昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬(僕らは冬休み)。
洋食喫茶と楽器屋が合体した店シューベルト。
アンティークな調度品と内装でシックな雰囲気の店内。洋食喫茶シューベルトはデートに使うカップルが多い───これはこの街の当たり前。
そんな店内で僕は悪友の山本と彼女の
「ねえ、霧丘君。どうして黙ってるの? 河野さんと付き合ってるんでしょ?」
そう問いかける
その目に恐怖した僕は心の中で彼女の称号を『ノッポのバレー女子』から『猛禽類
「付き合ってないよ。山本が面白がって言っただけ」
そう答えたら
『猛禽類
「へえ? 自転車に二人乗りする仲なのに? おかしいなぁ」
「前から霧丘君って、河野さんを目で追ってたし」
「はっ? 何言ってんの。そんなわけないだろ」
そんなのいつ観察してるんだ。
『女
「霧丘君、わかりやすいもん。君のクラスにバレー部の子がいるでしょう? 木暮めぐみちゃん。彼女もそう言ってたから」
「……なんだそれ」
思った以上に僕が河野を観察していたことに気づかれていたらしい。
「あーわかった、わかったよ。はいはい。確かに見てたよ」
「ほらやっぱり。あ、でもね」
「何だよ」
「霧丘君の目は恋をしている目じゃない……ね」
「え? 何だそれ」
「今はまた違うけど、以前見かけた霧丘君が河野さんに送る視線は……何だろう」
「マンガのためだろう?」
そこで山本が口を開いた。
「えっ? 何それ」
「霧丘のマンガに出てくる女キャラってさ、指摘したことあるけど“男の体の胸が膨らんでる”感じだった」
……その通りだよ。指摘された日のことは今でも覚えてる。
「それで俺は『エロ本でも買って写生しろ』ってアドバイスしたんだよ」
「ふんふん」
「それがさ、二年になってから変化し始めて、細身の女キャラばかりになった。その体型は霧丘の後ろの席を見てすぐわかったよ」
やめてくれ!
「河野そっくりなんだ。だからあの子をモデルにしたんだろうってピンときた」
図星だから何も言えない。山本のやつ、マンガを描かないくせに見る目だけはあるからな。だか一番に山本に読んでもらうんだけど。
「そうなんだぁ〜。霧丘君、モデルにするってことは河野さんが好みってことだよね?」
「い、いや別に」
「ねぇ、そのマンガ、今度私にも見せてよ」
「謹んでお断り申し上げます」
「えーなんでぇ?」
「女子向けじゃないSFだから。『ソラリス』や『幼年期の終わり』とか興味ないだろう?」
「それマンガ?」
「いや小説だ。そういうマンガを描いてるんだよ。女子にはお勧めしない」
「ふぅん。でも見たいな」
「ダメなものはダメ」
「あはは。照れてる照れてる」
「霧丘、意地張ってないで小夜に見せてやれよ」
「ダメだって」
「恥ずかしがることないよ。今度さ、四人でどこか行こう。いつもさ部屋でレコード聴くばかりで退屈してたんだ」
「な! 小夜! お前そう思ってたのか」
「いつもいつもじゃ飽きるってこと。一緒に街を歩いたりしたいもん」
「かーっ! 分かってないな。そんなことしてみろ。誰かに見られたりしたら、学校中で噂になるぞ」
僕も山本に賛成。登下校を仲良く一緒にしたりして『私たち付き合ってまーす』アピールを公然とするなんて、僕は絶対やりたくない。
「山本君、そんなにイヤなの?」
「当たり前だ。なぁ霧丘」
「うん。
「二人とも根暗ねぇ」
「皆が知ってるカップルが二人で話していたとするだろ? それを離れたところから他のやつらが『ほら! あれあれ』って感じで指さしたり、くすくす笑いながら見るわけだ。俺はあれに耐えられん」
以前山本と二人で話したことだ。こういうところで僕と山本は意見が合う。
「そうなの? ね、霧丘君も?」
「うん。あの空気感、苦手だな」
「そんなに気にしなくていいのに。私は平気」
女は強いというか、