後ろの席の美少女(プレデター)に恋をする   作:はるゆめ

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第七話 歓迎を受ける僕達

 昭和のいつか。どこかの世界。季節は春。

 

 僕と河野の体が白い光に包まれた。

 

「わっ」

「大丈夫よ、霧丘君」

「そう言っても……」

 

 身体が光るなんて僕は体験したことない。

 

「うーん、これはね、向こうにいる味方が私達を見つけてくれたってこと。それに今のはお守りも兼ねてるかな」

「お守り?」

「うん、文字通り“お守り”だよ」

「だから、どこか懐かしいような感じがしたのか……」

 

 あえて例えるなら。

 山深い場所にある神社を訪れた時に似ている感覚。言葉ではうまく表現できないけど。

 

「だから安心して。私達を向こうが見つけたってことは、近いうちに帰れるってことだから」

「そうなんだ」

 

 僕はそれを聞いて心の底から安堵する。

 

「それでさ、これからどうする?」

「霧丘君はどうしたい?」

「この家ってさ、あの人喰い姉妹の餌場だろう? 気持ち悪いから早いとこ出たいんだ。かと言って行く当てはないけど……」

「そうだね。こっちの世界の人と話ができないけど……霧丘君のコミュニケーションがあれば何とかなりそうかな」

「……あ、ああ」

 

 カーノン達は僕らを食べるつもりだったから、すんなりここへ泊めてくれたわけだけど、言葉も通じない男女を、この辺に住んでいる人は歓迎してくれるものだろうか……。向こうからしたら、僕達は怪しい外国人だもんな。

 

「それじゃ出発! 川沿いの道を歩いていけば、そう遠くないところに人が住んでると思うよ」

 

 河野の言う通りだ。人は水利を求めて川のそばに住み着く。

 

 河野と二人揃って家を出ると、太陽はすっかり高い位置にあり、暖かくなっていた。季節は春っぽい。

 

「じゃ川下へ向かって歩こうか」

「あ、ああ」

 

 河野と並んで川沿いの小道を歩いていく。

 風景は父親の実家がある田舎のそれと変わらないので、異界って感じはしない。心配なのは熊や猪みたいな野生動物。

 

「霧丘君、止まって」

 

 河野に言われ足を止めると、ずっと前の方にこっちへ近づいてくる一団が見えた。村人かな。

 

 いや違う。

 

 近づくにつれ、彼らの風体がはっきりしてきた。ざっと二十人ぐらいか。

 頭には兜を被り鎧のようなものを身につけ、手には剣や槍を持っている。日本史の教科書で見た蒙古兵そっくりだ。

 

 一人だけ目立つ男がいる。灰色の毛で覆われた小型恐竜に跨り、派手な色の服、隊長みたいなもんだろう。

 顔は全員アメリカ人みたい。

 彼らは僕たちから二十メートルぐらいの位置で立ち止まった。すると先頭にいた髭男――プロレスラーみたいなヒゲのおっさん――が、僕たちを指差して何か大声で怒鳴ってきたけど、やっぱり言葉がわからない。表情からすると『待て! あやしいやつめ。何者だ』って言ってるんだろうか。

 

 僕は降参とばかりに両手を肩まで上げようとして、お腹に熱を感じた。

 え?

 目線を下げると、僕の体から細い棒が生えている。

 

「霧丘君!」

 

 河野が叫ぶ。

 何だこれ……と思ったら、熱さにも似た激痛が爆発する。

 痛い。痛い。痛い。

 足の力が抜ける。

 河野が支えてくれたかと思うと、彼女の肩にも細い棒が刺さる。

 ──これは矢だ。凄い速さで飛んできたんだ。

 それが僕にも刺さってるんだ。

 河野はそのまま僕を庇うように抱きついた。その背中に二本の矢が刺さる。

 体が熱い。

 河野は平然とした顔で僕を見て「飛ぶよ」といった。

 

 浮遊感。

 足が地面から離れた感覚と景色が流れる。

 ああ、彼女が僕を抱えたまま跳んだと気が付いた。

 凄い勢いで。

 空高く。

 生まれて初めて空を飛んだ。

 河野の頭越しに空が見えて、今度はゆっくりと落ちる感覚。

 背の高い木が生えているところ。

 森の中。

 着地はふわっと。すごいな。

 

「霧丘君、緊急事態だから。ごめんね」

 

 僕の目を覗き込みながら河野が話しかけてきたけど、僕は痛みで頭がぼおっとして答えられない。

 

 着ていたトレーナーの裾、次いでシャツを捲られ、河野の手が痛みの中心部に当てられた。河野の手、冷たくて気持ちいい。

 

 するとどうだろう。

 痛みがまるで海岸の波が引くように消えていく。

 

「どう? まだ痛む?」

 

 僕は頭を少しだけ左右に振ると、河野はそっと矢を引き抜いた。

 詳しくない僕でも知っている。矢の先端は簡単に抜けないようになっているんじゃなかったか。見るとやっぱり返しがあった。

 子どもの頃に溜池で雷魚やスッポンを釣るのに使ってた引っ掛け針みたいに。

 でも不思議と痛みは全くない。

 

 河野は僕のお腹を見て「うん。傷跡も残らないよ」と優しく微笑んだ。

 それより河野、肩や背中に矢が刺さった君は大丈夫なのかと目で訴えてみる。

 

「んん? あ、私のこと案じてくれてるの?」

 

 通じたようだ。

 

「大丈夫だよ。ほら」

 

 彼女が言うが早いか、河野に刺さった矢は全て押し返されたみたいに抜け落ちた。

 

「はは……さすがだな」

「喋らないで楽にしてね。君の肝臓はもう少し修復に時間がかかるから」

 

 そう言いながら、河野は僕の頭を膝に乗せてくれた。そこで僕は意識を手放し気を失った。

 

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