後ろの席の美少女(プレデター)に恋をする   作:はるゆめ

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第四話 キャットファイト

 昭和のいつか。どこかの世界。季節は春。

 

 夜も更けて僕と河野はひとつ布団で寝ている。何故こんなことになったか?

 

「残念なお知らせとは?」

「さっきカーノンちゃんに案内された寝室らしき部屋にダブルベッドが一つだけ」

「……」

「私は気にしないけど、霧丘君はどう?」

「……」

 

 どうもホウとカーノン姉妹は僕と河野を兄妹かカップルと勘違いしたらしくて、一つのベッドで寝るよう勧めてきた。

 言葉が通じないため、僕の別々に寝たいという希望は伝わらず、むしろわざと僕の意図がわかってないのを装っている気がする。

 

 さすがに河野と一緒にってのは抵抗があったので、僕は床で寝ると主張したけど、河野に押し切られる形になった。

 

「ここは平和な日本じゃないから、霧丘君を守るにはこうするのがいいの」

 

 そう言いながら河野はベッドに入ると横になってしまった。

 うーん。どうにも踏ん切りがつかなくて立ったままだったが、いつまでもこうしてるわけにもいかないと決心して河野に触れないように端っこに体を滑り込ませた。

 

 同年代女子と一緒に寝るなんて初めてだ、落ち着かない。鼻腔をくすぐる甘い香り。こ、これが女の香りか。こいつは人間じゃないからと自分に言い聞かせてはいるけど、それでも外見はただの、いやかなり可愛らしい女の子なのでドキドキしてしまう。

 

 客観的に見たらラブコメ漫画の一コマみたいなんだよなぁ……と思いつつ、森からここまで歩いた疲れもあっていつの間にか眠りに落ちていた。

 

 高いところから落ちて叫んだ瞬間、目が覚めた。夢を見ていたらしい。部屋の中は真っ暗。どうもベッドから落ちたらしく、左肩と右腕が痛い。

 

「痛てて……」

 

 肩をさすりながら床で起き上がり、闇に目が慣れてきた僕が見たもの。

 ホウが河野の胸に短剣を突き立てていて、河野はホウの右手首を掴んでいるという猟奇そのものの光景だった。

 

「◼️◼️!」

 

 ホウがおそらく『なんだ?!』みたいに口走り、苦しそうな表情を浮かべているのに対し、胸を刺された方の河野は涼しい顔。

 

 ホウの手首から硬いものが砕ける音が聞こえ、呻き声を上げる彼女を河野が突き飛ばす。

 そのままベッドから飛び降りホウに馬乗りとなって、自身の胸に刺さっていた短剣を抜くと、お返しとばかりにホウの額に突き立てる。少しだけ手足が痙攣した後、ホウは動かなくなった。

 

 寝起きにいきなり、殺戮ショーをかぶりつきで見学させられた僕は声も出ない。夢だったらいいのに。

 

 そして河野の胸からアレが伸びてホウを捕える。河野の消化器官、例えるなら、クラッカーから飛び出す紙テープか。あれを肌色に塗装し、もっと肉感的にしたモノ。

 

 するとどうだ、ホウの体はキツく絞られた雑巾みたいに捻れ、血は霧のように中空に舞い散り、溶けるように小さくなっていく。

 鉄の匂い。

 ───そうか、あの教室で嗅いだのは血の匂いだったんだな。

 ホウは服だけ残して跡形もなく消え去った。河野が人を捕食する場面を初めて見た僕は、胸のあたりに喩えようもない不快感が渦巻くけれど、何とか堪える。

 

「霧丘君、頭を打ってない?」

「……ああ、肩と腕が痛いだけだよ」

「ごめんなさい。霧丘君が刺されそうになったので私が蹴っちゃったの」

 

 ああ、河野が助けてくれたのか。

 

「それはいいよ」

 

 無意識に河野の胸に目がいく、短剣で刺されたのに、全く血が出ていない……。

 

「胸、何ともないの?」

「うん、平気。ちょっと待っててね」

 

 言うが早いか、河野は部屋を飛び出していき、しばらくして戻ってきた。

 

「妹の方は姿をくらましたみたい」

「何が起きたか教えてくれる?」

「見たまんまよ。ホウと名乗ってたアレが霧丘君を殺そうとしたの。あれは人喰いね」

 

 河野がなんでもないことのように語る言葉“人喰い”……山姥(やまんば)みたいなものか。

 

「人喰い……」

「食べてすぐに分かったもの。彼女のとは別の遺伝子が複数混ざってたから」

「そんなのわかるの?」

「うん。前にも食べたことあるからわかるよ」

「前にも?」

「霧丘君の住んでる住宅団地にいたよ。か弱い少女を装って男の人を誘惑しては食べてた」

「え? そんな近くに……」

「ほら、封鎖区域が近いでしょう?」

「え? あそこが関係してるのか」

 

 隣町は有名である。事件が立て続けに起こり、地盤沈下の危険性もあるとのことで封鎖された町。

 

「ここでは旅人とかを泊めて食材にしてたのね。出会ったばかりの私達を無警戒に泊めようとしたり、立派な寝具が用意してあるから、そんなことじゃないかなって」

 

 そうか。そうだよな。河野はまだしも、男の僕、しかも言葉も通じなくて、どこの誰ともしれないのに、女二人の家に泊めるなんておかしい。それに姉妹のものとしては不釣り合いなダブルサイズのベッドに布団。生活必需品ってわけじゃない。

 

「これからどうする?」

「そのまま寝たらいいよ。多分妹の方は戻ってこない」

「そうなのか……」

「あ〜あ、破けちゃった。裁縫道具がどこかにあるかなぁ」

 

 河野はおもむろにブラウスをはだけ、そこから白いブラジャーが丸見えになった。僕は慌てて目を逸らす。

 

「いきなり見せるなよ」

「あ、ごめん。霧丘君には刺激が強すぎた?」

 

 河野の身長は僕より低く、細身なんだけど結構立派なものを持ってらっしゃる。

 

「僕じゃなくても目の毒だよっ。もうちょっと慎み持てよ」

「ごめんね? 私には羞恥心って無いから。不必要な感情は持たされてないの」

「……そうなのか」

「霧丘君はまともに寝てないでしょう? 心配はいらないから、ね? おやすみ」

「お、おう。そうする」

 

 優しげな笑顔を向けられた僕は不覚にもドキッとしてしまった。

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