魔法少女、拾いました。   作:まりもまにも

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魔法少女ブートキャンプ

 魔法少女を夢見ていた。

幼い頃瓦礫で埋もれた私を助けてくれたあの人みたいに、私も誰かを助けられる人になりたいと思った。

魔法に目覚めた時はそれは大いに喜んだ。魔法少女になれば、誰かを助けられるってそう信じていたから。でも現実はそう簡単じゃなかった。

 

 簡単な話だ。いつだってそんな風に印象に残るのは才能を持った選ばれた側の人間で、私はその選ばれた側になれなかっただけの話だった。

その時点で諦めて前線ではなく支援側に行くべきだったのだろう。前線じゃなくとも活躍できる場所はいっぱいあったはずなのに、私は現実じゃなくて憧れを取ってしまったのだ。

 

「お前は前線にいるべきではない。これ以上何をやっても無駄だ」

 

「ミサキちゃんは……ここにいるべきじゃないかな」

 

教官の魔法少女にそう言われた。

私と同じ時期に入った子にも同じことを言われた。だけど当時の私はそれを拒否した。

憧れにまだ届くと思っていたからだ。もうとっくに見えない所まで行っているのに。

教官がいなくなった後も、自分なりに訓練をし続けた。

周りなんて見ている暇もなかった。

 

「あなた、私のチームに入りなさい」

 

そう声をかけてもらえた時は嬉しかった。

認められたと思った。努力が実を結んだとも。

実際はただの雑用とストレス発散のサンドバックでしかなかったが。

 

 魔物には覚醒と言われる現象がある。

覚醒をした個体は他の魔物よりも力が桁違いに強くなるらしい。だが、それが起きるのは稀なため多くの魔法少女は気にしていなかった。

それは稀なだけで起きないわけではない。そして私達はそれを引き当てた。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

「……ん」

「よう。お目覚めか?」

 

どこかのベッドに私は寝かされていたようだ。

周りを見渡すとアンティークな家具が広がっており、窓から見える景色は朝日が昇っていることから随分と長い時間眠っていたことが分かる。

 

「あの……ここは?」

「俺のセーフハウス。まだ体の傷は痛むか」

「……っ! そうだ魔物っ!」

 

私はベッドから飛び出そうとしたが、それは男、スドウさんの手で止められる。

 

「お前、よく立ち上がろうと思うよな。裏切られたんだぜ? 魔法少女に、人間に。よく魔物を討伐しようと思うな」

「人と魔法少女は関係ありません。それに私は選ばれたんです。だったら人を助けるのは当たり前です」

「……どちらにせよ、今のお前じゃ無理だ。外に出ろ」

「え?」

「お前を鍛えると言ったはずだ。忘れたのか?」

「あ!」

 

そうだ。

私はこの人にお願いしたんだ。強くしてくれって。

でもいきなり大丈夫かな。

 

「お前の傷はもう完治している。いくらでも動いてもいい」

 

私の気持ちを読み取ったようにそう返してくるスドウさん。

スドウさんの手を借りながら外に連れ出される。

扉を開けた先で私を待っていたのは荒れ果てた土地だった。

 

「ここ……保護区じゃないんですか⁉」

「当たり前だ。保護区はどこに目があるかわからん。協会に見つかったら面倒だ」

 

面倒って……

もしかしてこの人ってやばい人なんじゃ……

そんな思考が頭をよぎるがすぐにそんなことを考える暇も無くなる。

それは目の前に大量の魔物が現れたからだ。

獣型、巨人型、人型、虫型、粘液型、触手型、協会で習ったすべての魔物が大群をなしてそこにいた。

 

「あ、あれなんですか⁉」

「スタンピードって言われる現象だ。一部の人間にしか知られてない。いつもなら魔法少女が対処するんだが……運がいいな。今日は誰もいない。さ、あそこに突っ込め」

「へ? いやいや無理ですよ! 私、あんな集団と戦ったことないですしっ! 第一、私の魔法は戦闘向きじゃありません!」

「魔法が使えないなら魔力で固めて殴れ」

「何言ってるんですか⁉」

「やり方は戦いながら教えてやる」

 

スドウさんはそう言うと私を大群の目の前に突き飛ばす。

こいつは何を言っているんだとそんな文句を言う暇もなく、目の前に獣の爪が霞める。それは私の頬に一筋の血を流すには十分な物だった。

私は後ろへと下がり魔法を使い、頬の傷を治す。

 

「治癒系か。なら重宝されると思うがな」

「ちょっとした傷しか治せないんですよっ! それより魔力で固めるってどうやるんですか⁉」

「魔法を使うには魔力が必要だ。つまり魔力から魔法って順番だろ? じゃあ魔法は発動せず魔力だけを特定の部位に纏わせるってやり方もできるはずだ」

 

な、何言っているのか全然わかんない。いや理屈としては分かるんだけど、それを実際やれって言われてできるほど私は器用ではないのだ。

 

「そんなことできるわけないじゃないですか!」

「……そりゃそうか。魔法は感覚的に使うもんだもんな。なら傷ついた部分に魔法を使え」

「は、はぁ……?」

 

そんな会話をしている間にも都合よく時間が止まるなどあるわけもなく、人型がこちらに向かって飛びかかってくる。

異様に尖った歯を腕に突き立てられあわや嚙み千切られるかと思ったが、スドウさんの槍がその下半身を切り落としてくれたおかげで難を逃れる。

私の腕には人型の噛み跡が残っていた。

 

「その傷を治しながら魔物を殴れ」

「は、はいっ!」

 

私は言われるがままに魔法を発動し、近くにいた巨人型の足を殴る。

殴られた巨人はバランスを崩し後方へと倒れこみ、後ろにいたすべての魔物は巨人の下敷きとなった。

倒すことはできなくても魔物には十分な攻撃だった。

 

「な、なにこれ」

「それが魔力で殴るってことだ」

 

いつの間にか隣に来たスドウさんが教えてくれる。

私は驚きのままに言葉を走らせるが、それは腕の痛みによって打ち切られる。

 

「こ、こんなの教わってな―――痛っ!」

「大半の奴がこうなるからだよ。…………そろそろ退散するか。会いたくない気配が来た」

 

スドウさんはいつの間にか付けていた腕輪をセーフハウスの前に掲げると、あっという間に腕輪の中へと吸い込んだ。そして煙幕をバラまくと、私を担ぎその場へと離れる。

私達と入れ違うようにスタンピードの場へと現れたのは私にとって見知った顔だった。

 

「レミゼルさん……」

「レミゼル? ……知り合いか?」

 

その名前を呟いたことでスドウさんは少し振り向いてスタンピードに向かって行くその人を見た。

しばらくラミゼルさんを見た後、そう問いかけてきた。

 

「魔法少女の時の教官でした」

「ああ、なるほど。あれが教官だったのか」

 

何かを思う所がありそうな声色のスドウさんだったが、私はそこに追求するほど余裕があるわけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「レミゼル様?」

「……いや、何でもない。それよりお前は下がっていろ」

 

 付き人である魔法少女から刀を受け取ったレミゼルは、腰まで伸びた髪を結び魔物を見据える。

およそ一人では立ち向かえないであろう魔物の大群が眼前まで迫っている。そんな状況でもレミゼルは慌てる様子もなく半身をそらすと、左手で刀を腰に据え空いた手を刀の柄に添えた。

 

魔物の凶刃がレミゼルを貫くと思われたその時、レミゼルの刀が抜かれた。

一瞬の静寂。直後、魔物達の体は空間ごと横にズレる。かと思えばそれは瞬きほどの出来事で、空間は元に戻る。だが魔物の体は戻らず、斬られた上半身が重力のまま落ちていく。

それに例外などなく、この場にいたすべての魔物が息を合わせたかのように落ちていった。そこに血など一切なく、あるのは魔物から落下した臓器のみ。

 

「流石です。レミゼル様」

「これぐらい造作もない。……やはり」

「どうかなさいました?」

「いや、少し懐かしい気配がしたものでな。まあいい。後始末頼めるか?」

「お任せください」

 

レミゼルは刀で何もない空間を斬る。するとその先には城のような場所が広がっていた。レミゼルはそこに向かって進んでいき、やがて見えなくなると同時に空間が閉じる。

その姿を最後まで見送った付き人は、後ろの魔物の死骸へと向かう。

そこには綺麗に分断された魔物達が広がっていた。

 

「素晴らしいですっ……!」

 

その美しい所業に感嘆な声を上げてしまうのも無理はないだろう。

流石は協会のナンバー2、その称号を手にしても決して努力を怠らない素晴らしいお方だっ!

 

「……いけませんね。レミゼル様に頼まれた仕事を遂行しなければ……」

 

魔法少女は死骸へと向かって行く。

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