東方 聖杯異譚   作:トマト教信者

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遅筆で稚拙な駄文ですが、エタらない様に頑張ります。


第四話

咲夜の詠唱によって召喚された少女は、とても見覚えのある容姿をしていた。

 

身に纏うボロボロの外套は素人目でも高級だと分かるもので、少しあどけなさを残した彼女の手には、食事で使うには無骨すぎるナイフが握られていた。外ハネのある銀髪のウルフカットと、深い水底のように冷たい瞳。外見年齢は、せいぜい十歳前後だろうか。

 

「……え、咲夜?」

 

思わず呟いたレミリアの目に映る顔立ちは、咲夜の幼い頃を彷彿させるものだった。

 

「………………」

 

咲夜の胸中は、驚愕では無く納得だった。

 

レミリア一行に出会う以前。ロンドンに身を置いていた頃。咲夜は窃盗や暗殺などを請け負い、食い扶持を稼いでいた。

 

その幾つかの依頼の中で、彼女は魔術師、魔術使いと呼ばれる者たちを幾人か、その手にかけていた。

 

──白い切り裂き魔──

 

魔術を扱う者たちの間でささやかに語られた通り名であり、当時ロンドンを震撼させていた切り裂きジャックと混同され付けられた通り名でもある。

 

しかし、咲夜が手にかけたターゲットの一人が、偶然にも切り裂きジャックの仕業にされ、新聞紙の一面を大きく飾ってしまった。

 

その一件が理由では無いが、以降ロンドン市内での活動を控え、新聞デビューの1ヶ月後には、静かにロンドンを後にした。

 

過去のやらかしが、英霊が、ジャック・ザ・リッパーが、目の前に存在し、少女の姿を形作っていた。

 

切り裂きジャック事件の一部分であり、一部のコミュニティから同一視された者が使っていたナイフを触媒にしたのだ。少し考えれば当然だと納得できた。

 

「……まさか、幻想郷を巻き込んだ大儀式が、思い出話をしてくれるなんてね」

 

苦笑いとともに漏らした独白に、サーヴァントは小さく首を傾げる。

 

「…あなたが、マスターか?」

 

少女の問いかけに、咲夜は一瞬だけ目を伏せた後、相手を見る。

 

「ええそうよ。私があなたのマスターで、そして─」

 

軽く息を吸い、呼吸と共に言葉を吐く。

 

「………おそらく、あなたの真実よ」

 

小さく呟いたその言葉は誰にも届かない。

 

パチュリーとレミリアは、咲夜の心の揺れなど露知らず、懐かしさを感じる少女に見入っていた。

 

「懐かしいわね、本当に昔の咲夜みたい」

 

「ふふ、ほんとほんと。手とかこのくらい小さかったっけ」

 

サーヴァントとして顕現した少女の頭を、レミリアが優しく撫でる。パチュリーも釣られて手を伸ばし、軽く髪を整える。鬱陶しく感じたアサシンは嫌そうにそっと距離をとる。

 

「……貴女たち、何をしているんですか」

 

呆れた口調で言うサーヴァントに、呼応するように咲夜もため息をつく。

 

「はぁ……」

 

これ以上ベタベタされるのは御免だと、何処か自分に似た雰囲気のマスターを横目に、アサシンは霊体化してその場を煙に巻いた。

 

〜~~~~

 

静寂に包まれた博麗神社の縁側。

 

夜空には月が浮かび、澄んだ空気の中にかすかな春の香りが漂っていた。博麗神社の主、博麗霊夢は、ひとり腰を下ろし、月を見上げながら酒の入った湯呑を口に運ぶ。

 

晩酌を楽しむその姿は、これから始まる騒動など気にしているようにも気にしてない様にも見えた。

その背後から、軋む床を鳴らしながら何者かが近づいてきた。

 

「隣、失礼してよろしいかな?」

 

低く穏やかな声と共に姿を現したのは、赤い装束に日に焼けた様に浅黒い肌をした白髪の青年。霊夢が此度の聖杯戦争で召喚したアーチャーだった。手には山菜の天ぷらが盛られた皿を携えていた。

 

霊夢はちらりと彼を見上げると、ふっと口元を緩めた。

 

「それを持ってそんなこと言うのは、なかなかのイジワルね。天ぷらに免じて許可してあげるわ」

 

「ふっ…手厳しいな。君は」

 

軽く肩を竦めたアーチャーは、霊夢の隣に腰を下ろし、彼女と同じように夜空を仰いだ。彼は月に目を向けたまま、此度の召喚に関して感じたことを静かに思い返す。

 

━━━現界した直後、最初に目に映ったのは、妖艶な金髪の美女と、巫女装束のような装いをした少女だった。

 

俺が召喚されたこの地は、日本の僻地にある秘境「幻想郷」という場所らしい。金髪の女━━八雲紫と名乗る存在から、そう教えられた。人間と妖怪、神と魔なるものが共に在るという、現代魔術の常識を鼻で笑うような場所だ。

 

もちろん。俺の記憶には、こんな常識外の魔境など存在しない。

 

曰く、今回の聖杯戦争は本来のシステムを模倣した「再現」らしく。殺し殺され、血に塗れた本来の聖杯戦争とは異なり、単なる娯楽、単なる興行、単なる祭りなのだと告げられた。

 

………あれほどの規模の魔術儀式を、余興のように扱うなど。考えるほど頭が痛くなってしまう。なので、ソレについては一旦、頭の隅へ置いておく事にする。

 

そのため、マスター同士の殺し合いは禁止されている。無用な破壊行為や命の奪取も、重大なルール違反として禁止しているそうだ。

 

魔術師たちが創り上げた儀式によって血を流す者がいないと喜ぶべきなのか、英霊達の戦舞台を娯楽として使われる事へ悲しむべきかなのか、1人の英霊として、守護者として思うところはある。

 

疑問を枚挙すればきりがない。だが、問題無く聖杯戦争が遂行されているのであれば、サーヴァントとして召喚された以上、俺がやるべきことは変わらないだろう。

 

目の前に座る少女。此度の聖杯戦争のマスター。博麗霊夢。

 

彼女のために戦いを勝ち抜くこと。この聖杯戦争が、本物だろうが偽物だろうが変わらない。それがサーヴァントの存在理由だからだ━━

 

アーチャーは静かに息を吐き、少し湿気た天ぷらを口に運び、月を見上げたまま、ぽつりと問いかける。

 

「…君はこの聖杯戦争で何を望む?」

 

「………何も望まないわよ。興行目的とは言え、"異変"には変わらないわ。とっとと終わらせるだけ」

 

酒で上気した頬を天ぷらで膨らませつつ、冷淡に言い放った。

 

「本気で言っているのか?」

 

願いが叶うという謳い文句は、時として思慮深い賢者でさえ狂わせる。しかし、叶えたい願いが無いというのも狂気を感じさせる。

 

「別に、崇高な精神があるから〜とかじゃないわよ。そんな都合の良い話があるわけ無いって思ってるだけ」

 

霊夢は肩の力を抜くようにひとつ息を吐き、湯呑みを傾けた。湯呑みの中で揺れる液面に、月空がぼんやりと浮かんでいた。

 

「前に似たような事があったのよ。7つ集めると願いが叶う玉が湧いてね。結局、願いを叶えるなんてのは方便で、個人の私欲によって引き起こされたものだったんだけどね」

 

どこかで聞いたことのある設定に対して訝しみながらもアーチャーは続きを促す。

 

「今回もそうなるわよ。私の勘は当たるけど、今回は予習が生きた形になるわね。」

 

スッと一口、酒を呷り

 

「本当に願いが叶うならこんな異変、二度と出来なくしてやるわ」

 

本心からどうかは分からないが、彼女がどういった心境でこの戦に参加するのかが分かった。

 

風が木々を撫でる音だけが辺りに響き、静かに夜が更けていく。蝋燭の灯りが縁側の奥でゆらゆらと揺れ、涼しげな夜風が肌を撫でた。

 

アーチャーは霊夢の横顔をもう一度見たが、そこには気だるげな表情をしながら晩酌をする少女しかいなかった。

 

気づけば、彼は少し肩の力を抜いていた。

この少女なら問題無いだろうと、不思議な安心感を抱いていた。

 

「……そうか。君は君なりの覚悟を持っているのだな」

 

夜の空気は冷たいはずなのに、不思議とその場の空気はどこか暖かかった。

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