挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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1-3 注意散漫吟遊者

 朝、アエファニルと共に目を覚ます。寝ぼけたアエファニルに撫でくり回されたり、お互いの髪を梳かしたりと軽くじゃれ合ってから一度解散。

 自室で身支度を整えて、食堂でラケラマリン様とアエファニルと朝ご飯。

 食後の休憩を兼ねて少し遊び、アエファニルは修練へ出掛け、私は自室の近くに設けられた部屋でお稽古。たまにラケラマリン様が直々に教えてくれる。

 

 お昼はお姉様たちと食べて、食後は風通しの良い場所で気持ち良くお昼寝。起きたらまたお稽古。

 三時のおやつという概念は無いが、午前と午後に一回ずつ、お稽古の休憩時間にお菓子が出る。

 お稽古が終われば自由時間。運動量を稼ぐため、ダンスや散歩をするようにしている。

 

 黄昏時になれば、河谷に響く挽歌に合わせて歌う。

 帰ってきたアエファニルとラケラマリン様を出迎えて、三人で晩御飯を食べて、食後は一緒にお茶を飲みながらのんびり。

 お姉様とお風呂に入って、寝る支度を済ませたらアエファニルの部屋へ。

 寝る時間までお喋りしたり遊んだりして、アエファニルの読み聞かせで就寝。

 

 これが宮殿へ引っ越してからの、私の基本的な一日の流れである。

 

 

 アエファニルは自主的に修練に励んでいるし、私は自主的にお稽古漬けになっているが、本来の河谷の生活はもっとのんびりしたもののようだ。

 歌ったり踊ったり楽器を弾いたり、草花を編んでアクセサリーを作ったり、水遊びしたり。

 良く言えば長閑、悪く言えば娯楽が少ない。

 しかも私はお姉様たちからすると勤勉すぎるらしく、お稽古が休みの日は私が自習できないように道具を隠されてしまう。

 お陰で休みの日は少々退屈だ。

 

 原作ルートに乗せるためにアエファニルとは距離を置こうと思ってたけど、逆に言えば、既にルートに乗ってるのならその必要も無いわけで。

 アエファニルは既に前世を含めても一番仲良しの友達。彼が河谷を出た後は殆ど会えなくなるだろうし、今のうちに遊んでおきたい気持ちはある。

 しかしアエファニルは私より休みの頻度が低いから、休日の二回に一回は一人で時間を潰さないといけない。

 今日はその、一人の方の休日である。

 

 宮殿に保管されている文献でも読むか、それとも外に出てお姉様方に遊んでもらうか、どうしようか。

 とりあえず日光浴を兼ねて裏庭でボケーッとしていたが、ふと体を鍛えようと思い立って、うろ覚えの前世知識でストレッチしてみる。

 ヨガって体にいいんだっけ? でもよく知らないな。適当にそれっぽいポーズで静止。

 ……じっとしてられない! なんとなくターンしたくなったから回転!

 私も幼児だからかパワーが有り余っているようだ。

 一度動き出したら止まれず、気付けば一人で歌い、踊り狂っていた。

 うろ覚えのフォークダンスやアイドルダンス、フィギュアスケートなどの振り付けも雑に取り入れていく。

 あまりにも無秩序なダンス……というか最早暴れてるだけな気もするけど、気が済むまで動いて、くるりと回って両手を上げてフィニッシュ!

 

「斬新な舞踏であった」

 

 背後から拍手が!

 振り向くと裏庭から外へ続く道にアエファニルが立っていた。

 

「アエファニル、いつからそこに!?」

「丁度うぬが舞い始めた時だ。最後まで気付かぬとは思わなんだ」

「修練はもうよいのか?」

 

 一人のつもりだったから歌も踊りも凄い雑だったのに、見られてたとか恥ずかしい。速攻で話を逸らした。

 

「天災の予兆を観測したゆえ、切り上げてきた。河谷に影響は無い可能性も有るが、用心に越した事は無い」

「天災!? 姉妹らにも伝えねば!」

「問題無い、帰路で遭遇した者達に伝えてある。既に知れ渡っておる頃であろう」

 

 原作で言われてた天災雲というやつだろうか。見上げた空はいつも通りだけど、アエファニルが言うなら本当なのだろう。

 手を引かれて屋内に戻る。ラケラマリン様はお姉様方と話し合っているようだ。対策会議かな。

 ただいまの挨拶だけしておく。

 

「シャロン、皆忙しそうだ。我らは部屋で静かに過ごそう」

「うむ」

 

 大人達の邪魔をしないようにアエファニルの部屋へ移動。

 呼ばれたりしたらすぐ分かるように扉は開けっ放しにする。

 しかし遊ぶ気分でもないし、かと言って何もしないのも居心地が悪い。

 とりあえず部屋に設置されたコースにミニオリジムシカーを走らせてみる。

 どうも盛り上がらない。

 

「角の手入れでもしよう。ここへ座するがよい」

 

 アエファニルがコースの前に私を座らせて、香油と柔らかい布で優しくツノを磨いてくれる。

 いい香りが広がって、ちょっと気持ちが落ち着いてきた。

 呪術パワーで無限ループするミニオリジムシカーもなんとなく機嫌が良さそうに見えてくる。

 

「うぬの角は小さいな」

「おとなになれば立派になるはずである」

「羽も小さい」

「今は小さいがいずれ飛べるようになる」

「シャロン、羽では飛べぬぞ。呪術を使うのだ」

「ならばこの羽は何のために……」

「無論、何時如何なる時であろうと光に脅かされず眠るためである。そしてこれはバンシーの頭を飾るティアラでもあるのだ」

 

 呪術パワーで軽くして羽で飛ぶのかと思ってたけど、確かにアエファニルもロゴス先生も別に羽は動かしてなかったような? 少なくともパタパタしてる印象は無い。

 という事は呪術オンリーで浮いてるのか。

 よく考えたら頭の羽で飛ぶって首への負荷やばそうだし、そんな危険な事をラケラマリン様達がアエファニルにさせるわけ無いよね。

 

 ツノをピカピカにしてもらったので、交代してアエファニルのツノも磨く。

 枝分かれしたツノは磨きにくいが、元々こういう細かい作業は好きだから段々熱中してくる。

 磨きまくってピッカピカのツッヤツヤにした。ふう、いい仕事をした。

 

「この香油はよい香りであるな」

「気に入ったか? うぬに譲ろう」

「ほしかったわけでは……」

「遠慮はいらぬ。持ってゆくが良い」

 

 いやこれラケラマリン様かお姉様の誰かがアエファニルのために用意したか、そうでなきゃアエファニルが自作したやつでしょ。

 受け取るわけにはいかないのに、手を掴まれて瓶を持たされてしまう。やめろー!

 くっ、動いたら落として割ってしまいそうだから抵抗できない!

 

「これは我が手掛けた香油だ。本来は意中の相手へ贈るものだが、うぬならば問題は無かろう」

「か、かんしゃする」

 

 統合戦略の秘宝の「バンシーは意中の人にしか手作りのアロマオイルを贈らない」っていうあれは、どうやら本当のようだ。

 そして意味を理解した上で、その対象じゃないのに渡してくるとは……これは多分「家族はノーカン」というやつだな。そうか、実妹のように思ってくれているのか。

 あと開けっ放しの扉の方からなんか音がしたんだけど……

 ちらりと見れば、アエファニルの世話役のお姉様がお盆を手にしたまま歩きかけの姿勢で固まっている。告白現場だと思って動揺したのだろう。

 だが聞かれてもいないのに否定すると却って怪しいので何も言えない……

 

 とりあえず折角貰ったからオリジムシ人形に少し垂らしておく。

 そしてベタつかないように呪文で油分を取り除く……んだけど、私の呪術スキルではこんな小技にも少々時間がかかってしまう。

 単独で橋をぶち生やしたアエファニルが規格外という事がよく分かる。

 

「この香りはアエファニルに似合っておる。再びそなたの角を磨くときに使いたい。ここに置いておいてもよいか?」

「構わぬぞ」

 

 香油を元有った棚に戻す。

 よし、これで実質的な所有者はアエファニルのままと言っていいだろう。

 

 行動を再開したお姉様が気配を消そうとしつつお茶とお菓子を用意してくれる。

 お姉様が背景になる必要は無いから話しかけておこう。

 

「姉上、天災とはどの程度の時間で過ぎ去るのだろうか?」

 

 私は天災についてはまだ「とても危ないから逃げよう・隠れよう」くらいの事しか教わっていない。

 仕組みとかはさっぱりだし、普通に気になる。

 お姉様は「何故妾に気付いた?」みたいな顔をしたが、アエファニルを見て何か閃いたようだ。

 

「アエファニルは既に天災について詳しく習っておるな? 教える側に回る事でより理解が深まる。そなたからシャロンに教示するのだ」

「うむ。我に任せよ」

 

 今回見付けた天災雲の様子や、そこから予想される影響範囲などをアエファニルが張り切って教えてくれる。

 距離が遠いから直撃の可能性はほぼ無く、影響が有ってもその翌日には外に出られるだろうとの事。

 

 アエファニルが説明している間にお姉様は静かに出て行った。

 お兄ちゃん心を刺激するとは、やるなお姉様。まんまと二人きりにされてしまった。

 いや元々二人だったけど、謎の敗北感が……

 

「母上や姉上らが良いと言うまで、窓を開けたり外に出たりしてはならぬぞ。我の傍におるのだ」

「うむ、しょうちしておる」

 

 その夜は、窓の無い部屋にアエファニルと一緒に入れられた。

 扉は分厚かったし、日持ちする食料や飲み物が置いてある。シェルターなのだろう。

 

「……直撃はしないのではなかったのか?」

「万が一という事も有る。我らが安全な場所におる方が皆も安心するのだろう」

 

 いい香りになったオリジムシ人形を抱いて、簡単な作りのベッドに二人で一緒に横になる。

 アエファニルは私を落ち着かせるようにお腹をポンポンしてくれた。

 

「案ずるな。うぬは我が守る」

 

 ありがとう、アエファニル。

 だけど私の方が実質お姉ちゃんなんだから、もしもの時は、私が君の盾になるよ。

 

 

 

 

 天災は予想より小規模で終わり、直撃もしなかったようだ。

 しかし飛んできた活性源石が落ちてる可能性は有るらしく、数日間外出は裏庭までに制限された。

 活性源石、一度実物を見ておきたい気持ちが有る。知ってた方が回避しやすいし。

 とはいえ頼んで見せて貰えるものでもないだろう。

 お稽古も休みにされたし、大人しく裏庭でアエファニルと過ごす。

 私の無秩序ダンスに感化されてしまった彼は、熱心に新しい踊りを研究していた。

 

「ここで宙返りするのはどうだ?」

「危険である。やめよ」

「ならば逆立ちして足を交差させるのは……」

「衣装が裏返ってしまう。やめよ」

「骨筆を上へ飛ばし、落下に合わせ背後で受け止める」

「とがったものを投げるでない」

 

 バンシーダンスはスカート前提だから、あまり激しい動きはしない。

 だがパワーを持て余している男児はアクロバティックな事をしたいようだ。

 彼の体力を消耗させるため、私はうろ覚えのフラメンコやらソーラン節やら各種ダンスに体操の要素も取り入れた、全身使いまくるダンスを作った。

 その結果、体が鍛えられ体力が付き、よりパワーを持て余す上位男児が完成した。

 責任を取って毎朝一緒にダンスをしている。

 まあ、私も体は鍛えておきたいしね。

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