魔法少女、拾いました。 作:まりもまにも
あの後無事帰ってきた俺達だったが、ミサキの腕が思ったよりひどい。
腕の全部が赤黒く腫れ、骨はあと一歩で粉砕と言ったところだった。
「後一歩、治療が遅ければ一生使い物にならなかっただろうな」
「え゛」
「わしがいたことに感謝するのだな。なぁ、スドウ?」
治療をしていたじいさんに、睨みを聞かされながら苦言を呈された。
偏屈なじいさんだが、医師としての腕は確かなのでその言葉は本当の事なのだろう。
「ミサキ、すまん。お前を侮りすぎた」
ここまでの事態を想定しなかったなどは言い訳にしかならない。
ここは素直に謝る方がいい。俺の目も随分と耄碌したな。
「い、いや、そんな頭を下げないでくださいっ!」
「いや、俺がしっかりお前の実力を見極めていればよかった話だ。本当にすまない」
「お嬢さん……。そうなったらこいつは頑固だ。早めに受け入れてくれい」
「あ……じゃあ、そのはい。もう少し優しめの修行でお願いします」
「ああ……考えておこう」
本来魔力の使い方を知らない奴が、いきなり魔力を固めるなんてできるはずがなかった。だがこいつはできてしまった。あの場では失敗して、魔力の扱いを覚える形に持っていきたかったのだがな。
まあ、やることは変わらない。魔力を使うたびにああなっていたら意味が無い。
「ひと段落ついたところで、ほれ仕事じゃよ」
「おお、ありがとう。どんな依頼だ?」
「お前さんが好きそうなやつ」
「あのっ! 仕事って何ですか?」
「言ってなかったのか?」
じいさんに睨まれた。
恐らくなんでそんな大事なこと早く言わないんだてめぇの意味が含まれている睨みだが、本当にその通りなので素直にその睨みを受けることにする。
更にじいさんの小言が放たれそうだったので、依頼が録音されたカセットテープを奪い取って逃げることにする。
「……もうこいつを連れて行ってもいいよな?」
「腕に負荷をかけなければな」
「……よし、行くぞ。お前に俺の仕事を見せる」
「あ、ちょっと待ってください!」
急いでじいさんの家から出るとキューが足元に立って、遅いと言うように前足を器用に上げて俺の足を叩いた。やがて俺の後ろから出てきたミサキを見て、顔に喜色を浮かべて飛びついた。
「わっ。ふわふわ。あの、この子って……?」
「キューだ。それ以上でもそれ以下でもない。キューがお前を見つけてくれたんだ。感謝しとけ」
「え、ほんとですか? ……ふふっ。ありがとうキューちゃん」
「キュッ、キュキュー」
キューとミサキが戯れているのを横目で見ながら、カセットテープを装置に入れて音声を再生する。
少しの稼働音の後に依頼の内容が再生された。
依頼は珍しい内容だった。
なんでも行方不明の娘を探して欲しいとのことだ。
こういった依頼は警察や探偵などに出されるものだが、俺に依頼するということは依頼人は相当切羽詰まっているらしい。
とにかく依頼人に色々話を聞こう。場所は……S地区か。
「おい。いくぞ」
「あ、はいっ! キューちゃんもいこっ!」
「キュ!」
「あの、なんでカセットテープにしたんですか?」
「そっちの方がかっこいいから。それにカセットが無きゃ再生できないから気密性が高い。今の時代にこれを持っている奴はなかなか見ないからな」
S地区に向かう道中の会話である。
これ以降まともな会話は無かった。
保護区。それは協会が作り出した防衛都市。
魔法少女ユシフィールが作り出した結界に守られる保護区は、魔物はおろか外部からの来訪者を通すことは無い。
専用の通行証さえあれば話は違うが、基本的に内部の者の手引きが無いと保護区へと入れない仕組みになっていた。
「俺は依頼を受けたんだ。ほら、通行証もある」
「現在S地区は封鎖中である。何人たりとも入れるわけにはいかん」
「俺はそのS地区から依頼を受けたんだが?」
「貴様の事情がどうあれ今は諦めることだな」
本来立っていないはずの守衛が立っていたかと思えば、このように何を言っても通してくれない状況へと引きずり込まれていた。通行証を見せたとしても対応は変わらず、機械のような反応を見せる守衛に痺れが切れそうだった。
「その人達は私の客人だ。通しなさい」
そんな状況に一石を投じる声が響いた。
守衛の後ろから出てきた男は無理やり貼り付けたような笑顔を浮かべているのが印象に残る貴族の男だった。
言葉だけで守衛が下がったのを見ると、この男はS地区の中じゃ相当な地位にいるらしい。
「依頼を受けてくれてうれしいですよスドウさん。私はS地区の区長、オリビエンスと申します。どうぞよろしく」
そう言って手を差し出し、握手を求める男。
「随分な有名人が来たな。俺も有名人ってことか?」
「ええ、お噂はかねがねきっと各地まで届いておりますよ」
この時点で嫌な予感がしていた。この予感が当たらないことを祈りながら、俺はその手を握った。
「依頼の内容はカセットの通りでいいんだよな?」
「ええ。……ですが娘は外に逃げた可能性が高く、スドウさんにはその捜索をお願いしたいのです」
「ほれはふぁいふぇんでふぅね(それは大変ですね)」
「あの……この方は?」
「すいません。うちのバカ助手が」
「痛ぁい!」
「そんなに食い意地を張るな。申し訳ない本当に」
「いえいえ……」
依頼の内容を聞かれるのをマズいとし、一旦オリビエンスの屋敷に集まった一行。
そんな一行をもてなすために出てきたのが、ドーナツとクッキーやらのお菓子だった。普段食べられないものをお出しされたミサキは、自分では遠慮しながら食べているつもりだったが手は空になった口に動いていたらしい。
拳骨をくらった頭をさするミサキを横目に話の続きを促すスドウ。
ややドン引きしながらもオリビエンスは話を続ける。
「これが娘の写真です。それと移動にはこちらから馬を貸し出しますので是非使っていただければ」
「ああ、わかった。にしても何で」
至れり尽くせりの扱いで不審に思ったが、それほど大事な娘なのだろうということで言葉にはせず心の中にとどめておくことにした。
写真を見るとまた随分と美人な娘がそこにはいた。だが失礼ながらオリビエンスには似ていないと思ってしまった。母親似なのだろう。
「私に似てないでしょう? 妻に似たんです。その妻も去年無くなりまして……」
「……とりあえず周辺から娘を探す。馬はどこにある?」
「それなら城門の方に」
「わかった。行くぞミサキ」
「はい!」
立ち上がり、出て行こうとするスドウだがその足を扉の前で止める。そして振り返りオリビエンスを一瞥して言った。
「俺は依頼は必ずやり遂げる。だから安心して待っとけ」
「と言ったのは良いが……」
「迷っちゃいましたね」
「キュー」
馬の上で項垂れる一行。こうなったのも理由はある。砂嵐と変わり映えのしない景色で方向感覚が狂ったのだ。
そんな情けなさを馬が嘲笑うように鼻を鳴らした。
砂が視界を悪くしている中、双眼鏡やらの道具を使っても目的の人物は見つけられないだろう。
「スドウさんの仕事って迷子探し何ですか?」
「そんなわけあるか。ただの何でも屋だ」
「ふーん。……普段はどんな依頼受けているんです?」
「魔物狩りとか、まあ荒事……。何でそんなこと聞くんだ?」
「暇だったんで」
「ああ、そう……」
取り留めのない会話をしながらとりあえず馬を進める。しっかり育てられたのか、こんな砂だらけの足元でも不安定になることなくしっかりと歩いている。
出発する頃には白かった空はもう赤く染まりかけていた頃に、遠くから何かと何かがぶつかる音が聞こえた。ここでそんな音が出るのは十中八九魔物でしかない。
「念のため俺だけで行く。お前はもう一度周囲を」
「はいっ!」
ミサキはスドウについていきたかったが、自分の実力が見合っていないとしその心を飲み込んだ。
音のした方に馬を走らせるスドウの背中が遠ざかっているのを見ながら、周囲の捜索を始めようと後ろを振り返るとそこには人影が佇んでいた。