【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず 作:鋼我77
「イィィィヤッ!」
盾の壁を抜けてきたスペクターへ、勇猛果敢に飛びかかる者あり。なんと竜宮代表である。武器を持っていないのでもしやと思っていたが、やはり素手格闘タイプ! マナで身体能力を上げるタイプだったか。うちの
代表の跳び蹴りがスペクターの胸に突き刺さる。一体どんな魔法の作用によるものか。たった一撃で相手は爆発四散した。
「お嬢、一匹こっちへ!」
そう叫ぶのは、肩に黒白の縞模様ユニフォームを引っかけた関西最強の男。
「はいっ!」
「おっしゃあ、
代表が背を蹴り飛ばし、一匹のスペクターが虎井さんの前へ。金属バットが唸りを上げて、黒い人形を打ち返す。快音と共にまっすぐ横へと飛んだ敵は、群れの中で爆発を起こした。当然、巻き込まれた仲間達も大ダメージ。消滅した者も少なくない。
「ぶはははは! 絶好調! スリーベースヒットや!」
なお、かの球団は現在首位にいる。ただしライバルも同率で一位だったりするんだが、まあどうでもよい。大事なのは、虎井さんがフルパワーであるという事実だけだ。
スペクターの反撃により、シールド部隊のあちこちに穴が開く。しかし里奈さんや道明さん、ほかの者の活躍によりなんとか完全崩壊は免れている。
「大丈夫ですか、社長」
マリアンヌさんに介抱され、呼吸を整える。プラーナ量に問題なし。身体の痛みも許容範囲。まだまだ行ける。
「問題なし、です。誰か、盾をくれ!」
「社長、どうぞ!」
新人の
「ふんっ!」
特に竜宮代表。動きが早く、そしてパワフルだ。およそお嬢様らしからぬ拳撃、手刀、蹴撃。時には回し蹴りなどのアクロバティックな動きもやっている。一発一発、確実にスペクターに大ダメージを与えているのまた凄い。
虎井さんは……うん。まるでバッティングセンターのように、相手を打ちまくっている。そのたびに数体を巻き込んで吹き飛ばすものだから、スコアがすごい。これでアビリティだけってちょっと反則では無かろうか。
もちろん、我が社のハンター達も負けてない。シールド部隊は前線で踏ん張っている。倒されて開いた穴は予備人員が塞いでいる。近接部隊が数を減らし、魔法部隊がサポートで後方を押さえてくれている。
階層を埋め尽くしていそうな数を相手に、善戦していると言っていいだろう。しかし、流石にこれは。
「道明さん! 流石にこれちょっと厳しくない!?」
「そうですね! そろそろ撤退しましょう! 成果は出てます!」
スペクターの一体を再び押さえながら叫べば、彼も刃を振り下ろしながら答えてくる。
「で、あれば再び私に任せて貰おう!」
「陛下!」
覇気あふれる声と、身体を纏う暗闇。暗黒皇帝陛下、復活である。威風堂々と最前線に近づくと、前方に向かって闇を噴射し始めた。
「濃霧の呪文には感銘を受けた。いかなる技も使い方次第。つまり我が闇も己の意思次第で自由自在! さあ広がれ、ナイトフォッグ!」
黒々とした霧、というより噴煙のようなそれがスペクター達を覆っていく。身動きが取れず、戦闘が停止される。それは俺たちも同じで、この状況ではもう近接戦闘は無理だった。
「陛下ありがとうございます! それじゃあ全力の大技を連打して、数を減らしてとんずらだ。余力ある人!」
俺が促すために手を上げると、大体この辺りという感じの連中が手を上げる。素早く順番を決めて、準備する。その間にシールドと近接の部隊は階段を上がらせた。もう十分働いてくれたしな。
「よーし、それではぶわーっと、行ってみよう! かっつん! サッチー!」
「それでは、これの試運転と参ります!」
勝則が取り出したのは、一つの杖。まるで魔法使いが持っているようなものだが、実際その通り。以前手に入れたスペクターのコアと、ファングツリーの芯を材料にして作られた秘密兵器。しかもこれ、制作者がなんとマリアンヌさんなのである。
彼女が気合いを入れたと太鼓判を押したその性能やいかに。
「吹き荒べ乱風!」
杖の先端にはめ込まれた結晶が輝き、そこを中心に強風が渦巻き始める。
「煌めけ轟雷!」
小百合の手より放たれた稲妻が、コアに吸収される。嵐に稲妻が混ざり、そこに小さな災害が生まれる。
「「
二人の号砲と共に放たれたそれは、まさしく名前の通り。大気のうねりと膨大な電気に、スペクター達はなすすべ無し。かつてはただ己らの属性のまま、マナをぶっ放すだけの技だったという。知識と技術を得て、それを研鑽した今は違う。
より精密に、より凶悪に。全てをなぎ払う大嵐としてそれは完成した。あまりの威力に仲間達も口を開けて驚く始末である。いや、本当に凄い。ドラゴンの時よりもっと凄くなってる。少なくとも皇帝陛下が止めていた連中は綺麗さっぱり消滅している。
よっしゃ、これで解決万事めでたし! と叫べないのが今回の仕事の面倒なところ。通路の奥から、次の団体さんがわんさかやってくるのが見えている。
「次ー! ヒロっち!」
「すんません社長。上手くいかないんでやっぱパスで」
申し訳なさそうに宏明がそう言い出す。おまえ、こんな、ギリギリになって……という文句を言いたくなったが時間が無い。順番繰り上げで、次の人に頼む。
「で、なんで!?」
「なんつーか……あいつらに精神がないっぽい……いや、ぼんやりとした何かは感じるんですが……捉えどころが無いというか、他人の物を使っている感じが……」
宏明は首をかしげながら、まるでクラゲでも掴むような手つきをする。そんなあやふやな、と文句が出そうになったが、隣に来ていたマリアンヌさんが頷いていた。
「ええ。その認識は正しいですね。流石は超能力者、精神を感知する能力はほかの系統よりも上ですわ。だからこそ、スペクターの相手は難しいでしょう。幸い芦名さんには、道具があるのでそれを使えば十分かと思いますが」
「いつでもどこでも頼れる相棒、ナイトスター。でも数を相手取るのはちょっとキビシイ」
「対スペクター相手の技も開発するべきですね。今回は間に合いませんけど」
というやりとりの間も、魔法による攻撃は続いている。通路から補充されてくる、という形なので狙いやすく殲滅もしやすい。さっきみたいに部屋に一杯、という状態ではこれができなかったのだ。とはいえ、そろそろ魔法も打ち止めだ。
「社長、退避もほぼ完了しました」
「よーし。それじゃあ里奈さん!」
「……それでは、いままでの鬱憤をこめて」
いつも天真爛漫な彼女らしからぬ、怒りのこもった一言と共にプラーナが吹き上がる。グレートソードにそれが重点されていくのを見て、鳥肌が立つ。あ、死ぬ。久しぶりに、去年の夏に負ったトラウマがうずくぞ。
「ここについてから、斬っても斬っても減らなかった。どんどん増えて、仕事が終わらない。家に帰れない。社長にも魔女さんにも甘えられない」
言葉とは裏腹に、剣は太陽のごとく輝きを放っている。なにこれ。プラーナ手こんなに目に見えるようになるものなの? 強くても、ぼやっと見える程度だったじゃん!
「スペクターなんて、大っ嫌い!
横薙ぎの、一閃。光が放たれた。迫っていた黒い影達は一斉に動きを止めた。……と思ったら胴体から上下に泣き別れ。ずるりとずれて、落ちたところで煙になって消え去る。
見事なまでのバッサリ感。……ただ、攻撃が放たれたときマリアンヌさんまで軽く飛び跳ねたのが見えた。身をすくめて目を見開いている。え。あの攻撃もしかしてダンジョンにちょっと洒落にならないダメージを? ……あ、首を横に振ってるから大丈夫かな。ギリ? わお。
さて、里奈さんの八つ当たり大切断で再びスペクターの数が減った。それでも奥からまたやってくる気配があるのだ。道明さん達のうんざりとした気分がうつってきそう。
「なんというか、タワーディフェンスゲームをやっている気分になってきましたね。防衛設備ナシで手作業というのが、なかなかハードですが」
歩がそんな感想を述べている。俺には分からんが、こんな感じで敵がわんさか出てくるゲームなんだろうか。さて、それではラストだ。
「マリアンヌさん、お願いします」
「はい。……この術を使うのも久しぶり。来たれ、砂丘の風よ」
そう言いながら彼女は、右手を振って握っていたものを撒いた。最初は微風、それが時が経つ似連れて強くなっていく。同時に撒かれたそれもはっきりと見えるようになる。
砂だ。熱を孕んだ砂嵐。何もかもを乾かし摺り下ろす、砂漠の脅威がダンジョンの中に現れた。勝則たちの魔法も凄かったが、こちらもまた恐ろしい。スペクター達が削り取られていく。たとえアレがほかのモンスターでも、同じ末路になっていただろう。いや、もっと凄惨な光景になっていたか。あんなものを食らったら、一流のハンターでも無事では済まないだろう。
「よーし、撤退! 出るまでがダンジョンです」
と、声をかけて残っている面々を促す。……さて、これは俺を含めて少数しか知らない話。実はマリアンヌさんの魔法を目隠しにしてもう一つ、強烈なやつがぶっ放されていたのだ。
「
一樹さんの呪い。気持ち強めバージョン。彼は独自の方法で、見えない対象にも呪いを届けることが出来る。なのであの砂嵐の中で、ダンジョンの奥にいるスペクターをぶっ飛ばしてもらった。
コレで解決にはならないが、とりあえずの危機は去ったとみて良いだろう。後は堅実的な仕事の話になる。かなりの数を消滅させたとはいえ、スペクターは油断ならぬ相手。気を引き絞めてやっていこう。