挽歌の後は晩御飯   作:シカルニ

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シャロンの世話役はクール系/セクシー系/ダウナー系の三人居ますが、本文で指定が無い場合は三人のうちお好きなお姉様でご想像下さい


1-4 迷夢の香油は在庫なし

 私は六歳になった。

 なんとなくアエファニルの旅立ちは「若きバンシー」に成長してからだと思い込んでいたけど、よく考えたらあれは既にカズデル入りして、しばらく経ってからの出来事。出立はもっとずっと早い可能性も有ると気が付いた。となれば、今のうちから後悔の無いように動きたい。

 今まで彼の誕生日には、世話役のお姉様が用意してくれた候補の中から私が選んだものを贈っていたが、今年は自分で作ってみる事にした。アエファニルはいつも手作りのものをくれてるしね。

 しかしあと二ヶ月ちょっと、あまり凝ったものは用意できないな。

 今日はお稽古はお休み。何を贈るのか、うんうん悩みながら散歩をしていると、通りがかったお姉様が相談に乗ってくれた。

 

「香油は贈らなくて良いのか?」

「贈らぬ。アエファニルはそういうのではない」

 

 お姉様方は恋バナに飢えており、宮殿へ引っ越してからというもの、そこそこの人数に「アエファニルに香油を贈らないのか」と聞かれている。誤解です!

 慌てて否定したら照れ隠しだと思われかねないので、落ち着いて普段通りに答える。お姉様は残念そうだが追及はしてこない。

 

「シャロンは刺繍が得意だと聞いておる。手巾に刺繍を施すが良い」

「手巾……アエファニルなら、すでに愛用のものがあるのではないか?」

 

 刺繍スカーフ敷物事件を思い出す。

 絶対ラケラマリン様やお姉様方が与えた豪華なハンカチいっぱい持ってるでしょ。

 ちなみにあのスカーフは無事だったらしく、肌寒い日に首に巻いているようだ。良かった良かった。

 

「シャロンが手ずから刺すのが重要なのだ。アエファニルは必ず喜ぶ」

「ふむ……」

 

 まぁハンカチなら仮に気に入らなくても嵩張らないし、豪華ハンカチの消耗を抑えるために使い倒してもらってもいいし、悪くないかも。

 お姉様にお礼を言い自室へ戻る。

 お稽古で作ったまま溜めてある未使用のハンカチを確認。普段使いしやすそうな、縁のレースが控えめなものを一枚取り出す。上手く出来てるしこれにしよう。

 

 さて、後は何を刺繍するかだ。

 

 

 

 

 九月五日、アエファニルの誕生日。河谷の一大イベントの日が訪れた。

 晴れれば天もアエファニルを祝福しているし、曇ったり霧が出れば太陽がアエファニルの輝きを直視できず隠れているし、雨ならばアエファニルという奇跡に感動した天が泣いているという、どんな天気でも吉兆とされる日である。

 今のところ雪や雷や嵐だった事は無いらしい。

 今年はよく晴れて気温も丁度いいので、花咲く庭園でのパーティーとなった。

 新しいドレスを着て、見事な葦の首飾りと可憐な花冠を身に着けたアエファニルは、完全にお姫様である。

 

 まずは皆で歌ったり踊ったり。私も一歳からボイトレを頑張った甲斐があり、だいぶ歌が上手くなってきた。

 ダンスタイムにキリがつくと、アエファニルはラケラマリン様と共にど真ん中に設置された長椅子に座り、贈り物を手にしたお姉様方が周りに集まって二人に挨拶していく。

 私は去年まで何故かアエファニルの横に座らされていたが、今年はお姉様方が気兼ね無くアエファニルとお喋りできるように、端っこの方でご馳走を頂く事にした。

 私が一緒でも皆普通に会話に入れてくれるけど、やっぱり推しに集中できた方が嬉しいだろう。離れる事は事前にアエファニルに伝えてある。

 

 料理はご自由にお取りください形式。立食というやつ? でも少し離れた所に座れる場所もある。

 くるみ入りの一口サイズのパンがおいしい、おやつ感覚でいくらでも食べられそう。

 こっちは羽獣肉の厚切りハム! ふかふか柔らかで優しい塩気、さり気ないスパイスが肉のうまみを引き立てる。

 瘤獣肉のステーキも上質な肉と深みのあるソースが完璧なハーモニーでザ・ご馳走。

 色んな肉が混ざった肉団子は肉々しくって噛めば噛むほど味が出る。

 肉で盛り上がった後は素朴な味わいの煮物で一息、根菜特有の食感が心地良い。

 豆と野菜入りのオムレツも口の中が賑やかになって愉快な気分。

 喉が乾いてきたな、果実水を頂こう。ほどよい酸味が舌と喉をリセットしてくれる。

 

 おや? あれに見えるは鱗獣の串焼き!?

 ワイルドにガブっと……ではなく、お上品にパクリ。

 串焼きに上品も何も無い気がするけど、実際バンシーの皆はお上品に食べるから私も見習わねば。うーん、焼き目の苦味が絶妙。

 この深めの皿は……グラタン的な料理のようだ。カニ入り、やったね!

 隣はパスタっぽいやつ、ハーブの効いたソースが華やかでエレガント。

 あっ、あっちにお芋もある!

 

「シャロン、先程から見ておれば食べてばかりではないか」

「姉上?」

 

 じゃがいものバター焼きにほくほくしていると、私の世話役のお姉様たちが三人ともやってきた。見られていたとは。

 

「贈り物を用意したのだろう? 渡しに行かぬのか?」

「わらわは日々アエファニルと共におる。いつでも渡せるがゆえに、この場は姉妹らに譲るべし」

 

 くるみパンの籠をひとつ持ってきてお姉様たちに差し出す。

 他のお姉様方の目があるので、三人とも私の顔を立てて一旦もぐもぐしてくれる。

 よーし口は塞いだ! 今のうちに向こうのおやつテーブルに行こうっと。

 ミニタルトはフルーツとチーズが有る。勿論両方ゲット! どっちも美味しくて甲乙つけがたい。

 カステラ的なふかふかスポンジケーキは濃厚な卵の味。

 口内の水分が奪われたから、爽やかな甘酸っぱさのブドウゼリーで回復。

 お花の香りのクッキー、これアエファニルが好きなやつだ。後で持って行って……いや、誰かお姉様が持って行くかな?

 

「アエファニルも皆にシャロンからの贈り物を自慢したいのではないか?」

 

 復活したお姉様がついてくる。

 そんな事無いだろうと思いつつなんとなくアエファニルの方を向くと、こちらを見ていた彼とばっちり目が合ってしまった。

 ここはアエファニルの座る長椅子から見て斜め後ろ、しかも本人は背もたれに身を乗り出している。言い逃れ不可能なレベルで見られている。いつから?

 アエファニルの隣のラケラマリン様が手招きする。

 お姉様がいい笑顔でクッキーの籠をひとつ私に持たせた。

 はい、行ってきます……

 

 私がアエファニルに近付くと何故か静かになり、どこからともなくロマンチックなメロディのラブソングが聴こえてくる。

 誰だ生でBGMをかけようとしてるお姉様は!? バンシーの歌唱スキルを無駄遣いしないで!?

 私とアエファニルはそういうのじゃないです!

 あとラケラマリン様は手招きしておいて中座しないで……置いていかないで……

 

「シャロン、腹は満たせたか?」

「うむ、どの料理も美味であった。アエファニルの好きな菓子もあったぞ」

 

 プリンセス王子アエファニルが座面をぽんぽん叩くので、そこに座って彼の膝にクッキーの籠を置く。さあお食べよ。

 しかしアエファニルはクッキーには手を付けず、籠を脇のテーブルに置き直す。

 

「菓子も良いが、他にも我に渡すものがあるのではないか?」

 

 小首を傾げてのおねだり。あざとい。可愛さにお姉様方から抑えきれない歓声が上がる。

 もはや逃げられまい。私はポケットから小さく薄い箱を取り出し、彼に差し出した。

 

「誕生日おめでとう、アエファニル」

「感謝するぞ、シャロン」

 

 アエファニルは早速箱を開けて中身を広げ、まじまじと見つめる。

 

「これは……」

「わらわが織り、刺繍をほどこした手巾である……」

 

 オリジムシを刺繍したやつ。

 男児ってやっぱり花とかオシャレモチーフより虫が好きかなって思って……

 同じ向きのオリジムシを円形に並べてあるから、こう、ぐるっと回すことでオリジムシが行進してるように見える。

 アエファニルもそれに気付いてくるくる回している。

 一応祝福の呪文も刻んだけど!

 でも絶対にこの場で、このBGMの中で出していいやつじゃないよ! 恥ずかしい!

 

「これは用いぬ。決して用いず生涯身に付けておく」

 

 広げたハンカチを丁寧に畳み直し、大切そうに両手で胸に抱くアエファニル。

 嵩張らないという利点が想定していたのとは違う方向で活きそうだ……

 喜びに頬を紅潮させたアエファニルは、ハンカチをポケットに仕舞うと優しく微笑んで私の頭を撫でる。

 

「……妹とは斯くばかり愛いものなのだな」

 

 BGMが一瞬乱れた。

 河谷の仲間は皆姉妹扱い。年上のお姉様方がアエファニルの姉上ならば、年下の私はアエファニルの妹になる、それだけの話である。

 しかしお姉様方からは混乱が滲み出ている。私の方は否定し続けてきたけど、多分アエファニルに直接聞きに行った人は居ないんだろうな。

 私と同居するために橋をぶち生やしたあれ、恋心じゃなくて家族愛なんですよ……スケールが大きすぎて誤解もやむなし。

 香油をくれたのも家族扱いだからだし、恋愛フラグからは遠い。

 

「姉上!」

 

 誤解を解くために兄妹要素を補強しておこう。

 あれ? バンシー語に姉と兄の区別ってある?

 

「『姉上』は女性に対しての呼称であるな。我のことは『兄上』と呼ぶが良い」

「兄上〜!」

「妹よ……!」

 

 兄と呼ぶと、アエファニルはがっちりと抱き締めてきた。

 ラブソングがサビに差し掛かり、感動の再会の如く抱擁する私達を中心に謎の拍手が巻き起こる。

 いや謎じゃないな、分かるぞ。

 「アエファニルが喜んでるから盛り上げとこう」の拍手だこれ!

 ご機嫌なアエファニルは頬にキスまでしてくれた。

 こんなに喜んでくれるのなら、刺繍はオリジムシで正解だったようだ。虫パワー強し。

 

「シャロンも我の頬に口づけよ」

「うむ」

 

 この流れで断る度胸は無かったので、私は大人しく彼のすべすべほっぺにキスをする。

 照れたらまたお姉様方に勘違いされそうだから普通に。平常心平常心。

 折角疑惑を払拭できたんだから、このまま距離感を維持せねば。

 

「この行為は我以外の男にしてはならぬぞ」

「承知した」

 

 この男児、また聞きようによっては誤解されそうな事を言っている。

 盛り上がりかけているお姉様方、これはあれです。

 「知らない人について行っちゃダメ」に近い、ただのお兄ちゃんから妹への注意です。

 ……あっ、理由を聞いて本人に説明させれば良かった! 失敗した……!

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