【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず 作:鋼我77
第136話 はるばる来たぜ森羅宮
門をくぐり抜けた先は、異世界だった。ただしファンタジーという意味では無い。一般の世界と外れているというものだった。
「北方地図、北方地図の最新版だよー! 大型怪物の目撃情報入り! 早い者勝ちだよー!」
「真銀坑道行きの臨時旅団、人員募集中でーす! 受付はこちらー!」
「やあやあ我こそは、黒道にその人ありと言われた断頭大刀、ウーティエであーる! 我が力を借り受けたいものは……」
雑多だった。騒がしかった。統一感が無かった。崑崙マーケットに似ているが、アレよりさらにまとまりが無い。大半が東洋人だが、西洋人もちらほら見える。建物も東洋風、西洋風、プレハブ、テント、何でもありだ。
ここは洞窟の中だった。ただし広い。天井は高く、数十メートルはあると思う。あちこちに照明が灯っているから、歩ける程度には明るい。しかしそれは夜店の明るさだ。すこし外れれば、そこには暗闇がうずくまっている。
誰も彼もが武装しているし、そうでないものは護衛が付いている。店が連なっている場所には、分かりやすく用心棒までいる。
崑崙マーケットとの最大の違いは、建物の多さだ。あちこちに、背の高い建物が雑多に建てられている。商店、ビル、工場みたいなものまで。
「凄まじいな……」
車の窓から周囲を見やり俺、
「スゴイでしょう。ここが地球側が所有する貴重な拠点の一つ、森羅宮です。……久しぶりに来たけど、また大きくなったかなー。あのビルとか知らないし」
助手席でそう語るのは今回の引率者、ベテランハンター
「昔はそれほどでも無かったんですけど、ここ数年で一気に膨れ上がりましたねえ……。まったく、あの子は何をしているのかしら」
若干困り顔で語るのは大魔導士マリアンヌ・ヴァルニカ。俺の右隣でくつろいでいらっしゃる。
「わー。知らないモンスターがちらほら見えますね。これから、ああ言うのを斬れるわけですね? たのしみー」
窓に張り付きながらそう語るのは断神
後ろを三人で乗れるこの高級電気自動車は、タクシーである。これと同じ物が合計六台、連なっている。
乗員は俺たちの他に、
基本的に一台に二人乗っている。こんなに詰め込んだのはこの車両だけ。戦力偏りすぎなんだよなあ……。
周囲の人たちも、あの車はなんだと指を指している。スモークガラスだから車内は見えていないはず。だからこそ余計に気になるのかもしれないが。
車の進みはゆっくりだ。というのも、道が狭いし歩道を兼ねている。車は物資の運搬車両がほとんどで、基本的に皆歩きらしい。そんな中、高級電気自動車が走れば注目を集めて当然か。
俺たちの一番前には徒歩の先導者が三名いて、彼らが道を空けてくれることで車が進んでいる。結構厳つい人たちだった。そうでなければこの物騒な界隈で人を移動させるというのは無理なのかもしれない。本当、日本じゃ無いんだなあ。
「あら、見えてきましたよ。あれが目的地の
マリアンヌさんが指さした先には、朱塗りの豪華な建物があった。酒楼、いわゆる酒場である。崑崙マーケットで世話になっている行路飯店と同じだ。高さと広さに制限がない分、こちらの方が大きい。五階建ての塔が大きく目立っている。煌びやかに光って騒がしいから、こちらが宴会場かな? さらに三階建ての建物が付随しているが、そちらは宿泊施設のようだ。
車はその正面ヘ到着。店の人がドアを開けてくれた。
「ようこそ! お待ちしておりました純金老師! さあさあ、皆様どうぞこちらへ」
満面の笑みで、中華風ドレスで豪華に着飾った美女が出迎えてくれた。彼女だけでなく、これまた見目麗しい美男美女たちが列を成している。すごいおもてなしだ。
「なんだ? 楼主が入り口で出迎えるだと? 一体誰が来たって言うんだ?」
「おい待て。今、純金老師って言ったよな? あの純金老師か!?」
「声がでかい! どこの派閥の主も頭が上がらない、本物の仙人だって話だぞ。関わるな、破滅するぞ」
入り口近くに居た他のお客がこんな話をしているのを耳にする。改めて彼女の有名ぶりを実感する。……すげえ人を口説いちまったぜ。後悔はないが。
そんなことを思っていたのが伝わったのか、彼女が腕を絡めてきた。
「それでは参りましょうか」
すると今度は、里奈さんまで同じようにしてくるじゃないか。
「はーい、まいりましょー」
従業員の皆さんに案内されるまま、どんどん中へと進んでいく。途中、他のお客から嫉妬や猜疑の視線を向けられることがあった。彼女達を左右に侍らせた時の、当然の反応だ。しかしここでも店側の対応が凄かった。
従業員達の壁でそういった客を覆い隠してしまったのだから。うーん、すごい。ここまでやるのか。圧倒されるまま、塔の最上階の部屋へ。吹き抜けから酒楼の中を一望できる。間違いなくVIPの為の部屋だ。
「すんげー対応でしたね」
三郎君があっけにとられた表情のままそう語る。まったくだ、と俺も頷いた。
「私がオーナーですし、事前に連絡も入れておきました。これで不手際があったら、相応の対応をしなければなりませんでしたよ、おほほ」
そしてマリアンヌさんがものすごく美しい笑顔でそう仰る。皆も愛想笑いを浮かべた。怖いから。なお、お世話係の人が部屋の隅で控えている状態である。
「ここで、他の人たちと合流ですが……すみません、そういう話はありましたでしょうか?」
「はい。
「もう一人居るはずなんですが、そちらは……?」
「はい。ゴッドリッチ様もすでにいらっしゃっています」
勝則が尋ねると、そのような返答が帰ってきた。うん、どうやらスケジュール通りに行けそうだ。出発前からのトラブルは困るからな。
我らミナカタ社は、春から計画を立てていた
そういったものを調べるための活動である。依頼人は魔女マリアンヌ。田舎のいちダンジョンカンパニーがやることでは無いが、仕事なのだから文句は言わない。俺たちは俺たちのできることを。そうで無いことは別の人が働く。それだけの話である。
我々は今朝、マリアンヌさんの魔法で我が家のダンジョンからこの森羅宮に到着。予約を取ってあった高級タクシー会社が送ってくれた車に乗り込み、この場に到着した。なので今の時間はまだ朝と言って良い。
「あまりここで時間を取られると、ダンジョンでの移動時間が減ってしまいますね」
小百合がそんな気のもみ方をしている。たしかに、あんまりくつろいでいる時間は無い。
「自分としては、ここで一泊していきたいのですが」
珍しく、歩がそんなことを言う。その理由はよく分かっている。
「ここで思いっきり、漫画の資料を集めていきたいんだな? ウォーカー」
「はい! カメラがあれば……カメラさえ使えれば……ッ!」
血の涙を流しそうな勢いで悔しがる。そんな彼を、綾乃さんが背中をなでて慰めていた。……は! 親密度アップしている! 分かるよ、俺にも分かるよ!
それはそれとして、コイツの鬱憤が結構溜まっているのを俺は知っている。崑崙マーケットでも、自由時間はスケッチブック広げてひたすら特徴的な建物やマジックアイテムを画いていたりするのだ。情報流出防止のため、カメラ持ち込み禁止なのである。
あんまりにも熱心に画いているため、似顔絵画いてくれとか頼まれたとかいつだか言ってたな。写実的な奴と、デフォルメアニメ調、両方画いて二つとも喜ばれたのだとか。実力はあるんだなあ。まあ、そういうこぼれ話はさておき。
「気持ちは大いに分かるが、この探索にどれだけ時間がかかるか分からん。帰ってきて、まだ余裕があったら一泊ぐらい……」
「困りますお客様、どうぞおやめください。こちらには大切なお客様が……」
などという話をしていたら、廊下が騒がしくなった。普通のドアじゃ無くて、障子のような引き戸だから、機密性がない。声がよく通るのだ。そして直ぐに、入り口に多数の人間が立ったのが感じられた。
社員達に緊張が走る。俺はどうしようかと一瞬腰が浮きかけた。が、左右の恋人に肩を押さえられてそのままソファーに座ったままとなった。
「失礼する。こちらに純金老師がご滞在と聞きつけご挨拶に参った。お目通りを願う」
静かだが、うっそうとした声だった。隣を見やると、頷いてくる。俺は皆を確認した。準備良し、と。代表してあえて俺が答えた。
「どうぞ、お入りください」
入り口が開いたと同時に、暗闇が広がった。そう見えただけで、実際は違う。黒装束の者どもが、音も気配もなく室内に入り広がっていったのだ。他者が入室したにしては、あまりにも自然。違和感はあっても警戒心が動かない。
対応できたのは三人のみ。マリアンヌさんが茨を張り巡らせ、一樹さんが床に影を広げ、里奈さんがグレートソードを抜刀した。
「入って良いとはいいましたが、礼儀がなっていませんね
「……失礼しました、純金老師。あまり並んでもご迷惑と思い、配慮したつもりだったのですが。ご気分を害したのでしたら謝罪します」
ただ一人、入口のすぐ近くに立ったままの男が、抱拳礼をして頭を下げた。口元以外を白い仮面で覆った男だった。歳はよく分からないが、老いてはいない。頭のてっぺんからつま先まで黒装束で肌も見えない。忍者ではないが、それに近い感じがある。
「殺しばかりで、人としての生き方すら忘れましたか?」
マリアンヌさんが冷たく、極めて物騒なことを言い出した。
「手厳しい。なれど、我らだからこそ今回の遠征に役立つかと」
「……まったく。崋山派の天井裏で聞いたのですか?」
「どこにでも闇はございますので」
黒ずくめと普通にやり取りしている彼女に、声を落として聞いてみる。
「あの、マリアンヌさん。こちら、お知り合いですか?」
「ああ、失礼しました。仕事を何度か依頼したことがありまして。閻王殿の
「お初にお目にかかります、皆様。純金老師にはお世話になっております」
恭しく一礼してくるモーリー。なんというか、怖いぐらい礼儀正しい人である。俺も挨拶しようと立ち上がりかけた時だった。再び階下から、いくつもの足音が迫ってきているのが聞こえた。今度は何なんだよ。
「失礼! 邪派め、ここでなにをしているか!」