アエファニルのお下がりのドレスと、生花を編んだアクセサリーで着飾り、お姉様たちの歌に合わせて踊る。
今日は七歳になった私の誕生日パーティーである。
子供が少ないせいか、アエファニルの誕生日ほどではないが、私の誕生日も毎年お祭り騒ぎだ。
アエファニルの次に若い、かつて中学生くらいだったお姉ちゃんの誕生日もそうだった。成人するまで続くらしい。
歌ったり踊ったりして楽しんだ後は、アエファニルが祝いの言葉と共に小さな箱をくれる。
お礼を言って開けると、中には真っ赤な宝石のペンダント。
今まで完全に男児チョイスだったプレゼントがいきなりオシャレになってる!?
ちなみに五歳の時は、ちょっと格好良い変形ギミックで筆立てにもなる筆入れで、六歳の時は、特に利便性には繋がらない複雑で格好良い開閉ギミックのノート収納箱(呪術セキュリティ付き)だった。
希望が増加しそうなそのペンダントを、アエファニルが早速私の首に掛けてくれる。
「似合っておるぞ」
嬉しそうな表情からして、ラケラマリン様に言われて渋々選んだとかではなさそうだ。そろそろ脱・男児だろうか。
最近のアエファニルは随分と原作の「若きバンシー」に似てきて、まだぱっと見は美少女なものの、少しずつ骨格が男の子らしくなってきている。
性格もだいぶ落ち着いてきた。一時は「神秘的で落ち着きのある」じゃなくて「豪胆で思い切りが良い」とかラヴァに言われるような子に育ったらどうしよう……なんて思っていたが、ちゃんと原作のロゴス先生の雰囲気に近付きつつある、気がする。
転生して七年。シナリオは忘れないように頭の中で繰り返してるけど、ビジュアルは大分記憶が薄れてきてしまった。
でも成長したアエファニルを見て若きバンシーを感じるのだから、更に成長したらやっぱりロゴス先生を感じるようになるんだろうな。
パーティーを楽しんで、一日の終わりはいつものようにアエファニルに手を引かれて彼の寝室へ向かう。
するとラケラマリン様が立ち塞がった。
「アエファニル、添い寝は終わりにせよ。シャロンが一人で眠れぬようになっては困るのでな」
「されど……」
「一人で寝れぬのはそなたの方か?」
「……今宵で最後にする」
「良かろう。シャロン、アエファニルを頼むぞ」
「うむ!」
ありがとうラケラマリン様! そろそろ卒業するべきか迷っていた。
ラケラマリン様とおやすみの挨拶をして別れ、アエファニルの部屋に入る。
「我も七つになるまでは母上の所で寝ておったのだ」
ラケラマリン様、本当はもっとアエファニルと添い寝したかっただろうな。
老化をやめちゃうくらい猛烈に息子ラブなのに、必要とあらば距離を置く選択ができるのが凄い。真の愛だ。
「今宵は何をする?」
「すまぬ、すでにねむい……」
「踊り疲れたのだな。もう休もう」
いつもなら少し遊ぶ時間だが、今日は既に目がしぱしぱする。
アエファニルは私をベッドへ促し、棚から六英雄について書かれた書物を取り出した。
就寝前の読み聞かせもこれで最後かと思いつつ、私は一足先にオリジムシ人形を抱えて横になる。
しかし彼は書物の表紙を撫でるとそのまま棚に戻し、手ぶらでベッドに入ってきた。
「シャロン、我は決めた……カズデルへ行く。シャロンも共に行こう」
ああ、ついにか。
彼の瞳は決意を秘めて輝いている。どうやら原作通り旅立ってくれそうだ。
あとは私を置いていってくれれば完璧。
「わらわは行かぬ。ひとりで行くがよい」
今までも何度か断ってるはずなんだけど、断られると思ってなかったのかアエファニルは傷付いた顔をする。
「何故だ?」
「優秀なアエファニルと違い、わらわはひとつを覚えるにも時間がかかる。骨筆もろくに扱えぬというのに、河谷の外へ物見へ行く暇などない」
「そう卑下するでない。うぬの不得手は我の得手、カズデルで我が教えればよい」
「行かぬぞ。ここで姉上らに習うと決めておる」
お稽古で忙しいのは本当だし、そもそも小さな子供を連れての旅なんて、この大地じゃなくてもきついでしょ。ただのお荷物。
無事にカズデル入りできたとして、万が一ドゥカレに目を付けられたりしても嫌だし。
あの人ロゴス先生相手ですら「今のバンシーつまらん〜昔のバンシーは良かったのに〜」みたいなこと言ってたから、私みたいな雑魚バンシーなんて、何かの拍子に機嫌を損ねた瞬間プチッと潰されそう。物理的に。
最悪それ自体はいいとして、アエファニルが傷付くなり怒るなりした場合、原作ルートから大きく逸れてしまう危険性がある。
悲しみに暮れて行動が変わればロドス入りできないかもしれないし、怒りから戦いを挑んでも、ロゴス大先生でさえ殺し切る事ができなかったドゥカレが相手じゃ絶対勝てない。
そして例えドゥカレとエンカウントしなくても、内戦へ向かって治安が悪化していく中で弱小モブバンシーの私を守るのはかなりの負担になるはず。
カズデルでの危険を回避して二人でバベル入りしたとしても、私はやっぱり邪魔なだけ。
私一人が追加されれば、追加で一人分の物資が必要になる。何もできない私が、わざわざ河谷という安全地帯から出て行って、最前線の貴重なリソースを奪うわけにはいかない。
「むう……小さき頃のうぬは我の後をついて回っておっただろう……」
「逆であろう? アエファニルがわらわを連れ回しておったのだ」
私の塩対応に不満げに口をへの字に曲げるアエファニル。
可愛いけれども、流石に慣れましたよ。もう気後れすることは無い。
仕掛けるなら今かな。ちょっと嘲笑う感じで……
「よもやそなた、わらわが居らねば心細くて河谷の外へ出られぬのか? 一人寝もできぬものな」
「我を侮っておるのか? もうよい、カズデルへは我一人で向かう! 後で行きたいと言っても知らぬぞ」
「アエファニルこそ、後からわらわに泣きつくでないぞ」
「我が去って泣くのはシャロンであろう」
つい先程まで輝いていた瞳は私を睨み付けて、ぷいっと逸らされた。
アエファニルはそのまま私に背を向ける。
ごめん、アエファニル。一緒には行けないよ。
「わらわはここでそなたの無事を祈っておるぞ」
返事は無い。話は終わったようなので、羽で目を覆って寝る体勢に入る。
最後の添い寝なのに喧嘩しちゃったな。
しばらくすると私が眠ったと思ったのか、アエファニルが抱き着いてきた。
うん。ちょっと暑いけど、良しとしよう。
・
翌朝目覚めるとアエファニルは既に居なかった。このまま自分の部屋に戻ろう。
おっと、オリジムシ人形。アエファニルのベッドに置きっぱなしにしていたが、ちゃんと回収せねば。
かなりくたびれてしまったから、時間のある時に修繕しよう。
自室で身支度を済ませて、アエファニルとラケラマリン様と一緒に朝ご飯。
向かいに座るアエファニルは、私の胸元のペンダントを見て複雑そうな顔をしている。
プレゼントは身に付けておいて旅行(?)は拒否したわけだし、当然か。
でもこれはカズデルには行かないだけで、アエファニルを嫌いになったわけじゃないという意思表示だ。
いや、それが通じてるからこそ複雑なのかな。
「……シャロンは河谷の外に興味は無いか?」
おっと、まだ諦めていなかった。
こら、ミルクプリンの皿をこっちへ押しやるんじゃない。
受け取らずに押し返しておく。
「読み聞かせで十分である。すでに満足した」
「外を恐れておるだけではないのか?」
「しかり、外は恐ろしや。わらわのような未熟者は河谷を出てはならぬ」
アエファニルは昨夜の私のように挑発してくるが、普通に怖いから肯定しておく。
すると彼はミルクプリンの皿を手に私の隣へ回り込んできた。
「我がうぬを守れば良い」
「食事中に席を立つとは行儀がわるいぞ」
「我は既に食べ終えた。そして満腹ゆえこれはシャロンに」
「いらぬ。わらわも満腹ゆえ」
「まだ食べ続けておるではないか」
「みずからの分を食べ終えれば満腹になる予定である」
ここで傍観していたラケラマリン様が動き、私に纏わりつくアエファニルからそっと皿を取り上げた。
「アエファニル、いらぬのなら妾が貰っても良いぞ?」
「母上……」
「なれど、妾も満腹で全ては食べられぬ。満腹同士、三人で分担しようではないか」
ラケラマリン様がそう言うと給仕役のお姉様が素早く出てきて、三人分のミルクプリンをそれぞれ三等分して、三分の一ずつ集めて結局一人分のミルクプリンが三つ出来上がる。
なんだろう、無意味なはずなのに確実に何かが有耶無耶になった感覚がある。
「母上、これでは最初と変わらぬ」
「シャロンは食しておるぞ」
「美味である」
「む……」
私とラケラマリン様がミルクプリンを食べ始めたので、アエファニルも戸惑いながら席に戻ってスプーンを手に取る。
しかしまだ諦めたわけじゃないだろう。
食事の度に纏わり付かれても困るし、後でちゃんとお話した方が良さそうだ。