【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第106話 エマージェンシー

 もうすぐ五月。ゴールデンウィーク目前のある日の朝。早朝トレーニングを終えた俺は、自分のスマホを見て驚いた。三十分ほどの短い間に、十件を超える不在着信が入っていた。相手の名前は、国友(くにとも)道明(みちあき)

 我が国の英雄、『剣聖』が俺に至急連絡を取りたいらしい。これ以上無い、不吉な予感。とりあえず折り返し電話を掛ける。すぐに繋がった。

 

「おはようございます。入川です……」

『社長! 里奈を大至急こっちに! 迎えの車はもうそっちに行ってます!』

「なにがありました?」

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 衝撃的な情報だった。出来れば朝には摂取したくない類いの。

 

「分かりました、準備して貰います。ほかには何かありますか?」

『ああ、ええっと……魔女さんに、代わって貰えますか?』

「少々お待ちを。……猫さん、マリアンヌさんに至急代わってくれ」

 

 足下でこちらを見上げていた黒猫が、すぐにマリアンヌさんの姿に変わる。秘書姿の彼女は、俺からスマホを受け取ると相手と話し始めた。

 

「代わりました、マリアンヌです。…………なるほど、わかりました。私もそちらへ、ええ、はい。私としても興味がありますので。……その件は私の方から。はい、そちらが動くよりも早いでしょうし。……ええ、ええ。ではまたあとで」

 

 通話を切ると、彼女はスマホを帰してきた。

 

「社長。純金のマリアンヌより仕事の依頼があります」

「お伺いしましょう」

「里奈さんに同道し、かの地のダンジョンに入ってください。そこに居ると思われる、向こう側のモンスターの討伐と確保。地上への搬出までが依頼となります」

「敵に関する情報、いくつ運び出せば良いのか、依頼放棄のラインとペナルティは?」

「情報は僅かです。人型で武装していたとは聞いています。具体的な情報は向こうで道明さんに伺う必要がありますね。数については最低一つ以上。日本政府もほしがるでしょうし。ああ、一度あちらに渡して結構です。話は私の方で付けますから。撤退ラインは、安全第一で。ペナルティは完了報酬なし。あ、依頼料は一番のプランで大丈夫ですよ?」

「あれか……まさかあのプランが使われる日が来るとは」

 

 無理難題をふっかけられたときのための、無茶苦茶高額プラン。あれをぽんと支払うとか言うのか。……支払えるな。崑崙マーケットで動く金額を考えれば、彼女なら一日で稼げる。

 

「なるほど、分かりました。かっつん、サッチー、駐車場に皆を集めてくれ」

 

 一声掛けて、社員を集合させる。その間にもう少し、細やかな話を詰めておく。急ぐ状況だけど、なあなあにしていいことではないから。

 もう一度道明さんに電話をかけて、最低限の情報収集も済ませた。その頃には皆が集まっていてくれた。荷下ろし場の高台に立って説明を始める。

 

「集まってくれてありがとう。すまないが、緊急の依頼が入った。そちらに人員を割くので、ダンジョンに入るメンバーが減る。チームの組み直しがあるので、班長は確認をよろしく。……で、依頼というのはとあるダンジョンへのヘルプだ。未確認のモンスターを対処する。メインはドゥームブレイカーズやアサナギのハンターが対応して、うちはサブとなる。上手くすれば、倒したモンスターを地上にもって帰るだけなんて楽ができる、かもしれない。……期待はしない方がいいとは思う」

 

 薄く苦笑が広がる。未知のモンスターへの対処が楽であるはずがない。

 

「今回はよそ様の仕事場だ。家は少数精鋭で行こうと思う。今から呼ぶメンバーは移動の準備をしてくれ」

 

 俺は我が社の主力の名前を呼び始める。御影勝則、御影小百合、黄田流、芦名宏明、森沢歩、藤ヶ谷一樹、乙川とわ、梧桐三郎、戸島綾乃、古志憲治、江畠広美。

 ちょっと前ならこれだけ連れて行くと仕事が回らなくなる状態だ。魔法使いほぼ全員だからな。しかし地王が入ってくれたし、ハガクレにもマナに目覚めた人がいる。地下三階なら、問題なく仕事が出来る。うん、我が社は成長しているぞ。

 

「メンバーは以上だ。それじゃあ、準備に入ってくれ」

「社長、車足りないんで俺の車出しますぜ」

「ああ、頼むよ三郎君。……新しいの買うか」

「シャチョー、そういえば場所どこっスか?」

「あー、言うの忘れてた。西の方の、茶畑のある……」

 

 流に場所の説明をしていると、ばたばたと大きな物音が聞こえた。振り返ってみると、新人の塩村(しおむら)由佳(ゆか)さんが転びかけていた。どうも、足をもつれさせたらしい。そして、目を見開いてこちらを見ていた。……と、思ったら足早に近づいてきた。

 

「すみません社長! もう一度、今言った場所を教えてください!」

「ええ? うん。場所はね……」

 

 説明すると、みるみる彼女の顔から血の気が引いていった。ただ事では無い。

 

「何か、心配事が?」

「……おじいちゃんの家が、近くにあるんです。うそ、有名な所に委託したから、ダンジョンブレイクは起きないって」

「ダンジョンブレイクじゃないからね、今回」

 

 説明したはずなのだが。いや、ダンジョンの危険=ブレイクって認識になっているのかな? そういうこともあるか。実際、それ以外で外まで危険が及ぶって事は今までなかったわけだし。

 

「……そうなんですか?」

「そう。未確認のモンスターが出たから対処しましょうね、ってお話。そのモンスターがどんな振る舞いをして、どれくらい強いのか。さっぱり分からないから、最大限の警戒をします。我が社に依頼が来たのも、その補助をするためだしね」

「そう、なん、ですか……あの、私も現場に行くことは出来ませんか!?」

 

 うん。何となくこの流れになると思っていた。身内の危険だ、当然の反応だろう。でもなあ、素人が現場に行って何になるんだ。無情だが、邪魔になるだけ。足を引っ張る姿が容易に想像できる。気持ちは大変分かるが、会社の責任者としてとても許可できない。

 

「うーん、それは……」

「良いでは無いですか、社長。こういう現場を見ることは、勉強になりますよ。彼女が心配でしたら、()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう声を掛けてきたのは一樹さんだった。えぇ……っていう困惑が、偽らざる本音だ。そりゃあさぁ、一樹さんなら安心だけどさぁ。

 

「タイム。ちょっとまってね」

「え? あ、はい」

 

 腕でTの字を作って、由佳さんにその場に待ってもらう。そして離れた所に一樹さんを引っ張る。

「マジで連れて行くの? 早くない?」

「早ければ早いほうがいいと思いまして。彼女には迷いがある。人生は短い。選択もまた、早いほうがいいと」

「ん、んんん、んんんんん……」

 

 唸る。飲み込めない。そいつはあまりにも、厳しすぎやしないだろうか。

 

「社長のご懸念は分かります。しかし、やはりダンジョンには危険がつきもの。半端な覚悟の者を関わらせ続けるのは、本人にも他の者にもよろしくない」

「それは、まあそうね」

「今の世の中は厳しく、他の仕事先もなかなか無い状態。仮にあったとしても過酷な仕事しか無いだろうな、というのも確かにそうです」

「うん。それだよ。厳しい世界を見せつけて選択を迫るというのは、ちょっと状況的に酷い話だと思うんだ俺は」

「そこは見解が分かれるところですね。……社長、()()()()()()()()()()()()。それがまず前提として存在します」

「う」

 

 うめき声が出る。その通りだ。異世界、ダンジョン、異世界。そういった要素を排除してもなお、世界は楽に生きられる場所では無い。

 

「社長が若人に良い労働環境を与えてあげたいというお気持ちは大変素晴らしい。徳のある行為だと思います。ですがこのミナカタでさえ、良いか悪いかで言えば、悪い。私、魔女殿、断神さん。さらにここに剣聖と女帝もやってくる。大きな力は、大きなトラブルを引き寄せます。覚悟の無い娘が居れば、幸せにはなりにくいでしょうね」

「う、ぐぐぐぐ……返す言葉も無い」

 

 行き場の無い連中の受け皿になれたら、等と思っていたのが間違いだったのか。やれることをやり続けたつもりだったが、気がつけばとんでもない会社に……。

 

「勘違いしないでいただきたいのは、我々は大変ありがたく思っていると言うことです。社長の作られたこの会社に救われた者は多く居るでしょう。私もあかりも、同じように思っています。ですがそれは、この環境でやっていくという覚悟があるからです。翻って、新人達はどうでしょうか? この会社にいる以上、世界の秘密に触れる機会は必ず訪れます。であればそれは、早いほうがいいのです」

「なる、ほど、な……」

 

 覚悟が足りていなかったのは俺のほうだったか。あと認識も。普通の会社じゃないのだから、相応の社員教育をしなければならなかったと。

 

「まあ、この方法が非常識でまともで無いことは認めます。なので責任持って、新人の安全は守らせていただきます」

「……よろしく、お願いします」

「お任せください」

 

 若干疲労を覚えて、皆のところに戻る。不安そうな由佳さんの周りには、新人達が集まっていた。ふむ、仲がいいんだな。

 

「えー、フジくん……藤ヶ谷さんから離れない、彼の言うことを守れるのなら、特別に同行を許可しますがどうしますか?」

「行きます! よろしくおねがいします!」

 

 彼女が勢いよく頭を下げる。家族を心配する心というのは、覚悟に似ている気がする。そんな風に思っていると、匠君が声を掛けてきた。

 

「あの、社長。すみません。自分もついて行っていいでしょうか?」

「……藤ヶ谷さん?」

「ええ。四人全員でも大丈夫ですよ」

「と、いう話なので、同じルールを守れるなら」

「よっし!」

 

 と、喜んだのは京介君。仲間を心配したのか、現場を見たいのか。彼の場合、両方かな?

 

「やった! 生で迎ハンターが見られる! ラッキー!」

 

 ……で、空気読まずにはしゃいでいる娘が一人。和美さんである。そして、なんか聞き覚えのある名字が出てきたな?

 

「むかい?」

「社長、知らないんですか!? アサナギの迎ハンター! テレビにも何度か出たし、雑誌にも載ってるんですよ! ほらほら、これこれ」

 

 そういって彼女がスマホで見せてくれる。うーん、見たことのあるチャラい顔だ。なんか堂々と、どこに居るかSNSで上げている。今から行くダンジョンじゃないか。もちろんモンスターの話は出していないけど……いいのかこれ。

 ともあれ、釘は刺しておこう。

 

「見るのはいいけど、近づいちゃだめだよ? あちら、お仕事中だろうし」

「えー、そんなー」

「フジくん。よろしく」

「はい、お任せください。最悪魔法で動けなくします」

「え……じょ、冗談ですよ、ね?」

 

 一樹さんが、無言で笑顔を作っている。無敵のギャルっ娘も、この圧には感じるところがあったようだ。頬をひくつかせながら大人しくなった。

 

「よし、それじゃあ君たちも準備して。現場へ急ぐよ」

 

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 ワンボックスカーに揺られて西に進むことしばし。いつのまにか、周囲には一面の茶畑が広がっていた。茶の木が瑞々しい緑色を輝かせているのは、なんとも目に優しい。

 

「……たしか、そろそろ新茶のシーズンなんだっけ?」

「らしいですよ。太田さんがそーいってました。近々親戚の手伝いに行くとか」

 

 同乗している小百合が、後部座席からそう教えてくれる。運転しているのは勝則。俺は助手席。他に乗っているのは、宏明と歩、流。つまり初期メンバーである。おっと、猫さんも俺の膝の上に居る。もちろん、猫の姿でだ。

 

「じゃあ、今回の騒動はかなり……いや、致命的に大迷惑ってわけか」

「お茶の刈り時ってめっちゃシビアって話っスよ? だからまあ、本気で死活問題なんじゃないかなあ」

「酷い話だ。出来るなら、なるべく早く解決したいが」

 

 流が続いて、歩が唸る。俺たちも生産業に近い業種だ。採れない、出荷できないがどれほど辛いかは一般の人より分かると言えるだろう。

 

「社長、これは蛮族の楽園(サベージ・パラダイス)に関わる問題なのですね?」

「道明さんはそう断定してた。人型のモンスターらしい……この間のドラゴンが、手下で連れてきたアレなんじゃないかな、と俺は思っているんだが」

 

 勝則にそう答える。あの鬼っぽい怪物の戦闘力を、俺たちはよく知らない。何せあのときは一樹さんの魔法で全滅してしまったから。見かけ倒し……ということは、無いだろう。あのドラゴンが兵隊として送り込んできたモンスターなのだから。

 

「ってことは、最悪一樹さんがブッパすればクリアーなわけだ」

「割といつものことと言えばそれまでだが。しかしな、ヒロっち。今回はよそ様がいる現場だ。あんまり我が社のジョーカーを表にさらしたくない」

「あー、そーっすねー。あの人のスーパーな部分が表に出すぎると、変な奴が騒ぎそうっすねー……ってことは、秘書さんもか」

「そういうことだ。猫さんに出陣していただいた理由でもある」

 

 俺の膝の上でにゃあと鳴く黒い獣を見下ろしつつ、そう答える。政府の重要人物にはマリアンヌさんのことは周知されている(と、思われる)。しかし末端はそうでないだろう。変な連中が嗅ぎつけて面倒ごとになるのは御免である。……今思えばパーティの時のアレはちょっとやり過ぎだったかな? 後悔先に立たず。

 

「言っても、俺たちが普段相手にしているハウルボアだって結構な怪物だ。油断しなければ、最悪倒せなくても撤退ぐらいはできるはず。にっちもさっちもいかなくなったらジョーカー二人に頼むけど、それまでは根性見せるぞ。……じゃないと訓練がきつくなりそうだからな!」

 

 車内に苦いものが混じった笑いが響く。みんな心は一つだ。特訓はマジ勘弁。そんな話をしていると、警察の規制線が見えてきた。多くの車がUターンしている。俺は一度降りて、道明さんに電話を掛ける。ここの手順はすでに打ち合わせ済みだ。

 歩いて警察官の所へ行き、ダンジョン免許証を見せる。後は警察の人が本部と連絡を取り合って、俺たちの通行が許可される。話が通ってなかったらどうなるかと思ったが、大丈夫だったようだ。再度車に乗り込んで、規制線を越える。

 今回はダンジョンブレイクではない。なのであのなんとも言えぬ非日常的空気感は薄い。しかし全くないとも言えない。規制線から、非常事態に踏み込んだという実感が沸いてきた。

 現場もやはり、周囲のほとんどが茶畑だった。道路が通っているため、まばらに建物がある。俺たちは警察官の誘導で、近くの銀行の駐車場へと入った。ここを車両置き場としているのだろう。流石にこんな事態じゃ店は閉めざるを得ないだろうし。

 

「俺は挨拶に行ってくる。皆は準備しておいてくれ」

 

 そう言いながら車を降りると、当たり前のように左右を御影兄妹が固めてくれた。うん、これでよっぽどのことが無い限り安心だ。

 ダンジョン前の駐車場までは、歩いて五分ほどだった。アサナギインダストリーの看板もある。そのまま近くに行くと、道明さんが手を振っているのが見えた。

 

「社長、こっちです! ……改めて、すみませんでした。いきなりお呼びしてしまって」

「いやいや、近場でしたし。これも地域貢献ってやつですよ」

「そいつは立派な心がけだなあ、ゴリラ社長」

 

 軽薄な……そして機嫌の悪そうな声が聞こえてきたと思ったら、やってきたのはパーティで見たあのチンピラだった。確か、(むかい)とか言ったか。

 

「この間はどうも、アサナギのハンターさん。大変らしいですね、ここ」

「あっれえ? 誰が言ったのそんなこと。ちょっと珍しいモンスターが出たらしいけど、うちのハンターなら余裕だから」

「ああ、それなら安心ですね」

 

 心を落ち着けて、相手の挑発には乗らず、のらりくらり。パーティの時と違って、今回は落ち着いて対処できる。流石にマリアンヌさんについていじられると辛いけど、それ以外だったらなんとかなる。悲しいかな、馬鹿にされた経験は沢山ある。

 

「それで、肝心要の藤ヶ谷一樹は? まさか連れてきていないなんて言わないよね?」

「来ていますが……知り合いで?」

「顔見知り程度だけどね。ともかく、彼が来ないと話になんないでしょ。早く連れてきてよ」

「いえ、打ち合わせは自分が担当しますので」

 

 そう答えると、迎はこれ見よがしに大きくため息を吐いた。

 

「あー、はいはい。そういうのいいから。張りぼてゴリラは引っ込んでてよ」

「……先ほどから、ずいぶん失礼な物言いですね」

「勝則、いいから」

 

 前に出そうになった彼を腕で押さえる。こんな奴、喧嘩する価値も無い。変にからんで問題にされる方がよっぽどよろしくない。

 

「迎ハンター。ミナカタさんは私がお呼びした協力者。これ以上失礼な発言を続けるようでしたら、アサナギの本社にクレームを入れることになりますが?」

 

 ここで、道明さんが動いた。事と次第によっては刀を抜くと言わんばかりだ。しかしそんな彼の態度を見ても、迎の言い様は変わらない。

 

「はぁ? 剣聖さん、分かってないの? こいつらのボスは、どう考えたって藤ヶ谷でしょ。何で田舎の無名連中が、竜宮や稲村と契約できたと思ってんの」

 

 この発言を聞いて勝則達はいきり立ち、俺は思いっきりため息を吐いた。

 

「サッチー。ちょっとフジくん呼んできて」

「……いいんですか?」

「良くないけど、誤解を解く時間が惜しい。それよりも現場が大事だ」

 

 渋々、という感じで小百合が小走りに離れていく。それを見送って、迎が鼻で笑う。

 

「はっ。最初っからそうしてれば面倒無かったんだよ。全く、おたくらがどんな看板掲げるか知ったこっちゃないけどさ、こっちを巻き込まないでほしいわけ」

 

 もう一度、大きくため息をついてから道明さんに向き直る。

 

「それで、あれから何か変わったことありますか。敵についての情報は?」

「……いえ、多くは。今朝、地下三階をドローンで調査していたところ件の怪物が画像に写りまして。武装した、大男という感じですが明らかに人ではない」

「それって見られます?」

「もちろんです、こちらへ……」

「おいおいおい。だからさあ、邪魔しないでっていってるでしょ張りぼてゴリラさんよお。そういうアリバイ作りのごっこ遊びは余所でやってよ」

 

 また迎がぐだぐだ言ってきやがった。無視してもいいが、コイツはこれでもハンターだ。暴れられても面倒。ここは一樹さんが来るまで我慢するしかないか……?

 

「なんの騒ぎかと思ったら、おそろいでしたか。おはようございます、入川社長」

「え……え? 竜宮代表!? 何故こちらに! あ、おはようございます」

 

 挨拶されて振り返ってみれば、そちらにいらしたのは取引企業のトップ。竜宮グループの竜宮(たつみや)結衣(ゆい)さんだった。その後ろにはボディガードであろう体格の良い三十代半ばの男性もいる。

 目を疑った。二度見した。ここは彼女のようなVIPがいていい場所じゃない。モンスターが地上に飛び出てくるかもしれない状況なのだから。周囲を見るが、彼女をいさめるような人は見当たらない。ええい、会社の人は何をやっているんだ。止めてくれよ!

 

「きょ、今日はどのようなご用件で」

「それはもちろん、ここに発生した特別なモンスターを確認しに。皆さんの邪魔にはならないように、後ろの控えております。ええ、わきまえていますわ」

 

 わきまえているなら、自分から来ないでほしい……と言う本音はもちろん口に出せない。ボディガードの人に視線を向けても、我関せずと表情すら動かさない。どうしろというのだ。いや、ここは俺ではなくこの場の責任者に話を振らなくては。

 

「迎ハンター、この件に関しては?」

「……聞いてる。こっちは何もしない。代わりに竜宮さんも邪魔をしない。それで通ってる」

 

 心底嫌そうに、そう返してきた。よほど彼女たちがこの場にいることが承服できないらしい。このチンピラがこの態度……話を飲んだのは、上か。

 通すなよアサナギ! 何考えてるんだよ! と、心の中で絶叫する。俺も出来れば放置したい。でも、大事な取引先のトップだ。放置なんて出来るわけが無い。

 

「えー、竜宮代表。よろしければうちのチームと同道されますか? そちらも十分準備をされていると思われますが、今日の現場は何があるか分からない。人は多い方がいいかと」

「まあ、ありがとうございます。あまり多く人を連れてくるとご迷惑かと思いまして、最低限で来ておりましたの。心強いですわ。ねえ、虎井(とらい)さん?」

「代表のおっしゃる通りかと。入川社長、お世話になります」

 

 虎井という、ボディガードの人が頭を下げると後ろの人たちもそれにならう。代表を含めて五名か。……前も思ったんだけど竜宮さん家の人、厳つい人多いな。

 さて、これどうしよう。現場がどうなるか聞かないと予定が立てられない。うーむ、何で無駄な遅延……と悩んでいたら、待ち望んだジョーカーがやってきた。……ものすごく不穏なマナを垂れ流して。マナだよな、これ。見えたりはしないが、鳥肌が立つような不穏で恐ろしい何かが彼からあふれ出ている。え、もしかして、キレてる?

 

「お呼びという話でしたので、参上しました。それで、勘違いされているのは……貴方ですね?」

「ひっ!?」

 

 あ。不穏なマナが迎に向かって一気に雪崩れ込んだ。うーん、これはきつい。なんて言うのかな……ドブ川の水を直接飲まされているような気分になるだろうな、あれ。

 

「我らがミナカタ社のトップは入川社長です。何をどう勘違いしたか分かりませんが、それをしっかり認識していただきたい。よろしいですか?」

「う、げ、あ」

 

 身体を震わせ、酸素の足りていない魚のように口を開け閉めしている。そんな彼に、いよいよ眼光鋭く一樹さんが詰め寄る。

 

「いいかって聞いてんだよこの三下。テメエのせいで迷惑してんだ。責任取れるのかクソが」

「フジ……一樹さん! その辺で! っていうかそれ以上やったらゲロ吐くぞ!」

 

 顔が真っ青になってるものね。あのマナ食らって無事でいられる人間、この場にいるか? 無理じゃね? 軽く見回したが、大体皆引いてるもの。

 

「ああ、これは失礼しました。……で?」

「わかった、わかったよ、クソ……」

「わかった? クソ?」

「分かりました! 申し訳ありませんでした!」

 

 やけくそのように叫ぶ迎。不穏なマナから解放されて、やっと息を出来ると

 

「結構。……社長。分からせました。いえ失敬、訂正します。誤解を解きました」

 

 うん。分からせたね……さもありなん。周囲に居る警察とかアサナギのハンターとかドン引きだけど。まあ、いいか。ダンジョンの問題解決が第一だ。

 

「それじゃあ、これからどうするかという話をしましょうか」

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