銃社会の【剣聖】   作:TSUBAME

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最強の矛と最強の盾

 

 

 

 

 

 現在、私は生誕してから多分3番目くらいにカチキレている。

 きっと他の人が見たら髪の毛という髪の毛がこれでもかと逆立って見えていることだろう。

 

 「まったくもう……っ!!突然いなくなったと思ったら、今度は突然電話かけて『道分かんないや』とか可愛らしく言ってきよって……ッ!!」

 

 会議室から少し離れた場所で、既に事切れたスマホにぶつくさ文句を垂れまくる。

 いいや、これは正当な権利の筈だ。いつもいつも無断で行動しよってからに……!!

 

 あっ、どうも。私の名前は三日月エマ。たった今電話をかけてきやがったアホ上司ことトウヤさんの秘書的なことをやらせてもらっているだけの至って普通の女の子です。

 

 ん?『連邦生徒会の中枢を支える秘書をやってんだから普通なわけないでしょ』って?

 あ〜、やっぱりそう思っちゃう?ふふっ、そうそう、実は私にも隠された能力が────あれば良かったんですけどね。(諦め)

 本当に、マジのマジで普通なんです。むしろなんで私がこのポジションに就いているのか不思議に思うくらいに。

 

 そ、そりゃあ最初は図に乗りましたよ?キヴォトスの中枢も中枢、連邦生徒会の委員長たちの中でもさらに()()叢雲トウヤさんの下に就くことが出来たんですから。

 もしかしたら私も知らない秘められた能力を見出してくれたんじゃ───なんてことは一切なく、むしろ彼の突発的な行動で翻弄され続ける日々を送っている。

 まるで歳上の弟を持った気分だ。……言ってみて思ったけどマジ意味分からん語句だわ、コレ。

 

 「ハァ、あの人にはもう少し落ち着きを持ってもらいたいわ……」

 「無理ね。あの剣術バカが落ち着きを得る頃はきっと晩年になるでしょうから」

 「あ、やっぱりそう思───って財務室長!?」

 

 後ろから掛けられた声に思わずタメで返答してしまったが、すぐさま誤りだと気づく。

 私に声をかけてきた───いや、下さった御方は、このキヴォトスの財政を一身に担う女傑───財務室長、扇喜アオイ先輩だったのだから。

 

 「お、御勤めご苦労様です!!不肖三日月、たった今から会議室に戻る所存でした故!」

 「いいのよ、そんなに畏まらなくても。私も帰りの遅いモモカさんを連れ戻しにやって来ただけなのだから。それに少し堅苦しいわ、もっと肩の力を抜きなさい」

 「うぅ……」

 

 そんなこと言われても無理難題ですよぉ〜……

 だ、だって幹部の皆さんは私のような一般生徒にとっては憧れの的っていうか……私なんかが気安く話しかけることすら烏滸がましい存在というか……*1

 

 え?会議室ではあんな大胆に大見得切ってただろって?内心超ガクブルで微振動が発生していましたが何か?

 

 「………彼はなんて?」

 「え?えっと、どうやらシャーレの場所が分からなかったみたいで、とてもやらかした(抜け出した)後とは思えない程に明るく聞いてきやがりました」

 「………そう」

 

 その瞳をなんと形容したら良いのか。

 まるで懐かしむかのような───郷愁にも似た眼睛と言うべきか。とにかく、そんな目をして遠くを眺める先輩に何と言えばいいか分からなくなった。

 

 「…………」

 「…………」

 

 どうしよう、めっちゃ気まずい。不意に友達の友達と2人きりになるくらい気まずい。

 チクショウ!!私にもっと会話を繋げられるボキャブラリーがあればッ!!

 

 ……そういえば、アオイ先輩はかつてトウヤさんの秘書を任されていたと聞いたことがある。つまり、目の前にいる大先輩は私の役職的にも先人に当たる人物ということだ。

 昔からあんな感じの人だったらそりゃあ苦労は絶えないでしょ。分かる分かる、めっちゃ分かるよ、その気持ち。

 

 せや!ここは過去の苦労話とかお聞かせ願って、『分かる分かる〜』とお互い共感を抱くことで仲良しルートに突入しますか!

 トウヤさんをダシにしているようで気が引けるが、もともとの発端はトウヤさんの奇行のせいだから文句は言うまい!言っても黙らせる!(迫真)

 

 「あ、あの!せ、先輩は私と同じトウヤさんの秘書をやっていたとお聞きしました。是非その時のお話をお聞かせ願いたく───」

 「それは無理ね。今は会議中なのよ?私はモモカさんを連れ戻しに来ただけだし、あなたは彼からの電話に応えただけ……違う?」

 「アッ、スミマセン……」

 

 ごめん、ま〜〜じで忘れてた。あまりの気まずさに会議のことなんて頭の隅突き抜けて宇宙の彼方に消え去ってたわ。

 ふっ、なるほど、これが天罰か。楽して(人をダシに)苦難(会話)を乗り越えようとすれば、このようにさらなる気まずい状況が出来上がるという見事な手本となれて嬉しいよ。

 

 「ソ、ソレデハオサキニシツレイシマス……」

 「…………また今度ならいいわよ」

 「───え?」

 

 その返答があまりに意外なもので思わず後ろを振り返るが、既にアオイ先輩は遠い場所をカツカツと歩いていた。

 こ、これはもしや……デレというやつなのでは?クール全振りのアオイ先輩がデレるとしたら口数少なくかつ淡々としているイメージがあったから解釈通りで助かる───じゃなくて、とにかくアオイ先輩とのほっそい繋がりが出来たというのは確か。

 

 ト、トウヤさん……!私、初めてあなたに心の底から感謝しています!

 もう二度とあなたをダシにして会話しようとは思わないので、今回だけ許してください!お願いします!

 

 「ん?着信?」

 

 とか考えてたらトウヤさんから連絡が来たんだけど。

 なになに……『鎮圧終わったよ!』の文字と一緒になんか見覚えのある人たちとトウヤさんが写った写真が添付されて来とるがな。

 唯一見覚えがないのは綺麗な大人の女性だけなんだが………あぁ、なるほど。彼女が先生なのか。

 

 「……ふふっ、楽しそうですね」

 

 満面の笑みを惜しみなく出せるのはトウヤさんの良い所だと私は思う。なんかこの笑顔を見ているだけで色々頑張れそうと思えるくらいには好きなんだよね〜───なんて、ラブコメの主人公が言いそうなセリフを言ってみたりして。キャー!

 

 ってあれ、また連絡が……

 

 

 

 「……『先生と仲良くなった!シャーレに遊びに行くから、後で三日月さんも来て!』と……。ふむふむ、なるほどなるほど……」

 

 

 

 

 

 

 

 「いや、あの………会議は?」

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 ────三日月秘書の絶叫が鳴り響く10分前。

 

 

 「いやー、それにしてもみんな災難だったね。怪我はない?」

 

 相手を案じる文言を吐きながら、その心情とはとても釣り合わない声色と間延びした抑揚のない声が戦場に響き渡る。

 何処か浮世離れをしている子だ───そんな彼女(先生)の彼に対する第一印象が決まっていく間にも会話は進んでいく。

 

 「はい、本当に助かりました。トウヤさんが来てくれなかったら一体どうなっていたか……」

 「まさかあんなにも人員を集めていたなんて……。それにクルセイダー1型の流出も頭の痛い話です」

 「あとJHP弾も!アレに当たってすっごく痛かったんだから!トウヤ先輩の権限であの弾キヴォトス全域で禁止にしてもらえない?」

 「ユウカさん、ハスミさんも仰っていましたが、あの弾は貴校の学区で違法になるだけでキヴォトス全域では違法でも何でもないのですが……」

 「分かってるわよ!だから先輩に頼んでそうしてもらいたいって話をしただけ!」

 

 栓が外れたように各々自身が思うことを次々に述べていく。何なら1人は先輩を使って私怨を晴らそうとすらしている。

 

 因みに、ここまで聞いて何ひとつ理解していないのが剣の申し子(アホ)こと叢雲トウヤである。黙って話を聞いているのかと思いきや、その実耳から耳へと突き抜けているだけである。クルセイダー1型?JHP弾?何それ斬れるの?といった無知蒙昧っぷりを披露し、ただ答えられないから黙っているだけに過ぎない。

 

 しかし、それも仕方がないことだろう。何せ、この世界を認識した瞬間から興味関心が全て剣技に移ってしまったのだから。

 

 「えっと……あっ、そうだ!その、あなたが先生ですか?」

 

 話題の転換の為に周囲を隈なく探っていると、先ほど挨拶を交わしたうら若き女性が目に入る。

 彼女(先生)彼女(先生)で『そういえば名乗っていなかったっけ』と何処かふんわりとした思考に至り、改めて自己紹介をする為に体を彼の方に向けた。

 

 「うん、私がシャーレの先生だよ。これからよろしくね、トウヤくん」

 「はい!よろしくお願いします!」

 

 軽く挨拶を交わしている最中、彼は彼女(先生)にバレないよう、そっと彼女(先生)の出で立ちを観察し始めた。

 これは彼の癖とも言える仕草で、初めて会う人には高確率で行う行動である。

 

 絹のように品なやかな茶髪、可憐と評せるその美貌とスレンダーな体型。しかし出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるという、まさしく理想的な体型や容姿を持ち合わせている女性というのが彼の総評であった。

 

 ───まぁ、そんな評価はどうでも良くて………というのが彼の感想ではあるが。

 人の───それも女性の体型を不躾に見ておいてこの言い様は言語道断無礼甚だしいものであるが、口に出していないだけまだマシである。

 

 ただ、彼が真に見ていたのは彼女(先生)の容姿や体型などではなく───彼女(先生)の纏う()()()そのもの。この一点のみ。

 

 「───うん、何だかいい人そうだ。よかったよかった」

 「ふふっ、そう言ってもらえるのはお世辞でも嬉しいね」

 「お世辞なんかじゃないですよ?これまで出会って来た人の中でも段違いでいい人だと思います!」

 「……あ、あはは。そこまで言われると照れちゃうなぁ〜……」

 

 にへらと笑う彼女(先生)を見て、思わずトウヤも頬を緩ませ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()と強烈な殺気に当てられる。

 これまで当てられてきた敵意や敵愾心とは質も、圧も、重さも、濃度も違うソレに、圧迫感にも似た緊張がその場にいる全員に奔った。

 

 ───いや、ただ1人を除いては。

 

 「なるほど、この暴動の主犯は君だったか……狐坂さん。ほら、出ておいで?」

 

 彼がその名を告げ、とても暴動を起こした人物に対して発するべきではない優しい声色で呼びかけると、何処からか音もなくソレは現れた。

 ゆらりと揺らめく着物の袖と怪しく光る神楽面。立ち姿からして強者感を漂わせる彼女は、ただ彼だけを見つめていた。

 裡に秘められた悍ましい程の感情の坩堝に無理矢理蓋をして───

 

 「お久しゅう御座います、トウヤ様」

 「うん、FOX小隊と一緒に捕まえたあの日以来かな。元気だった?」

 「えぇ、えぇ!!このワカモ、毎朝毎昼毎夜毎時毎分毎秒と、ずっっっっっとあなた様のことだけを考えて生きてきました。それはトウヤ様も同じであると心から疑っていませんわ」

 「んー、ボクはあんまり狐坂さんのことは考えてなかったかも。いつも剣を振るってるのに夢中でさ。なんか……ごめんね?」

 「あぁ、なんと冷淡な御方……!でも、それでこそです。これこそがトウヤ様なのです!!」

 

 彼女の現在の状態は、言うならばドーパミンがドバドバに垂れ流されている状態───つまり最高に『ハイ』というやつだ。

 

 彼女はただただ嬉しいのだ。

 彼の視線を独占していることが。

 彼の感情を自身に向けさせていることが。

 彼の意識を自身に割いてくれることが。

 彼の表情を自身が特等席で見れることが。

 彼の刀の柄を掴む指先、その手足、その髪、その細胞、その一挙手一投足全てが自身にむけてくれることが。

 

 ───()()()は向けてくれなかった全てが、今彼女の手元にある。

 

 「───あぁ、素敵ですわ。あなた様の全てが素敵で、全てが愛おしくて………だからこそ、そんなあなた様に()()()()()()()()()()のです」

 

 開幕の狼煙は不意打ちのように放たれた凶弾から始まる。

 彼女が【災厄】と畏怖され、その代名詞ともなった武器【真紅の災厄】から放たれる銃弾は、そんじょそこらの銃器とは速度も、パワーも比べ物にならないのは間違い無い。

 いくらキヴォトスの人々は頑丈とはいえ、彼女の一発はその頑丈さを突き破る豪快な一打となる。

 

 そんな全てを破壊し尽くす凶弾を前に、彼は特に逃げ出すわけでも抵抗するわけでもなく、ただ()()()

 あまりに自然な移動で、あまりに無駄のない構え。無駄な力みは皆無で、ただ柄を掴むだけ。

 刹那の中に発生した悠久の時───ただ一点に集中する。

 

 そして、その銃弾は吸い込まれるように彼の頭を撃ち抜いた───筈だった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 彼は悠然とそこに立っていた。

 いつもの平和ボケした笑顔とは全く違う、まるで凪のような表情を顔面に貼り付けているところ以外、何も変わっていなかった。

 ───ただ、いつの間にか抜け放たれた刃紋が異様に目立つだけで。

 

 「………やっぱりおかしいわよ、あの人」

 「え、え?私には何がなんだかよく分かってないんだけど……」

 

 瞼を一度も閉じずに見ていたというのに、今の瞬劇(しゅんげき)で何が起こったのか理解出来なかった彼女(先生)は、何か知っているような意味深な呟きを吐いたユウカに尋ねる。

 ユウカは廃車確定となった鉄の塊に身を潜め、彼らの戦闘を覗き込みながら何と説明すればいいか思考し、喉を潤した。

 

 「まず銃弾の速度から話していきましょうか。ピストルなど一般的な弾丸が秒速340m、これですら音速を超えています。そして【災厄の狐】が持っている銃は外見から九九式短小銃と断定して……その速度は恐らく秒速730m。およそマッハ2以上の速度が出ている筈です」

 「う、うん」

 「……聞きますが、先生。先生はマッハ2に達する物質を肉眼で捉えることは出来ますか?喩えるなら戦闘機やコンコルドが数cmとなって向かってくるような物質を、です」

 

 戦闘機は何度か見たことのある彼女(先生)は、アレが極小となって空を飛んでいても見えるのかを想像する。

 距離関係もあるだろうが、あの大きさでもあっという間に視界の横から横へ飛び移っているのだ。たとえ至近距離であろうとやはり肉眼で捉えることは不可能だと感じた。

 

 「……普通無理じゃない?」

 「そうなんです、()()()無理なんですよ、()()()

 

 そう言って冷や汗を流すユウカは再び今も刀を持って佇む彼を見る。

 その時、彼女(先生)の中であり得ないような妄想が浮かび上がってくる。

 いや、あり得ない、そんなわけがない───そう考えるが、怖いもの聞きたさ半分期待半分でユウカに再び尋ねる。

 

 「もしかして……トウヤくんには()()()()()()?」

 「はい、そうみたいです。彼にはしっかりと、自身に向かってくる弾丸を目視出来ているようです。だからあんな荒技も出来てしまう……」

 

 次々に放たれる銃弾───しかし、彼に弾丸は届かない。

 刃が外に出ている為腕のごく僅かな動きが分かりやすくなった分、その異常さが彼女(先生)にも伝わりやすくなった。

 

 ()()()()()()()

 ただの当てずっぽうでもなければ、勘でもない。何発撃たれようが、その弾丸を肉眼で捉え、流れるように、音速の域に達する腕の振りを以て、寸分違わず、真っ二つに。

 

 

 彼の戦闘スタイルはまさしく()()()()()()()()となる戦法。

 本人の言葉を借りるなら、『撃たれても斬っちゃえば痛くないよね!』という超脳筋的スタイルなのである。

 

 

 人間が成せる業じゃない───そう率直な感想を彼女(先生)は抱いたが、現に今もこうして斬り伏せている為、その現実を息を呑むのと同時に受け入れた。

 

 やがて闘いのフェーズは次の段階へ移行する。

 ワカモは遠距離攻撃では埒が明かないと思ったのか───いや、それすらも予想済みだったのか、自らも危険に晒すことになるが銃弾を乱射しながら迷いなく前進する。

 

 そして、その華奢な腕からは想像も出来ないような力強さを以て備えられている銃剣を振りかぶった。

 金属同士が重なる甲高い音が響き渡る中、彼ら彼女らはそんなことを気にするわけでもなく、ただ眼前にいる相手を視界一杯に収めていた。

 

 「あぁ、なんて凛々しいお顔。このワカモ、普段の天真爛漫な表情も素敵だと思いますが、やはり剣を振るっているときのお顔の方がお好きですわ……!」

 「まるで普段のボクを知っているような口ぶりじゃあないか」

 「えぇ、もちろん。これまでもずっとあなた様のことを見ていたのですから……()()()、ね」

 

 肌が粟立つ感覚がするとともに顔を逸らす。その瞬間、彼女が放った弾丸が顔面スレスレに通過していった。

 転じて超高速の一文字斬りと袈裟斬り。しかし、華麗なバックステップで難なく躱されてしまう。

 

 まさしく一進一退の攻防戦。

 狐の少女にとっては至福以上の時間が続く。

 

 されど、決着の(とき)は着実に迫っていた。

 

 「ふぅー……なんか前より動きが良くなってない?狐坂さん。君ってちょっと前まで矯正局にいた筈だよね……?」

 「ふふっ、それは愛故、でしょうか?私のほとぼりが冷めることのない燃え滾る()が私をさらなる高みへ連れて行ってくれるのです」

 「んー、ごめん、聞いてみたけどよく分かんないや。だけど、このままだと埒が明かないのは事実。だから───」

 

 刀を鞘へと静かに収める。

 戦闘放棄か───いいや、それは彼の放つ燃え上がる闘志が否と断じる。

 

 その闘志を見て、感じて、触れて───思わず(はら)の奥が焦げ落ちるような熱を帯びる。

 恐らく狐のお面が外れて彼女の表情を見ることが出来れば、きっとその顔はこれ以上なく蕩けたものとなっていることは想像に難くない。

 

 

 「───だから、少しでもその()を君に返すね」

 

 

 彼が消える。

 そして、次に彼女が彼を目視出来たのは、すでに刃を抜き放ち彼女へ振りかぶっていた姿であった。

 

 その刹那に等しい瞬間に感じたのは───“生”と“死”。両極端に位置するものでありながら表裏一体の感覚であった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 「───あら?」

 

 銃剣が根本から斬られ、自由落下でコンクリート地面に落ちた。

 目を瞑ってその痛みを甘んじて受け入れようとした彼女にとって、ある意味期待はずれの決着であった。

 

 「……どうして、ですか?」

 「いや、特に深い意味はないよ。ただ、ここで捕まえるのは惜しいって思っただけ」

 

 折れた銃剣を拾い上げ、彼女に渡す。

 その時の表情は、まるで太陽が地上に顕現したかのような屈託のない笑顔だった。

 

 「狐坂さん、君すごかったよ!またボクと一緒に模擬戦でもやろう!あ、でも今度は人様の迷惑にならない場所でね」

 

 連邦生徒会に所属する人間がそれでいいのかと度々尋ねたくなる言動の数々だが、彼の思考には必ず剣が真っ先に来るので、ならもうこれでいいのだろう。(諦め)

 

 「───ふふっ、ふふふっ……!!それはもしや、噂に聞く逢瀬(おうせ)というものでしょうか?」

 「おうせ……?まぁ、確かにそうかも」

 「あぁ、このワカモ、たった今これ以上ない幸福を噛み締めておりますぅ……!!」

 

 『普通に公園で会うことだよね?』なんてアホな解釈をしているトウヤを他所に、ワカモは身を悶えさせ続ける。

 この瞬間だけは、何処にでもいる普通で純粋な乙女のように見えたというのは彼女(先生)談だ。

 

 実際その認識は正しい。

 ()()()()()もあって彼に自身の存在を刻むことに固執するが、その実態は単に愛する人に自身を意識して欲しいという、世間一般的な普通の乙女なのだ。

 

 「じゃあまた」

 「はい!またお会いしましょう、トウヤ様!」

 

 軽い挨拶を済ませ、その圧倒的な跳躍力を以てビルを飛び越えて行くワカモ。

 こうしてシャーレ周辺の暴動は終息を迎えた。

 

 「……大丈夫なの?その、色々と……」

 「まぁ、大丈夫ですよ。彼女、根はそんなに悪そうには見えませんし。それに()()()()でもありますしね」

 「あ、同郷なんだ」

 「多分ですけどね。ただ、あんな和服を堂々と着ている人なんてキヴォトス広しといえど同郷者以外知りません。まぁ、そんなことより早くシャーレに向かいましょうよ!」

 

 彼女(先生)たちは『それもそうか』と納得して足を進め、トウヤはこのまま会議を抜け出しちゃおうという魂胆から足を軽やかに進めた。

 しかし、ここで三日月秘書のことを思い出したトウヤは、一応連絡をしておくかという軽い気持ちで、その場で撮った写真とともに報告した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、三日月秘書にまんまと裏切られる形で行政官であるリンに報告が行き渡り、リンによる強制連行で大人しく会議室に戻って行った(連れ戻される)トウヤであった。

 

*1
ただしトウヤは除く




トウヤの歴代秘書まとめ
連邦生徒会長→扇喜アオイ→三日月エマ(NEW‼︎)
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