【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず   作:鋼我77

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第124話 青い空、強い日差し、白い砂浜

 気を引き締めると言ったな。アレは本気だったんだ。でも現実は逆を要求してきた。

 

「うーん、青い空、強い日差し、白い砂浜。完璧な夏だな」

「社長は夏といったら海派ですか?」

「いや、クーラー派。観光地にはあんまり縁が無くてな」

 

 隣の宏明とそんな話をする。さて、ここは警報区域の外。社員旅行先として選んだ場所の近くにある海水浴場である。先日のダンジョンアタックの後、道明さんは今後についてこのような計画を立てた。

 

『ローテーションを組んで、無理のない形で数を削っていきます。まずは地下二階の調査。それから地下三階の確認ですね』

 

 チームを細かく分け、さらに午前と午後でそれぞれアタックをかける。初日のドッカンのおかげで余裕が出来たと本気で喜んでいたなあ、彼。

 正直これは俺たちにとっても大分助かる話だった。ファングツリーの盾は有効だったが、あの戦いでそこそこ破損してしまった。追加発注してあるし、運搬もダンジョンを経由すればそれほど大変ではない。でも直ぐに初日と同じだけの準備は厳しい。

 また、大怪我は無かったがそれなりに疲労もあれば打撲もある。休みが取れるのは有り難かった。……だからといって、海水浴にくるのはどうかと思うんだけどなあ。俺の予定では、それなりに仕事の目処が付いた後にするつもりだったのだけど。

 そんな感じの事をぼやいたら。

 

「休めるときは休む! それも大事な仕事ですよ、社長!」

「確かにその通りなんだが、なんでお前さんが言うとだらしなく聞こえるんだろうな、ヒロっち」

「目的が休むことで、仕事を口実にしてるからじゃないっすかね!」

「このやろう、誰が完璧に答えろと言ったか。正直でよろしい」

 

 まあそんなわけで、俺たちは社員旅行メンバーと合流して海に来たのである。といっても全員ではない。ホテルで休む、買い物、ほかの観光地へ向かう。休み方はそれぞれだ。

 

「さて……それじゃあ社長、行って参ります!」

 

 一体どこで覚えたのか、本場さながらの敬礼をしてくる宏明。それに続く流と東松達。俺は大きくため息を吐くことを止められなかった。

 

「社会人としての節度を忘れるんじゃないぞ。いってらっしゃい」

「オーッス!」

 

 というわけで、若い社員を引き連れてナンパ部隊は意気揚々とビーチに繰り出していった。……まあ、ちょっとだけチャンスはあるんじゃないかと思っている。なんといってもここは夏の砂浜。大抵皆が水着。それはあいつらも同じ。

 日頃の仕事と訓練で鍛えた筋肉は伊達じゃない。顔だって悪いわけではないのだし、この場限りの魅力補正というものがあるだろう。

 

「おや、皆さんもう出発しましたか」

 

 遅れてやってきた勝則がのんびりと話しかけてきた。うん、流石だ。鍛え上げられた美しい身体。そしていつも通りのイケメン。夏補正も加わって、周囲の視線を集めまくっているぞこの色男。ほんのり色気すら感じさせるのが、なんともまた。

 

「社長。兄さんにいやらしい視線を向けないでください」

「向けとらん。変な誤解を生むような発言は慎んでくれサッチー」

 

 そんな風に言ってくるのは、ちょっとだけ大人びた水着をチョイスした小百合である。俺としてはもっと大人しいのにした方が良くない? という言葉が出てきそうになる。魅力的なのは分かるんだけどね。

 さて。ここで唐突に今更の話をしよう。この御影勝則と小百合は、兄妹と名乗っているが実際はそうではない。自分たちを秘密裏に育成していたハガクレ計画。そこから逃亡するときに一緒に居やすくするためそう偽装した。

 しかし現在、その辺の問題がクリアーしたためもう兄妹を名乗る必要がなくなった。そこで改めて戸籍を取得し直した(以前までのものは偽造したらしいよ)。

 それぞれ個人となって、その上で同じ名字を名乗っている。……今度は夫婦として。そう、こいつら結婚しやがったのである。めでたい。ちなみに式は挙げていない。事情が事情だけに、知人に知らせることも難しい。なので仲間内だけでささやかに祝うという形となった。

 俺としては思いっきり祝ってやりたかった。どーんと、式場借りてタキシードとウェディングドレス姿の二人を見て……いや、見ること自体はいいか。こいつらやりやがった、って気分にしかならん。でも晴れ舞台には立たせてやりたかった。

 なんとか出来ないかな、と思いつつ最近の忙しさのせいで具体的には何も動けていない。残念無念である。

 なお、未だに呼び方は兄と妹である。なので対外的には結婚の話がさっぱり漏れていない。これでいいのか、どうなのか。ちょっと判断が付かない。

 

「浜辺に来る社員、あまり居ませんでしたね」

「それぞれ好きに楽しんでいるからな。まあ、良いと思う」

 

 たとえば黄田夫妻や氷室夫妻などの年配の方々は温泉巡りをしにいった。子供が居る人なんかは、テーマパークがあるらしくそちらへ。あかりさんは、一部の女性社員たちと買い物へ。……そう、一樹さんと一緒ではないのだ。

 

『昔の友達とこっちで合う約束があるんだって言ってました。誘われたけど空気が微妙になりそうだから断ったんですよ』

 

 との事。なお、あかりさんが去った後、藤ヶ谷一樹浮気説が一瞬浮上したが『彼に限って嫁さん裏切るなんてあり得ない』という我が社の常識によって即座に消滅した。

 そんな訳で、砂浜にはナンパ目的な浮かれポンチ共と勝則達のようなカップルが来ている。ほかには三郎君と恋人の清水(しみず)杏奈(あんな)さん、憲治(けんじ)君と広美(ひろみ)さん、あと歩と戸島(とじま)綾乃(あやの)さんである。

 一番最後のカップルについては正直びっくりした。え、あの二人付き合ってたの? とついさっき知ったばかりである。小百合に聞いた話では付き合う前段階っぽいのだとか。どうなるか分からんが、上手くってほしいものである。ダメでもモメないでほしい、というのは雇用主のエゴかもしれないが。

 ちなみに新人四名もこちら。男二人はナンパ組についていった。女性二人はこの後小百合率いる女性チームと合流するのだとか。勝則はボディガード兼男避けである。

 

「ところで、サッチーよ。……なんでとわさんは、あんなに不機嫌なのかね」

 

 ナンパ組が向かった方を、ものすごく睨んでいらっしゃるのだが。

 

「社長、それ本気で仰ってます?」

「うん。さっぱり分からない」

「もうちょっと社員の状態に気を配るべきじゃないんですかねー」

「怪我や精神状態については頑張ってる。人間関係までは手が回らん」

 

 本当ね、我が社の人員増えたからね……。他にもやること一杯だし、どうしようもないのよ。

 

「……まあ、ちょっと横からつっつくとこじれそうなんで、もうちょっと見守ってあげてください」

「りょーかい。……サッチーはさ。意外と、とわさんに優しいよね」

「はぁ?」

 

 平手で軽く背中を叩かれた。痛い、と大げさに飛び跳ねておく。勝則はニコニコ笑っているだけだった。……さてその後、集まった女性陣と一緒に勝則達も移動。この場にいるのは俺一人となった。じっと待つ。浜辺では観光客が楽しく遊んでいる。きっと例年よりは少ないのだろうが、それでも結構な人出だ。良いことだと思う。

 この人達の安全の一端を、我が社が担っている……という自覚を持つべきか。自意識過剰と思うべきか。どうなんだろうなあ。

 

「おまたせしましたー」

 

 明るい声が、背にかけられた。振り返ってみると、そこには天国(ぱらいそ)が広がっていた。夏の日差しよりもなお眩しい、輝く美貌がそこにあった。

 

「おしゃべりしてたら遅くなっちゃいました。ごめんなさーい」

 

 エントリーナンバー1番。観月里奈。タレントやモデルをやるだけあって、体つきはもちろん歩き方までセクシーとくる。そして水着も大胆だ。いつもの戦闘服がすでに結構過激だが、今回はそれに輪を掛けている。

 なんとビキニである。胸を覆う布地もやや少なめ。豊かなお胸が元気に弾んでいらっしゃる。これを見るなというのは無理がある。下の方については……あえて言及を避ける。強いて言えば、こちらも攻めてる、とだけ。

 

「すみません社長。私もうっかりしてしまいました」

 

 エントリーナンバー2番。マリアンヌ・ヴァルニカ。こちらは逆に、ワンピースタイプの水着をチョイスされている。肌の露出は少なめだが、だからといって彼女の魅力が損なわれることは決してない。しっかり布の中に納められているからこそ、その豊かな胸が逆に強調されている。里奈さんが居なければ、浜辺の視線を独り占めしていたに違いない。

 

「お二人はまるで家族のように仲がよろしいのですね。ちょっと驚きました」

 

 そして、まさかのエントリーナンバー3番。竜宮結衣さんの登場である。こちらもワンピース……のようにみえて、けっこうあちこち肌が露出している。それがとってもセクシーだ。そして、改めて言うが彼女もスタイルがとてもよい。マリアンヌさん達と負けず劣らず、と言う時点でどれほどか分かるだろう。

 品格、美貌、スタイル。三つを兼ね備えた美女が三名、水着でお目見えである。ここが天国でなくてなんだというのか。老若男女、皆が彼女らから目を離せないでいる。さもありなん。誰も彼もが、この刺激的な情報をたっぷり脳に吸収したいと思ってしまうのだ。

 かくいう俺もその一人だが……そうも言っていられない。このままでは色々と不味いだろうしね。そのうち人垣ができて身動きができなく成りかねない。あと、俺への嫉妬の視線が凄いことになっている。まあ、マリアンヌさんと一緒に歩くと(視線避けの結界使わない限り)いつもこうだからだいぶ慣れてきたけどね。

 

「それじゃあ早速、海に行きますか?」

「はーい、って言いたいところですけど……社長さん、その前に言うべきことがあるんじゃありません?」

 

 わお、里奈さんが蠱惑的にそんなことを尋ねてきた。ちょっと前屈みになって、胸の谷間をこちらに見せつけてくる。ははは、明確な殺気と怒気が向けられるようになったぞぅ。先ほどまでが槍だとしたら、今は大砲かなぁ。

 しかし今目の前にある光景のためならば、この程度どうということはないと言えてしまう。わぁ凄い。理性が飛びそう。あと小百合が見たらキレそう。さて、とにかく返答せねば。

 

「もちろん、最高に似合ってますよ」

 

 とりあえず親指立てて褒めておいた。女性の服装はとりあえず褒めろ。先人達の知恵は大体において正しい。正しいが完璧な正解でもない。案の定、里奈さんってば顔を膨らませてしまった。

 

「なんだかてきとーじゃないです?」

「ごめんなさい。でも最高なのはマジです。そういうのは里奈さんくらいじゃ無いと着こなせないです。いやあ、流石だなあ」

「むうん。……よしとしましょう」

「ありがたやー」

 

 ふう、なんとか合格判定をいただけたぞ。さあ、これがあと二つあるわけだ。ははは、炎天下なのになんでか冷や汗が出るぜ。

 

「マリアンヌさんは、今回大人しい感じで攻めたわけですね。いいと思います。隠すからこそ醸し出される魅力という物はあると思いますはい」

「ふふふ。ありがとうございます。派手なのもありますけど、ここでは止めておきました。大騒ぎになっちゃいそうですもの」

 

 どんなのなんだ。見たい、よりも怖いという気持ちが……あ、マリアンヌさんの笑顔の質が変わった。やべえ伝わった! しょうがないじゃないですか! 理性が持ちそうにないんですもの! ほら、このやりとり聞いた男どもが膝を抱えてますよ! 立ってられなくなったんですよ、スダンダップしちゃったから!

 

「まあ。お二人とも素晴らしい評価をいただいたようで。さて入川社長。私の水着はいかが?」

 

 で。問題のこちらである。なーんで俺、海水浴場で接待してるんだろう。社会人だからです、はい。こんなことなら、勝則あたりに女性を褒めるための技術を学んでおくべきだった。マリアンヌさんとのデートの時とか、気づくシーンは一杯会ったじゃないか、俺。

 嘆いても後の祭り。なんとかしてこの場の空気を壊さない、無難で喜ばれるコメントを吐き出さなければ。唸れ脳みそ。でも考える時間はなーい。がってむ。

 

「いやあもう、大人しさと大胆さを合わせ持った素敵な水着かと。やはり代表のような人が着ると映えますね。水着もご本人も」

「まあ、お上手ですね」

 

 ……っしゃあ! ありがとう、前職で無茶ばっかり言ってきた田沼課長! アンタの無茶振りでやらされたいろんな接待がこんなところで役に立ったよ! 受けた仕打ちは許さねえけど、確かに恩はあったわ! 今度ケイブチキン送る! ……いや、やっぱ変に図に乗りそうだから会社宛にしよう。皆残ってるかなあ。

 ともあれ、危機は去った。三人の機嫌を損ねずにイベントをクリアーしたぞ。よし、あとは無難に海へいって遊んで食べ物なんかを……。

 

「そこのおねーさん達、ちょっといい? 俺らとあっちで遊ばない?」

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