後ろの席の美少女(プレデター)に恋をする   作:はるゆめ

36 / 42
第三十六話 あの子の安否

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬。

 

 前回のあらすじ。どうも敵はテレビを使って何か仕掛けて来たらしく、うちの母親が大変なことに。山田さん達と協力して街の人達を助けに行く。

 

「行きます」

 

 年上だろうけど小柄で可愛らしい王戸めぐみさんがそう言った瞬間、目の前に自宅の玄関が見えた。

 

「あ、靴?」

 

 僕はソックスを履いたままだけど。

 

「こうやって家から家へ直接行きますから」

「は、はい」

 

 だよね。靴の脱ぎ履きの時間も惜しい。僕はドアを開け、リビングへと向かう。

 世の中が大変なことになってるというのに、我が母親は幸せそうな寝顔でソファーに横たわっている。

 

「山田さんの術ですね」

 

 王戸さんにはわかるようだ。

 

 瑛子さんに言われた通り、手にした棒を母親の肩に当ててみる。

 しまらない表情の母親は普通な寝顔へと戻った。

 

「もう安心です。さ、次へ」

「えっ?」

 

 王戸さんの言葉に振り向くと、どこかの家の玄関現れた。王戸さんの術はこんな感じなのか。

 

 全く知らない他人の家。

 僕が少しだけ躊躇していると「霧丘さんにしか出来ないことなんです」と王戸さんに励まされ、決心して引き戸を開ける。

 和風の家だ。

 

「お邪魔しまーす」

 

 断りながら居間へ入ると、コタツに入った老夫婦が食い入るようにでテレビを見つめていた。

 うちの母親と全く同じで、口から(よだれ)を流しながら、目を釣り上げてテレビを注視している。

 

 不審者である僕と王戸さんが踏み込んできたというのに、全く反応がない。

 

 すぐに、僕と王戸さんで老夫婦の背中を支え、棒――ドラムスティック――を二人の背中へと当てる。

 すぐに二人は糸の切れた操り人形みたいに脱力、支える僕の手に体重がかかる。

 

 それからは王戸さんと一緒に次々と街中の家を回った。

 大抵の家では男の人は会社へ、学校に通う子ども達がいなかったので早く済ませることができたけど、寝癖がついた頭の中学生が母親と一緒にいる場合もあった。

 

 見たことある男子、女子もいて少し気まずかったけど、僕のことは覚えてもいないだろうし、瑛子さんの術(?)で認識されないはずだから気にしない。

 

「霧丘さん、この部屋にもいます」

「はい」

 

 大抵の家はリビングにテレビが一台あるんだけど、中には別の部屋にもう一台ある家もあった。

 

 その部屋で異常な様子になっている若いお姉さん、お兄さん。大学生かな。

 

「わっ! だ、誰!」

 

 リビングに入ってくるなり、寝起きのような顔で驚く若い女性。派手なネグリジェ、僕は目のやり場に困る。

 

「ど、泥棒!」

 

 こんな風にテレビを見ていない人に見つかることもあった。

 

「違います! お、お邪魔しましたっ!」

 

 そう言ってすぐに移動したけど、顔を覚えられてないから気にしないことにした。

 

「王戸さん、あと何軒ぐらい?」

 

 もう何軒回ったのかわからなくなった頃、彼女に質問したら「五丁目までですから、あと三十二軒です」との答え。

 

 王戸さんの術で大して動いてるわけじゃないが、精神的な疲れが溜まってくるのを感じる。

 知らない人の家へ連続して上がり込んでるからだ。

 

 次の家は大きな洋館風で、重い木製のドアを開けてテレビがありそうな部屋を探す。

 

 一階には見当たらなかったので、螺旋階段を二人して駆け上がると、広い部屋に人がいた。

 

「わっ」

 

 それは着替えの途中なのか下着姿の女子が、立ったままテレビを見つめていた。

 王戸さんの手前もあり、スケベだと思われたくないので後ろへ回り、背中へ棒を当てようとした僕。

 

 その時だった。

 不意に僕の手が掴まれ、ねじ上げられ、膝をつかされる、か細い女子の手で。

 

「え」

「きゃっ」

 

 見ると王戸さんも首を掴まれていた。女子の腕が長く伸びている。

 

「この辺りで邪魔しているのはあなた達ね」

 

 女子が振り向く。誰だっけ。学校で見たような気がする。

 それにしても凄い力だ。

 僕が持つ棒を綺麗な顔を歪ませて憎々しげに睨んでいる。

 

「厄介なものを……」

 

 そう吐き捨てると、女子の額から顎にかけて顔の右半分がめくれ落ち、白い花弁のような中味を露わにした。

 

 この子も白薔薇か!

 

「あなたごと焼き払おうかしら」

 

 物騒なことを言う女子は、首から上が完全に白い薔薇へと変化していた。気色悪い。

 

「くっ」

「あら? あなた案外力強いのね」

 

 僕は棒を白薔薇の胸へ当てようとして力を振り絞る。

 

「ぐ、ぐ」

「ふふふ。やるじゃない。でも無駄よ」

 

 いやいける。

 僕は膝蹴りをお見舞いした。

 

「な!」

 

 くの字に曲がった白薔薇の胸へ棒を突き当てる。

 金属音のような悲鳴をあげ、彼女は動かなくなった。

 床へと広がる黒い粉。

 棒を当てた白薔薇の乳房は変色して黒い粉となり、床を黒く塗り替えている。

 

「けほっ。すみません! 私が護衛なのに」

「それより王戸さん、大丈夫ですか?」

「はい!」

 

 床に倒れた白薔薇は人の形をした黒い粉の山になりつつあった。

 さっきの膝蹴り、僕は自分の力に驚いた。あんなこと出来るなんて思ってもみなかったからだ。

 

「前に山田さんが捕獲したのと同じですね」

 

 王戸さんが恐る恐る白薔薇だったものを覗き込む。

 

「はい。変な空間へ連れて行かれた時にこいつに会いました」

「霧丘さんの行動に気づいて手を打って来たんでしょう。これからは私が先頭でいきます」

 

 小柄で可愛らしい王戸さん、失礼だけど強そうには見えないけど。

 

「あ、心配してますね? 私はイタチです。こう見えてもそこそこ強いんですよ?」

 

 僕の顔に出ていたらしい、少し頬を膨らませた王戸さんが抗議してしたので、否定しておく。

 

「そんなこと思ってません。頼りにしてます」

「本当です?」

 

 王戸さんのつぶらな瞳にじっと見つめられ、僕は思わず目をそらす。

 

「やっぱり……」

「いや、そんなことは」

「まぁいいです。もう霧丘さんを危ない目には決してあわせませんから」

 

 そういって「えへん」と言った感じで胸を張る王戸さん。

 その彼女の言葉通り、何軒か回った後に不意打ちで襲ってきた男子を手際よく倒してみせた。

 

 倒れた男子に棒を当てると、白薔薇と同じように黒い粉へと変わっていった。

 

「助かりました。ありがとうございます」

「言った通りでしょう? どうしました?」

 

 人型の黒い粉を見つめる僕に、王戸さんが教えてくれる。

 

「霧丘さん、これ砂鉄なんですよ」

「……なんで砂鉄に変わるんですか」

「それは柚木さんが詳しいので彼女に聞いてください。私は高校時代化学が苦手科目でしたので……」

 

 そう言って恥ずかしそうにする王戸さん、とてもチャーミングだ。

 

 その後は敵の妨害もなく、僕たち二人は残りの家を回り、異常になってた街の人達を戻し続けた。

 終わったのは午後三時を過ぎた頃。

 

「お疲れ様でした。仲間からの連絡で市全域の浄化は済んだようですよ」

「そうですか。良かった」

 

 安心したら一気に疲れを自覚して脱力したら、王戸さんは真顔で続けた。

 

「でも東京や大阪といった都市部はまだまだです」 

「あ……そうですよね、人口が」

 

 明日はどうなる日本?

 それと

 河野は無事なのか?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。