【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第108話 四本腕の戦士

 それは、異形だった。造形としてはトロールに酷似している。違うところが三つあるが。まず一つは背の高さ。二メートル半はある。ヒョロ長い、等と言うことはなく全体的にサイズアップしている。大木のような手足。太鼓のような腹。厳つい顔。

 二つ目と三つ目は一度に出すべきだ。まず、腕が追加で二本ある。肩から、通常のそれと同じ太さの腕がにょっきりと伸びている。ただあるだけじゃない。左右それぞれに武器を握っている。

 その武器が問題だ。普通の両腕には、一本ずつ剣が握られている。その体格に見合った、大剣だ。普通にグレートソードと言えるサイズ。その腕なら、軽々と振ってくるであろうと用意に想像できる。

 では肩の方はどうなのかといえば、こちらはメイスだ。こちらも普通の人間なら、両腕でも振るのに苦労するであろうサイズと柄の長さ。しかしこの背丈ならば丁度良く、威力も相応だろう。

 怪物、化け物、そんな言葉が自然に浮かぶ。そいつは、ゆっくりと口を開いた。

 

「面白い」

 

 地球のどこにも属さぬ言葉だった。しかし理解できる。おそらく相手側が翻訳系のマジックアイテムを持っている。これだけでも、特別さがよく分かる。

 

「こちら側には、まともに戦える戦士などおらぬと聞いていたのだが。いるではないか、我ら種族の命を脅かせるほどの者どもが」

 

 地の底から響くような低い声。迫力と異様に飲まれて、誰もが口をきけないでいる。特にアサナギのハンター達はショックが大きいようだ。今、彼らの中でモンスターの定義が大きく揺らいでいるだろう。

 俺だって、恐怖はある。目の前のトロールは暴力の化身だ。どの武器で殴られても、大けがか致命傷を負うに違いない。何だったら蹴り飛ばされても同じ結果になるだろう。

 しかし、俺はドラゴンを知っている。マリアンヌさんと一樹さんを知っている。それに比べたら(比べるのは失礼かもしれないけど)まだましだ。

 

「巨大な戦士よ、よろしいか!」

 

 声を張り上げる。この場の全ての視線が、俺に集まる。当然、四本腕のトロールからも。身体の芯から震えが来るが、腹を引き締めて耐える。

 

「……何者だ、貴様」

「ミナカタ……という組織をまとめている、入川春夫と言う! 戦士よ、名前を伺ってもよろしいか!」

 

 喋るトロールが、大きく目を見開いた。……え、何? 名前聞くの、なんか文化的タブーだったりするの? すみません、そちらのエチケット分からないんですけど。

 冷や汗を鎧の下でかいていると、再び低い声が響く。

 

「何故、俺の名を聞く。敵同士であろうが」

「敵同士であっても、名前を聞いてはならぬという法は我が国にはない。せっかく言葉が通じるのだから、聞いて損はない。そちら、見事な筋肉に背丈。おまけに他者より多い腕! 並々ならぬ戦士とお見受けした!」

 

 ……相手、再び無言。え、だめ? やっぱ腕についてはセンシティブだった? やだってさあ、めっちゃ鍛えてあるじゃんその肩の二本。あのメイスでぶん殴られたら大抵死ぬじゃん。触れられたら嫌、とか言うのならそれとなく隠してほしいなあ。無理か。

 

「クワット。ただのクワットだ。この部隊をまとめている」

 

 あ、よかった答えてくれたぞ。セーフ。……情報、引き出せるか? いや、流石にそれは虫が良すぎるか。戦士として戦いに来た相手を質問攻めは、ちょっとマナー違反だ。

 

「戦士クワット! 我らと戦うか!」

 

 声を張り上げれば、クワットは獰猛に笑った。

 

「それはこちらの台詞よ、イリカワハルオ。この俺に勝てると思っているのか」

「勝てる勝てないでは無い! 戦わなければ生き残れないなら、武器を握るのみ!」

「然り! まったくもって然り! ……しかし、残念ながらそうも行かぬ」

「なんと?」

「貴様らのような輩が現れたら、我らは戻れと命じられている。故に存分に戦う、と言うわけには行かぬのだ。口惜しい」

 

 などと言いながら、クワットは一歩大きく踏み出してくる。逆に、ほかのトロール達は彼の後ろに下がっていく。これは……つまり……。

 

殿(しんがり)か、戦士クワット!」

「いかにも! 最も強い者が最後を守る。戦士の華である」

 

 そう言いながら、武器を構えてくる。そして、凄まじい勢い出膨れ上がる()()()()。……この体格の戦士が、プラーナ使いか。こりゃあ、ドラゴンの次にやばいな。

 唯一の救いは、彼が殿であるということ。つまり、クワットの目的は仲間を引かせる……おそらく元の世界に戻すこと。そして自分自身も帰ることだ。俺たちを全滅させることが目的では無い。結果的にそうなる可能性はあるけどな。

 

「行くぞ、イリカワハルオ! たやすく倒れてくれるなよ?」

「総員、構え! アビリティ、魔法、全解放! ぶっ放せ!」

 

 駆け引きもクソもない。全力で当たらねば、押し負ける。

 

断神(リーパー)ァ!」

 

 まず、里奈さんが斬りかかった。全力、一切の手加減無し。ただただ断つという現象を込めたグレートソードの振り下ろし。それに対してクワットは。

 

挑戦者(チャレンジャー)!」

 

 ()()()()()()使()()()()()()()()()()。単純な腕力でもプラーナでもない、不思議と不思議のぶつかり合い。それは完全に、直感でしか理解し得ぬものだった。里奈さんの断つ、という意思が強くなればなるほど、クワットの出力が上がっていく。

 数秒の、どちらが勝つか分からぬせめぎ合い。結果は、引き分け。両者、大きく後退して間合いを取る。ハンター達が、金縛りを解かれたようにざわめく。

 

「うそ、だろ……断神の剣をはじいた!?」

「そんな、そんな馬鹿な事が……」

 

 絶対的信頼を寄せていた、英雄の一撃が通らない。ショックはあまりにも大きい。そんな中、一人大きく声を張り上げる男がいた。

 

「ぬう、あれは!」

「うわあ、なんすか陛下!?」

「奴のアビリティ、断神殿の威力が上がれば上がるほど、威力を増していた……あれは、格上殺しの力を秘めておる!」

「まじっすか!?」

「フハハハハハハハハ!」

 

 突如、クワットが笑い出す。何事かと驚く俺たちに向けて、トロールは楽しげに語り出す。

 

「俺のこの力を、一度で見破る者がいるとはな! そちらの戦士といい、貴様の配下は粒ぞろいだな、イリカワハルオ!」

「あー、はい、どうも」

 

 陛下は俺の部下じゃ無い、と言い出すとややこしくなりそうなので黙っていよう。

 

「いかにも! 我が力は、相手が強ければ強いほど能力を増す! さあ、どんどんかかってくるがいい! 全て正面から打ち破ってくれるわ!」

「ほんなら、俺がいかしてもらおうか」

 

 縦縞ユニフォームの上着を着た男が悠々と前に歩き出す。竜宮代表の護衛、たしか虎井さん。……いや、護衛は!? 後ろを振り返ると、代表はしっかり下がっていてくれた。軽く手を振ってくれているから、状況は理解してくれているらしい。なら、まあ、ありがたく。

 

「フッハッ!」

「っしゃぁ!」

 

 クワットと虎井さんは、真っ向勝負を繰り広げ始めた。トロールの左右の大剣が空気を裂いて襲いかかる。それは恐るべき暴力だ。当たれば縦だろうと横だろうと人間など真っ二つ。ただそれが振り回されていると言うだけで怖気が走る。

 しかし虎井さんは引かない。剣の一本一本を丁寧にバットで打ち崩す。軌道をそらされた刃は彼の身体にかすりもしない。さながら、ボール玉を捌くバッターのよう。何という集中力とコントロール力だろうか。

 もちろん、俺たちのアビリティによる援護が入っているというのもあるだろう。しかし、あの暴力の嵐に立ち向かう勇気と根性は、間違いなく虎井さん自身のものだ。これが関西最強。

 ただ、懸念がある。クワットは今、剣を持った腕しか使っていない。肩の両腕は、メイスを構えたまま動いていないのだ。隙を狙っている、なんてのはもう当たり前の話。問題は、その機会が訪れたときに彼が捌ききれるかということ。

 俺はアビリティを維持しつつ、全力でプラーナを経脈に巡らせ続けた。

 

「オオオオオオッ!」

「しゃらくせぇぇ!」

 

 ひときわ高い快音。足をなぎ払おうとする剣を、ギリギリのスイングで打ちそらす。虎井さんのバランスが崩れた。そこに、倒れ込むような勢いでクワットのメイスが二本、叩き込まれる。プラーナが炎のように吹き上がる。あれは、まずい。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 俺は、自分自身を砲弾にした。盾を構えて、軽身功(けいしんこう)堅身功(こうしんこう)を並列使用。僅かでもバランスを崩させようと、足を狙って一直線。その愚直な突撃を、クワットは見逃さなかった。

 

「シャァッ!」

 

 剣を振れる体勢じゃなかった。それを筋力で無理矢理成立させてきた。横薙ぎの刃が俺に迫る。避けようが無かった。

 

剣聖(ソードマスター)!」

 

 しかし、この場には日本最速の侍が居た。瞬く間に距離を詰め、目にも止まらぬ早業で俺に迫る剣に一撃を加える。俺の目と鼻の先を巨大な刃がかすめた。守ってもらえた。次は俺の番だ。

 

「おらぁ!」

 

 大木のような足に正面衝突。巨体が大きく揺らぐ。攻撃を仕掛けた最中に加え、俺への無理な迎撃。手練れの戦士であろうクワットと言えども、これは堪えきれなかった。大きくバランスを崩し、結果的に虎井さんへの攻撃が外れる。メイスが轟音を立てて床に叩き付けられた。

 

「今だ! 総員攻撃! 入川社長へ続け!」

 

 号令をかけたのは暗黒皇帝陛下。アサナギとミナカタ、全員があらん限りの攻撃を集中させる。魔法、プラーナ、投擲、アビリティ。それが豪雨にように、クワットへと迫る。

 

挑戦者(チャレンジャー)!」

 

 しかしここで、再度彼はアビリティを発動させた。攻撃の雨を超える力を持って、真っ正面からはじき返したのだ。彼の力と、俺たちの攻撃。ぶつかり合い、爆発となったそれが全員を襲う。

 

「あああああああっ!」

 

 重い鎧を着ていても意味が無かった。風に飛ばされる空き缶のように、地面を転がることしかできない。ぶつかり、跳ねて、また落ちる。頭を、腕を、足を痛みが襲う。できることは、堅身功を維持することくらいだった。

 なんとか止まっても、すぐに起き上がることができない。目が回っている。吐き気もする。痛みもある。だけど、泣き言など言っていられない。

 

「立て……」

 

 大君を再度発動させる。疲労と苦痛に苛まれる身体で使うのは、意識が飛びそうになる。

 

「立て……!」

 

 それでも使う。声を出す。相手は人を超えた怪物だ。倒れていたら、それこそ殺される。

 

「立てえぇぇぇ! 立って戦えぇぇぇ!」

 

 言いながら、声の勢いで自分も立ち上がる。足が震えている。武器も盾もどこかへ行ってしまった。だけどそれでも、胸を張って前を睨む。そうしなければならないから。

 かすむ瞳では、全体を上手く把握できない。それでも、倒れていた何人かが再び立ち上がるのが見える。よし、ならば後は時間を稼ぐだけ……。

 

「フハハハハハハハハ!」

 

 階層に響く、クワットの大笑い。こっちはフラフラなので、この大声も結構身体に堪える。

 

「イリカワハルオ。お前の群れに勝ち切るのは、どうやら容易ではないようだ。貴様の首を取って持ち帰るつもりだったが、諦めねばならぬらしい」

 

 とんでもなく物騒なことを仰る。蛮族らしいと言えば、それまでだが。

 

「暗闇の母が望めば、再びまみえることもあろう。その時まで壮健であれよ。次こそその首、もらい受けるからな。フハハハハハ!」

 

 そう笑いながら、クワットは大きな足音を立てて去って行った。俺たちにそれを追う元気はなかった。ぶっちゃけ、立っているので精一杯。元気なのは一人も……あ、いた。

 猫さんが、クワットが歩去った方へ走っていく。マリアンヌさんのことだ、上手く隠れて情報収集することだろう。助かる。

 さて……本音を言えば、今すぐ座り込んで休みたい。しかしここはダンジョンなので、そうも言っていられない。俺は社長なので、号令を掛けねばならぬ。

 

「一樹さーん。全体確認おねがーい。怪我人とかいたら、治療を」

「はい。お任せください。……新人達に手伝わせますが、よろしいですか?」

「よろしく」

 

 激戦を間近で見て、真っ青な顔をしている。塩村さんはもう白に近い。だからこそ、身体を動かした方がいいだろう。本当は休ませてあげたいけどね。

 

「かっつん、サッチー、動けるか」

「はい、社長。問題ありません」

「デタラメでしたねー、あれ。プラーナとアビリティ使う怪物とか、反則では?」

 

 服に汚れはあるし疲労もしているようだが、怪我はないようだ。顔色もそれほど悪くない。

 

「疲れているところ悪いが、倒したトロールを地上にもって行きたい。今はまだ気配がないが、いつモンスターが寄ってくるかも分からん。なるべく早く動きたい」

「そう、ですね。現状でハウルボアに襲われたら苦戦するでしょう」

「アサナギさんも、割と限界のようですしね」

 

 誰も彼も、座り込んでいる。震えている者もいる。激戦だったからな。死人が出ていないのが奇跡のようだ。さて……トロールだが、どう運んだものか。背負える大きさじゃない。手で持つのも現実的じゃない。

 重量軽減の魔法をかけて貰って、ロープで縛って四人くらいで分担すれば行けるか……?

 

「おい……おい!」

 

 悩んでいたら、迎が突っかかってきやがった。疲れているし、腹も立っている。いよいよ持って俺の方も、大人の対応を取れなくなってきている。

 

「なんですか。すんませんが忙しいんで後に……」

「うるせえ! 何なんだあれは! お前ら何を知っている!」

「何のことやら。いやあ、あれはびっくりでしたねえ」

「しらばっくれんな! あんな化け物と、ふつーに喋ってたろうが! 何を知っている! それとも何か!? おまえらアレとグルか?」

「は? 殺されかけたんだが? 今度会ったら首取るとか言われたんだが? 聞いてなかったの?」

「うるせえ! いいからさっさと話せ! それとも、痛い目みたいか、ああ!?」

 

 迎の手に、マナの輝きが生まれる。勝則達が構えるが、それを手で制する。たかが魔法使い程度で、こいつらの手を煩わせる必要も無い。

 マリアンヌさんの魔剣を、盾の姿で呼び出す。そのまま、迎に向かって歩き出す。一歩、二歩、三歩。相手も先ほどの戦闘と疲労でまともな判断ができないらしい。あっさりと引き金を引いた。

 

「死ねよ! ……は?」

 

 魔女マリアンヌの力をもってすれば、チンピラ魔法使いなど赤子のごとし。魔法の弾丸は、盾に触れてあっさり消えた。片手半剣(バスタードソード)の姿に変えて、真っ正面からぶった切る。当然、怪我など追わせない。ただし、身体に溜め込んだマナは霧散する。

 

「ひぃ、止めろ……お? あ? マ、マナが消えた……は?」

「仕事の邪魔しないでくださいねー。三郎くん、動けるー?」

 

 混乱する迎を余所に、頼れる部下に声を掛ける。

 

「おおっと、わりい社長。ぼんやりしてたぜ。……そいつをぶっ飛ばせばいいんだな?」

「違うよ。力自慢あと二人捜してきてくれ。とりあえず一体、上に持ってくから」

「まあ、いいけど……それはどうすんだよ?」

「魔法が使えないんじゃただのチンピラだ。問題ないよ」

「ああ!? 田舎のカンパニーごときが、俺に向かって……ぐぅ!?」

 

 片腕で、胸ぐら掴んで釣り上げる。疲れててもこれぐらいはどうってことは無い。

 

「黙れよ、三下。はっきり言ってやる。お前に教えてやることなんて何もない」

「ふざける、な! 俺を誰だと……」

「ただのハンター。会社や部下を背負っているわけじゃ無い。責任者じゃ、ない。そんな奴に何で重要な情報を渡さなきゃならんのだ」

 

 投げ捨てる。そして胸板を踏みつける。

 

「ぐ、げぇ」

「いいか、三下。何か知りたいんだったら、上を連れてこい。責任を取れる奴だ。お前じゃ話にならん。分かったか?」

「クソ、がぁ! ぶっ殺……」

「大変申し訳ない。そこまででご勘弁願えないだろうか」

 

 そう声を掛けてきたのは、黒いもやを纏った人物。暗黒皇帝陛下だった。

 

「お怒り、全くもってごもっとも。どうかお許し願いたい。それについては、こちらで責任を持って対応させていただく」

「てめえ、クソオタク。何を偉そうに……ギャァ!?」

 

 小さな電光が、陛下の指先より放たれた。事もあろうにそれは、迎の股間に叩き込まれた。わお、容赦が無い。思わず俺も足を外したほどだ。

 

「これ以上迷惑を掛けるな。……今回のことは、我が社のハンター部門の長に伝える。お礼と謝罪、そしてその他については、改めてと言うことで」

「はい。それで結構です。よろしくおねがいします」

 

 陛下はその姿と裏腹に、大変話せるお方だった。彼の取り巻き……いや、友人と呼ぶべきか。それらが迎を引きずっていく。ついでに罵声も浴びせている。とりあえず、これで良しとしよう。

 

「どうも、皇帝陛下」

「……我がライバル。息災であったか」

「ええ。今は後進育成を頑張っておりまして」

「ほう」

 

 一樹さんと陛下が旧交を温めている。アサナギにも、話が通じる人が居るのは助かる。……元地王カンパニーのハンターも行っているはずだし、なんとか繋がりができないものか。

 

「社長さん♪」

 

 そんなことを考えていたら、背後から大変ご機嫌な声が掛けられた。振り返ってみれば、そこには竜宮代表がいらっしゃった。

 

「うおう!? ……な、なんでしょう」

「私は間違いなく責任者なんですけど……教えていただけます?」

 

 あっ……ど、どうしよう。教えていいのか。教えるにしても、どこまで話していいのか。困った。判断ができないぞ。えーと、えーっと……。

 

「この場では返答しかねるので、後日改めてでよろしいでしょうか……?」

「あらまあ、玉虫色の返答ですこと。まあ、今日はお疲れでしょうし否定されなかっただけで良しと致しますわ」

「あ、はい。申し訳ありませ……」

「ところで、うちの虎井さんは役に立ちましたか?」

 

 アー! 借り! 借りができている! これはいけない! とてもよろしくない!

 

「はい……大変助かりました。このお礼は、必ず」

「まあ。楽しみにさせていただきますわ。それでは、お忙しいところを邪魔してはいけませんから、失礼しますね」

 

 そう言って、代表は笑顔で去って行った。……頭が痛い。問題が積み重なってしまったぞ。

 

「社長、連れてきたぜ」

「ああ、うん。……運ぼうか」

 

 とりあえず、目の前の仕事を片付けよう。そうしないと休むこともできやしない。

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