後ろの席の美少女(プレデター)に恋をする   作:はるゆめ

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第八話 ありがとう

 昭和のいつか。どこかの世界。季節は春。

 

『霧丘君、緊急事態だから。ごめんね』

 

 少しだけ申し訳なさそうな表情の河野。ああお前ってそんな顔もできるんだな。って失礼だけど。

 

 そんな夢から目覚めて僕は飛び起きた。まず一番にお腹を確かめる。矢が刺さった跡はない。

 河野の言った通りだ。

 

 森の中。

 体を起こし、辺りを見渡してみるけど河野の姿が見えない。

 立ちあがろうとして後ろから声をかけられらた。

 

「まだ安静にしていた方がいいよ」

 

 河野だ。ブラウスを手に持って下着(ブラジャー)姿。

 

「なんで恥ずかしがらないんだよ」

「え? 何か言った?」

「やたらと裸を見せつけるなよ」

「あ、ごめんね」

 

 こうも堂々とされるとこっちが恥ずかしくてたまらない。

 

「穴が空いちゃった。困ったなぁ。裁縫道具もないのに」

 

 何本も矢が刺さったことをまるで意に介さず、彼女は制服の心配をしている。そんなコントを見ているようで、僕は変な気分になった。

 

「ここは?」

 

 僕らの周りには大樹が何本も聳え立っている

 

「あの野蛮人達から距離をとった森の中だよ」

 

 僕が無抵抗の意思表示で手を上げかけた途端に攻撃してきた兵士達。なるほど、確かに河野が言う通り“野蛮人”だ。つい笑いが出てしまう。

 

「霧丘君が即死しなくて良かった」

 

 大きな瞳で慈しむように僕の顔を覗き込む河野、不覚にもドキッとする。

 

「……ありがとう。また助けてもらって」

「ううん。当然のことをしただけよ」

「怪我の手当もできるんだな」

「あー、手当っていうか……まぁ」

 

 どうした? 珍しく河野の歯切れが悪い。

 

「あのね、霧丘君、怒らないで聞いてくれる?」

「?」

「君の傷をね、治すのに……私の体組織を一部移植したんだ」

「え?」

「私の体細胞はね、内包している情報量が人間のものよりずっと多いし、サイズも大きいの」

「……」

「それを活かして他生物のDNAを取り込んで完璧に模倣もできるわけ」

「……」

「霧丘君の肝臓を私の細胞で治療したこと、許してくれるかな?」

「そうか……」

「矢が貫通して、かなりの重症だったんだよ」

「すごく痛かったもんな」

「だから、その」

「河野」

「何かな」

「改めてありがとう。僕は河野に命を救われたんだよね?」

「……うん」

 

 河野は命の恩人だ。それは疑いようがない事実。

 

「それでね」

「ん? 何?」

「私の体組織細胞がね、その、すぐってわけじゃないけど、霧丘君の細胞をね……」

 

 俯いてもじもじしている河野。

 

「どんどん複製していくの」

「それが何かまずいことに?」

「あ、うん、あの、君の体がね、私と、その、全部じゃないけど、同じになる……」

「えっ」

「ごめんなさい。急がなきゃならなかったから……」

 

 ああ。そういうことか。

 

「何か不具合があるのか?」

「特にはないかな」

「河野みたいに消化器が飛び出すようになるとか?」

「それはないよ。でも人間の体とは違うものになるの」

「そうか……」

 

 自分でも驚くほど冷静に受け止めたんだ。嫌悪感もないし。寧ろそこまでして助けてくれたことに対する感謝の念が大きい。

 

「河野は何ともないの? その、一部無くなったんだよね?」

「あ、それは大丈夫。君達が献血するのと同じかな」

「別に謝らなくていいよ。僕を助けるためにしたわけだし」

「あ、うん。嫌じゃない?」

「輸血、いや移植手術みたいなものだと思えば、まぁ別に」

「ほんと? 良かったぁ」

 

 この時見せた河野の笑顔が持つ破壊力、それにより僕の心は粉々になった。もしかしなくても、河野はかなり可愛い?

 

 顔が熱くなるのを感じた僕は顔を逸らすことにした。

 

「それで、これからどうする?」

「そうだね、ここの文明はまだ未知数だけど、怪しい奴はとにかく殺せってのははっきりしたかな」

「あいつら兵士だよね? もしかしてだけど、カーノン達を殺しにきたとか?」

「それもあるかも。あんな場所に姉妹だけで住んでいる不自然さで発覚したのかな」

 

 平和な日本でも違和感がある状況だと思う。

 

「それじゃ、森の中、つまりここが一番安全かな」

「え? でもさ、熊とかそんなのがいたら……」

「大丈夫だよ。私が追い払うから」

「……そうだったな」

 

 河野を眺める。こんな細身の体でとんでもないパワーを出すんだよな。それにしても河野のプロポーションは僕にとっては理想だ。

 

「あ、私をいつも見ている目になってる」

「……ああ、そうだよ。頭の中で人体デッサンのモデルになってもらってたから」

「霧丘君のマンガ、やっぱり見たいな」

「ダメだよ。山本や中学から仲良かった連中だけ」

「ええー。私も読みたぁい」

「可愛くおねだりしてもダメなものはダメ。それに、さっきも言ったろう? 交換条件だ」

「うーん。それ、君が危険だから却下されそうなんだよね」

「じゃ諦めろよ。本当に女子向きじゃないからって言ったろう? SFだよ」

 

 実のところ、河野をモデルにした女性キャラクターも登場させている。それを山本に指摘され、穴があったら入りたいぐらい恥ずかしかった。くっ。

 

「まずは寝床ね。洞窟を探すか自分で作るか」

「そういうの詳しいのか?」

「霧丘君も手伝ってほしいかな」

「そ、それはもちろん」

 

 僕は改めて、この異界の森で頼りになるのは河野だと思い知った。自分一人だったらと思うと背筋に冷たいものが走る。

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