シャロンもタロIIに降臨させてみたい
一度自室と作業室に寄って、サクッと明日の用意と今日のお泊まりの用意をする。
置きっぱなしだった端末も回収。心配のメッセージがいっぱい来てた。そして既読が付かなかったからか、皆「ロゴスに端末取り上げられたか」と自己解決していた。お礼のメッセージを送っておく。
お泊まりの打診もして、OKを貰った。今夜の寝床確保!
次は購買部へ移動。お高めのお菓子をいくつか選んでレジに並ぶ。
レジ横のチュロス棚につい手が伸びそうになるが、そういえばアエファニルから没収した黒蜜きなこチュロスが有るんだった。今日はやめておこう。
ちなみに黒蜜きなこ味は人気商品なので、今日は既に売り切れていた。
レジ係の先輩にクロージャが居るか聞いてみたら、さっきスタッフルームに入っていった所らしい。会計を済ませたら会いに行く。
「あれ、チュロスちゃん!? よくロゴスちゃんの部屋から出られたね!?」
「色々有ったのだ。ソラちゃんは最高であった、感謝しておる」
「あっ、気に入った? 今はデータだけだけど、CDやグッズも入荷予定だからね!」
「なんと! わらわに全種類一点ずつ確保しておいてくれ!」
「任せといて!」
ソラちゃんグッズ絶対河谷に持って帰る!
嬉しい情報をゲットした所で、本題に入る前に一応遮音。
「なになに内緒話?」
「然り。……わらわは明日、S.W.E.E.P.として外勤へ出る」
「……ん? えっ?」
「わらわは実は以前からS.W.E.E.P.だったのだ。わらわの裏の上司のアスカロンもここにおる」
「うわっ、いつの間に!」
私の言葉に合わせて、隠れていたアスカロンが姿を見せる。彼女はアエファニルが突撃してきた時のためにずっと付いてきてくれている。
上司を護衛にする部下の図。いやこれ上司というより保護者では……?
「前からっていうのは絶対嘘じゃん!? まあ何か理由が有って、ケルシーがそういう事にしたんだろうけど……何にせよ、表の上司のあたしに話を通しに来てくれたってわけね」
「然り」
「うーん……あたしとしては、チュロスちゃんには本艦の中でソラちゃんみたいになって欲しかったんだけど……」
「両方やれば良いだろう」
アスカロンがサラッと凄いことを言う。表ではアイドル裏ではS.W.E.E.P.とか、漫画のキャラか何かみたいな濃さである。
そういえば、半年後の予定だったコンサートも、河谷に帰るならできないのかな。いや、時期に拘らずに前倒しすればいいか。
「残念ながら、わらわは河谷へ帰る事となった。予定しておったコンサートは半年後ではなく、わらわの離艦前に行おう」
「帰っちゃうの? ……チュロスちゃんは、それでいいの?」
「良くはない。されど兄上にとっては、わらわがロドスにおる方が良くないのだ。どちらかが折れねばならぬ。さあらば先に我儘を通したわらわが譲るべきだ」
クロージャは何か言いたげだったが、それ以上聞かないでくれた。河谷に帰る事も、チェルノボーグの事も。
ただ、その後の雑談の最中に、どさくさ紛れのようにぎゅってしてくれた。
・
クロージャと別れたらお泊まり先へ移動。
私が選んだのは、Outcastの部屋だ。前にMechanistが家出先として勧めてくれたのも有るが、このままだと未来で死ぬ事になる彼女に、今の内にできる事をしたかった。
部屋の前まで送ってくれたアスカロンと別れて、いざ訪問!
「よく来たな。好きなだけ寛いで行くと良い」
「突然すまぬな。世話になる」
「謝る必要は無い。私は困っているお嬢さんを助けるのが趣味でね、頼ってくれて嬉しいよ」
部屋に入れてもらうと、棚には雑多な小物が飾ってあった。お土産で貰った物も有るのかな?
一番多いのは、お菓子が入っていたらしき綺麗な缶だ。ズラリと並ぶと見栄えがいいし、お店感が有ってちょっとワクワクする。
Outcastが綺麗なティーセットでお茶を淹れてくれたので、私も持ってきたお菓子を広げる。黒蜜きなこチュロスも。
「購買部のチュロスは全種試したが、この味は特に良い。売り切れの時にはプレーンのチュロスに自分で黒蜜ときな粉をかけている」
「なんと、その手が有ったか! わらわも試そう」
お茶会しながらのんびりお菓子談義。
Outcastもチェルノボーグで私がした事を聞いているはずだけど、その事には触れてこない。
それがありがたいような、それでいて据わりが悪いような……そんなどっちつかずの感情を持て余して、結局自分から切り出してしまう。
「……そなたは、わらわを叱らぬのだな」
「Pithが勢い余って二人分叱るだろうから、釣り合いを取るために私が二人分甘やかすのさ。さて、紅茶のおかわりは如何かな?」
私のティーカップにはまだお茶が残っている。
「この話を続けるのなら腰を据えてじっくり聞くし、話したくないのならこのまま話題を切り替える」。多分、そういう意味だ。
迷いは無かった。少々はしたないが、ぐいっと飲み干す。
「頂こう」
「いい飲みっぷりだ」
差し出したティーカップにおかわりが注がれる。
そういえば原作のOutcastの初登場は、ヒロック群の事務所でのお茶会のシーンだっけ?
あれは確か朝だったし、Outcastはお茶を貰う側だったから、今とは違うけど……
いけない、また意識が逸れてる。
ヒロック群の事は後でも考えられる。今は目の前の事に集中しよう。
「……わらわは明日、戦場へ赴く予定である。此度は正式に、オペレーターとして」
「なるほど。それでロゴスと喧嘩して、家出してきたのか」
「うむ……」
記念旅行って言われたの、まだじわじわむかつく。
でも、河谷に帰る前に皆と一緒に戦ってみたいのは……やっぱり、記念って事になるのかな。
記念になる何かが有れば、河谷で待つのを受け入れられるから?
違うよ。嫌だよ。本当は帰りたくない。
だけどアエファニルが嫌がる事も極力したくない。するべきじゃない。
私の〝嫌〟とアエファニルの〝嫌〟がぶつかって、私がその中間だと思ったのが、一度きりの参戦だった。アエファニルにとってはそうじゃなかった。
記念にしたかったわけじゃない。
「……わらわは、兄上が望まぬ事はしたくない。兄上が望むのなら、わらわは無力な妹のままで構わぬ。そう思っておった。……されど今は、それを苦しく思う」
沢山のものを与えてくれるアエファニルに恩返ししないといけない。それなのに、勝手な事ばかりして、我儘を言って、彼を困らせてしまった。
でも、今から戻って謝ろうって気にもなれない。私だってお兄ちゃんみたいに皆と一緒に戦いたい。皆と同じテラ人として、この大地に抗いたい。
「気持ちってのは揺らぐほうが正常だ。自分では変わっていないと思ってる感情も、実際は同じ物が新しく継ぎ足されて、入れ替わり続けている。購買部の定番商品がずっと棚に有るのと同じだな」
「……さあらば、兄上への愛は品切れと言える。入荷も停止中である」
「その棚は空けたままでも、他の物を仕入れるのでも、好きにレイアウトするといい。後で元に戻す必要も、戻したらいけないという事も無い」
横を見ると、お菓子の缶が並んだ棚。こんな風に、私の好きなものばかり並べてもいいのかな?
私の気持ちを慮ってくれるOutcastの言葉に、なんだかラケラマリン様の事を思い出した。
置き去りにしてしまった心を拾い上げて──
──私は、この心をどうしたいんだろう?
「Outcastの心には、定番商品のようなものは有るか?」
「勿論。ここに来てからずっとさ。他のエリートオペレーターの連中も、心の棚に同じものを並べてるだろう」
ロドスの理想。私の心の棚にも、それを置きたいのにな。
ドレスの袖がちょっと千切れてたから、寝る前にミニ裁縫セットでぱぱっと修繕する。元通り。
終わったらOutcastとオリジムシ人形と一緒に就寝。
……アエファニルとの仲も、元通りになれるかな? 今は上手く想像できないや。
私のお兄ちゃんへの愛は品切れ中だ。
だけどお兄ちゃんの心の棚には、私への愛をずっと置いていて欲しい。身勝手にもそう思ってしまった。
その気持ちを、心の棚の片隅にこっそり置く。スカスカの棚が余計に寂しくなったような気がした。
・
翌朝、部屋を出る前にOutcastにお守りを渡す。
今回は刺繍でお菓子の絵を入れてみた。カラフルにすると子供向けっぽくなっちゃうから、単色の糸で切り絵風に。
「Outcastよ、世話になった。此度の礼も兼ねて、この幸運の護符を受け取ってくれぬか?」
「これは嬉しいね、実はScoutに自慢されて羨ましく思っていたんだ。しかもよく見たら、柄の中にスイーツが隠れているじゃないか」
Outcastは喜んで受け取ってくれた。よし!
このお守りは対になるやつを用意してあって、ぶら下げると方向を指し示すようにしてある。これなら私じゃなくても彼女の位置が大雑把に分かる。
今回だけは私の呪文が弱い事がある意味良かった。有用な効果だったら人に譲っちゃうかもしれないけど、おまじない程度のこのお守りなら、きっと最後まで持っててくれるだろう。名前も入れたしね。
……こんなもので何かが変わるだろうか?
でも、何も変えられないと思ってテレジアへ贈ったリボンが影響を及ぼしたからこそ、私は今こうしている。諦めちゃダメだ。
Outcastに見送られ、再び昨日の空き部屋に行く。ここでアーツユニットを受け取ったり、Scoutと最終確認したりするのだ。
しかしアスカロンとScoutとMechanistに混じって、何故かアエファニルとPithも居る!
「わらわは止まらぬぞ!!」
壁際をカサカサ蟹歩きしてアエファニルとPithから距離を取りつつ、アスカロンの影へ移動!
誰が最初に動くのか探り合うような間が数秒有って、Mechanistが一歩前に出る。
「あー……君のアーツユニットだが、ロゴスの強い要望によって、急遽仕様を変更した」
Mechanistの手の中のアーツユニットは、元と似たデザインだがブローチ型になっていた。
アエファニルが骨筆をチョイッてしたらブローチが浮いて胸元に装着される。
呪文の気配! GPS代わりだこれ!
「骨筆は多めに所持するがよい」
次はアエファニルが木製の筆入れを差し出してきた。
ここで骨筆を渡すって事は、もしかして行かせてくれるの?
でも私はチェルノボーグでの見通しの甘さを反省して、あの時の四倍の骨筆を持ってきたのだ。
「いらぬ。既に予備を含め十二本用意した」
「予備の予備にすれば良かろう」
あっ勝手にウエストポーチに入れてきた! 多すぎても邪魔なんだけど!
アエファニルはまだ止まらない。次は赤い石のペンダントを出してきた。私の部屋に置いてあったはずなのに!
手ずから首にかけてくる。これは呪文とか無いみたいだ。
「万が一ロドスと逸れる事が有れば、これを売却し、合流までの路銀とせよ」
「う……売らぬぞ! これはわらわの物だ!」
七歳の誕生日にアエファニルがくれたやつなのに、売るわけないよ!
これを売るくらいなら別の私物を売るし、足りないなら現地でバイトとかしてもいいし!
しかしアエファニルは私の抗議をスルーして既に次の行動へ移っていた。
「これはロドスの事務所の所在地と、協力関係に有る団体のリストだ。迷子となった際は頼るがよい。注意事項も記入したゆえ熟読せよ。こちらは地図だ」
手帳とミニ地図帳をウエストポーチに押し込まれる。一瞬目に入った地図帳の表紙が大地全体の地図だった気がするんだけど、龍門周辺で行動するだけなのにその規模の地図は使いづらいよお兄ちゃん!
あとPith先生がさっきから一言も喋らないのが怖いんですけど……と思ったらこっち来た!
「……色々言いたいことは有るが、一旦先送りにする。一つ報告だ。お前とロゴス、それぞれの歌に含まれるアーツを分解し文字として再構成した所、意外な事が分かった」
「む……? 歌詞を再翻訳したという事か?」
「違う。歌詞ではなく、音に籠められたアーツ自体だ」
なんかちょっと理解の及ばない事を言ってる。分解までは分かるけど、文字に再構成ってどういう事? 歌詞とは関係無い、文字でもなんでもない部分を文字に変換したっていうこと?
ど……どういうこと? どういうこと!?
「結論から言えば、ロゴスは完全にサルカズ語でアーツを行使しているのに対して、チュロスは極東語混じりになっている。しかも、極東語の部分の方が安定度が高い」
──私の呪術がイマイチなのって、まさか、そういう事!?