後ろの席の美少女(プレデター)に恋をする   作:はるゆめ

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第十四話と第二十二話のサブタイトルが欠落していました。申し訳ありません。


第二十四話 お隣さん

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬(僕らは冬休み)。

 

 黒薔薇が吹き飛ぶのと僕を襲っていた痛みが消えるのは同時だった。

 

「霧丘君!」

 

 河野。僕を抱きしめる。柔らかな感触。 

 なぜここに? 

 山田さんもいる。

 

「瑛子ちゃんの家に行くね」

 

 黒薔薇の首根っこを掴んだ山田さんがそう言った瞬間、あの和室の中にいた。向こうから帰ってきてすぐ、色々としてもらった屋敷の中だ。

 黒瀬君と瑛子さんが心配そうな顔で待っていた。

 

「河野、霧丘君は瑛子に任せて、まず靴脱いで」

「あっ」

 

 河野と山田さんは慌てて靴を玄関へと持っていく。山田さんは黒薔薇を引きずったまま。

 あれ?

 畳の上に落ちたわずかな泥を箒で掃く女の子がいた。幼稚園児ぐらいだろうか。

 僕の視線に気づいたのか、目が合う。幼女はびっくりした風にして僕に頭を下げ、そのまま姿を消した。

 

「霧丘君、あの子が見えた?」

「え? 黒瀬君、さっきの子は……」

「気にしなくていいよ。いつも俺の周りにいるんだ。瑛子の分身」

「分身……」 

 

 確かに瑛子さんの面影があった気がする。

 

「それより瑛子、霧丘君を」

「うん。霧丘さん、こちらへ」

 

 瑛子さんに促されるままに布団へ横になる僕。枕元に瑛子さんが座り、僕の頭に手を翳す。

 何だろう。とても優しくて温かくて……そんなものが身体の中へ流れ込んできている。

 

「どうだ?」

「大丈夫。魂は無事」

「そっか。間に合って良かった」

「良かったぁ」

 

 黒瀬君と戻ってきた河野が心底安堵したような表情を浮かべて僕を見る。

 

「君を攫ったあいつは上位個体でね。人の魂を操作する技を使うんだ」

「魂……」

「下手したら君は魂を作り変えられてたんだ」

 

 怖い事を言う黒瀬君。そして頭を下げて謝罪した。

 

「すまない。またも君を危険な目に巻き込んでしまった」

「あ、いや、黒瀬君達のせいじゃない」

「私のせいです」

 

 河野が俯いたまま話し始めた。 

 

「私の組織を霧丘君に移植したから……私と間違えられて……」

 

 それを聞いて僕は黒薔薇が言っていたことに合点がいく。

 

『我々の同胞を消して回っているのはお前だろう?』

『個体名北尾が姿を消した。その前に彼が手を加えた女子生徒も消えたと言っていた。君の仕業だろう? どうした? 何もしないのか?』 

 

「何度でも言うけどそれは重症の僕を助けるためにしたこと。河野が謝ることじゃないよ」

 

 しょげている河野に僕は優しく語りかける。

 

「僕は河野のこと、命の恩人だと思ってる。だから気にしないで」

 

 でもあいつ、どうして僕と河野を間違えたんだろう。おっちょこちょいじゃすまないだろうに。僕と河野じゃ見た目どころか性別すら違うのにな……。

 

「どうやって僕がいるとこがわかったの?」

「私、霧丘君が感じること、ある程度わかるようになって。それで、霧丘君な痛みを感じたのが伝わってきて……」

「そうなんだ」

「でね、文香ちゃんがここに飛び込んできて、すぐに瑛子ちゃんが特定したんだよ。で、私が文香ちゃんと一緒に君を助けに行ったわけさ」

「あっ、ありがとうございます。正直、僕はもう助からないと思ってました」

 

 僕は瑛子さん、山田さん、そして河野に最大限の感謝を伝える。

 そして今、実感した。黒瀬君が僕に関わるなと言った理由。

 あの異界では河野といつも一緒にいたけど、こっちではそうはいかない。何の能力も持たない普通の人間である僕は、簡単に命を落とす。

 そう、あの黒薔薇のようなやつの手によって。

 

「……そういえば、あいつは?」

「柚木ちゃんに預けたんだ。珍しく生け捕りに出来たから、あの子が徹底的に調べ尽くすよ。にゃはは」

 

 口調と裏腹に山田さんの目が全然笑ってなくて怖い。かなり思うところがあるんだろうな。

 

「それで霧丘君、これから言うことはお願いと言うより決定事項なんだけど……」

 

 瑛子さんと何やら話し込んでいた黒瀬君が、少し遠慮がちに話しかけてきた。

 

「君の安全のための策を打とうと思う。手配はすぐにできると思うから」

「は、はぁ」

「安心してくれ。俺たちのバックには政府や頼りになる存在がいる。もう危険な目には合わせないよ」

「……それは助かります」

 

 こうして僕は何事もなかったように部屋へ返された。山田さんに自室を見られたのは恥ずかしかったけど。

 

「おやおやぁ? 霧丘君も黒瀬君と同じだねぇ! にゃはは」

 

 意味がよくわからない言葉を残して、山田さんは姿を消す。

 

 そして三日経った。

 その間に起きたこと。

 うちの隣、“町内スピーカー”と呼ばれるおばちゃん一家が急に引っ越した。

 

「ご主人が遠くの県に転勤するそうよ。こんな時期に変よね」

 

 と我が母親はテレビを見ながら誰に聞かせるともなくつぶやいた。

 そして翌日。隣の家の前には引越し便のトラックが止まっている。

 

「売れたのかしら? 貸すことにしたのかねぇ? それにしても早いこと」

 

 母親も驚いていた。僕は黒瀬君の言う対策だろうと思っている。

 

 さらにその翌日。玄関のチャイムに出た僕は呆然と立ち尽くす。

 

「隣に越してきた河野です。従姉妹と二人暮らしです。よろしくお願いします」

 

 菓子折りを持った笑顔の河野と山田さんが立っていた。

 

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