NEED FOR SPEED × Blue Archive 作:アキ・レーシング
「はぁ...あの車、ホントにどうしようかな...」
ある日、まだ誰も来ていないガレージで先生が見ていたのは、DAMDのStyling Effect Bumper Typeのフルエアロが組まれ、ホイールはRAYSのRE30、タイヤはADVANのA052を履かされた黒いZ33型ニッサン フェアレディZだ。
ナンバーはついているのだがこの車両、先生の持つM3 GTRよりもかなり問題児な車両になってしまっており、持ち主である彼女も扱いに困っているのだった。
事の発端は数か月前。イチカの当時の愛車、トヨタの70スープラの車検が近づき、このZを代車として貸し出すために仕上げていた時のことだ。
「さーて、こんなもんかなぁ...」
エンジンにもすこーしだけ手を入れ、メーター類を一新。シートもBRIDEのフルバケットシートを運転席、助手席の両方に取り付けた550馬力仕様。代車なのにパワーありすぎじゃない? という野暮は聞こえない。
「先生、これは誰の車?」
「これは代車だよ。貸し出して欲しかったら言ってね」
「ん、分かった」
当時ガレージに来ていたシロコは車をまだ持っておらず、自転車でショップまで来て作業を手伝ってくれていた。「自分だけ車がないのはちょっと寂しいけど、車のメンテナンスとかチューニングのやり方を知ってれば、きっと後で役に立つ」とのことらしい。たまにホシノのR32 GT-Rの助手席に乗ってきたこともあったが、最近はもっぱら自分で来るようになっている。
シロコはZに目を輝かせ、「ん、これ幾らで売ってくれる?」と聞いてくることがあったが、その度に「うーん...ちょっと考えさせて...」とやんわり断ってきた。そもそも代車としてはもちろんだが、ミレニアムやゲヘナから「ジムカーナのデモランをしてほしい」とお願いされたり、「サーキット走るときに同乗させてください!」などなど...色んなお願いの連絡が、今でも後を絶たない。いつもその時に持っている車の中で良さげなもの、例にあげるとするならアリスが以前大破させたS15シルビアや、元環状族のレーサーが「俺はもう乗らないから」と渡してきたワンダーシビックなどで行ってきた。
だが1台だけにした方が何かとラクなのだ。
イチカのスープラの車検が目前に迫ってきたとき、シロコがメッセージを送ってきた。
『あのZを1日借りたいんだけど、いい?』
このメッセージを承諾したのがもう、間違っていた。
「それじゃあシロコ。これがZの鍵ね。いい? 絶対に傷つけてこないでね?」
「ん、問題ない。アビドスの部車でジムカーナ練習もした。」
「...ジムカーナで使うの?」
「いや、...ノノミたちの前でちょっとだけいい顔したくて...ダメ?」
あぁ、その気持ちわかるなぁ...と凄く共感してしまった先生。先生自身もそうだった経験があり、とある事情があってリライアントのロビンという車両に乗っていた時、「こんなのに乗ってたら心臓がいくつあっても足りないしダサすぎて笑われちゃうよ!? これならまだシボレーSSRの方がマシ!」と無理を言って車を借りたことがある。
借りたのはヤニカスの仲間が乗っていたプジョー407のセダンだったがそれは酷い車だった。そもそもタバコの匂いが酷い。しかもどれだけ調整してもドライビングポジションは合わない。それだけじゃない、2.0Lのディーゼルエンジンでオートマ仕様だったため、どれだけ踏んでも加速しないという代物だった。
まぁその話はさておき、シロコにZのキーを渡して、Zが走り去っていくのを見届けると自分の車の1つであるNCロードスターの調整を始める。しばらくして、ふとスマホを見ると「何故ここに...?」と思わず頭を抱えたくなるような車がサムネに使われた動画を見つけた。
「歴代勝者の鼓膜に轟く350Zの咆哮! 第12回BSR」という名前の動画は既にバズっているとも言えるような再生回数を突破し、コメント欄を見てみれば「速すぎだろ! 動画なのに目が追いつかなかった!!」とか、「どこでチューンしたら350Zがこんなにバカ速くなるんだよww 私のZ34にも同じチューンしてほしいw」だの「ナンバープレートが見えなくヴァルキューレに突き出せねぇわ()」などなど色んなコメントで溢れかえっており、「これはキヴォトス最速のZだわ」というコメントにはかなりのイイネがついていた。
思わず動画を再生してみる。
編集などは特にされておらず、Z33は恐らく最後尾にいるのだろう。先頭にはR34やJZA80などのほかにもフォードのF150やポルシェの911GT3RSなどの恐らくは動画名にもなっている歴代勝者のマシンなのだろう。
レースが開始されるとけたたましい音ともに各車両はスタートしていき、Z33はどんどんと加速していきその姿を見せる。その横姿は街頭などに照らされるよりも早く公道を駆け抜けていき、見ることは惜しくも叶わない。
他の車たちを凌駕するそのエンジン音は、間違いなく先生がシロコに貸し出したあの黒いZに近い音がしていた。
やがて視点が変わり、別のカメラからの視点に切り替わる。一般車をまるでパイロンのように追い抜かしていき、姿勢を崩したトラックは反対車線側に横転する。ストリートレーサーの中にはマシンを止めてしまう人もいたが、ほとんどのレーサーはそんなトラブルなどなかったかのようにアクセルを踏み込んでいる。
先生という立場であるのは分かっていつつも思わず関心してしまう。走るときに迷いがなく、自分のラインを走っている。一般車もいる中でスピードを出しながらラインを見つける。自分もレーサーになりたてのころは上手くラインを見つけられず、思うようにレースで勝てない時もあった。
その点このストリートレーサーたちはとても評価できると思う。フラフラしてないし、他の車両とぶつかったとしてもフラついていない。
コーナーをドリフトで駆け抜けたZ33はストレートで様々な車たちを追い抜いていく。気づけばトップに躍り出ており、なんなら観客相手にドリフトパフォーマンスを見せつける余裕すらある。
最終ストレートに入り、周りからのライトにより照らされたZは、つい数時間前に先生がシロコに貸したZそのものであり、先生はため息ながらにスマホの動画アプリを閉じる。
「どうしたもんかな...ここまで有名になっちゃうとイチカにあのZは貸せないし...しょーがない。NC貸すかぁ」
先生は怒るという考えを超越し、「無」の境地にいた。今の心配事はシロコではない...とはいえるわけではないが、イチカに代車としてZ33を渡すのは流石に良くない。下手すればイチカがヴァルキューレのお世話になってしまう。そんな事態になるのはマズすぎる。
先生は自分のNCロードスターをイチカに貸し出すことにし、その日を終えた。
「先生、昨日はありがとう。おかげ様で良い感じに自慢できた」
「....そっかぁ。それなら良かったよ」
次の日。シロコは満足げな顔をしながらZに乗ってガレージにやってきた。先生はもう怒る気もなく、シロコは先生と軽く雑談をしてからガレージに置いて行ってた自身のロードバイクに乗り、ガレージを後にした。
どうやら昨日のバズりようをシロコは知らないらしい。普通に鍵を返してきた。取り合えずZのエンジンをかけ、ゆっくりと奥の方に車両を動かす。それが終わるとM3GTRと同じようにカバーで車を隠し、如何にも「最近来た車ですよ感」を出しておく。効果があるかは分からないが、ないよりはマシだろう()
「それじゃイチカ。これ代車の鍵ね。ぶん回してもいいけどあんまり派手にやりすぎないようにね」
「流石に分かってるっすよ...それじゃお願いするっすね~」
「はいよ~...はぁ...」
車検の日に、イチカにNCの鍵を渡し、彼女が走り去っていくのを見るとまたため息をついた。
こうして今に至るのだ。デモランなどはR35や、NCロードスター、かつて使っていたニッサンの240SXを使って出来るし、同乗走行も同じ要領で行える。Z33は両サイドに龍のバイナルが入った緑色の個体をベイビューで借りた時から、また乗りたいと思っていた車だったため残念ではあるが、こうなった以上あのZはずっと封印しなければならない。その事実の方が先生にとっては悲しかった。
「廃車にするには勿体ないけど...車検切れるまで待たないとかなぁ...」
昔ならナンバープレートを交換してしまうというやり方があったが、今そんな事したらもれなくヴァルキューレに怒られてしまう。しかも先生という立場からもどうしようもできないままなのだ。
こうしたまた、Zをどうするか考える日々が続くのだった。
次がいつになるかは分かりませんが、また次回...