東方 聖杯異譚   作:トマト教信者

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第三話

 

 

永遠亭での協力を取り付けたパチュリーと咲夜は、次なる目的地へと向かっていた。

 

 

「次は妖怪の山ね。あそこにいる神、二柱に協力を仰ぐわ」

 

 

パチュリーの言葉に、咲夜は一つ気になる点を確認する。

 

 

「……最終的に、必要な協力者はどのくらいになるのでしょう?」

 

 

道中でもある程度の説明は受けていた。しかし、幻想郷の各地を回って協力を求めるという規模に、どうにも引っかかりがあった。

 

 

「各勢力のトップ全てに協力を仰ぐ必要があるわね」

 

 

パチュリーは平然と答える。

 

その返答に、咲夜は思わず絶句する。

 

 

「幻想郷を征服する方が簡単なのでは……?」

 

 

幻想郷全体を巻き込む催し。それは確かに壮大なものになるだろう。我儘な主人もお気に召すだろう。しかし、その準備にかかる労力を想像しただけで、眩暈がしていた。

 

 

***

 

 

現在、二人は妖怪の山の守矢神社にて、巫女・東風谷早苗に話を伝え終えたところだった。

 

 

「いまいちよく分かりませんでしたが、面白そうですね! とりあえず、神奈子様たちに伝えてきます!」

 

 

早苗はすっかり乗り気になり、咲夜たちを残して社務所の奥へと駆けていった。

 

ほどなくして、早苗は守矢神社の二柱。八坂神奈子と洩矢諏訪子を連れて戻ってきた。勢いそのままに話す早苗に、神奈子は苦笑しながら口を開く。

 

 

「早苗からざっくりとは聞いたが……詳しく話してもらえるか?」

 

 

少女説明中……

 

説明しながら社務所に移動し、パチュリーは話を続ける。

 

 

「お願いしたいことは二つ。一つは、龍脈と、妖怪の山の利用許可。もう一つは、戦神と祟り神として、儀式の安定化に何か協力できることがあれば力になって欲しいの」

 

 

守矢の神々が妖怪の山を実質的に支配している今、龍脈の使用許可は不可欠だった。しかし、二柱はそこまで難色を示す様子もなくむしろ興味深そうな表情を見せた。

 

神奈子が笑みを浮かべる。

 

 

「面白そうじゃない。龍脈は好きに使っていいぞ」

 

 

その言葉を待っていたかのように、諏訪子が乗り出すように問いかける。

 

 

「それで!そのますたぁ?ってやつは、どうやって決めるの?」

 

 

神奈子も諏訪子に続く。

 

 

「さーゔぁんと?ってのを呼ぶための聖遺物とやらは、どうするつもりだ?」

 

 

閉鎖的な幻想郷で、皆が楽しめる行事など滅多にない。二柱の神は、早苗以上に乗り気のようだ。

 

 

「マスターは、人間、または人間に近しい存在から選ぶ予定よ。本来の聖杯戦争が、人外をマスターとする想定をしていない可能性が高いためね。候補としては博麗霊夢、霧雨魔理沙、咲夜、優曇華院、東風谷早苗、妖夢……あと一人は適当に決めるつもり」

 

 

「ふーん。参加したかったけど、まあ仕方ないか」

 

 

神奈子は軽く頷き、隣の早苗の肩をぽんと叩いた。

 

 

「サーヴァントの方は、縁のある物品を魔術媒体として使えば問題ないと見込んでいるわ。幻想郷には偉人の転生者や神もいるし、案外なんとかなると思うわ。」

 

 

咲夜が使ってるナイフでも。と一声添えて聖遺物に関しては問題無い事を伝える。

 

それを聞いて咲夜はしげしげと、自身のナイフを見つめる。早苗は「もしかして……」と、髪飾りにそっと手を添えていた。

 

 

「戦場はどうするつもりだ? 奇襲が得意な役職もあるんだろう? そうなると、最後の一人になるまで、いつでも、どこでも戦うような形式になるのか?」

 

 

戦神としての視点の的確さに、感心しながら答える。

 

 

「さすが戦神ね。ホントは幻想郷の全域を戦場にするのが理想だけど、各勢力と相談してから決めるつもりよ。最悪、一対一のトーナメント形式になるかもしれないけど、それでも十分娯楽にはなるはずよ」

 

 

神奈子は少し渋い顔をした。アサシンは直接的な戦闘は得意ではないと予想できる。奇襲あり、基本何でもありのサバイバルゲームというルールだからこその役職だと考えられる。仮に、一対一の方式になってしまうと見栄えが悪くなりそうだ。

 

 

「一対一でも面白いとは思うが、ベストではないな。最悪、妖怪の山なら、全域を使って構わない」

 

 

思案した顔を崩さぬまま、言葉を続ける。

 

 

「それと……観戦方法のアテはあるか? 必要なら天狗に頼んでおくが」

 

 

即席の使い魔を各マスターに随伴させようと思っていたが、見れる視点は多い方がいい。

 

 

「助かるわ。それなら遠隔監視用の魔導具を持たせればいいと思うわ」

 

 

 滞りなく話は進んでいった。

 守矢側の今後の方針や、他勢力への交渉についても助言をくれた。本人たちは「推測に過ぎないため、過信はするな」と言っていたが、幻想郷の上位層の意見として貴重な意見だった。

 

 

***

 

 

守矢側との話し合いも大方が済んでしまい、次にどの勢力へ交渉に向かうか。咲夜たちが相談しようとしていたその時だった。

 

 

「随分と面白いことを企んでいるわね」

 

 

室内に響いたその声に、全員警戒を強めた。

 

空間に裂け目が生じ、夜を想起させる特徴的な傘と、長い金髪に目を引き付けられる。幻想郷に存在しているものなら名前くらいは知らなければいけない存在。

 

 

「除け者にするなんてヒドいと思わない? 当然、私も参加させてもらえるのよね?」

 

 

芝居がかった口調で、幻想郷の賢者──八雲紫が優雅に姿を現した。

 

 

「思ったより、早く釣れたようね」

 

 

パチュリーが事情を説明しようとするも、彼女は既に全て見ていたらしく、断られてしまう。

 

 

「確かに、あなたが計画している内容であれば、幻想郷で聖杯戦争は不可能ではないわ」

 

 

賢者直々に言い渡される正解発表に。パチュリーは自ら計画した魔術儀式が模倣とはいえ可能だという事と、レミリアの我儘が完遂されてしまう事に対して何ともいえぬ感情に不快感を感じた。

 

一方紫は、パチュリーの計画を率直に評価していた。発端こそ別人だが、リソースの限られた幻想郷でこれほどの催しを仕掛けようとする度胸と、可能性があると確信できる慧眼に対して。

 

刺激に乏しい日々の中、人間にも妖怪にも良い刺激を与えられる——そう判断したのかもしれない。

 

 

「だから、ここから先は私が主導してあげるわ。感謝しなさい」

 

 

しかし、完璧な従者が待ったをかける。

 

 

「手柄を横取りする気ですよ、パチュリー様。断りましょう」

 

 

真顔でボケる従者に、パチュリーは軽くため息をつく。

 

 

「ぜひお願いするわ。私達が駆けずり回るより、遥かに効率がいいもの」

 

 

「意外とあっさりと譲ってくれるのね。実際、私が動いた方が早く確実に遂行出来るし、win-winってやつよね」

 

 

後日よろしくね。と言い残して、紫はひらひらと手を振りながら、隙間の中へと消えていった。

 

 

***

 

 

そこからは紫の宣告通り、幻想郷の管理者という権限をフル活用し、各勢力に通達と協力要請を行いわれた。

 

本来の聖杯戦争には無い約定もいくつか設けられた。マスター同士の殺し合いの禁止。これはあくまで遊戯、多少血は出るかもしれないが娯楽の一環であるため設けられた。

 

それと、能力の使用制限。普通(自称)の魔法使いである魔理沙はいざ知らず、時間操作するメイドに、ずうっと無敵になれる巫女など、見ていてつまらなくなるだろうと意見が挙がり、使用出来る能力は、事前に登録したスペルカード3種に絞り、1日に3回まで使用可能という形式に。

 

人里の混乱を防ぐため、一部の有力者にも話を通し。マスター枠には当初の六人に加え、人里代表として上白沢慧音が選ばれた。

 

術式の最終調整には、魔法使いや賢者たちが総動員され、儀式の準備は予定よりも早く完了した。

 

 

***

 

 

「まさか、こんなに急ピッチで進むとは思ってなかったわ!」

 

 

「魔術を扱える人材を総動員したおかげよ。感謝しなさい」

 

 

英霊を召喚するために画かれた陣。その前では、開催までのスピードに驚く元凶であるレミリアと、普段よりも3割増しで疲労感を滲ませる今回の第一共犯者パチュリー。

 

召喚陣の前。元凶たちが見守る中、咲夜は一人静かに立つ。

 

明日、昼の12時。幻想郷初の聖杯戦争が幕を開ける。

正確には開催の通達がそれぞれの勢力に伝達される。

 

ホントはあまり乗り気では無かった。要は見世物にされてしまうのだ、いい気分はしない。だが、悲しいかな主人の我儘に付き合うしか選択肢は無いのだ。

 

…少しでも楽しめる部分があるとすれば、弾幕ごっこでは無く、純粋な果たし合い。細かい制限があれど殺し合い。

 

久しぶりに見るであろう血に、懐かしさを期待していた。

 

咲夜は愛用のナイフを陣の中に放り投げる。寂しく横たわる銀色を月明かりが淡く照らした。

 

 

「教えた通り、詠唱を」

 

 

息を深く吸い、咲夜は呪文を唱える。

 

 

素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

 

――――告げる。

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――

 

陣の中心が輝き、魔力が収束する。そう感じたのも束の間。いつの間にか一人の影が現れていた。

 

 

「召喚に応じ、参上した。クラスはアサシン。ほどほどによろしく頼む」

 

 

英霊が、人理の残滓が現世に現れ、秘匿された聖杯戦争が、静かに幕を開けたのだった。

 

 

 

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