あの日   作:はまっち

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あの日(3)

 

 

 鈴の二打。拡がった霊力が”加護”に打ち切られ、続けて炎の粉が散る。粉微塵に裁断された術理を繋ぎ合わせて一つの結界を再構成する『秘式』を、一拍遅れた同種の結界術が食い止める。

 

「“蟇目の一番”。掛かれ」

 

 すんでのところで火葬場にも似た冷たい空気を押し留めた清浄な結界空間より、薙刀と小刀を構えた二人の神官が一直線に飛び出した。合わせて太刀を佩いた老年の神官が中臣鹿波を守るよう、矢にも似た陣形を形作る。

 振るわれる薙刀を白髪一本掠めるように躱した刹那、懐を穿つ小太刀。一瞥すらすることなく瞬時に二枚の加護障壁を展開して逸らした所、開けられたほんのわずかな霊的な切れ込みを“繋ぎ目”として霊力を霧散させる。それを見通していたように、打ち砕かれた炎が棘を為して中臣唯祈へと殺到。

 「“鏑の一番”」、瞬時に繰り返された言葉に則り、二人の神官は老婆の脇を掠めるように飛び退く。ピクリと眉をひそめて行動阻害の結界効果へと変化させた東雲燈聖へ、真正面から太刀を抜き放った老人が刀を振るう。炎を圧し固めて作り出した加護の壁を“分子間力を切断する”一刀で寸断し、二の太刀とばかりに踏み込み。合わせて両脇の若者二人が武器を構え直し、一歩踏み出す。

 溶岩のように崩れる火炎を切り裂き、三人の神官から繰り出されるは反閇にも似た一足一刀。杭を打つような足踏みと共に加護の刃を地面から突き出し、防御も回避も敵わない波状攻撃。老婆は同時に一歩下がって太刀を躱すや否や、柄香炉を手に屈んで起居礼(ききょらい)を。真っ向から首を狙った小太刀の一撃が空を切り、薙刀の切り上げが手持ちの鈴に阻まれ甲高い音を散らす。

 想定通りと柄香炉を振るった老婆を霊力だけで一瞥し、中臣理仁の「“鶴の三番”」。その瞬間、三人の神官は各々地面から突き出した加護の刃を蹴り、バネのように飛んで距離を取る。中臣鹿波と東雲燈聖を正面に立たせ、中臣理仁を天井へと跳ね飛ばした鶴翼の陣。彼らが距離を取った瞬間、火葬場のような静寂に満たされた結界――式法活性陣に補助された爆炎が迸った。

『対象を火葬し、死を確定させる』――致命にして致死の焔。その場にいる全員を対象に取った業火は、彼女自身を中心として三人の神官がそれまで立っていた加護の刃までに押し留められ、遠く距離を取った神官たちを焼き祓うには至らない。

 恰もそれは、結界領域自体が大きく減退させられ、三人が瞬時に打ち立てた加護防壁を要石としてその外側を規定されたかのような――。

「あら。あらあら、やるじゃない」

 ぽつりと呟き、追撃とばかりに口だけで唵と呪った瞬間を、中臣鹿波の“加護”が打ち消して。必中必殺の祓魔術を発動しなかったものと消し去っていく。一瞬だけの要石となった加護の刃が炎に燃え散り、後を埋めるように遍く縁を切るほどの冷徹な空気が周囲を覆う。

 

「うふふ!! 良いわねぇ、中臣の若い子たち! 結界術の効果を考えてしまえば、境界の押し合いにするのが一番手っ取り早いもの!!」

「……まんまと使わせられたというわけだ。我々の側が」

 悔し気に呟いた中臣鹿波の言葉を、東雲燈聖はおほほと上品に笑いながら否定する。

 

「あら。咄嗟に加護障壁を貼り、実態を持つ結界として再構築するって手法はよかったわよ? それに儀的陣形の流動性――よく訓練されてるのねぇ、中臣さんち」

 神祇庁庁舎の低い天井を泥のように突き破りながら、落下の衝撃を合わせて太刀を振り下ろす老人を軽く懐から引き抜いた剃刀で弾き逸らす。物理の根源――分子間力を、ファンデルワールス力を丸ごと切断して小さな剃刀を粉みじんに消し去った中臣理仁は、「厄介な」

と一つ呟き当身とばかりに柄と瞬間的な加護障壁を打ち合わせて距離を取る。

「結界の効果は……そうよねぇ、三次元法則(非霊力基本相互作用)の明確化しかないわよねぇ!! それが一番、おばさんを苦しめる代物だもの!!」

 忌火を放って中臣理仁を追撃した東雲燈聖は、その火炎がリノリウム1つすら焼き焦がせず消えたことを確認するや否や「育ちが良いのねぇ」と首を振った。

 

 現実の物理を肯定し、霊体による如何なる暴虐も意に介さない事とする純粋な結界――神祇庁境界対策部でも用いられる、清祓の結界術式。近頃流行りの“タクティカル祓魔師”とその推進者たちが好んで用いる、現世法則の最大適用。

 霊力を燃やす忌火では壁一つ傷つけられない代わり、ダイナマイト一つで界異を打ち砕く事すら可能にする、現世と幽世の法則をほんの少し現世寄りに再定義し直すだけの術。

 七人の天才の一人、つい数十分前に中臣家の者たちによって命を奪われた三河警部が開発した「祓魔術を縛るための結界術」が、機序は違えどその下手人たちの手によって発動される。

 

「……ご謙遜を。わざと上書きされることを前提に、自分だけを保護するよう結界術を張り巡らせる手腕で」

「うふふ、露見し(ばれ)ちゃった?」

 東雲燈聖は軽く肩をすくめながらふっと腕を振るって溢れる炎を剃刀の形に整形し、つい先ほど打ち砕かれた剃刀の代替とする。――人呼んで、『古流式法:焼成・(火炎を以て、)加護造形(加護を即席の武器に成型し、)/(そうして)霊力放出・凝(術式を武器へと纏わせる術)

 最も強く念じれば祓魔術も霊力も封じられうる結界空間の中で、老婆は容易く術を用いる。中臣鹿波が“自らの仲間たち”にしか例外許可していないはずの現実性の適用を、彼女だけがすり抜けている。

「目がいいのねぇ、鹿波くん。それに勘も良い」

 ――それ即ち。彼女だけが、彼女の肉体とその周囲だけが、中臣鹿波の結界の領域外である証左。

 その身にまとう術理を――境界の仕切りを必要としない霊力の守りの存在を見定めつつ、中臣鹿波は術理を練り上げていく。

「『印相』は仏教系の……“衆門”各派の代表的加護術式でしょう。知らない方がおかしい」

「あら、あら。結界破りでもなんでも使って良いのよ? さっきみたいにね?」

「……周到に呪詛返しを仕掛けておいて、よく言えたものです。結界破りを契機として『観想念仏』を行わせるやり口でしょう?」

「うふふ! ――――だから、勘も良いって言ったのよ?」

 

 一息。反閇歩法で強化された心身と共に、中臣虚保(うつほ)が薙刀と共に一の太刀を担い、東雲燈聖を目掛けて横薙ぎに振り抜いた――刹那。その間合いを読み切っていたかの如く、雪駄がリノリウムの地面を蹴る。

「唯祈殿!」

「“蟇目の三番”、参るぞ!」

 老婆が脇を掠めて通り抜けざまに若者の肋骨を切り裂こうとした瞬間、霊力で守られた拳で弾き。『秘式:呪祝詛詞』の一念と共に手首を返す。二合目の交錯を更なる加速と共に無視した東雲燈聖を真っ向から切り裂くように、小刀が振り下ろされた。

 隊伍を即席の陣とする儀的陣形――その真価であると術理の付与と共にある連携攻撃。一の太刀が躱されたとしても二の太刀、三の太刀が、呪いに補助された動きと共に襲い来る、クラシカル神祇官家の禰宜衆(お抱えの神祇官たち)でしか発動も鍛錬も行わない退魔の(わざ)

 踵を返して老婆の背後を切り裂くように薙刀を振るう中臣虚保のほうを一瞥すらくれることなく、東雲燈聖は火のように燃える瞳を閉じた。

「ああ、怖いわねぇ。祭具はそんな使い方をしちゃ……」

 するりと間一髪、歴戦の身体捌きで振るわれた小太刀を躱す。その刹那、小太刀の刀身が蛇の如く蠢き、数寸の間合いも軌道も無視して、老婆の細い手首を打つ。

 まずは一太刀。如何なる強度でも術的防護でも。“繋ぎ目の縁を切る加護”が蠢き、手首の繋ぎ目を必ず破断する、防御不可能必勝の刃を。

 

「貰った、曲式――」

「『秘式:焼成・簡易纏怪・鵺相』」

 

 ぽつりと呟かれた秘式に従い、すんでのところで彼女の手首に焔が纏わりつく。ほんの一瞬だけ狼の爪のように変わった炎を切り裂き、繋ぎ目の縁を切って、真紅の徒花が蛍火を散らす。

「なっ」

「『焼成・(炎を以て、)異装纏怪・怪相(界異の爪牙を生やす術)』」

 肉体との縁を切られた炎の爪が掻き消え、代わりとばかりに炎で象られた尻尾で薙ぎ掃う。中臣唯祈も、背後から薙刀を振り下ろした中臣虚保も、纏めて薙ぐ一撃。

 

「うふふ、あはは!! 惜しい、惜しいわねぇ、中臣家の若い子! まあでも東雲家ならこのくらい、『異装纏怪』の扱い位、炭華ちゃんくらいの歳からやってるものなのよ!?」

 

 咄嗟に武器を霊力の盾へと変えることで距離を取った二人をカバーするように、中臣理仁が迫った。

――『古流式法:縁成・(縁を以て、)異装纏怪・怪相(界異の爪牙を生やし、)/(そうして)霊力放出・凝(身心に纏わせる術)

 中臣理仁の口より呪いが迸るや否や。隼の如き剣先で、目にも留まらぬ六連撃。加護障壁を足場に、そうして東雲燈聖の回避行動を阻害するように置きながらのもう八迅。そのすべてを的確に身にまとった炎の尻尾と爪と翼とで受けつつ、炎の剃刀を三度振るう。

 『帰敬式(ききょうしき)』――生きるものも死ぬものも、等しく仏弟子として受け入れる仏教儀式の一つ。どのような術理が纏わりついているのか一瞥だけで判断しにくい儀術をこれ見よがしに放った東雲燈聖に舌打ちしつつ、これまでの軽い連撃から一転、重厚に密度を上昇させた太刀を加護障壁に当てる。結界が破断し、界異にも似た炎がまた別の界異に酷似した縁切りの怪力に打ち破られていく。

「無駄話を」

「あらあら。たまには若者と話させてくださいな、理仁おじいちゃん?」

 『秘式:焼成・(炎を以て、)簡易複製(術式を模倣する術)』。後手である東雲燈聖より、一瞬早く刀を振るう中臣理仁へ向けて。全く同じ太刀筋で、全く同じ軌道の剃刀が振るわれる。

 相互に身体強度を反閇歩法で補いつつ、老人とは到底思えない膂力と速度を以て。かたや人の可動域のまま、かたや炎の翼と尾を織り交ぜ、一撃一撃ごとに音速を超えた斬撃と術式防御が繰り出される。

「若者などと。脳卒中を患ってから言え。小娘」

「うふふ、嫌よぉ。中風か一口狼に食われるか、どっちが予後良好(マシ)かというと後者じゃないの」

「確かにな」

「珍しく気が合うわねぇ。あの頃はいけ好かない軟派男だったくせに!」

 

 炎の翼でリノリウムの床を叩きつけ、目隠しに。加護で出来た剃刀に霊力を纏わせつつ、数手先を炎の瞳で読み取って。

――『南無阿弥陀仏』、一息で吐き出された呪いと同時。東雲燈聖の予想を裏切り、中臣理仁は一歩更に大きく踏み込んだ。

「あらっ……!?」

 薄ら笑いが消え、迫る太刀に炎の剃刀を宛がう。霊力の炎が一瞬で裁断されることを前提に後ろへ大きく飛びのき、腰に提げた卒塔婆を振るう。

 一太刀、剃刀の焔を吹き消し、続いて切り返し。老婆が真ん中から粉と化した卒塔婆を片手に『念彼妙法力(ねんぴみょうほうりき)還著於本人(げんじゃくおうほんにん)』と偈を読み上げるや否や、霊力による非実体の斬撃が中臣理仁を襲う。それを三の太刀で切り捨てつつ、距離を詰めての袈裟懸けを。

「念仏は指向性を定めぬもの。善導より蓮如まで、解釈の余地が多数あるが故に」

「ええ、ええ……! よぉくわかってるじゃないの、ねぇ……っ、『念彼妙法力(ねんぴみょうほうりき)刀尋段段壊(とうじんだんだんえ)』……!」

 偈が繰り返される。ただのそれだけで、儀式が成立する。観音菩薩を念じることで、地獄の刀ですらも粉砕されるという破邪顕正の経偈。その儀術に従い、中臣家に数百年来伝わる太刀が――その刀身に纏わりついた霊力(『異装纏怪』)が破砕される。

「法華経の偈頌。朝題目夕念仏とはよくいったものだ」

「……っ。おばさんとおんなじ手を使うなんて、意趣返しのつもりかしらぁ!?」

 勢いを殺すことなく振り下ろされる刀を躱しつつ牽制とばかりに炎の霊弾を撃ち込む。老爺の蹴りだけで打ち破られた秘式を前に、半分粉々にへし折れた卒塔婆を振るった。

 口元だけで唱えられるは、『南莫(ノウマク)三滿多(サンマンダ)嚩日囉赧(バサラダン)(カーン)』。一字の(しゅ)。火炎に身を包み、降魔の剣を構える不動明王の真言。自ら発したモノではない炎を剣のように纏わせて間合いを広く取り直しつつ、再度作り出した炎の剃刀と共に疑似的な二刀流で超速の剣戟に対応していく。

「うふふ、考えるじゃない……!」

 炎の宿る瞳を閉じ、ほんの一瞬。剃刀を切り上げての『南無散華』。花弁のような火炎を撒くや否や、儀術を知り尽くすがゆえに一瞬反応に遅れる中臣理仁へと蹴りを放って一歩退いた。

 刹那、展式。雑面で顔を覆った女が、剣戟の合間に小刀を伸ばす。間合いの外、中臣理仁の剣線の隙を縫う理外の刺突。

 未来を読み切っていたかのように躱した老婆の懐を、焔で出来た翼を、その接続部の縁を切り裂いて掻き消し、苦汁を噛み締める女へ東雲燈聖はパチリと指を鳴らす。古く密教に伝わる『弾指』の儀式。“対象を火葬する”忌火を牽制がてらに放つ。

 

「あら。貴女の式法が“繋ぎ目の縁を切る”っていうことは、だいぶ有名な方なのよ? ねぇ、中臣神祇官家の剣術指南役さん?」

 中臣唯祈はぎりと奥歯を噛み締め、忌火から逃れるように一歩横へと退きながら吐き捨てた。

「ならば加えて覚えておけ、私は中臣唯祈(いのり)……! 茅花様の懐刀だ!」

「あらぁ。おばさんがボケてると思ってるのねぇ!」

 貫式。目の前に立つ老爺の身体を割るように、霊力で形作られた伝統的近接祭具を横薙ぎに振るう。

 味方を丸ごと寸断する軌道で放たれた斬撃は、その障害物をすり抜けて東雲燈聖の胴へ。

 咄嗟に回避しようとした東雲燈聖の足元が泥濘の如く溶け落ち、分子間力を失ってその踏み込みを無為に帰す。中臣理仁の、”ファンデルワールス力の縁を切る加護”。

「『秘式:簡易防壁』――っと。『霊力放出・――――」

 秘式と式法を行使して卒塔婆を振り抜き、短刀の横薙ぎを弾き。後ろから振るわれた薙刀の連撃を合わせて、己を中心に広範囲の忌火を浴びせかけようと。

「させませんよ」

 ――――刹那。パチンと音が響き、式法の術理が破綻する。一撃必殺、“対象を火葬する”炎が掻き消える。

 中臣家の武人たちの数歩後ろから的確に数多の結界効果を重ね掛けしていた中臣鹿波の“加護”が、真に必殺を返す位置で炸裂する。

「やるじゃない、良い四枚目(さいどきっく)になれるわよ?」

「活性陣2つに【障壁結界】から【攻撃限界】まで――同一空間に10個も結界を重ねてここまで動けるような輩は、そうそういませんよ」

 防御も回避も為すことが出来ない結界術と“加護”の網。物理も術も防御を為さず、掠めただけで必殺となる三つの破魔の(すべ)。単独で1つの大災害を構成する崇神級界異であっても滅殺を可能とする連携を目の当たりにしつつ、東雲燈聖はただ笑った。

「うふふっ、あはは!! 結界管理課の英才、大詰神祇官家の秘伝……『多重濾過式結界敷設術』じゃないの! 立場に任せての儀術盗み見なんて、(まつ)くんにバレたら怒られるんじゃないかしらぁ!?」

 

 瞬時に空中へ九字を切り、「『妙法蓮華経作礼而去(南無不可思議光如来)』」。身・口・意の全てが別々の方向を指向した3つの儀式を同時に執り行う外道の念仏。

 指向性をあえて持たせぬ念仏に従って放たれる仏教儀式を咄嗟に飛び退くことで躱した中臣家の精鋭たちを横目に、大きくくるりと身体を回して焔の尻尾を中臣唯祈へと叩きつける。

 

「お前こそ……時田家の『二重思考(ダブルシンク)』を……!」

「あら、あら! 三業三密を別々にしただけじゃないの!なぁんにも疚しいことなんてないわよ?」

 “繋ぎ目の縁を切る加護”、発動。炎の尻尾を寸断し、刹那に『展式』。『曲式』。瞬間的に伸び切った短刀の切先を大きく曲げ、鞭とばかりに撓らせる。

 息を合わせて回避軌道を制限するよう後ろから九重に振り払われた薙刀を一瞥するや否や。どろりと泥濘の如く分子間力を失った足元に加護の壁を作って足場としながら、老婆の足が反閇を踏み。居合の如く逆袈裟に切り上げる卒塔婆を見せつけて――。

 

「――――『喝』ッ!!」

 

 ただの一呼吸。儀式が発動し、咄嗟に防御の構えに移行しかけた中臣唯祈と中臣虚保とを纏めてその肩口を叩き落とすように見えざる霊体の打撃が降り注ぐ。

 バチンと大仰な音を出しながらバランスを崩す二人を尻目にカバーへ入った老爺へ向けて炎の杭を伸ばし、足元の加護障壁をバネとして宙を舞う。黒い法衣が裾の襞を散らしていく。

「『秘式:焼成・(火葬の炎を以て、)簡易霊弾(略式の霊弾を)・結合(一手にまとめて放つ術)』」

「――『古流式法:縁成・(縁を以て、)呪祝詛詞(脆弱の呪いを)/霊弾発射・分割(散弾として放つ術)』」

 刹那、その一瞬の狭間を縫って、術と術とがぶつかる。致命の包囲を逆手に取り的確に一人焼き殺す勢いで放った炎の弾が、中臣鹿波の祓魔術によって敢え無く打ち砕かれ掻き消える。それを最初から悟っているかの如く、くるりと宙返りしながら『南無阿弥陀仏』の念仏を。

 ただの一息で最精鋭の神祇官たちの包囲網から抜け出した東雲燈聖は、肩をすくめて無駄話に花を咲かせていく。

 

「まあそうよねぇ。所詮は商人風情、或いは武家崩れで、穢晶バブルの尻に乗った民間警備会社の長だもの! 天下の伊勢祭主、中臣神祇官家じゃ動かせるカネが違うわよね! ああ悲しい、悲しいわねぇ。おばさんみたいな弱小神祇官家だと、中々崩しきれないわ!」

「肝心要の【初期化】を『柴燈護摩』で封じていて、よくもまあ……自分が弱者の立場に立ったような口ぶりですね、東雲神祇官」

「あら、あら。うふふ。バレちゃってた? おばさんが毎回毎回、ずっと護摩香を燃やしながら戦ってるって」

 術理に加えて、術理を重ねる。術理に対抗するべく、また別の術理を以て解きにかかる。

 中臣鹿波たちのような神祇官も、東雲燈聖のような神祇官も、根本的な原理は同じ事。

 ――にも拘らず。

 

「『外護摩』だけではないでしょう? だからこそ、『印相』を結び自身を仏の代理人とした。それならば心中で煩悩を燃やす『内護摩』の解釈に合致する……異なりますか」

 

「大正解! うふふ、良いわね若い人の理解力って――それで、どうするつもりかしら? 結界破りも初期化も通じない、ただ呪殺されないだけの結界よ?」

 

 ――崩しきれない。中臣鹿波は、目の前の老婆を見据える。

 凡そ五号級界異程度であれば祓滅する事も容易い中臣家の四人がかりでもなお。時間稼ぎをされ続け、剰えこちらの術理と手だてを前もって防御し続ける。

 

「……呪殺。僕たちが得意とするとでも」

「うふふ。いやねぇ。女護ヶ島に長曾我部のお坊ちゃん……一から十まで後ろ暗い警察連中がその程度の手、思いつかないと思う?」

「仕組まれている、と?」

「うふふ! さあどうでしょう! おばさんも貴方も、結局は駒の一つだったりしてね?」

 

 老婆は小さく笑い、息を軽く整えた四人の神祇官たちを睥睨する。

 

「……ならば、盤面ごと崩すだけです」

 

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