー。慌てず騒がずこっそり、ここが重要! こっそりRaidianさんやMantra隊長に相談したんだって。他の皆にはバレないように捜索したら、君が昨夜デッキに向かったっきり戻ってないしロドスの周辺にも居ない事が分かったから、急いでこっそりケルシー先生に報告。通信できなくなる前で良かったよ。チュロスがチェルノボーグに向かったと判断したケルシー先生は、君の回収と作戦の支援を兼ねて医療チームを送れって指示を出して、僕も君が隠れていても見付けられるだろうからって編成されて、今に至るってわけさ。全く、心配したよ!」

 

 ありがとうエリジウム、ありがとうアーミヤ、ありがとうロスモンティス、ありがとうRaidian、ありがとうMantra、ありがとうケルシー……

 ありがとう駆け付けてくれた皆……ありがとう奪われず壊れず生き残っていたミミの通信機……

 

 通信機のお陰で、ロドスの緊急救援車がこっちに到着するまでの間に、皆の容態を詳しく伝える事ができた。

 マイクが破損してるのか、こちらの声はノイズが酷く聞き取れない部分が多かったらしいが、すぐにミミがモールス信号的な交信に切り替えてくれた。マイクを叩いて、相手にそのリズムを聞き取ってもらうのだ。

 エリジウムが聞き取れた信号を解読して復唱してくれるから肯定したり修正したりしつつ、私の言葉もミミに翻訳してもらって……という感じで、合流した時にはTouch率いる医療チームは準備万端で、即座に皆の治療に入ってくれた。

 

 「ごめん聞き取れない」からミミが通信機をカリカリしだした途端「これなら分かるよ!」ってなった時、ミミもエリジウムも本当にイケメンだなって思った。いやミミは女の人だけど、とにかく魂が震えるくらい格好良かったってこと!

 

 そんなミミは医療オペレーターにセブンティーンを引き渡した途端意識を失ってしまった。状態は安定しているから、疲労が限界だったようだ。

 Scoutの通信機はサルカズ傭兵に奪われてたし、Ace隊の通信機も熱で全滅していた。だからミミが居なかったら、医療チームとの合流はもっと難しくなっていた。

 索敵に集中するScoutと、Aceとビーンを運ぶのに必死な私の間で、一番マリヤの様子を気に掛けてくれていたのも彼女だ。ここまで来れたのはミミのお陰だ。

 

 Scoutはしっかり自分の足で乗車して、輸血が始まってから「悪い、寝る」と宣言して意識を手放した。

 かなり無理をさせてしまったのに、道中のScoutはずっと頼もしいエリートオペレーターだった。凄まじい集中力だ。

 私はScoutの命の恩人ってやつになるのかもしれないけど、そんなの相殺して有り余るくらい、沢山助けてもらった。沢山無茶を言って、その殆どを叶えてくれた。Scoutこそ私の恩人だ。

 

 マリヤと私も鉱石病の簡易検査をして、予防薬を打ってもらった。今は非感染判定だけど、まだ安心はできない。後日また検査する事になるだろう。

 マリヤも歩き疲れて眠っている。まだ小さいのに、文句も言わずによくついてきてくれたと思う。起きたら沢山褒めてあげないと。

 

 

 そして私は医療チームの手伝いをしようとしたら「休んでて」と座席へ流されて、両サイドをエリジウムとアスカロンに挟まれている。右隣からの眼光がすごく怖い。

 

「幸い、お前が抜け出した事を知る者は僅かだ。作業の息抜きに部屋を出たお前は、鉢合わせたTouchに助手として指名され、医療チームの一員として彼らを迎えに来た。そういう事にする」

「……わらわの出奔は無かった事にされるのか?」

「あのねチュロス。君ってロドスのセキュリティにも関わってる超重要人物ロゴスさんの関係者な上、他にもアーミヤや複数のエリートオペレーターとも交流が有るんだよ。そんな君が多数の規則違反を犯して戦場に乗り込んだってなると、ロドス上層部も示しが付かないんだよね。しかも君自身が人気者だから、君への処分がロドス全体の不和に繋がるかもしれない。チュロスが助けなかったらScoutさん達は死んでたけど、善行なら規則違反していいって事にはならないし、かと言って命懸けで仲間を救った人が罰されるのも気分が良くない。絶対に意見が割れる。それ自体は当然だし悪い事じゃないけど、なんていうか、皆ガッカリするだけでメリットが一切無いよね? 秩序を守るための規則なのに、逆にロドスが乱れるっていうか。だから秩序のために今回は隠しちゃおうってわけ。あとついでに、お金を扱う購買部の人が規則違反っていうのも外聞が悪いしね」

 

 た、確かにその辺の影響は考えてなかった。下手したらお兄ちゃんや皆の信用にも傷が付く事になる。

 それに原作の流れを壊さないようにしてたつもりなのに、その足場であるロドスを無駄に荒らしてしまう所だった。

 私がした事って、自分で思ってたよりもずっと軽率だったんだ……

 

 エリジウムの長台詞に、アスカロンが「公表はしないが罰は有るだろう」と付け加える。うん、どんな罰でもちゃんと受けるよ。

 

「さあらば助手らしい装いをした方が良いか? すまぬが何か着るものを……」

「そのままでいい。お前に戦闘能力が無い事は知れ渡っている。堂々と姿を見せれば、着の身着のまま飛び出してきたとは思われても、抜け出してチェルノボーグへ行ったなどとは誰も考えないだろう」

 

 自分を見下ろしてみる。装飾過多な甘々フワフワドレスは、確かに戦場に行く格好ではない。汚れも既に呪文で落としてある。

 そう、呪文が使えるのである。作業室に置いてあったストックの骨筆をエリジウムが持ってきてくれたのだ。イケメンすぎる。

 マリヤに貸していたマスクも返してもらったし、サーベイランスマシンも装着して、来た時と完全に同じ格好だ。

 メフィストによってロープに交換されたリュックの肩紐だけは不自然だが、そもそも私がリュックを背負う事自体がやや不自然だから、車内の他の荷物に紛れ込ませておいて後でこっそり回収すればいいかな。後で相談しておこう。

 

「知るべき者には真実を伝える事になるが、それ以外で勘付いた者が居た場合は、私の部下としての密命だった事にする。もしも問い質されるような事が有れば、『アスカロンに聞け』とだけ言っておけ」

 

 わざわざアスカロンが迎えに来てくれたのはそういう訳か。最初からS.W.E.E.P.の仕事だった事にする、と。

 ……S.W.E.E.P.って暗殺集団じゃなかったっけ? いやでもメンバーがそれっぽいってだけで、具体的な活動内容は知らないかも。隠密全般の担当とか?

 まあトップのアスカロンがアリと判断したなら、私が所属してたとしても変じゃないって事か。

 

「作業室のログも隊長がそれっぽくしてくれてるから、チュロスは話を合わせてね」

「承知した。皆の配慮に感謝する」

「どういたしまして。……でもさ、本音を言えば、僕の方こそ君に感謝してるんだ。一人で飛び出して、七人も助けて、ちゃんと自分も無事で帰ってきたんだから。カッコいいよ」

 

 七人も。七人しか。

 チェルノボーグにはもっと大勢居た。私が連れ出す事ができたのは、ほんの一握り。

 それにAce隊の四人の事は──

 

「それじゃ、そろそろロゴスさんに連絡していい?」

 

 暗い思考に沈みそうになる私の隣で、エリジウムが通信機を用意し始める。

 ロドスを出る前の私は、今回の事、お兄ちゃんになんて言うつもりだったんだろう。

 早くお兄ちゃんと話したいな。でも話したくないな。でもちゃんと話さなきゃ。

 

「……うむ。頼む」

「うん、一緒に乗り越えよう。ちょっと待ってね、増幅器を調整するから」

 

 通信機を弄るエリジウムの手元を眺めながら、アエファニルに何を伝えるべきか考えようとした。

 だけど何だか纏まらなくて、ただぼんやりするだけになる。

 心構えができないまま時間が過ぎて、通信が始まった。

 

「ロゴスさん、今大丈夫? ロゴスさん的に超重大な報告が有るんだけど……そう、チュロスの事。先に言っておくと本人は無事だよ。チュロスが一人でチェルノボーグへ行って、六人のロドスオペレーターと一人の市民を助けて、今は迎えに来た僕達と合流してロドスに帰る所。Touch先生やアスカロンさんも一緒だから安心してね。ただ、今回の事をそのまま公表すると影響が大きいから──」

 

 エリジウムが全部説明してくれる。その声は完全にいつもの調子で、私がした事を言い淀む事も、逆に強調する事も無い。余計な感情が乗っていないお陰か、聞いてると少し落ち着いてくる。

 今の内に、強張っていた手をグーパーして解しておこう。

 

「それで、声を聴きたいよね? 今代わ──え、いい? うん、うん……わかった。じゃあ、気を付けて!」

 

 ……あれ? 通信終わっちゃった?

 エリジウムは沈黙した通信機を手にしたまま、少々緊張した面持ちでこっちを見る。

 

「話すのは帰ってからでいいってさ。忙しそうな感じじゃ無かったんだけど……」

 

 あのアエファニルが、家出した私に何も言わない……?

 疑問に思って少ししてから、「アエファニルなら絶対話したがる」というのは私の勝手な思い込みだと理解する。あるいは、そうあって欲しいという私の願望だったのかもしれない。

 怒ってるかな。……怒ってるよね。

 お兄ちゃんが私を大事にしてくれてるのを知っていて、勝手に危ない事をした。

 私が始めた事なのに、身勝手にも悲しくなってくる。声が聴きたかった自分に気付いて、寂しくなってしまう。

 

 でも、ただ寂しいだけだ。そんな小さな感情、気にするのはやめよう。

 今日は悲しいとか寂しいでは済まない人が沢山生まれた。

 ううん、今日だけじゃない。いつもどこかで苦しんでる人が居る。死んでしまった人も居る。

 Ace隊の事だって、私は助けるつもりで、だけど実際にはただ苦痛を引き延ばしただけなのかもしれない。

 

「ちょっと機材をチェックしてくるね」

 

 エリジウムが席を立つと、空いたそこにTouchが座ってきた。

 治療は一段落ついたみたいだ。

 

「全員一命は取り止めました。あなたの応急処置と情報伝達が的確だったお陰です。エリートオペレーターとしては、あなたを叱るべきなのですが……Pithが一人で三人分は怒るでしょうから、私の分は彼女に譲る事にします。頑張りましたね」

 

 Touchが優しく肩を叩いてきて、涙が溢れてくる。

 もっと頑張りたかった。もっとできる事があるはずだった。

 もっと、もっと私が上手くできていたら。

 もっと早くアエファニルに打ち明けていたら。

 もっと私に力が有ったら。

 

 もっと、もっと、もっと──

 

 

 

 

 私が泣き止んだ所を見計らって飲み物を持ってきてくれたエリジウムはやはりイケメンであった。

 急に眠くなってきたから仮眠も取らせてもらった。起きたらちょっとすっきりしたというか、空虚になった気がする。

 私がどれだけ悔しがっても、現実は変わらない。無意味な感情だから、もういらないのだ。

 

 ロドスに着いた頃には、既に暗くなっていた。

 目覚めたScoutはケルシーに報告すると言って歩こうとして、Touchに車椅子に乗せられてた。

 そのまま治療に連れて行かれそうになってたけど、緊急の報告が有るからと自分で車椅子を動かして逃げていく。エリジウムと医療オペレーターさんが一人ついていったから、多分大丈夫だろう。

 

 私はTouch達と一緒に他の皆を医療部へ搬送する。マリヤは一旦Raidianが預かるとの事で別行動になった。

 色んな人と会うが、誰も私が回収された側だとは思っていないようだ。実際に軽量化の呪術でサポートしている事もあり、完全に医療チームの一人として扱われている。

 そして半人前の私は高度な医療には参加できない。ベテラン医師に引き継いでしまえば、もう私ができる事は無い。

 

 ごく自然に自由になった所で、どこからともなく出てきたアスカロンに連れられてケルシーの執務室へ通される。

 応接セットのソファを勧められて、いつもの対面スタイルで着席。

 ケルシーは普段と変わらないように見えるが、だからこそ何が起こるか分からなくてちょっと緊張する。

 

「まずは……おかえり、チュロス。君が無事で何よりだ」

「う、うむ。ただいま戻った」

「しかし独断でサーベイランスマシンを外し、そのまま無断外出及び無断外泊。回避できる状況にもかかわらず作戦エリアへ侵入し、非戦闘員でありながら敵とオペレーターの前へ飛び出し戦闘行為を妨害。従うべきエリートオペレーターに逆らい、更には本艦での治療基準に満たない現地人の子供をどさくさ紛れに乗艦させた。他にも細かな規則違反を多数犯している」

 

 ケルシーって声は柔らかいのに、どうしてこんなに有無を言わせぬ圧があるんだろう。

 というか私の罪状、改めてやばい。問題行動しまくってる。

 こうやって淡々と列挙されると、自分の事なのに普通に引く。

 

「とはいえ……既に聞いていると思うが、表沙汰にするわけには行かない。君への処罰は今ここで速やかに行い、口外禁止とする。──丁度来たようだ」

 

 扉が開いて、お盆を持ったロスモンティスが入ってくる。

 いつも通りの様子だ。私がロドスを抜け出した事はもう忘れてしまったのかもしれない。

 

「チュロス、おかえり。これ、ココア。Scoutがチュロスに持って行けって。ケルシー先生はお茶だよ」

 

 ロスモンティスは飲み物をテーブルに置いて、私の隣に座る。

 お礼を言って、ヴェールとマスクを外して少し飲んでみる。甘くてあったかくて、麻痺していた感覚が目覚めていくような心地がした。

 しかしロスモンティスがじっとこっちを見ている気配がするので一旦マグカップを置く。

 

「チュロス、疲れてるみたい。どこに行ってたの?」

 

 純粋な瞳で問われて、思いっきり目を泳がせてしまう。

 視線が泳ぎ着いた先でケルシーも私をじっと見ている。

 

「ロスモンティスに君の罪を告白するように」

「……チュロス、悪い事したの?」

 

 ロスモンティスが眉を寄せる。

 第一発見者である彼女には知る権利が有る……が、自分で説明する事になるとは思っていなかった。今飲んだばかりのココアの温かさももう思い出せないくらい、抵抗感でいっぱいになる。

 ……これが罰という事か。となれば逃げるわけにはいかない。

 深呼吸してロスモンティスに向き直る。

 

「わ……わらわは、ロドスを抜け出し、単身チェルノボーグへ向かった」

「えっ」

「もう少し前から」

 

 ケルシーが自分の手首をとんとんと叩いている。端折らず洗い浚い吐けと。

 もうどうにでもなれ!!

 

「許可無くサーベイランスマシンを外し、置いて行った。わらわの不在が露見せぬよう、作業室に在室しておるように偽装もした。ロドスを出る時は甲板から空を飛んで……カメラの位置も事前に確認した」

「Scoutが君にカメラの死角を教えたと言っていたが?」

「それ以前の事である。甲板にわらわ一人となった時に飛び降りたが、誰にも注意されなんだ。他にも事前準備として、隠行して一度警備に捕まる事で逆に警戒を解かせようとした……」

「報告は受けている。二年近く前の事だな。確かにアスカロンはしばらく君をマークしていたが、最終的に君が隠密能力を悪用する事は無いと判断した」

 

 黙って聞いているロスモンティスの顔がみるみる曇っていって、鮮やかな罪悪感が胸の内を駆け巡った。

 あと今話に出て気付いた。アスカロン消えてる。多分部屋には居ると思うけど……

 他にもメフィストとファウストに捕まった事も含めて全部吐いた。流石にパトリオット以外の幹部とも接触してるとは思ってなかったらしく、ケルシーの耳が一瞬ビコンッてした。

 

 話し終わる頃にはロスモンティスは私の腰にしがみつくを通り越して半分押し倒してきてた。

 姿勢が滅茶苦茶斜めだが、流石に横になるのはどうかと思うので耐えている。

 

「以上である……」

「……本当によく無事に戻ってきた。ロスモンティス、今聞いた事は記録してはならない。今回は私達もチュロスの罪を忘れるからな」

「無かった事にするの? それって、悪い事じゃないの?」

「そうだ。チュロスが罪を恐れず進んだお陰でScoutやAceは生還した。だから我々も彼女に敬意を表して、共に罪を背負うんだ」

「うん、わかった」

「そ、それはならぬ!」

 

 思わず口を挟む。

 ロスモンティスは記憶が消えた後に残る感情に振り回されていた。記録させないという事は、意図的にそれを起こす事になってしまう。

 ケルシーがそうすると判断したのなら問題無いのかもしれないけど、私の心がついてこない。

 

「チュロス、大丈夫だよ。私を信じて。私はこの感情を受け止めてみせるから」

 

 当のロスモンティスが、何でもない事のように言う。

 私を離して起き上がった彼女は、鞄から端末を取り出して何か確認し始めた。

 その手元よりも、鞄に目が行った。前に私が作ってあげたやつだ。おそらく皆から貰ったのであろう、まるで統一性の無いバッジやキーホルダーなんかで飾られている。

 

「チュロスは悪い事も沢山したけど、人の命を助けるのは良い事だよね。それにScoutやAceが帰ってきて、私は嬉しい。だからチュロスだけを悪者にはしないよ。……チュロスが居なくなったって、メモに書いてあった。これも消しておくね」

「ああ、良い子だ。それが終わったら戻りなさい。私はまだチュロスと話が有る」

「うん」

 

 この鞄と端末はきっと彼女の宝箱で、その中身の一つを消させてしまって、彼女はその事自体も忘れてしまう。

 それによって、私が守られる。自分が無性に情けなくなった。

 

 ロスモンティスだけじゃない。ケルシーもアスカロンもエリジウムも、TouchにMantraにRaidian、医療チームの皆も、Scout達も……アエファニルさえも、私の浅はかさによって振り回してしまった。

 愚かさの代償を支払うのが、愚者自身とは限らない。私はその事を、自分が愚かである事を、知っているべきだった。

 

「もう勝手にロドスから出ちゃダメだよ」

「承知した、約束だ。……そなたがわらわの不在に気付いたお陰で迎えの部隊が編成され、安全にロドスへ帰艦する事が叶った。感謝しておる」

「うん。チュロスも、みんなを助けてくれてありがとう」

 

 ロスモンティスは最後にまた私に抱き着いてから部屋を出て行く。

 私の罪も感謝も、彼女は忘れてしまうだろう。

 そしてそれを嘆く資格は、私には無いのだ。

 

 扉が閉まるのを見届けてケルシーに向き直ると、彼女は静かに頷いた。

 

「全てを忘れてしまうのなら、翻って全てを思い出す日も来るかもしれない──君が言った事だ。あの子の善意の忘却に、泥を塗らないように生きる事だな。これで処罰は終了とする」

 

 そうだ。あの子が思い出した時、今日の選択を後悔させたくない。

 もう勝手な事はしない。したくない。私を守ってくれる皆を裏切りたくない。

 ここから始まるであろうケルシーのお説教も一字一句漏らさず──

 

 ──ん? あれ? ケルシー、今これで終わりって言った?

 

「こ、これだけで良いのか? 更に何か有るものと……」

「罰とは反省を促すものであるべきで、苦役を課せばいいというものではない。効いただろう?」

「この上なく!」

 

 ぶんぶん頷く。確かにこんなのは二度とごめんだ。二度としない。

 ケルシーがようやくお茶を手に取り、ゆっくりと口元へ運ぶ。ここで一区切りという事だろう。

 私もぬるくなったココアを少し飲んでおく。

 

「疲れているだろうが、ロゴスが帰艦する前に今後の話をしておきたい。何も対策をせずに君を解放すれば、そのまま永遠の別れとなるかもしれないからな」

 

 ……あの、うちのお兄ちゃん、そこまで怒ってる想定なんですか?

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