魔法少女、拾いました。   作:まりもまにも

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日常茶飯事

 100年前、世界は光を見た。

突如現れた魔神率いる魔物の軍勢から人類を守護した七人の光を。

その身を犠牲にし魔神を倒した少女達を人々は英傑と呼び、平和な世をもたらしたとして世界中で信仰されることとなった。

 

 そんな平和な世に一筋の亀裂が入る。

また各地で魔物が現れたのだ。人々は英傑の帰還を願ったが、そんな人々を嘲笑うように世界は魔物に蝕まれていく。世界は滅ぶのかと思われたその時、魔物を倒す少女が現れ魔物を退けた。

 

 少女が使う力は英傑と似ていた。

人々はその力を“魔法”と呼び、それを使う少女を魔法少女と名付けた。

 

 そんな出来事を皮切りに、世界各地で少女達が魔法を使えるようになる事案が発生。同時にその力をよからぬことに利用しようとする輩も出てきた。

 

 それを重く見た世界初の魔法少女・アミルファンゼは、数人の仲間と共に魔法少女協会を発足。

以後魔物や魔法少女に対する事案は、すべてこちらで請け負うと世界に周知させた。

 

 世界は変わった。

国という境界線が無くなり、協会が作り上げた保護区に人々は移り住んだ。

人々の生活は保護区の中で完結し、いつしか外に出ているのは魔法少女だけとなった。

 

 世界は変わらない。

このまま魔物とイタチごっこをし続けることになるだろう。

誰かが元を絶たなければいけない。だが、それを実行できる人間はこの世にいるのだろうか。

このまま一生魔物に怯えて過ごすことになるのかと、保護区の人々は諦めていた。

 

 

 

 

 

 

 獣型の魔物を貫くため槍を狼によく似た鼻面に突き出した。

魔物はそれを回避することができず、その一撃を受けて命を散らす。間髪入れずに二匹襲ってくるがそれを転がるように回避し、魔物の首と地面の間に槍を差し込み振り上げるとその首はいとも簡単に切断される。

 

 三匹がやられたことに激怒した群れは下手人である男を囲み、飛びかかったがそれは男にとって予想できたものだった。

 

槍を地面に刺しそれを起点に魔物と同じ高さに飛び上がると後方にいた魔物の鼻面に蹴りを入れ、前方から迫る魔物は懐から取り出した複数のナイフを投擲することでこちらに近づかないように牽制した。

 

鼻面を蹴られたことで先ほどの獰猛さは消え、隙だらけの存在へと成り下がる。その隙は戦場では命とりだった。いつの間にか魔物はただの肉へと変化していた。それが目の前の男がやったことだと牽制された魔物達にしか気が付けなかった。

 

魔物の眼前に何かが迫る。それはとっさの事だった。故に回避することができず、魔物達の視界は血飛沫と共に奪われた。

魔物達の視界を奪ったのは先ほど投げられたナイフだった。どうやって自分たちを通過したはずのナイフが目の前に来たのか、それを魔物達が知ることは無い。

 

 すべてが終わり戦場と化していた荒野が、元の静けさを取り戻す。

それを見計らったかのように男の懐から何かが出てくる。動いている様子から生物であることには間違いなさそうだ。

それはウサギのような犬のような摩訶不思議な形をした生物だった。

 

「キュー、俺が良いって言うまで出てくるな」

「キュ」

 

 キューと呼ばれた生物はそう言われると、小さな口であくびをし首を後ろ足で掻く。そんなめんどくさいやつに絡まれたみたいな反応をされた男は、起こるでもなくため息をついた。この態度はいつものことだからだ。注意するより諦めた方が早いのだ。

 

「あ、おい!」

 

しばらく首を掻いていたキューだが、突然スンスンと鼻を鳴らすとどこかへと走っていく。

その様子に困惑しながら追いかける男。

砂が視界を悪くする中、何とかキューを追いかけた男は何かをキューが引っ張っているのを見つけた。

視界が悪いため近づかないと完全にその姿は分からない。

 

「キュー、お前何して―――」

 

そこで男が見つけたのは座り込んだ少女だった。

家出したのかと考えたが、少女が何も持っていないことからその可能性は頭から消えた。するとキューが少女の胸元から、何かを咥えてこちらの手元に持ってきた。それは少女の正体を特定するのに十分な物だった。

 

「魔法少女……」

 

それは魔法少女協会のマークが描かれたバッジ。

協会の人間でこの外に出る者は魔法少女しかおらず、目の前の少女が魔法少女であることを示すには十分な証拠だ。

少女をよく見ると服装はボロボロで、何者かの攻撃を受けたことは間違いない。それが魔物か魔法少女かは考えないようにしよう。

 

「おーい。生きてるかー?」

「……」

「……おいキューやめろ。痛い」

 

少女の胸が上下していることから生きていることは間違いない。

とりあえず意識があるかの確認で目の前で手を振る。ついでに声もかけてみるが全く反応がない。

放っておこうと思ったが立ち去る自分の足をキューに思いっきり噛みつかれ、見捨てる選択肢を強制的に放棄させられた。

 

「おいお前。そこにいたら魔物の餌になるぞ。住んでる地区はどこだ? それか協会に送り届けてやる。どっちがいい?」

「……もう、いいんです」

 

やっとの返答はそんな諦観した物だった。

魔物が再出現したときの世界みたいな反応を見せる少女は、相当心がやられたのだろう。

現にその瞳に光は無く、果てしない闇が広がっていた。保護区の路地裏でよく見る光景がそこにはあった。

その理由は大体察しがつく。

 

「その傷……魔物にやられたのか」

「……」

「んで、そうなったのは仲間が原因と」

「!」

 

どうやら本当に合っていたらしい。

大きく目を見開いた少女の顔は図星と言う他ならない。

仲間割れ。この場合だといじめが正しいか。日頃のいじめがラインを越えたのだろう。何も珍しいことはない。

魔法に目覚める少女は多感な時期の子が多い。故に目覚めた莫大な力に酔い、自分より弱い者を見下すことが有る。もっともそんなことをする奴は一部で、多くの魔法少女は真面目にやっている。

 

まあ、今はそんなことは関係ないのだが。

俺の問題は目の前の少女だ。見捨てたらキューに足をかじられることは想像できる。とは言ってもこの少女をどう立ち上がらせたらいいのだろうか。

 

八方塞がりな状況に思わず手で頭を乱した。

このどうしようもない世界で他人を助けるなんてことは自殺行為に等しい。助けた瞬間からその人は骨の髄まで他人にのしかかられ、利用価値が無くなったら捨てられるのだ。

 

「キュキュー」

「お前の時とはわけが違うんだよ。こいつは人間だ」

 

キューが俺に抗議をするように鳴いた。

この小動物には人の都合という物を知らないらしい。

 

「お前、このままでいいのか?」

「……もうほっといてください」

「俺の質問に答えたらな」

「……あなた何なんですか」

「小動物に逆らえないただのじじいだ」

 

足元に少しの衝撃。

見るとキューが不服というように小さな抗議をしていた。

 

「んで、どうなんだよ。このままでいいのか? 多分楽に死ねないぞ?」

「……」

「……お前は良くて餓死か魔物の餌だ。悪くてアレな魔物に……だ」

「じゃあ……」

「ん?」

「じゃあ、どうしろって言うんですかっ!」

 

自分が思いつく限りの顛末を伝えたら少女に怒鳴られる。

まあそうなるだろう。死ぬことを決めたのに横からゴチャゴチャ言われたらこうなるのも無理はない。だが感情を出したということは、まだ立ち上がる余地があるということ。

 

「お前をそうした連中のことは知らんが、このままくたばったらそいつらの思うつぼだ」

「でも協会に戻ったとしても……」

「居場所なんてないだろうな。元の状況に逆戻りだ」

「じゃあ……」

「今お前の目の前にはそれを変えられるかもしれない男がいる。このまま帰るか俺を頼るか。さあ? お前はどっちを選ぶ? ……ああ、安心しろ。帰ることを選んで協会までは運んでやる。その後のことは知らないが」

 

言ってしまった。

ヤケクソ気味でつい言ってしまったが、もう撤回できない所まで来てしまった。

 

「……あなたを、信じていいんですか?」

「安心しろ。俺は依頼は必ずやり遂げる」

「なら、あなたに頼みます」

 

言われてしまった。

協会とは敵対したくなかったが仕方ない。こうなってしまったら行くとこまで行ってみるか。

 

「じゃああんたをやった魔法少女達の―――」

「私を強くしてください!」

「……へ? 今なんて?」

「え? 私を強くしてくださいって……」

「…………ハハッ。マジか。……いや、ハハッ。あー……よし! 分かった。いいぜ、お前を育ててやる」

 

とんでもない成り行きで弟子を取ることになってしまった。

まあ協会と敵対するよりは断然健全だろう。

そうと決まればこいつを手当てできるところまで運ぶとしよう。

 

「よっと」

「え、きゃっ!」

 

少女を腕を掴み、持ち上げて背中に乗せる。

傷が痛むと思うが我慢して欲しい。

けが人を腕に抱えるわけにもいかないし、これが一番無難なのだ。

 

「お前、名前は?」

「ミサキです」

「俺はスドウとでも呼んでくれ。明日からお前を鍛える。今はゆっくり休んでおけ」

 

この選択が俺にとって正しかったのかはわからない。だが、どんな結果になろうと俺は後悔しないだろう。




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