挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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シャロンとナスティは既に面識が有る事にした方が自然っぽいのでそのうち河谷時代の小話を書きます。
バンシーや河谷の情報が増えたけど、逆に分からなくなった事も増えましたね……


4-13 悪魔の証明

 そして四日目になった。

 私の体調が戻ってきたせいか、今朝のお兄ちゃんは元通りのシスコンだった。何がどう違うのか聞かれるとわかんないけど、トイレもお風呂も一人でさせてくれそうな感じに戻ったのだ。

 しかし相変わらず外には出して貰えないし、今はお兄ちゃんが出掛けていてヒマである。

 段々分かってきたが、一人でじっとしていると、良くない事を考えてしまいそうになる。何かしないと。

 

 無駄に部屋をうろうろ。うーん何しよう。

 とりあえず机の正面に飾られた写真を眺めてみる。……改めて見ると、酒の席の写真が多いようだ。

 そういえばチェルノボーグの準備で忙しくて、成人したのに殆どお酒飲んでないな。

 

 ……そうだ、私は成人したのだ! お兄ちゃんがエロ本でも隠してないか、探してみよう!

 前に成人向け商品を買ったことは無いって言ってたし、それが嘘だったとしても私には認識できない所に隠してるだろうけど、だからこそ無限に探し続ける事ができる。

 なんだっけ、無いものを無いと証明するのは難しいっていう……前世で名前が付いてたやつ……とにかくアレである。

 エロ本は無くても、探す内に他の面白い物でも見付かるかもしれないしね。

 

 机の上で調べられそうなのは片隅に立て掛けられたタブレット端末だけ。これは後にしよう。

 昨夜も開けた引き出しをもう一度チェック。

 ちょっと気になったから、私があげた筆箱を取り出してみる。しかし持った感触とか音的に、中身は筆記用具じゃないっぽいな……

 開けてみると、個包装の飴やチョコと、ココアやミルクティーなど甘い飲み物のスティックが詰まっていた。

 想定してた使い方とは違うけど、機能としてはポーチだし、こういうのもアリだよね。

 

 ついでにメモ帳をチラッ。うん、普通にメモだ。買い物リストとか、謎の単語の羅列とか、誰々に何々の事で連絡する、みたいな事が書いてある。

 日記帳も有ったけど、流石に読むのは憚られる……戻しておこう。

 あとは呪術研究ノートが数冊。このノート、なんか高度な事ばっかり書いてて全然理解できないんだけど……

 他の引き出しも呪術関連や資料的なやつばっかり。あとはレターセットとか文房具。エロ本は無かった。

 

 本棚。初日から何度も眺めてるが、やはりあからさまなやつは無さそうだ。

 でも、カバーを変えて偽装するっていうテクニックを前世のネットで見た事が有る! 真面目で退屈そうなタイトルの本を取り出してチェック。

 どれもこれもカバーと中身は一致している。ハズレか。

 

 戸棚。昨日は触れなかった謎の箱をオープン。古い呪術研究ノートや研究メモを纏めてあるようだ。同じようなのが何箱か有る。

 そしてこれらのノート群に紛れてエロ本が隠されて──なかった。

 

 クローゼット。隅の箱を開けてみると、バンシー服が仕舞われていた。

 そしてエロ本は無かった。

 

 高所はどうだ? 本棚の上のあの缶!

 土産で貰った菓子の缶に普段使わないものを入れてます感のある缶!

 手を伸ばしても届かないけど、また机の引き出しから骨筆を借りて、月面歩行の呪文でフワフワジャンプ! 缶をゲット!

 あれ? 妙に軽いな? 開けるとメモが一枚だけ。

 

『探検も良いが、怪我をするでないぞ』

 

 怖い。探検やめる。

 なにこの……トラップ的な……なんでわざわざ用意したの……

 メモをそのままに蓋をして、元の場所に戻しておく。

 

 しかし暇すぎる。でも本を読む気分でもない。

 そうだ、机の上のタブレット端末を見てみよう。

 ロックはかかっていない、という事はこの中に不健全なデータは無さそうだな。

 なんか広告と実物が違う事で名高いゲームアプリが入ってる。

 ちょっと遊んでみたが中々に虚無ゲーだった。

 

 動画アプリの履歴は──

 

 『【素材チャレンジ】RMA70-12のトゲはこんなものまで貫ける!?最強武器誕生の瞬間!?』

 なんだ素材チャレンジって。シリーズなのか?

 

 『【素材チャレンジ】科学vs自然!?人工ゲルに対抗できる天然ゲル四天王を集めてみた!』

 シリーズだった。サムネの雰囲気からすると、検証というよりはわざとアホな事をする動画っぽい。

 

 『【Speedrun】LEITHANIEN RING Any% 6分5秒』

 テラにもゲームのRTAは有るらしい。

 

 『アーツ学の歴史・ヴィクトリア編』

 急に真面目になった。

 

 『【安眠用ASMR】ロドスのエンジン音【三時間耐久】』

 それは絶対にASMRじゃない。お兄ちゃんこれで寝てるの?

 

 工学系やアーツ学系、ふざけたチャレンジ動画、ゲームのRTAやバグ動画なんかをよく見ているようだ。

 びゅいーんと履歴をスクロールしてみるものの、やっぱりエロ動画は無さそう。

 

 いや、待てよ? 購買部アプリと一緒で、成人向けは別アプリに隔離されてるとか?

 アプリのリストを表示してみる……が、それっぽいのは無い。ならアプリストアに……無い。っていうか、購買部アプリの成人版も無い!?

 もしかしてこの端末、お子様ガード的なアレが掛かってる!?

 いやでもよく考えると、お兄ちゃんのエロ動画履歴を見付けたり、その瞬間にお兄ちゃんが帰ってきたりしたら滅茶苦茶気まずいよね。お子様仕様で良かった……

 

 そもそも私は何でエロ本やエロ動画を探してたんだ……

 いや、探しても見付からないだろうって事で探し始めたんだっけ……

 何してるんだ……

 

 謎の疲労感と共にベッドへダイブ。ゴロゴロ。

 ん? 何か硬いものが……服のボタン? お兄ちゃんのパジャマのボタンが取れちゃったのかな?

 付けてあげたいけど道具が無いや。無くさないように、メモ帳を一枚千切って「ボタン」と書いて包んで、机に置いておく。

 ベッドへ帰還。ゴロゴロ。

 

 

 ……なんか、前世の事をちょっと思い出した。

 私を殺したのは、辞めたバイトの先輩だった。

 当時は執着される理由が分からなかったけど、今にして思えば、ボタンが取れて困ってたから付けてあげた時「いいお嫁さんになれそう」って言われて、適当に「ありがとうございます」って流したのが良くなかったのかもしれない。

 そこから何かベタベタしてくるようになって、気持ち悪いからバイトを辞めたんだった。

 「(俺の)いいお嫁さんになれそう(だから俺達もう恋人)」って意味だったんだろうな。

 

 そうだ、昨日までのお兄ちゃん、ちょっとだけあいつに雰囲気が似てたんだ。

 だからシスコンが〝悪化〟した感じがしてたのか。

 あいつやリーベリさんの時みたいに、私がダメな方向にクラスチェンジさせそうになってた?

 でもお兄ちゃんは自力で戻ってくれて良かった。流石お兄ちゃんだ。

 

 しかし改めて考えてみても、バイトを辞めただけで殺してくるのは流石に極端すぎるような。

 ……あいつも転生してたらどうしよう? 見付かったらまた殺される?

 あー、やめやめ! 暇すぎるから変な事を考えてしまうんだ。

 何でもいいから何かしよう。

 

 タブレットに勝手にお絵描きアプリを入れて、らくがきをして時間を潰す。

 スツールで滑走するアエファニルを描いてみた。

 スペースが余ったからオリジムシも走らせる。

 ん? 何か通知が来た。

 

『チュロスちゃん元気? おすすめ動画送っとくね!』

 

 動画アプリに勝手に新しいお気に入りリストが作成されていた。

 これは……ソラちゃんのMVと、ライブの動画だ!!

 

 

 

 

「きゃー! ソラちゃーん!」

 

 溢れる衝動のまま、ペンライトの代わりに棒状サイコロをぶんぶん振る。

 ソラちゃん凄いよ。でっかい会場が満員。万を超える人が、大勢が、ソラちゃん一人のライブのために集まっている。

 

 大勢とは一人一人の集合。大勢を動かすには、人と人を繋ぐしかない。

 それはリレーみたいに、順番に繋ぐ事しかできないのだと思っていた。

 でもソラちゃんは、一人で皆と繋がってる。

 お互いに知らない人たちが集まってるはずなのに、全員で一体感を生み出している。

 

 前世ではアイドルや俳優にはあまり興味が無かった。でも、あの人達もこうだったんだって今更理解した。

 皆が見上げて道標にする。遠くでも輝いてる。〝スター〟って、そういう意味か。

 アイドルって凄い。かっこいい。ソラちゃんは可愛くてかっこいい!

 

「うう……ソラちゃん……」

 

 ライブと戦場は違う。分かってる。

 私の即席ステージなんて、比べるのも烏滸がましいって分かってる。

 でも、もしも私に、ソラちゃんみたいに大勢を動かせる力が有ったのなら──

 

「シャロン? 泣いておるのか?」

「あにうえ……」

 

 お兄ちゃんが帰ってきた。

 感動と悔しさで溢れる涙をそのままにお兄ちゃんに抱き着く。

 分かってる。できるわけない。私はあんなステージに立つ才能も度胸も無い。

 仮に立てたところで、ただ一般人を集めただけではレユニオンのような暴徒には良いカモだ。

 お兄ちゃんは私を抱き上げてタブレットの前に座る。部屋にソラちゃんの歌が流れ続ける。

 

「我はクロージャに呼ばれ、うぬが作戦前に披露したという歌舞の動画を鑑賞した。我のおらぬ間に……」

「うう……すまぬ、あにうえ……」

「……うぬもこれを行いたかったのだな」

 

 拗ねた様子のお兄ちゃんが絵画ハンカチで私の涙を拭ってくれる。

 それが終わると、お兄ちゃんは何か取り出した。

 

「賽も〝振る〟ものではあるが、この場においてはこちらが適切であろう」

 

 それはピカピカ光る棒──ペンライトだ!

 

 

 

 

 動画を見終えて、タブレットを元の場所に仕舞う。

 ソラちゃんは最高だった! まだ神経が高揚しているのを感じる。ペンライトの電源を切るのが少し寂しい。

 お茶を淹れて丸テーブルで一息。お兄ちゃんはまた膝に乗せようとしてきたが、インターバルが欲しかったので拒否。膝の上に乗る側も存外疲れるのだ。

 ていうかお兄ちゃん、結構長時間連続で私を膝に乗せてたな。今更ながら血行とか心配だ。今後は気を付けよう。

 

 そして一個思い出した。ソラちゃんと言えばペンギン急便。ペンギン急便と言えば、メインストーリーの舞台が龍門に移ってから割と早い段階でエクシアとテキサスが出てきたような。あれっていつだっけ?

 多分、ミーシャの捜索……そういえば、あの時はドクター救出から経った日数が明言されてたような……

 救出作戦から三日後? 違う気がする。

 四日後かな? うん、そんな気がする。

 五日後……じゃないな、やっぱり四日後の感じがする。

 

 私がこの部屋に来たのが作戦当日で、それが一日目で、今四日目だから今日は救出から三日後……

 ……あれ? もしかして、明日なの?

 

「兄上、アーミヤは既に龍門の警備か何かに協力しておるか?」

「否、アーミヤは本艦に留まっておるぞ。龍門へは明日赴く予定と聞いておる」

 

 やっぱり明日だ!

 ああもう、また忘れてた! フロストノヴァとかチェルノボーグの暴走とか、後の展開ばっかり意識に有って、龍門の最初の方はすっかり頭から抜け落ちてた……!

 明日アーミヤはミーシャを巡ってスカルシュレッダーと争って、最後には……

 

 ……未来で起きる戦いのために、アーミヤには経験を積ませないといけない。

 だけどその経験は、悲劇でなければならないのだろうか?

 子供同士で殺し合うのを、私は見過ごしていいのだろうか?

 

 今ならまだ介入できる。

 ただし本筋に直接触れないように動く事ができたドクター救出作戦の時とは違い、スカルシュレッダー戦への介入はメインストーリーを正面から崩しにかかる事になる。

 裏でこっそり動いてるつもりのドクター救出作戦の時ですら私の想像を超える影響が有ったのに、ボス二人分の戦いを丸々回避した場合、先の展開がどれだけ変わるかなんて全く読めない。

 

 テレジアの死を見過ごしておいて、今更という思いも有る。

 でもそれって、行動しない事をテレジアのせいにしてないかな?

 いや、逆に「あの時の繰り返しは嫌だ」って行動する方がテレジアのせいにしてる?

 分からなくなってきた。

 

「……おそらく明日、アーミヤは分かり合えたはずの相手と敵対し、深く傷付く事となる」

 

 アエファニルは何も言わない。それは私の次の言葉を待ってくれているから。

 だから……ちゃんと聞いてくれるから。このモヤモヤに向き合わないまま、河谷に帰りたくないから。

 言ってみるだけなら、いいよね?

 

「わ……わらわの歌で、相手方の怒りを鎮める事が叶えば──」

「ならぬ」

 

 言い終わる前に却下されて、どこか安心してしまう。原作を改変してしまうのは怖いから。そんな自分が嫌になる。

 

 ……でも、無いものを無いと証明するのは難しい。

 私の原作知識に無い部分で、私の存在による影響が無い事を証明するのも難しい。

 ならば影響は存在する前提で考えるべきだ。私が何もしなかったとして、それ自体が致命的な原作崩壊を招く可能性すら有る。

 動くにせよ動かないにせよ、私は改変の恐怖から逃れる事はできない。

 

 私の原作知識はいつか尽きる。それは原作から解放される事を意味しない。

 私の死後に実装された未知のシナリオに、そうと知らずに触れる事になるだろう。

 この恐怖に終わりは無い。

 

 ただのバンシーでいたいのに、どこまで行っても私は転生者だ。

 こうやって、原作と現実の狭間ですり潰されるようにして生きていくしか無いんだ。

 

 

 ──それなら。どちらでも変わらないのなら。

 どうして私が、この大地に遠慮しなきゃいけない?

 

「兄上、すまぬ。我儘はこれで終いにする。河谷へ戻る前に──」

 

 アーミヤは強い子だと知っている。私は未来を知ってるから。

 その一方で、私がやり方を間違えた時、潰れるのは私じゃなくてアーミヤだとも思っていた。

 先回りして悲劇を排除できたとしても、王冠の重さまで肩代わりする事はできない。だから余計な事はするべきじゃないって。

 

 だけど原作の通りに未来を守ってるだけじゃ、それが上手く行かなくなった時、途方に暮れてしまう。

 この世界はいつでも原作から逸れる恐れが有る。既にそうなってる可能性も有る。

 影響が大きいポジションだと知りながら、ロゴスの妹に収まった。

 原作を改変する事になると知りながら、Scout達を助けに行った。

 私や彼らが生き続けるだけで、少しずつ原作から乖離していく。その歪みはいつか表面化するだろう。

 ならば脆い未来がそのままである事を祈るより、全てが崩れたとしても前へ進み続ける覚悟を持つべきだ。

 

 私はアーミヤが強い子だと知っている。

 でも、未来を知らないはずの皆の方が、もっとずっと、アーミヤを信じてる。自分の命を預けてる。

 私もアエファニルや皆みたいに、先が見えなくても、あの子を信じて進んでみたい。

 一度だけでいい。孤独な転生者じゃなくて、同じテラ人として、皆と肩を並べたい。

 この残酷な大地に、自分の意思で踏み出したい!

 

「──わらわに一度だけ、ロドスのオペレーターとして戦う機会をくれぬか」

 

 凄まじく嫌そうな顔をしたアエファニルが、視線を横にずらす。

 いつの間にかそこに居たアスカロンが、一枚の書類を掲げた。

 

 それはオペレーターのプロファイル。

 コードネーム、チュロス。性別、女。戦闘経験、なし。

 所属はS.W.E.E.P.。職分は──吟遊者だ。

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