【書籍発売】汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず 作:鋼我77
のしのし、と前へ進むクワット。俺も続こうとしたら、三人が俺の方を見ている。
「お前、正気かよ? 不死身のクワットに正面から喧嘩売るとか、本物の蛮王でもやらねーぞ?」
「そんなに有名なんですか、クワットさん」
「知らねぇで喧嘩売ったのかよ。バカが。マジで死んだぞお前……」
「不死身のクワット、巨人殺しクワット、柱折りのクワット。二つ三つ先の集落でも名前が通ってるくらい、有名な戦士なんだぞ? ……あと、運がないってのも」
最後の一言は小声だった。残り二人もその部分で強く頷いている。
「運がない?」
「依頼主とか、報酬とか。その辺あたりで結構貧乏くじ引いているんだと」
「俺は戦場で置いていかれたって聞いたぞ」
「戦っている最中に、天井が崩れたとか床が抜けたとか」
どこまで真実か分からないが、エピソードが豊富になる程度には色々あったらしい。
「……そこまで色々あって元気なんだから、やっぱすごいんですね戦士クワット」
「おい。もしかしたら相手の不運に期待しているかも知れねえけど、そんなことねーからな。あのおっかないトロールは、ガチでやるぜ?」
「ええ、まあ、はい。ですけど、約束なんで。勝負するの」
そう言うと、三人は大きなため息を吐いた。
「まあ、あるよな。引けない約束って。しゃあない、宴で見つけたら俺が殴ってやるよ」
「真面目に生きすぎると死ぬぞ。俺に倒されれば、ワンチャン生き残れるかもしれないしな」
「ほどほどにしとけよ。あと、宴じゃ手加減しねえから根性出せよ」
三人はそう言って、真面目に列に並びなおした。
「……あれ、社長を心配してくれてるんですよね?」
「そのようだね。なんかこう、微妙に独特の文化を感じたな」
小百合とそんな感想を小声で言い合う。とりあえず気のいい人達だ。人間じゃ無いけど。さっきの鬼の人と同じ種族っぽいな。多いのかな?
そんなことを思いながら大人しく待つ。列の進みはそこそこ早い。多分最低限の挨拶しかさせてもらえてない感じだな。さすがに覇王二人の近くでゴネるバカはいないらしい。
「戦士……もとい、蛮王クワット。宴に参加させていただく」
「健闘を期待します」
竜宮代表の声が聞こえた。クワットの巨体でいまいち見づらかったのだが、どうやらもうすぐそこのようだ。彼が列から外れ、後ろに下がっていく。さらに前にいた三人も挨拶したが、返答は同じだった。見てはいたが、興味なし。そんな感じ。
そして俺の番がやってきた。
「蛮王入川春夫。義理人情で参戦しにきました。いつもお世話になっています」
「健闘をきたい……え? ……ええ!?」
流れ作業で処理されそうになったが、ギリギリ気づいてもらえたようだ。いやあ、俺モブだからなあ。ワンチャン、スルーがありえた。危ない危ない。
「い、入川社長!? どうして?」
「今言ったとおり、義理人情で。竜宮代表、一つお伺いしたい。今日の参加者で、婿にしたいと思った人居ました?」
「え? それは……その……」
「はい。その反応だけで十分です」
うん。これで誰か好きになれそうな男でも見つけていたらまた違ったが、そうではないようだ。
「ほう。貴様、結衣の知り合いか?」
そして、騒ぎが気になったのか上座の玄覧が声を掛けてきた。……間近だとより一層、恐ろしさを感じるな。流石は竜王だ。ここまで怖いのは、断神様の剣が目の前で振り上げられたときぐらいか。絶対的な格差ってやつ。
「お初にお目にかかります、玄覧様。ミナカタという会社をまとめております、入川春夫と申します。竜宮代表とは、会社関係でお取引させていただいております」
「ふむ、地球の者であったか。……つまりは蛮王ではないと言うことか?」
「俺が認めた。問題あるか?」
一瞬、今まで感じたことの無いほどの敵意をぶつけられそうになった。が、一樹さんの一言で霧散する。あ、危ねー。気絶するところだった。
「貴様が、か。……しかし、とてもほかの蛮王にはかなわぬように見えるが」
「もちろん、対応済みだ。つまらん終わり方にはならんよ」
「……いいだろう。貴様がそこまで言うのなら、見極めるとしよう。入川、と言ったな? つまらん戦いはしてくれるなよ?」
「微力を尽くさせていただきます」
深く頭を下げる。よし、挨拶終了。踵を返そうとしたのだが。
「ま、待ってください入川社長! 一体どういうおつもりなんです!? 何故こんな、危険しか無い祭りに出ようとするんですか!」
竜宮代表が、俺を止めてきた。……後ろがつかえているし、だらだらやるのもよろしくない。さっくり答えてさっさと下がろう。
「友人が窮地に立たされている。だからできることをする。それだけですよ」
それだけ答えて、一礼。今度こそ、その場を離れた。まだ竜宮代表は何か言いたそうだったが、その時間は無い。振り返らず、そのままホールの出入り口に向かう。
「もう出ても大丈夫だよな?」
でも一応、小声で確認を取る。俺、忘れてることないかしら?
「はい。これ以上はトラブルを引き寄せるだけです」
「っていうか、現在進行形ですよ。なんか、こっちに接触したそうにしているのが数名います。あ、動き出した。急いだ方が良いですね」
二人がそう言うのなら、ためらい無し。ホールから出て、俺たちが借りている部屋の方向へ向かう。同じ建物の中なのに、結構な距離があるんだ。さすが元ドラゴンの住処。
ある程度ホールから離れ、人が少なくなったところで
後ろから待ちやがれ! とか、お話を! とか聞こえるが振り払う。少し進めば、そこから先はもう外部の人がは入れない場所だ。俺らは通れるが、他はシャットアウト。門番に阻まれる。
「お疲れ様です、失礼します!」
さすがに、そこでは速度を落として通り過ぎる。笑いもせず、門番の人たちは頭を軽く下げるだけだった。通り過ぎてすぐに、俺も通せとか、あの人に話がある、とか聞こえてきたがやはり無視して離れた。
「今更ながら、話くらいは聞いた方が良かったかな?」
曲がり角を通って一息つく。そして疑問というか未練を口にした。しかし勝則は首を横に振る。
「いえ。やはりこの対応が正解でしょう。交渉について俺たちは学びましたが、それはあくまで人間相手、地球の文化でのこと。異世界人の文化を知らない状態での交渉は、危険です。この土地独特の文化をだされて、不利な交渉を持ちかけられたら目も当てられません」
「……そうか。確かにここは、異国の地だ」
場所が変われば常識も変わる。日本では八時間労働が(法の上では)当たり前だが、外国は違うという。同じ地球の上でも働くという事に対してのスタンスが違う。ましてや異世界だ。どんな常識が飛び出してくるか分かったものじゃ無い。それを知らずに乗り込むのは無謀か。装備無しでダンジョンに入るようなものだな。
「それに、戦いはもう始まっているんです。これからは宴が終わるまで一切油断ができないと思ってください」
「……うん? どういうことだよサッチー?」
「さっき兄さんが『お話』があるって言いましたよね? それがコレです。あの覇王おじいさんの話、聞いてましたよね? 三日後のルールについてとか」
「もちろん。街と住人に迷惑掛けてはいけません。遅刻したら失格。竜宮代表も参加。最後以外は、割とまともだなって思ったけど」
「あれは、
「……なんですと?」
寝耳に水な話に、思考が一瞬停止する。
「それはなんというか、拡大解釈すぎないか?」
「社長。この祭りの目的は何だと思います?」
勝則に尋ねられ、頭を再起動させて考える。こんな風に聞いてくると言うことは……。
「竜宮代表の婿取り、ではない?」
「彼女が本当に気に入った男が現れたら、そういうこともあるかもしれません。ですがやはり基本的には違うでしょう。あのルールはあまりにも、竜宮代表に有利すぎます」
「……たしかに」
彼女を納得させなくてはいけない。殺したら覇王が敵になる。それでいて選手として参加するわけだ。納得しない場合は、彼女は敵になる。攻撃してくる相手に、夫として認められなくてはいけない。改めて考えると、これ以上無い理不尽な話だ。
「つまり婿取りはあくまで話題性のため。本題はもっと別の何かなのでしょう。その詳細は分かりません。ですが少なくとも、まともな試合を求めているわけでは無い」
「最低限体裁を整えていれば蛮王として認めているあたり、雑さが見えますよねー」
「これはあくまで推察なのですが……純粋な力や技術の比べ合いではなく、蛮王としての能力こそ見たいのではないか。状況を見極め、準備し、決戦の場に立つ。だからこそこんなルールにしたように思えるのです」
「う、ううむ……」
確かに納得できる話ではある。参加条件がゆるかったのは、蛮王の障害を増やすためだろうか? そんな風にも考えられる。考えられるが……。
「推察だけで動くというのも、なあ……」
「大丈夫です社長。最悪、一樹さんに泣きつけばなんとかなります!」
「おいサッチー」
「そして一樹さんの武力を背景に、話し合いに持ち込めば勝てます! だってルールガバガバですもん。まず文章化されていない。口頭説明のみ。ルールを逸脱した際のペナルティについてもほとんど無し。それでいて集合時間に間に合わなければ失格って所だけはっきり言っている。ルール外の事については言明なし。こんなのやれって言っているようなものです」
「いやーそれはどうかなぁ? マナーの観点からすると駄目だろう」
いちいち禁止事項を伝えないと好き放題やる奴、近くに置いておきたいか? 俺は嫌だ。そんな面倒な相手とは付き合いたくない。しかし勝則は厳しい表情を崩さない。
「社長、たしかに友人やビジネスパートナーを探すのであればこれは論外の行為です。しかしここに集められたのは蛮王。生存競争をしている組織のトップ達です。彼らにとって一番大事なことは何ですか?」
尋ねられたら真面目に考える。俺が蛮王だったとして、過酷な環境でやらなければならないことを考える。それは、この街までの道のりでそれなりに学んだと思う。
「何を置いても自分と仲間の生存。そのための物資と安全地帯の確保。それらを効率よく取得するための情報収集……。ああ、いざというとき逃げるための道も調べておかなきゃな」
「はい、そういったものです。それらが前提として、あらためて蛮王の能力を見るとされる祭りが開かれました。覇王は何を求めているでしょう」
「むむむ……そう言われると、なるほどと言わざるを得ない」
そうか。需要と供給を間違えていたのは俺だったか……。
「事前にライバルを蹴落とせば、それだけ本戦が楽になる。社長の目的にも合致するでしょう?」
「そうだなサッチー。竜宮代表への援護には、間違いなくなるからな」
究極的な話、彼女が気に入らない男を全部ぶっ飛ばせばいいわけだしな。俺の目的は優勝では無いのだから。
「分かった。めざとい蛮王は気づいて、それに動くのだろう。……うちもやるの?」
「第一は半戸代表の救出ですが、他はそちらに注力しようかと。幸いなことに、我が社……と、今回言って良いのかちょっとアレですけど。ともかく、拠点の場所は恵まれています。覇王の居城に間借りする以上、これに手を出してくるとはとても思えません。万が一あったとしても、常に魔女殿達がつきっきりでしょう?」
「そうだな。マリアンヌさんとシェンシアさんがいるな」
「社長は最終日まで、きっちり特訓を続けてください。外のことは自分たちが片付けます」
「……安全第一で、無理をせずに頼む」
そこまで言って、俺は大きく息を吐いた。
「ライバル妨害のためにカチコミとか……カタギの仕事じゃないよなぁ」
「何を仰っているんです社長。実にダンジョンカンパニーらしい行動じゃないですか」
「やめろーかっつん。俺たちはまっとうに行くんだ。東京のイケイケ悪々カンパニーとは違うんだ」
「残念手遅れです。っていうか戦闘力の面からいったらそろそろ日本屈指ですよね私たち」
「必要に迫られてそうなっただけで、悪いことするためじゃなーい」
よよよ。一体どうしてこうなった。……せめて一般人に迷惑を掛けない会社運営を心がけよう。じゃないと社会から爪弾きにされるからね!