後ろの席の美少女(プレデター)に恋をする   作:はるゆめ

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第五話 彼女と裸のお付き合い

 昭和のいつか。どこかの世界。季節は春。

 

『え? 違う違う。私が食べるのは異物。霧丘君のような普通の人間は食べないよ』

 

『私はこの惑星(ほし)を守るために生まれた存在なんだよ。化け物は傷つくなぁ』

 

 あの夜、河野と教室で交わした会話を反芻しているうちに、僕は眠りに落ちていた。

 

 どこかの草むらに立っている僕。あぁ。また夢を見てる。河野が座り込んで何かを食べているのを僕は見下ろしていた。幸せそうな顔してるな、河野。

 

『河野、何を食べてるんだ?』

『これ? 美味しいよ、霧丘君も食べる?』

 

 そう言って彼女が僕に差し出したのは───ホウの生首だった。

 

「どうあぁっ!」

 

 叫んで目を覚ます。心臓が激しい鼓動を鳴らし、頭の中で時報のような耳鳴りが響いている。

 ふと右手に当たる長い髪の毛、河野のだ。

 あんな夢見るってことは、やはり心のどこかで彼女に対する恐怖心が拭えないのだろう。この異界へ飛ばされた時に自転車ごと受け止めてもらったり、さっきも人喰いから守ってくれたのにな。

 

 喉がカラカラに渇いているので、水でも飲もうとベッドから出た時だった。

 

 音が爆発したみたいに耳を穿つ。

 月明かりに目を凝らすと、部屋のドアを破壊した何者かが立っていた。

 首根っこを掴まれ、後ろへ引き倒される。河野だ。

 

「◼️◼️◼️◼️!!」

 

 獣の咆哮。そこにいたのは……僕達をここまで連れてきた少女カーノン、のようなモノ。

 悪鬼のような顔になり、腕も足も毛で覆われ、異様に長くなっている。

 掛け布団から飛び出した河野は……裸だった!

 薄明かりの中、白い裸体が怪物化したカーノンへ肉薄する。

 カーノンは長い腕で河野に掴み掛かるも、手刀で弾かれる。

 次の瞬間、河野の長い髪がカーノンの腕に絡みつき、動きを封じる。それを振り解こうと大型犬のような唸り声をあげながら、カーノンが身を捩らせるのに合わせて河野が懐に飛び込んで───視界が塞がれた。何か黒いものが飛んできて鼻を痛打したのだ。

 

「ふぐっ」

 

 痛みに耐えかね前屈みになりつつ、僕はその飛んできたものを無意識に手で受け止めていた。僕が目にしたそれ。河野の生首。ウインクしてるけど。

 

「わわわっ!」

 

 反射的に河野の首を放り投げてしまった。目の前では頭のない河野がカーノンの手足を完全に拘束している体勢になっている。

 僕は手の震えをどうにか堪え、床に落ちているものを掴み取ることに成功した。それは尖った形状になったドアの破片だ。

 

 なんであんなことしたか、自分でもわからない。

 

 僕はそれを拾い上げると震える足を叱咤して立ち上がり、よろよろとカーノンへ近づいた。震える手足と裏腹に頭の中は不思議と落ち着いている。

 

 どんな生物でも脳がやられたら死ぬ、

 そんな確信に突き動かされた僕は木片をカーノンの頭に全体重を乗せて突き立てる。

 

 耳をつんざく咆哮。

 手に伝わるカーノンの頭蓋骨を木片が突き破った感触。

 

 奴はそのまま仰向けに抱きついた河野(体)ごと倒れ、痙攣したかと思うと動かなくなった。

 

 河野(体)はカーノンへの拘束を解き、例の消化器官を胸から出してカーノンを捕食。

 

 そして立ち上がると僕の横を通って、河野(頭)を拾い上げ、元あった位置に乗せた。

 何事もなく普通にくっついたようだ。

 

「さっきはごめんね霧丘君、鼻、痛かったでしょう」

「あ……」

 

 カーノンの爪に切断された河野の頭が勢いそのままで僕の顔にぶつかった、つまり頭突きだ。

 

 裸の河野から目を逸らしつつ、鼻を触ってみると生温かい液体が指につく、あ、鼻血が出てる。

 何事もなかったように切り離された首を元に戻した河野にびっくりして痛みを忘れていた。

 

「鼻血出てるよ?」

 

 しゃがんで僕の顔に手を添える河野。正面に見てはいけないものが! すかさず目を瞑る。

 

「は、鼻血はそのうち止まる! なんで裸なんだ」

「あ、これ? 妹の方が来るのを予想して備えてたんだ。また制服破けたら嫌だなぁって。前にも派手に破けちゃったことがあってね、お母さんにすごく怒られたなぁ」

 

 あの晩、教室で河野がつぶやいていたのを思い出した。

 

『……お母さんに怒られちゃうね』

 

 河野は土からポンって生えたきたわけじゃないんだ。

 

「いいから服着てくれ、早く」

「そうだね」

 

 どんな水着グラビアより百万倍も刺激的な裸の河野、鼻血が止まりそうにない。

 

「さっきは助けてくれてありがとう。霧丘君、カッコよかった」

 

 なぜ僕があんなことをしたのか。内心で怖がっていたのに。いくら考えてもわからない。

 

「でもこれからは私に全部任せてね?」

「……そうする。なぁこの世界、あんな化け物がウヨウヨしてるのか」

「え? うーんと、異物以外にもね、君が住んでる街や他の地域にもたくさんいるよ。妖怪って言った方がわかりやすいかな」

 

 妖怪……平均的な男子高校生の僕でもある程度は知っている日本の妖怪たち。

 

「実在するんだ……」

「うん。そこそこ」

「じゃあ、悪い妖怪がいたとして、河野が退治したりするのか?」

「しないよ」

「え?」

 

 制服を着た河野が僕の方に向き直る。

 

「妖怪達は日本、ていうか地球という惑星(ほし)で生まれた存在。次元を越えて送り込まれた北尾君と違ってね」

「……何が、どう、違うんだ?」

「凶悪な妖怪は人に討伐されることもある、過去には幾つか事例があるよ。君も聞いたことない? 有名な鬼とか狐とか」

 

 ああ知っている。

 

「それらに私達は手を出さないよ。それは単なる生存競争だから。熊が人を襲ってもそれは自然の摂理」

「……」

「だけどこっちの世界のモノを霧丘君達が住む地球へ送るのは自然の摂理じゃない。私はそんな異物を食べるのが役割なんだ」

「……そういうことか」

 

 地球で生まれ育った者同士の争いには感知しない、そして次元を越えてきた者を始末する、と。

 

「生物で習った白血球みたいなものか」

 

 人体に侵入したウィルスや細菌を迎撃する人間の防衛機構。

 

「うん、そうだね。私達は外敵を排除する存在なの」

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