後ろの席の美少女(プレデター)に恋をする   作:はるゆめ

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第三十二話 日常ブレイカー

 昭和のいつか。どこかにある高校。季節は冬。

 

 前回のあらすじ。

 女子向けじゃない僕のマンガ。女子の読者が増えた。そして河野が僕の部屋にやってきた。

 

『へえ〜。ふぅ〜ん』と言いながら僕の前で自由帳をめくっていく河野。

 表情がコロコロ変わるのは見ていて面白い。

 

 コーヒーとクッキーを部屋へ持ってきた母親は意味ありげな笑みを浮かべて『それじゃお二人さん、どうぞごゆっくり』と言いつつ出ていった。

 宿屋の女将かよ!

 

「すごく面白かった!」

 

 自由帳を閉じると開口一番、河野は笑顔でそう言ったんだ。

 

「本当か?」

「うん。宇宙には神と呼ばれる人格的な存在はいなくて、物理法則を司る概念的存在が支配してるってことだよね?」

 

 正直に言うとアイデアは最近読んだSF小説のものを頂戴したものだ。でも黒瀬君の妹で神でもある瑛子さんに出会った後だから、僕の中では説得力が薄いけど。

 

「その通りだけど……河野の感性がわからないよ」

「え?」

「いや女子って愛とか恋とかそう言うのを好むんじゃないかなって」

「うーん。少なくとも私は違うかな」

「そうなんだ」

「いただきます」

 

 ニコニコしたまま河野はクッキーを頬張った。子どもみたいな食べ方。

 

「しばらく霧丘君に会えなくなるから、その前にマンガを読ませてもらって。嬉しいよ」

「え?」

「あのね、明日からしばらく学校を休むんだ、私。あ、護衛は山田さんと私の代わりに来る人がちゃんとするから」

 

 何故だろう。急に胸の辺りに黒いモヤが出たような感覚。

 

「どこかに行くの?」

「内緒。黒瀬さんに口止めされてるから……」

 

 そうか。奴ら絡みだな。僕は関係者じゃないって事実が立ちはだかる。

 

「そうなんだ。気をつけてな」

 

 今回の白薔薇は河野専用の毒まで用意して彼女の意識を奪った。

 

「うん。ありがとう。心配してくれて」

「あ、当たり前だろ。いいか? 無事に帰ってこいよ」

「もちろんだよ。私ひとりじゃないし」

「そうか」

 

 黒瀬君の周りには普通の人間はいない。それは安心材料ではあるんだけど。

 

 でも白薔薇に攫われた時、あの無機質な部屋で気を失って寝ていた河野の姿。

 あれが忘れられないんだ。

 

「えと、河野の代わりに来る人って?」

「うん。私のお姉さん」

「えっ?! 河野のお姉さん?」

 

 初耳だ。

 

「えーと、元はお母さんの仲間なんだけど、水星から来てお母さんが産んだから」

 

 柚木さんの仲間?

 水星から来た?

 で、柚木さんが産んだ?

 さっぱりわからない。

 

「わかるように説明してくれ」

「お母さんは元々ね、ずっと遠くから地球へ来たの。大昔よ。恒点観測体って言うの」

「恒点観測体?」

「うん。太陽系からは随分離れたところにいるすごく発達した知性を持った存在がいて、お母さんはその人に造られて宇宙に放たれたんだ」

 

 なんと。

 

「うーん、つまり柚木さんは……例えるなら、えっと、NASAが打ち上げたボイジャー探査機みたいな、それがもっとグレードアップしたみたいな?」

「そんな感じ。あらゆる宇宙の星々の情報を集めるのが仕事なの」

 

 スケールが大きすぎて僕は心底驚いた。山田さんが狐だったり、優子さんが吸血鬼だったりとは次元が違いすぎる。

 

「火星や金星にもお母さんの仲間がいるんだよ。でね、エミリさんって言うんだけど、彼女は水星での探査を終えたのでお母さんの応援に来たんです」

「応援?」

「その時黒瀬さん達はあの異界からの存在、その親玉と戦ってたので」

 

 山田さんから聞いたばかりの話だ!

 異界から転生して来た女が生贄を捧げて異界から神のような存在を召喚したって話をしてくれた。そしてそいつの分身が暴れ回って……あの街は封鎖区域になった。

 

 テレビや新聞が報じない事実。

 もしもあの時、黒瀬君達が負けていたら……。

 

「エミリさんは戦闘に特化した人なので安心してね」

「お姉さんなのに他人行儀だな」

「姉さんって言うより、もう一人のお母さんて感じなの」

「そういうもんか……」

「今夜から来るけど、見た目は私と同じだから学校にも行くからね」

「え?」

「元々は大人の姿だよ。姉さんは変身できるんだ」

「お、おう」

「学校でも普通に接してね」

「わ、わかった」

 

 でも気になる。

 

「本当に大丈夫だよな?」

「うん。任せて」

 

 そう言って『えへん』と言って胸を叩く河野。何だよそれ、高校生がすることじゃないぞ。

 

「でね、霧丘君にお願いがあるの」

「な、なに?」

 

 ドキッとした。こんな顔の河野は初めてだ。

 

「このマンガ、続きがあるんでしょ? それも読みたいな」

「……どうして続きがあると?」

「えっ? だって主人公と恋人さん、離れ離れのまんまだよ?」

 

 山本が指摘したこと。

 

『続きがあるような終わり方だったよな。次のを早く描けよ。小夜も面白かったと褒めてたぞ』

 

「その通りさ。続編はある。もうストーリーも考えてる」

「出来上がったら見せてね?」

「……今回だけって話だったよな?」

「えー?!」

「あーわかったわかった! 見せてやるよ。だから無事に帰ってこいよ」

「うん。楽しみだなぁ」

「河野って二歳だったよな。マンガ読んだことないんじゃないか?」

「え? あるよ。瑛子さんの家で。黒瀬さんもマンガをたくさん持ってるから」

 

 あー。

 そっか。

 黒瀬もSF好きだって言ってもんな。ということはその手のマンガも持ってるか。

 

「マンガって面白いから好きなんだ」

 

 河野は少女マンガに全く触れてなかったわけか。納得。

 

「ま、僕のはアマチュア丸出しの下手くそマンガだけど」

「絵はかなり雑だけど下手じゃないし、お話は面白かったよ」

「褒めてくれてありがとうな」

 

 山本の感想しか聞いたことないから、放課後の松多、そして河野から聞かされたことで、僕は少し舞い上がる。

 

「じゃ、帰るね。明日からお姉さんをよろしく」

「わかったよ。河野、気をつけろよ」

「大丈夫。安心して待ってて」

 

 彼女を家の外まで送り、中へ戻ると母親が色々言ってきた。

 

「河野さん、アイドル歌手みたいに可愛いお嬢さんねー」

「篤史にあんな可愛い彼女ができるなんて」

 

 僕はそれを振り切り部屋へ逃げ帰る。

 

 浮かれている母親と反対に僕は不安な気持ちでいっぱいだ。河野は大丈夫だと言っていたけど、本当にそうなのか。

 

 その夜はそればかり考えてなかなか寝付けなかった。

 

 翌日。

 登校して教室に入ると、僕の後ろの席に“河野”が既に座っていた。

 全く同じ顔。

 完璧なまでの変装(?)だ。

 

 河野(影武者)は笑顔で挨拶してくる。

 

「おはよう霧丘君」

 

 あっ、まずい。

 

 僕は大慌てで河野(影武者)に近寄り、小さな声で告げた。

 

「あの、そんなこと河野はしないので」

 

 ふわりと女子の香りが鼻をくすぐる。河野と違う。

 

「そうなの?」

「そうです。基本あまり学校では話さないんです、僕ら」

「ふ〜ん。そうなのね。わかった」

 

 コソコソ話す僕らを目ざとく注視する何人かのクラスメイト。その視線を避けるように僕は教室を出る。

 まいった。

 その辺打ち合わせしてないのかよと思いながら、隣の教室へ。

 

「おぅ霧丘、どうした?」

「今日の放課後、お前ん家行くから」

「いいけど。何かあったのか?」

「その時話す」

 

 それだけ伝えると自分のクラスへと戻った。

 席に座ると同時に河野(影武者)が声をかけてくる。

 

「霧丘君、今渡しておくね。はい」

 

 そう言って手渡されたのは可愛らしい弁当箱。

 

「え?」

「早起きして作ったんだ。食べてね?」

 

 隣の席の女子が『あらあら』って顔で僕らを凝視して、前の方に三人固まってる女子が口に手を当てて笑ってる。

 

 お、あ、な、なにこれ。

 

 僕は恥ずかしさのあまり、また教室を飛び出した。

 

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